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天地の境で働いてみる  作者: 吉川 由羅
7/22

初仕事2

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


「ん、ん?」


気がつくと、私は暗い所に倒れていた。


慌てて起き上がると、


「大丈夫のん?」


イムルが手を差し伸べて…、と思ったが、そこにいたのは女性だった。


「!?」


「何を驚いているのん?」


いつもより声が高い。


「あ、あなた本当にイムル?」


「当たり前…、ああ、そういうことのんね。」


イムルは質問の真意が理解できたらしい。とりあえず私を立ち上がらせると、こちらに向き直った。


「僕は受ける仕事に合わせて、変身することが出来るんだのん。今回のターゲットである麻薬密売人は、全員大の女好きのん。ぴったりだと思わないのん?」


「へえ、凄い。」


確かに、変身している女性はかなり可愛い。大きな目、小さい顔、ボブショートの髪。


「めっちゃ似合うよ。」


「そりゃそうのん。」


イムルはドヤ顔で私を見てくる。敗北感半端ないんですけど・・・。


「まあ、とりあえずここから離れるのん。時間がないのん。」


「どういう事?」


「アヤネは知らなくて当然のん。ここからちょっと歩いた所にカフェがあって、

そこで10時から取引が行われるらしいのん。」


「10時って、もうすぐじゃん!」


「だから、さっきから言ってるのん。ほら早く」


「えええっ」


私は引きずられながら、カフェへ向かった。



~カランコロン~


イムルが、鐘の音を響かせながら、ドアを開けた。


マスターがカウンター越しに、私たちを睨み付けてくる。


「お嬢さんたち、今日はダメなんだ。他をあたってくれ。」


「えー、そんなあ。」


イムルが口に手を当てて、溜息混じりに言う。


いつもの「だのん」も出ていないし、言葉遣いも女の子らしくなっている。


「ねえねえ、マスター。何とか出来ない~?」


「ダメなもんはダメだ。さ、帰りな。」


マスターに促される。イムルを見ると、


「一旦引くしかないのん。」


小声で言われた。


そして、後ろを見ると・・・


誰かに、ぶつかった。


はっと顔を上げると、そこには写真で見た男たちの顔があった。


年齢は20代後半ぐらい。やさぐれた服装をしていて、一人は片手に黒く四角いカバンを持っていた。


「あ?誰だよ、お前ら。」


カバンを持った男が、尋ねてくる。


「ここは俺たちのカフェなワケ。立入禁止」


「で、でもお。」


ここで、イムルが口を開いた。


「私たち、知らなかったの。都心のカフェは常に満員だから、ここにいってみよー、ってカンジ。

ね、アヤネ。」


「え、う、うん。」


「ほら。だから、許してよ。何でもするから」


イムルはそう言って、カバンの男を上目遣いで見つめる。


少しの沈黙の後、男が口を開いた。


「何でも、と言ったな。」


「うん。」


「なら、俺の女になれ。」


「え」


イムルは首を傾げ、悩むような顔をした。


「えーっと、わかった。私が悪いんだもん。」


「決まりだ。」


そして男は他の男の方を見て、言った。


「もう一人は、お前らにやる。好きに使え。」


「マジっすか、ボス!」


男たちはあっという間に私を取り囲んだ。


「この子も、なかなかの美人だよなあ。」


「ボス、贅沢っすね」


「じゃあ、早速・・・。」


「おい待て。」


ボスが男たちに言った。


「取引がまだだ。女と遊ぶのは、それが終わってからだ。」




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