第5話 選択する未来の可能性 〜最強タッグ結成〜
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散歩を終えて屋敷に戻ってきた2人はすぐに応接間に向かった。
「よおおおおおっ カイリィィーー同年代の少女にデレたりしてるんじゃねーだろうなーー!!? うおおおっ!!!?」
圧縮された水の弾丸がネルセンの髪の毛を数本持っていった。
「うるさいネルセン」
そっぽを向きながら「そんなことない」とかいうジェスチャーをみせるカイリーにネルセンが追い討ちをかける。
「おい、あぶねーじゃねーか。まあ、そんなことより満更でもなさそうな態度とるなよおおぉーーーお前が奥手なのはちゃんと知ってるんだぜーー⁉︎ ぐふぅぅぅっー」
魔力を纏ったフェノンのタイキックに反応出来ずにクリーンヒットしたネルセンが悶絶する。
「少し頭冷やして欲しいですわ」
「コンビネーション抜群ね。 フェノン 」
耳まで顔が赤いフェノンがついにネルセンを仕留めた。そこへ奥のソファーに腰掛けた妙齢のナイスバディーな美しい女性が話掛けてくる。
「申し遅れました。私は元第2王妃のミズーリ・ライトシールズと申します。フェノンは私の娘です。」
優雅に挨拶したミズーリは続ける。
「ネルセンさんからお聞きしましたがここが下界で言うところの『暗黒街』の楽園なのですね。確かにその名にふさわしいでしょう。それに王城の禁書書庫にあった通りすさまじい魔法技術です。エクセレントですよ。」
最後に「私の娘を射止めたのもエクセレントですよ」とか茶化してくる。
やめてくれそんなことしてないし貴女の娘隣に座ってるけどもう噴火寸前だから。
「それで? 今後私達の処遇はどうなるので?」
急にグイグイくるなーこの人、見た目淑やかだけど案外そうでもなさそう。
フェノンを反対側に座るように促しながら返答する。
「貴女達が俺達の仲間になって協力してくれるのであれば安全は保証しますよ。ああ、ただ協力してくれないのであればこの島で監禁することになると思います。こっちも無条件で自由にさせるのは難しいですし見返りがないですからね。それに俺達には目的があります。」
「その目的は?」
カイリーは続ける。
「この国の権力の分散化と優秀な魔法使い達の多様性を広げるのが現時点での目標ですね。要は俺達が台頭していた時代のような社会体制まあ、別に必ずしもそうならなくてもいいんですけど俺は今の現体制だと魔法を研究している側からしたら衰退したと言っていいですからね。」
「今の王は力がない。保有する戦力も実質王族護衛とその周りを固める親衛隊、宮廷魔法師部隊の第一隊以外の第二、三隊は、6大公爵家の縁がある者が隊長ですからいくら精鋭と言われる戦力がいても6大公爵家の持ってる兵と『質』だけは同等ですけど物量作戦で簡単に抑え込まれるでしょうね。」
「平民の魔法使いは各領地の魔法院に通うのが暗黙の了解になってるのでしたね。」
ミズーリが補足する。
「その通りです。この国では各公爵家の魔法院で取得出来る魔導資格では公爵家の庇護下に置くという条文があります。それは平民の魔法使いがフリーだと公爵家側からしたら不安要素でしかないからです。しかしそれだとその庇護下に縛られたまま公爵家の犬に成り下がったも同然でしょう。王立アースレイ魔法学園は表向き平民も通えますが基本貴族が通う魔法学園なのでそんな条文は存在しません。」
魔導資格
世界魔法協会が定める世界共通の資格だ。
この国では王立アールスレイン魔法学園と各公爵家の魔法院が魔法協会より資格授与を許可されておりそれぞれの学び舎を卒業した者が卒業と同時に取得出来るような仕組みになっている。
そう、それこそがカイリーの狙いだった。
各公爵家が運営する魔法院ではその魔法院を運営する公爵家に将来に渡って縛られ続けることになる。それだけは許せなかった。
カイリーは話を次に進めた。
「本当に今6大公爵家同士が足引っ張りまくってて中々魔法技術が進んでいないのが現状です。」
フェノンが話に割って入ってくる。
「それなら何故貴方は自分がなんとかしようとしてるのです?さっきまでの考え方だと貴方は自分に見返りや対価がないと動かないような素振りをみせてますのに。」
フェノンが抱いた疑問は当然だろう。
カイリーがさっきから自らに利益がなければ動かないようなスタンスをみせているからだ。フェノンはそれが気になったのだろう。
カイリーの口調が、砕けた口調に変わる。
「いや、関係あるな。それだとそもそも俺がこの島に閉じこもって魔法の鍛錬なり研究なりすればいいっていうのが前提になる。俺が表舞台にでて活躍するにはそんな貴族に取り込まれるような状況になっては駄目だからだ。だからこそ表向き中立の王立アールスレイン魔法学校を卒業する必要がある。それも優秀な成績でだ。RANKには入っておきたい」
カイリーが言うRANKとは………
RANK1
RANK2
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RANK6までのアールスレイン魔法学校の上から順番に強さの序列を指す。毎年公爵家同士の派閥争いでどれだけ自分の家が優秀かを示せる絶好の機会なのだ。勿論熾烈な争いは避けられない。
カイリーが入学する年は6大公爵家の子息が全て揃う年、まさに学校が家の命運が掛かった代理戦争と化する年なのだ。そんな時に派閥にも入っておらずましてや平民の部外者が入ろうと言うのだかなりの高望みに見えるだろう。
「まさかっ!6大公爵家を出し抜くって言うんですの?」
「何を言っている?フェノンお前もに決まってるだろ?それにお前が追放された理由って王族の中で過去最高の素質を持った天才を利用して勢力回復を目指した王族がその陰謀がバレて6大公爵家がミズーリさんに謀反の疑いをかけたのが始まりだろ?それに世間にお前の存在が伝わってないってことは王の隠してた子供だろうし。」
「な、なんでそんなに知ってるんですの⁉︎それにその言い方!!結構前から私が存在しているってこと知ってましたのね。」
「何を言ってる?俺が物心ついた時にはしってたぞ。これくらい探れなければ貴族達と情報戦で負けるぞ?」
俺は安全策でいきたいんだよ!!
「なっ!!」
「も、もももっ物心 つ、ついた時からですか!!?」
当然のように言ってのけるカイリーに絶句する親子の感情を無視するように続ける。
「で、これからが本題だ。今2人の立場は世間から見ればかなり不安定だな?魔法適正が高過ぎる。最悪表で太陽の光を浴びながら暮らすのはこの浮遊島バルザート以外じゃ難しいのが現状かな、目つけられるし。」
脅すように ーー前に襲ってきた刺客がいい例だな、と付け加えた。
「これを打開するにはフェノンがアールスレイン魔法学園に入学して卒業して自立出来ればいい、それで解決する。」
「それだけでいいですの?あ、魔導資格取れるからですのね?」
フェノンがそう聞いた途端カイリーは一拍置いてから今日1番の爆弾発言をした。
「俺はこれから6大公爵家に喧嘩吹っかける。それに協力しろ。」
「それが今の立場から救い出す為の対価だ。」
「な、なっ、何を考えているんですか?む、むむっ無理に決まってるでしょう?そもそも…しょ、勝算なんてそもそもあるんですか?」
ミズーリが狼狽しながら聞いてくる。
カイリーが手で制す。
「待て、今すぐにじゃない、それにフェノンは今はまだアレだが素質は凄まじい流石史上最高の素質を持った王族だよ。それに感じてるだろう?自分の中に芽生えた新たな力を、そして以前からある氷の力をここで磨け。」
「本当…なんでも知ってるのですね。ストーカーかと勘違いしていまいそう……」
呆れた表情でフェノンが言った。
「これはお前の未来が掛かっていると過言ではない。お前はただこの島から一歩も出ずに朽ち果てるのか?勝手に期待させられて利用された挙句自分達の保身のために切り捨てられ未練を残すのか?」
「そ、それは…」
「俺がお前に最高の夢を見せてやるよ俺はそのためのプランを用意してやる。」
ーー決めるのは自分自身だ。と続けた。
「これから、お前に戦闘技術と俺の魔法技術の全てを叩き込む、今のお前の立場も、価値観、精神全て変えろ!!その為の戦いだ。俺はお前が必要なんだフェノン。強制はしないついてきてくれるか?」
告白のような言葉にミズーリが押し黙る。
ここは自分の幕じゃないと気付いたのだろう。
「私は王族から追放されて絶望を味わいました。それならもう失うものはないというこも理解しています。 ふっふっふっ 面白いではありませんか。わくわくしますよ殿方にこんなこと言われたことないので」
妖艶な笑みを浮かべそのまま答えを出す。
「ええ、協力しますともよろしくですの。もちろん私のエスコートもしてくれるので?」
「ああ、もちろんだ。」
カイリーはフェノンの冗談めかした言葉にもしっかり反応した。
そう前置きして……
「カイリー」
少年の名前を呼びそれに答えたカイリーとフェノンの2人は手を取り合った。
これで序章は完結です。
ポイント評価お願いします。
今日のpm.7:00より少し簡単に次章のストーリーを補足する世界設定を一部公開します。本編は明日から配信開始予定です。