初仕事1
「ターゲットは、こいつらだ。」
私は、スーラから紙を手渡された。
灰色の、汚らしい壁をバックに、数人の男が並んでいる。
「これは、全員麻薬の密売人だ。」
「!」
私は目を大きく見開いた。
「こいつらを全員殺し、地獄に落とすのだ。現世で、不要とされているからな。」
「ど、どうやって?」
「ズバリ、術だ。」
「うわっ」
私は、耳をおさえた。
「そんなに怖がるでない。一瞬だ。」
いや、そういうことじゃないんだ。
「アヤネは今回が初仕事だから、イムルを一緒に連れていけ。
あいつは頼りになるぞ。」
スーラはどんどん話を進めていく。
「あ、そうだ。お前に一つ、言っていなかったことがあった。」
「?な、何ですか?」
「仕事で現世に行く場合、お前は見えるようになる。」
「はい?」
私は訳が分からなくなった。
「どうしてなんですか。」
「昨日にも言ったが、現世に行くと、我々は空気のような存在になる。
それで、人を殺せると思うか?」
「た、たしかに。」
私は少し納得した。しかし、それまずくないか?
「つまり、見つかる可能性が出てくる。そうなれば・・・。」
「格闘することになるだろうな。」
「ええっ」
悪人と格闘!?勝てるわけない。
「大丈夫だ。絶対に勝てる。」
「?」
「いや、何でもない。」
そう言うと、スーラは立ち上がり、「ついて来い」と手招きをした。
私が案内されたのは、大きなクローゼット。
「ここで、仕事着に着替えてもらう。ちょっと待ってろ。」
スーラはクローゼットを開くと、中の服をかき分けて、白いキャミソールワンピースを取り出した。
「これがいい。」
「で・・・、どこで着替えたらいいんでしょう。」
「ここで私が着せる。」
「はいい!?」
私はサッ、と後ずさりした。こいつ、こんなに変態だったとは!
「安心しろ。一瞬だ。」
「安心できませんよ!」
「大丈夫だ。ほら。」
スーラは手を横に振る。ま、まさか。
「うあああ、やめて・・・。」
足が、やはり勝手に動き出した。
そして、私はスーラのもとへ。
「いいから。じっとしてろ。」
それからは、本当に一瞬だった。
気がつくと、私の体にはキャミソールワンピースがまとわれていた。
「!?」
「言っただろ。一瞬だって。」
そう言うスーラの両手には、さっきまで私が着ていたぼろぼろの服が、抱えられていた。
それにしても、なんて白くて美しい服なんだろう。
私はくるんと一回転した。ふわっと、ワンピースがなびく。
「気に入ってくれたか。良かった良かった。」
「はい、ありがとうございます!
・・・って、違いますよ!」
私は腰に手を当てて、スーラを見た。
「あなたは、へn」
「みなまで言うな。言いたいことはわかっている。
早く仕事がしたいんだろう?」
「ち、違いま」
「そこまで言うなら仕方ない。」
スーラに勝手に話を進められた。
「イムル!」
「お呼びですかのん、スーラ様。」
「アヤネの初仕事、見届けろ。」
「仰せの通りに、ですのん。」
イムルはそう言うと、私の足元に何やら呪文のようなものを書き始めた。
「よし、できたのん。」
イムルはそう言うか言わないか、私の胸に飛び込んできた。
「僕にしっかりつかまっているのん。わかったのん!?」
「え、え!!」
私は訳が分からず、下を見た。
さっき書いていた呪文が、急に光って、動き出している。
そのまま私は、呪文に吸い込まれていった。