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天地の境で働いてみる  作者: 吉川 由羅
19/22

裏切り

「…え?」


私は一瞬、目の前が真っ暗になった。


「な、なんで?」

「逆に聞くのん。なんで実の母親を殺そうとしているのに、そんなに平気なんだのん。」

「え、だって…」

「だってじゃないのん。」


イムルは立ち上がった。全身を震わせ、明らかに怒っている。


「普通、実の親を殺すなんてありえないのん。それも、それを人と協力して計画的な完全犯罪を作り上げようとしている。…見損なったのん。」


イムルは血走った目で、私を睨みつける。


「どうして、どうして…?私は正しいことをしている。悪い人を倒しているのよ?それの、何が悪いの?」


私は必死に主張する。

するとイムルは大きく深いため息をつくと、今度は哀れむような目で私を見つめ、言った。


「アヤネは、心を無くしてしまったのんね。」

「…!」

「僕はこれを恐れていたんだのん。」

「ど、どういう事?」


私は尋ねる。イムルは少し俯くと、静かに言った。


「ここは、アヤネが住んでいたところとは別の世界。だからここで暮らし、働くにはあるリスクがあるんだのん。」

「リスク?」

「人間界で暮らしていた時の思い出や感情が徐々にすり減って、道徳心を失うリスク。」

「!!」

「つまり、人が一人二人死んでも大したことない、酷ければどうでもいい。そう思ってしまうってことのん。」

「え…」


私は今までの事を思い出した。

最初は、怖かった。恐怖しかなかった。人を一人殺すたびに、後悔して泣きじゃくっていた。

でも、時間がたつにつれて、恐怖が薄れていった。何なら、どんどんと殺しが上達している自分を誇らしく思っていた。

でも、それは間違いだった。

私は自分を正当化して、殺しという名のゲームに夢中になっていた。

お母さんと、同じだ。


「それもあって、僕は最初反対していたのん。澄香と同じになるのはだめだ。そう思って。」

「澄香?」

「あいつはここに来て、スーラ様に全て奪われてしまったのん。心も、そして身体も。」

「……。」

「でも、アヤネは違ったのん。しっかりと自分の感情を持っている。これなら大丈夫だ。…そう、思っていたのに。」


イムルは顔を上げて、言い放った。


「裏切られたのん。」


その瞬間、私ははっと我に返った。

気が付くと、私はイムルに抱きついていた。


「ちょ、アヤネ!?」

「ごめん、イムル、ごめん…」


私は思い切りぎゅっと抱きしめた。反省の気持ちを込めて。


「アヤネ、息、できない…」

「あ、ごめんごめん。」


慌ててイムルを解放すると、耳まで真っ赤っかになったイムルが、ぽすりとベッドに着地。


「ふう。急にどうしたのん。」

「ごめんイムル。私間違ってた。」

「?」

「いくらお母さんが罪人とはいえ、私の手で殺すなんて、できない。」


私は静かに言った。


「お母さんと交渉して、自首してもらう。」

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