イムル
「っ、うう・・・」
私は、むっくりと起き上がった。
どうやら、しばらくの間気を失っていたらしい。
「…そういえば」
そういえば、私はあの怪しげな扉に吸い込まれたのだった。
私はあたりを見まわす。
そこは、不穏な空気漂う、しかし豪華な部屋だった。
「やっと目覚めたのん。」
「え、わあっ」
声が聞こえ、驚いて振り向くと、そこには小さな赤ちゃんの姿があった。
頭にキツネの耳が生えている。
「な、あなたは、だ、だだだ」
「まあまあ。落ち着くのん。」
そしてその赤ちゃんは、なんと空を飛んで私の前に来たのだ。
「僕はここに住む、イムルだのん。あんたは、アヤネだのん?」
「ここはどこなの。あと、なんで私の名前を?」
「まったく。質問が多いのん。それぐらい自分で考えるのん。」
イムルは、面倒くさそうな顔を私に向ける。
「・・・わかんない。だから教えて。」
「はああっ、仕方ないのん。」
イムルは近くの椅子にちょこんと腰かけた。
「ここは、天国と地獄の境目に位置する浮島だのん。天国と地獄では死者を裁くけど、
ここでは生きている人間を裁くんだのん。」
私は黙って、イムルの話に耳を傾ける。
「そして、アヤネ。あんたはここに選ばれたんだのん。だから今、ここにいる。」
「選ばれた?」
「そうだのん。ここは僕とボスの2人しか暮らしていないのん。だから仲間を増やそうという
話になったんだのん。」
「ふうん。でも、どうして私が?」
私は、少し面白くなってきていた。
これは、どう考えたって夢だろう。ママが去ったあと、寝てしまったのだ。
そうに違いない。
「アヤネ。今、夢だと思ったのん?」
「!?」
私は目を大きく見開いた。
「これは夢じゃないのん。現実そのまんまだのん。
噓だと思うなら、ほっぺ叩いてみるのん。」
イムルは自分のほっぺをつんつんした。
どうやらこの赤ちゃんは、私の心が読めるらしい。
私は言われた通り、頬を叩く。じんわりとした痛みが私を襲った。
「信じてくれたのん?」
イムルが、私の顔を覗き込む。
私は小さく頷いた。
「良かったのん。じゃあ、ついて来るのん。」
イムルは小さな手を横に振った。すると、一瞬にして、私の足の感覚が無くなる。
そして、勝手に足がある方向に歩き始めたのだ。