第一話 初陣を飾る帝王と天使
本編START!!
☆
ここはローズレッド派閥に属するドーレット伯爵領内の領主館。
農村に囲まれた領主館の書斎、そこには煌びやかな装飾を纏った丁度品が灯りに照らされ輝いていた。
その輝きは本来ならドーレット伯爵家が抱える資産程度ではそこまでの輝きは出せない。
そこでドーレット伯爵は書類と格闘していた。
「例の魔法薬がどうやら想定よりも売り上げを上げているようだ。」
「そのようですな旦那様。」
側近の執事が相打ちを打つ。
「ふっ、これで私は派閥内でも上位の財力を築けるこれは成り上がれるぞ!!」
この日の伯爵は気分が高揚していた。
「それでは私は少し領内の例の魔法薬の素材を栽培している村を一度視察して来る。あとの事は任せたぞ。」
「御意」
執事は丁寧に頭を下げる。
ドーレット伯爵が作っているのは魔力を活性化させることのできる魔法薬。
しかし非合法、それ故に副作用が強く使用後は倦怠感や目眩、発熱などを引き起こす非人道的なシロモノだった。
しかしローズレッド派閥傘下貴族家の私兵達はとにかく戦闘力が必要とされドーレット伯爵家もその1つだった。
派閥内でも熾烈な競争が起こり一部では武力衝突まで発展した。
そんな中領地には何の取り柄もない田舎の田畑が広がるドーレット領は領民ぐるみで違法な魔法薬によって戦力があるように見せつけなければ公爵家から見捨てられる状況まで陥っていた。
しかしローズレッド公爵家は気付いていない。派閥内の気付いている家も動こうとしなかった。
☆
あれから1年半の時が過ぎ去った。
俺は身長が伸び声が変わり始めた。
フェノンももともと魅惑的な身体つきだったがそれを強調させる胸、引き締まった腰に全体的に女性らしい身体つきになり声も若干低い落ち着いた声色になった。
「哀れだな…」
カイリーが呟く。
「本当に追い詰められたらここまで手をだすのですね。」
俺達はドーレット領内の上空に浮かんでいた。
「あの薬が出回ると俺達が入学する際に支障が起きかねない。聞いたか?あの薬王都まで出回ってるらしいな。」
「あのですね。……その話は私が集めた情報ですのに。あのカイリー?自分が調べたわけじゃないのにその態度は腹が立ちますよ?」
あれからフェノンは常識が身についたようで無駄な知識が身に付いたようだ。正直あの箱入り娘な感じでよかったし見てるだけで面白かったのに。
「聞いてますの?私のことをそんな目で見ないでくださいます?なんか嫌です。」
最近ミズーリさんもなんか俺達のこと見てニヤニヤして来る頻度多いし。
「それは帰ってから問いただします。」
ネルセンはミズーリさんに敷かれて再起不能な感じだし、 ネルセンわかってんの?
元人妻だよ⁉︎
「ふふふ…… 私のお母様は魅惑的なのですよ。」
あの人苦手だ俺。
いや、ミズーリさんとネルセンが共闘して俺達に「青春ですねぇ〜」とか「俺もそんな青春が欲しかったずるいぞカイリー」とかヤジ飛ばしてくるのがうざい割にあの2人も人のこと言えないし。
「それは共感できますけどそんなことより下はどうするんですの?作戦通りで?」
「そのつもりだが俺が伯爵本人を相手する。合図したら『星矢の弾幕』で農村ごと消滅させろ。あの村の住人も共犯者だ。将来俺達の敵になりうるからな」
「本当にやるんですのね。」
「当たり前だ。それにもう奴らは犯罪者だ躊躇う必要なんて皆無だし。これで民衆に事の顛末が知れて正義の味方扱いされても舞い上がるなよ?俺達はそのためにやるわけじゃねぇんだ。」
「それは理解してる。はぁーこの衣装じゃワタシ目撃されたら完全に神話に出てくるアレじゃないですの、恥ずかしい。」
今の彼女は背中に両翼の純白の翼が生えており身体はそれに合わせた白を基調としたバトルドレスに青色の煌びやかな装飾が施されたドレスを纏っている。武器は可変収納式のレイピア、普段は懐に入れている。
正に天使だ。
また彼女は光属性を後天的に発現出来るようになり普通ならそんなことはあり得ない。本当は黄金色に光が輝くのだが何故か彼女は一定以上魔力を込めて光属性の魔法を放つと白銀の色に魔力が変わった。それに伴い髪の色も金髪から銀髪になりそれに金色の髪が混じった色になった。そして光属性を使う時だけ髪が完全に銀髪になる。
ただ今みたいに暗躍するときは幻影で大人びた容姿をしている。
これは全てミズーリさんのアイディアだ。
あの人自分の娘美化しすぎでしょ。
対して俺は黒を基準にしたロングコートに
武装デバイス2本の手刀剣
普段はただの黒手袋だが魔力を流すと変形し刀身や剣の角度を調節出来る。全てネルセン作だ。
俺も魔力が馴染んだのか髪に少し紫が混じりだした。
俺達は今浮遊魔法を発現して浮いている。普通ならこんなに長時間浮かべないが今着ている服の魔力回路の補助によって使用する魔力を節約出来ている。
「作戦開始だ。」
ゆっくりと降下する。
フェノンは俺の援護だ。
☆
伯爵本人を乗せた馬車はこの領の領民以外は知らない農村に向けて走っていた。
他の領地には知られないように徹底した情報統制を敷いていた。
辺りを轟音が襲う。
ドーレット伯爵は馬車を停める。
「何事だっ!!!」
外に出て外の様子を確かめる。
道の正面に空から黒いコートに身を包み仮面をつけた全身黒装束の人物が降りてきた。
「お前がドーレット伯爵だな?」
人とは思えない声色をしていた。
「貴様は何者だ。」
護衛が叫ぶ。
「俺は組織、ブラッドリーシルバーズの闇と光のうちの闇を司る魔法使い、お前は非合法な魔法薬を製造し裏ルートで王都にまで流しこの領地では有り得ない利益を生み出している。よってお前はこの秘匿されていた違法な魔法薬とともに農村ごと消えてもらう。」
伯爵がブラッドリー…シルバーズ⁉︎と言ったあとに魔法薬の話がでた瞬間露骨に顔が歪む。
「……どこで知ったか知らんがそこまで知っているならそのまま逃すわけにはいくまい、貴様の方こそ消えてもらう。やれ」
「やはり、黒だったか…知っていたが……」
☆
カイリーはこの人物は自分が思い描く未来のこの国の病原体になりうると思った。 そしてドーレット伯爵が平民をアールスレイン魔法学園に入学させる事に長く反対し嫌悪感を感じていることも掴んでいた。だからこそこうして武力介入し悪の根源を断ち切ろうとしているのだ。
そうして伯爵を守る護衛が身体強化魔法を発現し突っ込んで来る。
カイリーは武装デバイス「両手に手刀剣に魔力を流し身体強化魔法を発現する。
そして 「斬撃の侵食」
襲い掛かった3人の護衛が切り裂かれ切り口から禍々しい闇が噴出し切り裂かれた護衛は、闇に侵食され事切れた。
「なっ!!」
カイリーは伯爵に問い掛ける。
「なあ、犯罪者。死ぬ前にお前の夢もなにもかも破壊してやるよ。自分のやって来たことを根底から否定してやる。」
そう言ってカイリーはフィンガースナップし拡声の魔法を使った。
パチンッ!
それが伯爵には嫌に耳に残る響きに聞こえた。
その瞬間。
空から無数の光が農村に降り注ぎ視界は魔法に対する抵抗力が弱い伯爵は遮られた。
光が、収まると農村は焼失し辺り一面焼け野原であった。
空が眩く煌く。
そこには翼をはためかせた美しい白銀の天使が降臨していた。
☆
フェノンは無事自分の魔法が発現した事によって現実を知る。
自分がこんなにも強大な力を有していたことに驚愕した。
しかし、その表情は喜びに満ち溢れていた。
☆
伯爵はあり得ない存在に驚愕する。
「て、天使だと⁉︎」
言った瞬間頬に切り傷ができる。
「うっ」
「お前はもうこの国にはいらないだから死ね。」
「くっ…こんなとこっ……」
伯爵は何か言いかけたがその前にカイリーの手刀が伯爵の首を跳ね飛ばした。
この日1つの農村が世界から消失した。