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天地の境で働いてみる  作者: 吉川 由羅
5/22

交渉

私はふわふわのベッドで、ぐっすり眠った。


しかし…、母への心配は消えなかった。


    トントン。


ドアを叩く音。私は扉を開ける代わりに、「はあい」と声を上げた。


それと同時に扉が開き、イムルが入ってきた。


「おはようだのん。」


「おはようございます。」


私はベッドから降りて、姿勢を正す。


「朝食を持ってきたのん。」


「朝食?」


「これだのん。」


ポイっと、放り投げてくる。私は咄嗟にキャッチした。


一粒の、クルミ。


「・・・。」


「どうしたのん?」


「いや、別に。」


今まではこれすら手に入らなかったのだ。贅沢は言ってられない。


いただきます、と呟いて、口に入れる。


・・・?これ、一粒のはずである。なのに、


「お腹、いっぱい。」


「そうか。それは良かったのん。」


イムルはニッ、と笑った。


生意気とはいえ、見た目は赤ちゃん。思わず、ドキッとしてしまった。


「じゃ、仕事に入るのん。ついてくるのん。」


また呪文を唱えようとするイムルを、私は慌てて止めた。


「待って待って、自分で行けるから。」


「そうのん?昨日のスーラ様の部屋、わかるのん?」


「うんうん」


イムルは口を閉ざす。私は安堵の息をついた。



私は昨日を思い出しながら、スーラ様の部屋になんとかたどり着いた。


大きな扉を、叩く。


「入れ。」


短く、大きな声がそう言う。


私は扉を開けた。


昨日と変わらない所に、スーラ様は座っていた。


「やあ。昨晩は眠れたか?」


「はい。…お陰様で。」


「では、仕事について、」


「お待ちください。」


私は口を挟んだ。


「私は、まだ仕事をするとは一言も言っていません。誰が私をここに呼んだのですか?」


「・・・呼んだのは、私だ。」


「どうしてですか?」


「それは、今は言わない。」


「そんな。納得できません。」


「んー、なら、こうしよう。

 私の決めた仕事のノルマを達成できたら、お前を元の世界に返してやろう。どうだ?」


「!!」


私は迷った。なんて魅力的な取引だろう。


「・・・わかりました。」


「よし。では改めて、仕事について説明する。

 この仕事はいたってシンプルだ。現世において不要な人間を、始末する。それだけだ。」


「始末…!まさか!」


「どうした?」


「どうしたもこうしたも。それって、」


私は一息で言った。


「人殺しってことですよね?」


スーラ様の表情が、少し曇った気がした。


「あ、ああ。それがどうした?」


「それっていけないことですよねっ。私、嫌です。」


「ほう。それなら、一生ここにいるというわけだな。」


「うっ」


言葉に詰まってしまった。確かに、さっき約束した。


スーラめ。はめやがったな~ッ。


「いいか。これは『いけないこと』じゃないんだ。ゴミを捨てるようなもの。

 お前は、ゴミに同情するのか?」


「うう。」


何も言い返せない。そして・・・


「まあ、お前がそうしたいなら、私は構わない。」


「うああっ、わかった、わかりましたよ。」


私はついに頷いてしまった。


「ようやくわかったか。」


スーラは笑顔を浮かべる。悔しいけど、かっこいい。


「では、仕事を始めよう。」









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