夢の世界
「えっ、ちょっ、待っ・・・」
「そうか。そんなに嬉しいか。」
状況を飲み込めていない私そっちのけで、スーラ様は愉快に笑う。
「でも…、でも」
私はやっと口を開く。
「私には母がいるのです。困窮している、母が。それを放っておくことはできません。」
「安心しろ。母には、いつでも会うことが出来る。」
「え」
今度は開いた口が塞がらなくなった。
「お前はここに来たことにより、現世では人間の目には見えなくなっている。
さらに、空も飛べる。空気のような存在、というわけだ。
その状態でここの奥にあるトンネルをくぐると、母からは見えないが、会うことは可能だ。」
スーラ様はあっさりと答える。
そして、どっはあーっと、息をついた。
「お前の言い分はもう聞かない。疲れたのでな。
おい、イムル。アヤネを部屋に案内しろ。」
「ははっ」
イムルは礼をした。
そして再び、足の感覚が無くなった。
「ここだのん。」
足の感覚が戻った時には、私はさっきの部屋の前にいた。
「明日は早くに起きてもらうのん。だから、すぐに寝るのん。」
イムルは、そう言って勢い良く扉を閉めた。
私は、改めて部屋を見回す。
ベッドの近くに、窓があるのに気が付いた。
カーテンで隠されてそこからは見えなかったので、私はベッドに飛び乗って、カーテンを開けた。
その瞬間、私はあまりの凄さに圧倒された。
「本当に、浮いてる・・・」
見上げると、そこには白く光る大きな曇が浮かんであった。きっと、天国だろう。
そして見下ろすと、変に黒い、時々雷鳴が響く曇があった。あれは、地獄か。
まるで、夢の世界だ。
私はカーテンを閉めると、横になった。
今日はやけに疲れた。早く寝るとしよう。
そう思っているうちに、私は本当の、夢の世界に誘われていった。
・・・・・・・・・・
「スーラ様。遂に、彼女に仕事をさせるのですのん。」
スーラとイムルは、その晩、話をしていた。
「ああ。でもこの仕事は、彼女にはいささか激しすぎるのではないか?」
「今更何をおっしゃっているのん。彼女に決めたのは、スーラ様、あなたですのん。」
「うーん・・・、しかし仕事の内容を聞くと、彼女のほうが、拒絶をするかもしれない。」
「なぜだのん?」
「決まっているだろ。」
スーラは呆れたように、言った。
「その仕事が・・・、殺人だからだよ。」