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天地の境で働いてみる  作者: 吉川 由羅
13/22

謎の女

「んなっ」


私は絶句した。


「なんで、そのことを?」


「当ったり前じゃん。」


女性は笑って言った。


「私も、前にそこで働いてたのよ。」


「えっ」


心臓が止まるかと思った。


ということは、この人は天地の境から無事ここに帰ってこれた?


「そういう事。」


私の心を読んだらしい。彼女は満足そうに言った。


「わかったでしょ?私はあなたの敵じゃない。

・・・そこで相談なんだけど。」


女性は妙に改まった口調で言った。


「私とあなたで、情報交換しない?」



次の日、私は彼女の部屋に招待された。


渡されたメモを基に、入り組んだ道を歩く。


「ここ、かな。」


やがて小さなアパートの一室で、私は足を止めた。


表札を見る。


『丘井』


あの女性、丘井というんだ。


私はチャイムを鳴らす。


「ああ、君だね。いま開けるから待ってて。」


インターホン越しに女性の声が聞こえ、その後すぐに


「いらっしゃい!」


女性、丘井が姿を現した。


「さ、入って入って。」


「お、お邪魔します。」


私がお辞儀をすると、丘井は爆笑した。


「な、何かおかしかったですか。」


「おかしいもなにも、昨日と全然態度が違うから・・・。」


確かにそうだ。昨日は知らなかったのだから。


丘井が、先輩だったということを。


そして覚悟して部屋に入ったが、思ったよりは人間味のある部屋だった。


まあ人間だし、当たり前か。


「そこに座って。いまコーヒー淹れるから。

・・・苦いの、飲める?」


「わかんないです。」


「飲んだことないの?」


「はい。貧乏だったもので。」


「へー。じゃあ、牛乳たっぷり入れとくね。」


「ありがとうございます。」


私は言われるがままにテーブルに座った。


「さて、と。」


向かい側に丘井は座り、私の顔を覗き込んだ。


「まず、名前を教えて。」


「アヤネです。上原綾音」


「アヤネね。あたしは丘井澄香。」


「澄香…さん。」


「澄香でいいよ。あと敬語やめて。堅苦しいのは嫌いなの。」


澄香は笑って訂正する。


「じゃあ、あたしから話すね。まだ警戒されてるみたいだし。」


「そ、そんなこと・・・。」


「あははっ。大丈夫だよ、遠慮しなくっても。」


そして、澄香は語り始めた。


「あたしはね、大学教授のパパと開業医であるママの間に生まれたの。

家はそれなりに裕福だったけど、共働きだったせいであたしはいつも一人だった。

・・・そして、あたしが10歳の時。パパが教授をクビになったの。なんでも、

生徒の両親から金を、賄賂を受け取っていたらしくて。

曲がったことが大嫌いなママはカンカン、すぐに離婚を決意したの。

あたしはママに連れられて、ここに来た。でも・・・」


ここで澄香は一旦口を止め、コーヒーを一口すすった。


「でもね。その後すぐにママは重度のうつになって、精神科病院に入院したの。

今も、ずっと入院生活。」


「入院・・・。」


「それで、あたしは本当の独りぼっちになっちゃったワケ。保護施設からも保護の連絡が来た。

でも、それでもめげないのが澄香ちゃん。保護に来る前の日の晩、家を抜け出したの。」


「夜逃げ?」


「そういう事。で、裏路地に行ったと。そこで妙ちくりんな紙を拾ったの。」


「妙ちくりん?どんな感じのものだったの?」


「なんか、見るからに怪しい、って感じがしたなあ。あと、扉の絵が描かれていた気がする。」


「扉!私も、同じものを拾った!」


「そうなの?じゃあ、アヤネもそれに吸い込まれた感じ?」


「うん。」


「なーるほどねえ・・・。」


澄香はポケットからメモ帳を取り出し、すらすらと何か書き記した。


「…おけ。で、あたしは天地の境にやって来たの。

お屋敷の主みたいな人に『働け!』て言われたから、あたし当然『嫌だ!』て言ったの。

そしたらその人あたしの耳元で・・・」


澄香は小声で言った。


「『働いたらお前に魔力を授け、現世に返してやろう』って。」


「魔力?」


「うん。だからあたし、しぶしぶOKした。そこから5年くらいかな。働いて働いて。

やっとノルマ達成。そしたら主さん、案外あっさり現世に返してくれたの。

約束通り、魔力もくれた。」


澄香はそう言うと、ピッと指を振った。その途端、澄香のコーヒーカップは宙に浮いた。


「えっ、凄い!」


「でしょでしょ。」


澄香は指を鳴らす。するとコーヒーカップは元の位置にしっかり着地した。


「まあ、こんなところかな。次、アヤネの番だよ。」


「うん、わかった。」


そして私は、自分がこうなったいきさつを説明した。


「あたしとほとんど一緒だね。」


それが、話し終わった後の澄香の第一声だった。


「裏路地も、怪しい紙も、何もかも一緒。共通点をまとめてみると、ターゲットは裏路地に独りぼっちの女性、かな。」


「そうかも。」


私は頷いた。


澄香はまたメモに何か書くと、顔を上げた。


「今日はありがと。また何かあったら、遠慮なく来て。魔力は持ち合わせてるから、仕事のお手伝いとかできそう。」


「わかった、ありがとう。」


私は席を立った。


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