第2話 エントランスシティの日常
中央広場の「開かずの塔」に戻ってきた。 カイリーは深呼吸し無属性の「身体強化魔法」を発現した。
「身体強化魔法」は名前の通り身体を強化でき、足に発現すれば脚力があがり、腕なら使用していない時と比べ格段に腕力やスピードが上がる。魔法の中でも基礎の分類に入るが使い勝ってがよく武器などにも纏わせる事が出来る為冒険者や、騎士にはなくてはならない魔法であり、またそこから派生する魔法もあるため決して鍛錬を怠ってはならない魔法なのだ。
そしてこの魔法は体が主体でありあくまでも体の動きをアシストする魔法なので体を鍛えれば鍛えるほどにスピード、威力が増加していく。
実に汎用性の高い魔法と言えるだろう。
「よっと」
一瞬で近くの建物の上に登ったカイリーはそのまま屋根から屋根へと伝い走りだす。暗黒街を抜け30分走り続け暗黒街から1番近い街に到着した。
この街は「エントランスシティ」。
別名「冒険者の街」と呼ばれ初心者から
中堅まで幅広い層の冒険者でひしめき合っていた。
また、この街はアールスレイン王国では珍しく
どの貴族家の領地でもなく自治が認められており「世界冒険者協会」が取り仕切っている。
またここは良質な素材が集まることから様々な魔法技術が揃っており魔法の分野によって区画整理され街には冒険者協会所属の治安部隊と日雇いで雇われた冒険者達が治安維持活動に従事している。
また研究も盛んで主に魔法工学分野での成長が著しい。
魔力で灯した街灯などはこの街が世界に先駆けて開発他国にも普及している。
魔法理論は王都、魔法工学はエントランスと他国からの評価も高い。
アールスレイン王国の中でも有数の魔法都市だ。
この街に貴族が干渉しない理由は単純に
治安の悪い「暗黒街」と魔力濃度が異常に高く気候変動が起こりやすい「幻惑の森林」が存在するからである。
それを統治するには莫大な資金と労力や人手が必要で尚且つ身元がわからない者が多いといった不安定な人間が多いのだ。
その結果自治が認められて現在に至っている。
ただかと言って「幻惑の森林」が邪魔なわけでは無くそこで採れる貴重な魔法薬の材料や鉱石、魔物の素材などは此処アールスレイン王国にとっては貴重な資源となっており、国も貴族も少なくない援助金を「エントランスシティ」に投資しており冒険者側からは稼ぎがいいなど徹底したギブアンドテイクが築かれている。
そんな「エントランスシティ」の中央に建つ冒険者ギルドに純白のローブを纏った
黒髪の少年カイリー•ブラッドがやってきていた。
ギルドの中はむさ苦しい野郎共や歴戦の戦乙女オーラを醸し出す女性冒険者などで賑わいを見せていた。
中からは「お、きたぜガキンチョ」などなど黒髪の少年に注目が集まった。
そんな中カイリーは入り口横の受付カウンターの受付嬢に話しかけた。
「システィさん依頼達成の手続きと素材買い取りをお願いします。」
「かしこまりましたよ、カイリー君 はい、ホワイトウルフ討伐依頼と指名依頼の魔力鉄鉱石依頼達成ですね。これで、今日からRANKCに昇格ですね。その年齢でRANKCはギルド始まって以来の快挙ですよ。報酬は50000Cです。
ふふ、お姉さんも貴方の顔が見られて今日も頑張れます。ええ、頑張っちゃいます!!!!」
カイリーは身分証兼冒険者証を魔石を加工した魔道具にタッチした。
この証明書はこの国に因んで『アールスカード』と言われている。
カイリー•ブラッド
職業 冒険者
職位 RANKC
年齢 13
PT 無所属
所持金 10050000C
魔力で反応する便利なカードだ。
この国の人々は殆どが持っている。
システィと呼ばれた受付嬢はそう言って
恍惚の表情になる。
金髪のポニーテールのお姉さんは今日も平常運転だった。
しかもこのシスティと呼ばれる受付嬢は人気ナンバーワン、若い冒険者はこぞって一目惚れするその容姿を兼ね備えたシスティのお気に入りのカイリーは普通なら嫉妬されるのは誰でもわかるだろう、しかし、カイリーはしっかりしているとしてもまだ13歳、幾ら特殊な魔法や大人びていたとしても所詮は子供の枠からは抜け出しておらずそのため冒険者の若い衆達は穏やかな目で「ああ、癒されるぅ〜」「俺あいつに近寄ってシティちゃんに媚び売るんだ」とか言った奴は女性冒険者の1人に魔力を伴った拳で殴り飛ばされるも殴り飛ばした張本人でさえ「可愛い〜」とか黄色い声が飛び交っていた。
そうある意味でカイリーは「マスコットキャラクター」でいわゆる「愛されキャラ」なのだ。
「いや、快挙って俺、他の冒険者の皆さんよりも依頼沢山受けて達成してきたのに昇格のスピード遅くないですか?」
そう言ってカイリーはいや、確チャンで遅いわ!と抗議する。
「ギルド上層部は貴方に実力があり、使い手が少ない特殊属性の1つ『次元属性』
を発現出来ることも把握しています。
しかし、その一方で貴方が若すぎてその余りある才能に溺れて足を踏み外すのではないかと危惧しているのですよ。」
そう言って最後にーー端的に言って若すぎるんです。とウインクした。
「それは理解しているつもりです。俺は2年後に王立のアールスレイン魔法学園に通いたいと思っているんで。正直今はその学費と生活費を稼ぐために冒険者してるんであって地位はそこそこは必要ですけど名誉はあまり気にしてませんよ。」
「そうですか…そこまで考えられるのなら心配なさそうね。でもこの街からいなくなっちゃうのはお姉さん寂しいかなー」
そう言って ーーああ、今日は満足した。
とか寝言をほざくシスティを尻目にカイリーはギルドを後にした。
彼が向かう先は暗黒街の「開かずの塔」である。
☆
同時刻 暗黒街
暗黒街では上質な紫のローブを着た金色の髪にショートカットの妙齢の上品そうな女性と金色の髪を腰まで下ろした幼さが残る少女が「身体強化魔法」を使い正体不明の刺客から逃げ続けていた。
刺客の数は5、全員が肌を隠しそれぞれが使い回しのいい短剣やサバイバルナイフなど如何にもアサシンと主張するような格好をしていた。
「く、暗黒街まで追いかけてくるとは余程私達を殺したいようね」
「お母様何処まで逃げればよろしいのですか」
妙齢の女性と少女は迫り来る炎の雨交わしながら走る。
「この暗黒街には楽園があると書物に記録が残っていたはずだからそこに逃げ込むの」
「諦めろ、そのような空想上の楽園はここにあるわけがないだろう。この暗黒街のような無法地帯を逃げ場所に選ぶなど我らにとっては好都合、此処で生き絶えよ」
『炎弾』
刺客のうち3人から
球体状の火球が2人に向かって放たれる。
それを妙齢の女性は無属性の障壁を間一髪のところで展開しそれを防いだ。
(このまま「開かずの塔」まで辿りつければなんとかなるはず、城の書庫には楽園が存在するとは書いてあったけどそこまでどうやって行くかがわからなかった。けど暗黒街の地図を見る限り可能性としては「開かずの塔」以外考えられない。)
妙齢の女性はそう考え進路を中央広場に変えた。
妙齢の女性の考えは実はこのままの状況が水面下で進めば正解だったそのままなら........
「おい、俺様の縄張りに土足で入ってくるってのはちょっと礼儀がなってねぇんじゃねぇのか?あぁぁー⁉︎」
大声で叫んだ筋肉隆々の男が土の縦10㎝横30㎝の直方体を7個同時に投げつけ自分達を追っかけいた刺客ごと立ち並んでいた廃墟もろとも粉砕した。
いきなりの不意打ちに少女は全く反応出来ずそれを庇った妙齢の女性が腹をやられそこから大量の血が出血していた。
また、今ので自分達を追っていた刺客は見事に全員ヘッドショットを貰い息絶えていた。それを見た少女は息を飲んだ。
「目障りなハエ共は邪魔だから排除させてもらった。どこか違う街なら問題かもしれねぇが残念ながら此処は暗黒街。俺様達にとってはなんでも有りの最高のホームタウンだ!!貴族の駒を殺ろうが『無法地帯に踏み込んで来た奴が悪い』ですべて完結できるから気にしなくていいからなぁ、まあ、まずそもそも俺様の縄張りに土足で入ってきた時点で論外なんだがな。」
そう言った途端男から膨大な魔力が吹き荒れた。
妙齢の女性は今ようやく気付いた
私達はこの男に手加減されていたと。
絶望の悪夢はまだ終わらない。