裏切り
「…え?」
私は一瞬、目の前が真っ暗になった。
「な、なんで?」
「逆に聞くのん。なんで実の母親を殺そうとしているのに、そんなに平気なんだのん。」
「え、だって…」
「だってじゃないのん。」
イムルは立ち上がった。全身を震わせ、明らかに怒っている。
「普通、実の親を殺すなんてありえないのん。それも、それを人と協力して計画的な完全犯罪を作り上げようとしている。…見損なったのん。」
イムルは血走った目で、私を睨みつける。
「どうして、どうして…?私は正しいことをしている。悪い人を倒しているのよ?それの、何が悪いの?」
私は必死に主張する。
するとイムルは大きく深いため息をつくと、今度は哀れむような目で私を見つめ、言った。
「アヤネは、心を無くしてしまったのんね。」
「…!」
「僕はこれを恐れていたんだのん。」
「ど、どういう事?」
私は尋ねる。イムルは少し俯くと、静かに言った。
「ここは、アヤネが住んでいたところとは別の世界。だからここで暮らし、働くにはあるリスクがあるんだのん。」
「リスク?」
「人間界で暮らしていた時の思い出や感情が徐々にすり減って、道徳心を失うリスク。」
「!!」
「つまり、人が一人二人死んでも大したことない、酷ければどうでもいい。そう思ってしまうってことのん。」
「え…」
私は今までの事を思い出した。
最初は、怖かった。恐怖しかなかった。人を一人殺すたびに、後悔して泣きじゃくっていた。
でも、時間がたつにつれて、恐怖が薄れていった。何なら、どんどんと殺しが上達している自分を誇らしく思っていた。
でも、それは間違いだった。
私は自分を正当化して、殺しという名のゲームに夢中になっていた。
お母さんと、同じだ。
「それもあって、僕は最初反対していたのん。澄香と同じになるのはだめだ。そう思って。」
「澄香?」
「あいつはここに来て、スーラ様に全て奪われてしまったのん。心も、そして身体も。」
「……。」
「でも、アヤネは違ったのん。しっかりと自分の感情を持っている。これなら大丈夫だ。…そう、思っていたのに。」
イムルは顔を上げて、言い放った。
「裏切られたのん。」
その瞬間、私ははっと我に返った。
気が付くと、私はイムルに抱きついていた。
「ちょ、アヤネ!?」
「ごめん、イムル、ごめん…」
私は思い切りぎゅっと抱きしめた。反省の気持ちを込めて。
「アヤネ、息、できない…」
「あ、ごめんごめん。」
慌ててイムルを解放すると、耳まで真っ赤っかになったイムルが、ぽすりとベッドに着地。
「ふう。急にどうしたのん。」
「ごめんイムル。私間違ってた。」
「?」
「いくらお母さんが罪人とはいえ、私の手で殺すなんて、できない。」
私は静かに言った。
「お母さんと交渉して、自首してもらう。」




