初仕事2
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「ん、ん?」
気がつくと、私は暗い所に倒れていた。
慌てて起き上がると、
「大丈夫のん?」
イムルが手を差し伸べて…、と思ったが、そこにいたのは女性だった。
「!?」
「何を驚いているのん?」
いつもより声が高い。
「あ、あなた本当にイムル?」
「当たり前…、ああ、そういうことのんね。」
イムルは質問の真意が理解できたらしい。とりあえず私を立ち上がらせると、こちらに向き直った。
「僕は受ける仕事に合わせて、変身することが出来るんだのん。今回のターゲットである麻薬密売人は、全員大の女好きのん。ぴったりだと思わないのん?」
「へえ、凄い。」
確かに、変身している女性はかなり可愛い。大きな目、小さい顔、ボブショートの髪。
「めっちゃ似合うよ。」
「そりゃそうのん。」
イムルはドヤ顔で私を見てくる。敗北感半端ないんですけど・・・。
「まあ、とりあえずここから離れるのん。時間がないのん。」
「どういう事?」
「アヤネは知らなくて当然のん。ここからちょっと歩いた所にカフェがあって、
そこで10時から取引が行われるらしいのん。」
「10時って、もうすぐじゃん!」
「だから、さっきから言ってるのん。ほら早く」
「えええっ」
私は引きずられながら、カフェへ向かった。
~カランコロン~
イムルが、鐘の音を響かせながら、ドアを開けた。
マスターがカウンター越しに、私たちを睨み付けてくる。
「お嬢さんたち、今日はダメなんだ。他をあたってくれ。」
「えー、そんなあ。」
イムルが口に手を当てて、溜息混じりに言う。
いつもの「だのん」も出ていないし、言葉遣いも女の子らしくなっている。
「ねえねえ、マスター。何とか出来ない~?」
「ダメなもんはダメだ。さ、帰りな。」
マスターに促される。イムルを見ると、
「一旦引くしかないのん。」
小声で言われた。
そして、後ろを見ると・・・
誰かに、ぶつかった。
はっと顔を上げると、そこには写真で見た男たちの顔があった。
年齢は20代後半ぐらい。やさぐれた服装をしていて、一人は片手に黒く四角いカバンを持っていた。
「あ?誰だよ、お前ら。」
カバンを持った男が、尋ねてくる。
「ここは俺たちのカフェなワケ。立入禁止」
「で、でもお。」
ここで、イムルが口を開いた。
「私たち、知らなかったの。都心のカフェは常に満員だから、ここにいってみよー、ってカンジ。
ね、アヤネ。」
「え、う、うん。」
「ほら。だから、許してよ。何でもするから」
イムルはそう言って、カバンの男を上目遣いで見つめる。
少しの沈黙の後、男が口を開いた。
「何でも、と言ったな。」
「うん。」
「なら、俺の女になれ。」
「え」
イムルは首を傾げ、悩むような顔をした。
「えーっと、わかった。私が悪いんだもん。」
「決まりだ。」
そして男は他の男の方を見て、言った。
「もう一人は、お前らにやる。好きに使え。」
「マジっすか、ボス!」
男たちはあっという間に私を取り囲んだ。
「この子も、なかなかの美人だよなあ。」
「ボス、贅沢っすね」
「じゃあ、早速・・・。」
「おい待て。」
ボスが男たちに言った。
「取引がまだだ。女と遊ぶのは、それが終わってからだ。」