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天地の境で働いてみる  作者: 吉川 由羅
18/22

協力

「澄香をか?」


スーラが聞き返す。


「はい。そうしない限り、私は動きません。」

「ほお。強気に出たな。実の母親とあいつを天秤にかけるとは。」

「実の母親といえど、犯罪に与してしまったのなら。家族である私が止めなければありません。」


私は、そう言ってスーラを見る。

スーラとの少しの沈黙の後、彼はニッと笑った。


「よし、わかった。あいつの命ぐらいくれてやる。」

「ありがとうございます。」


私は深くお辞儀をした。するとスーラが、私に何かを投げつけた。

慌ててキャッチして、手の中を見る。そこには、金でできた鍵が光っていた。


私はそれを確認した途端、すごい勢いで走って行っていた。

ドアを殴りつけるように開き、一目散に。


「澄香!」


地下室の扉を思い切り開け、私は叫んだ。

澄香はぶら下がったまま、私の方を見て目を丸くする。


「アヤネ?どうしたの、何の騒ぎ?」

「これ、鍵!いま出してあげるからね!」


私は部屋の隅にある鉄の扉に飛びついて、鍵穴に鍵を差し込んだ。

ガチャ、と音が響き、静かに開いた。


私は澄香のもとに駆け寄ると、吊られている縄を一生懸命にほどいた。


全ての縄をほどくと、澄香は力が抜けたようにその場に倒れこんだ。

手首足首には、痛々しい縄の跡が赤く浮かび上がっていた。


「大丈夫?」

「うん。まあね。そのカギ、どこで手に入れたの?」

「私がスーラにお願いしたの。」

「スーラに?」

「うん。」


澄香はそう聞くと、顔をしかめてうつむいた。


「どうしたの?」

「いや、ちょっと悔しくてさ。どうせスーラの事だから、『あいつの命ぐらいくれてやる』とか言ったんでしょう?」

「あ……」

「分かるかなあ、この何とも言えない苛立ち。」


その言葉通り、澄香は拳を震わせて言った。

しかし、

「でも、そんなことごにょごにょ言ったって始まんないよね。さ、これから何する?」


すぐに笑顔に戻って私に尋ねた。


私はあの後起こったこと、イムルをボコボコにした正体、すべてを澄香に話した。

澄香はしばらく考えこんでいたが、やがてまっすぐ私の方を見て言った。


「本気なの、アヤネ。」


私は静かに頷く。


「私は別に構わないんだけど。大丈夫?後悔とか、しない?」

「大丈夫。お母さんの暴走は、私が止めないと。」

「……。」


澄香は黙って、私をもう一度見つめた。


「本気、なのね。わかったわ、できる限りあなたには協力するつもりよ。」

「本当?」

「ええ。助けてもらった身だもの。恩返ししなくちゃ。」

「ありがとう、澄香……」


私は涙をこぼして、笑った。

この時の私は完全に我を忘れていた。






「イムル?」


療養室の扉の前で、私は尋ねるように言う。

すると、


「どうしたのん?」


イムルがひょっこりと顔を出した。

私はスーラに聞いたことを全て話した。実の母親を殺めることも。


「あれが、アヤネの、母親……?」


話し終えた後、イムルは呆然として呟いた。

信じられないと、はっきり顔に書いてある。


「そう。だから…」

「でも、理由がないのん!アヤネの母親はホームレスだった!人を殺すなんて、損でしかないのん!」

「いや、もしかしたら……」


私は少し俯いて、言った。

「お母さん、殺し屋集団の一員だったのかもしれないの。」

「どういう事のん?」

「私のお母さん、いつも真夜中のおんなじ時間に、私を置いてどこかに行っていて。私気になってお母さんを尾行したことがあったの。そうしたら、お母さん知らない男の人と話していて。怖くなって、その時は帰ったの。そしたら一時間後くらいに、いっぱいの食べ物を持って帰ってきて。不思議に思ったけど、今はその理由が分かる。誰かを殺すのを引き換えに、生きる糧をもらってたんだ。」


「そ…ん…な…」


イムルは明らかに絶句している。

それはそうだ。信頼していた私の母親が、自分をこんなにしたのだから。


「だからね、イムルにお願いがあるの。この殺害計画、協力して。」


するとイムルは、サッと私の方を向くと、言い放った。

「…僕は協力しないのん。」

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