表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天地の境で働いてみる  作者: 吉川 由羅
17/22

極刑

「お…、お母さん?」

私は思わず聞き返した。身体が震えているのが、自分でもわかった。

「じょ、冗談ですよね?」


スーラは下を向くと、ふーっと長く息をつく。

生暖かい液体が、私の頬を伝って落ちた。


イムルを痛めつけた犯人が、お母さん。つまり、例の凶悪殺人鬼の正体も……。


ふと、私の肩にずっしりと何かがのしかかった。

見ると、スーラが肩に手をやって私を覗き込んでいた。


「泣くな。これが現実というものだ。」

「現実…」


それを聞いて、ますます私の涙腺は緩んだ。


「泣くなと言っただろう。早く落ち着くんだ。」

「…どうして」

「?」

「どうしてあなたはそんなに冷酷なんですか?」


かなり攻めた質問だった。

スーラは目を逸らすと、少し考えたようなそぶりをしてから、言った。


「冷酷、か。たしかに私は冷酷かもしれない。私には人間の考えることがよくわからないのだ。私は自分の本能に忠実に従い、自分のためだけに生きている。」


自分の本能に、忠実。確かに心当たりはいくつかあった。まさかスーラ自身、自覚していたとは。


「だが、今となっては生きているのか死んでいるのか…。それすらはっきりしない状況なのだ。私は知らないうちにここの主となり、手下と共に人間を裁いていた。」

「スーラ様は、ここに来る以前の記憶はあるのですか。」

「それが、全くと言っていいほどないのだ。不思議なことに、ここにはもともといなかったという事だけはわかっているのだが。」

「そうですか。」


スーラにもそんなことが…。私は少し考え込んでしまった。


「アヤネ。」

「どうなさいました?」

「そしてお前の母親の事だが。」

「…はい。」


スーラは何の躊躇いもなく、言った。


「彼女は何人もの人々を殺した挙句、私の頼れる部下まであんな姿にした。彼女は、極刑に処す。」


「きょ、極刑…!」

私は目を大きく見開いてスーラを見た。

スーラは動揺することもなく、至って平然としている。


「極刑というと、お母さんは…」

「ああ。今までのものより厳しいもので、処分することになる。」

「そんな…」


私はその場に座り込むと、顔を手で覆って、再び溢れ出しそうになった涙を抑えた。


「泣くんじゃない。」

「な、泣いてません…」


私はその体勢のまま、返答した。

すると背後から温もりを感じた。


「ちょ、スーラ様…」

「落ち着け。」


スーラが、私に覆いかぶさるようにして抱きしめてきたのだった。


「この前はいきなりだったからな。これなら、問題ないだろう。」

「っ…」


自分の顔が少し火照ってきている。


「顔が真っ赤だぞ。」

「い、言わないでください。恥ずかしい…」

「フッ。…それよりも。」


スーラは真顔になって、耳元で囁いた。


「いいか。お前の母親とはいえ、極悪人であることに変わりはない。お前がなんと言おうが、彼女は処刑する。残念ながら、これが私の仕事なのだ。わかってくれ。」

「……。」


私は悩んだ。お母さんは、腹ペコな私をいつも支え続けてくれた、命の恩人。

私にとっては、そんなお母さんが殺人鬼なんて、にわかに信じられなかった。信じたくなかった。

でも……


「…わかりました。」

「そうか。それなら…」

「ただし、条件があります。」

「条件、だと?」

「はい。」


私はスーラの方を向くと言った。


「澄香を、解放してください。」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ