協力
「澄香をか?」
スーラが聞き返す。
「はい。そうしない限り、私は動きません。」
「ほお。強気に出たな。実の母親とあいつを天秤にかけるとは。」
「実の母親といえど、犯罪に与してしまったのなら。家族である私が止めなければありません。」
私は、そう言ってスーラを見る。
スーラとの少しの沈黙の後、彼はニッと笑った。
「よし、わかった。あいつの命ぐらいくれてやる。」
「ありがとうございます。」
私は深くお辞儀をした。するとスーラが、私に何かを投げつけた。
慌ててキャッチして、手の中を見る。そこには、金でできた鍵が光っていた。
私はそれを確認した途端、すごい勢いで走って行っていた。
ドアを殴りつけるように開き、一目散に。
「澄香!」
地下室の扉を思い切り開け、私は叫んだ。
澄香はぶら下がったまま、私の方を見て目を丸くする。
「アヤネ?どうしたの、何の騒ぎ?」
「これ、鍵!いま出してあげるからね!」
私は部屋の隅にある鉄の扉に飛びついて、鍵穴に鍵を差し込んだ。
ガチャ、と音が響き、静かに開いた。
私は澄香のもとに駆け寄ると、吊られている縄を一生懸命にほどいた。
全ての縄をほどくと、澄香は力が抜けたようにその場に倒れこんだ。
手首足首には、痛々しい縄の跡が赤く浮かび上がっていた。
「大丈夫?」
「うん。まあね。そのカギ、どこで手に入れたの?」
「私がスーラにお願いしたの。」
「スーラに?」
「うん。」
澄香はそう聞くと、顔をしかめてうつむいた。
「どうしたの?」
「いや、ちょっと悔しくてさ。どうせスーラの事だから、『あいつの命ぐらいくれてやる』とか言ったんでしょう?」
「あ……」
「分かるかなあ、この何とも言えない苛立ち。」
その言葉通り、澄香は拳を震わせて言った。
しかし、
「でも、そんなことごにょごにょ言ったって始まんないよね。さ、これから何する?」
すぐに笑顔に戻って私に尋ねた。
私はあの後起こったこと、イムルをボコボコにした正体、すべてを澄香に話した。
澄香はしばらく考えこんでいたが、やがてまっすぐ私の方を見て言った。
「本気なの、アヤネ。」
私は静かに頷く。
「私は別に構わないんだけど。大丈夫?後悔とか、しない?」
「大丈夫。お母さんの暴走は、私が止めないと。」
「……。」
澄香は黙って、私をもう一度見つめた。
「本気、なのね。わかったわ、できる限りあなたには協力するつもりよ。」
「本当?」
「ええ。助けてもらった身だもの。恩返ししなくちゃ。」
「ありがとう、澄香……」
私は涙をこぼして、笑った。
この時の私は完全に我を忘れていた。
「イムル?」
療養室の扉の前で、私は尋ねるように言う。
すると、
「どうしたのん?」
イムルがひょっこりと顔を出した。
私はスーラに聞いたことを全て話した。実の母親を殺めることも。
「あれが、アヤネの、母親……?」
話し終えた後、イムルは呆然として呟いた。
信じられないと、はっきり顔に書いてある。
「そう。だから…」
「でも、理由がないのん!アヤネの母親はホームレスだった!人を殺すなんて、損でしかないのん!」
「いや、もしかしたら……」
私は少し俯いて、言った。
「お母さん、殺し屋集団の一員だったのかもしれないの。」
「どういう事のん?」
「私のお母さん、いつも真夜中のおんなじ時間に、私を置いてどこかに行っていて。私気になってお母さんを尾行したことがあったの。そうしたら、お母さん知らない男の人と話していて。怖くなって、その時は帰ったの。そしたら一時間後くらいに、いっぱいの食べ物を持って帰ってきて。不思議に思ったけど、今はその理由が分かる。誰かを殺すのを引き換えに、生きる糧をもらってたんだ。」
「そ…ん…な…」
イムルは明らかに絶句している。
それはそうだ。信頼していた私の母親が、自分をこんなにしたのだから。
「だからね、イムルにお願いがあるの。この殺害計画、協力して。」
するとイムルは、サッと私の方を向くと、言い放った。
「…僕は協力しないのん。」