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6−2 生き抜く勇気

 翌日、レジスタンスは小屋を捨て置くと、次の拠点を築くのに最低限の荷物を持ち、スーパーステイトのある西を目指した。バンとエレナはその先頭集団、カミーユの傍らを歩いていく。


「カミーユ。君の側近は信用おける人材なのか?」


「それはどういう意味かしら?」


 カミーユはバンの言葉に敵意を剥き出しにした。


「仲間を信じられなくなったら軍隊は終わりだと思います。それはリーダーである私が自分を信じられなくなっているという意味ですから」


「そうだな」


 バンはカミーユの敵意を受け流す。


「だが俺の見解は違うぞ」


 バンは側近がスーパーステイトとつながっていると見ていた。だから彼はカミーユに、レジスタンスの半分、100名を貸すよう提案した。バンはその100名で森に伏せ、万が一敵が襲撃してきた場合に伏兵となってレジスタンスを助けるという。


「カミーユ。これは保険だ。万が一俺の判断が正しかった場合、君たちを救う保険になるだろう。何も起こらなければ、君は俺を罰すればいい。君に何も損はない」


「わかりました。その代わり側近をバンのメンバーにつけさせてください」


「いいだろう」


 バンは、疑惑の渦中にいる人物、側近をメンバーに加えることを了承した。これではバンの読みが当たっていたとしても、側近がバンの企みを察知し、スーパーステイト軍に襲撃をやめるよう密告する可能性だってあった。


(それが抑止力になるならば、それでいい)


 バンは自分が罰されるかどうかという損得で物事を考えていなかった。結果的にレジスタンスが無事ですむならそれでいいと、バンは考えていた。




 カミーユの紹介により、側近と100名のメンバーがバンの配下に組み込まれる。


「カミーユの側近、ケビンです。バンさん、でしたよね。よろしく頼みます」


 彫りが深く、目鼻立ちがしっかりしている男だ。彼は常に笑顔を浮かべており、それがとっつきやすいと共に不気味でもあった。


「ケビン。率直に言おう。俺は君がスーパーステイトにレジスタンスの動きを密告していると考えている。反論があれば聞こうか」


「反論も何も、そんな事あるはずないですよ。いきなりひどい隊長ですね」


 周囲のメンバーもバンのいきなりの暴言に笑っている。きっと場を和ますためのジョークだと多くの人は考えていた。だがバンは真顔を崩さない。


「言っておくがこれは冗談ではない。だから俺はカミーユに頼み、100名のメンバーを連れて別働隊を組み、レジスタンスを後ろから守ることにしたのだ。スーパーステイトの軍隊が奇襲をしかけると読んでな」


 バンの淀みない言葉に、一同は騒然とする。ケビンは信用ありませんねと両手を広げて、おどけていた。バンの視線はまっすぐにケビンを向いているが、ケビンから視線は返ってこない。


(これはアタリだ)


 バンは確信を強めていく。




 バン、ケビンを中心とした別働隊は、レジスタンスの目指す休憩地を視界に入れながら、少し離れた北の山道を歩いていた。ケビンはヒィヒィといいながら言う。


「バンさん。スーパーステイトの軍隊は本当にくるんですかね。休憩地の周囲はこんな山道ばっかりで足元も悪い。進軍するだけで体力を奪われますよ」


「ああ。だから余計に都合がいいだろうな。相手にあるはずがない、と思わせた戦術を取れれば、勝利したようなものだ」


 バンの回答に、ケビンは眉間にしわを寄せた。バンはケビンがいつ、スーパーステイトの人間とコンタクトをとるかを注視していた。

 ケビンからのコンタクトがなければ奇襲をする話になっているのか、コンタクトがあれば奇襲をする話になっているのかはわからない。だが、少なくともバンが別働隊を指揮する前と状況は変化しており、これをスーパーステイトの人間に伝える必要があるだろう。


(いつ、動く)


 だがバンの思惑とは異なり、ケビンには何ら動く気配がない。

 そうしている間に、あたりが暗くなってきた。


「このあたりで陣を組もう。飯も食っておけ」


 バンは100人の別働隊員に提案し、メンバーは各自持参した弁当を頬張り始めた。ケビンは別働隊のメンバーと弁当を交換しながら、リラックスして飯を食っている。


(俺と合流する時点で気づいていたか)


 バンは、ケビンが別働隊を組織する前の時点でスーパーステイトの人間へ指示を出し終えていると見た。おそらくカミーユが、暗にバンがケビンを疑っている旨を伝えたのだろう。


(それなら、レジスタンスの無事は確保されたわけだ)


 バンはエレナのつくったサンドイッチを見ると、勢いよくそれを齧った。

 そして1つの決断を下す。




 時刻は深夜だった。


「行くぞ。ケビン、皆を起こせ」


 すでに剣を携え、準備を終えているバン。月明かりだけがあたりを照らしている。


「え?行くってどこに?」


 側近ケビンは寝ぼけ眼をこすりながら、月明かりを背にしたバンの姿を見上げた。


「いいからついてこい」


 ケビンはバンの横暴な態度に苛立ちをあらわにしながらも、別働隊のメンバー100名を起こし、彼に続いた。バンは真っ直ぐ西の方角に歩いている。


「ケビン。君もカミーユと同じで、スーパーステイトの出身か?」


「え?はい、そうです」


「それなら首刈りのバンの話は聞いたことがあるだろう。司法を司り、罪人の首を100以上斬ってきた処刑人だ」


「え、ええ。そりゃあ国王バン・シュバイツァーの名前は知っていますよ。僕たちにとって英雄でしたから。って、バン?あなたもバン……」


 ケビンは額に汗を浮かべながら、バンの方を指差した。


「そこはカミーユから聞いていなかったのだな」


 バンは口角を上げ、ケビンの方を見た。


「俺はバン・シュバイツァー。かつて首刈りのバンと呼ばれた男だ」


「ええ!?」


 ケビンは目を丸くしていた。スーパーステイトの誰もがかつて憧れた、首刈りのバン。その人が目の前にいるのだ。


「だからケビン、君に忠告しておこう。ここから先、大声をあげれば俺は君を殺す。なぜならこの作戦は奇襲だからだ」


「き、奇襲ですか?一体どこを」


 ケビンはささやき声で尋ねる。バンは目の前、森の果ての先を指差した。


「決まっている。スーパーステイトの砦だ」


 ケビンは、このバンの言葉に身震いした。バンはさらに言葉を続ける。


「本日奇襲はなかった。ということは、やつらはぐっすり眠っているのだろう?」


 ケビンの足がガクガクと震え始めた。バンは話すのをやめない。


「なあケビン。この砦の裏口ぐらい、俺が王だったときに見つけてある。そこから奇襲を仕掛けることも可能だ。だが、俺は君にこう期待したい。この砦の表門を開けるよう、スーパーステイトの人間に取り計らってくれないか?」


 バンはケビンの企みを全て見抜いた上でここに立っている。逆らえば死ぬ、期待に答えられなくても死ぬ、そんな迫力をバンは纏っていた。




「わかり、ました」


 これはケビンがスーパーステイトの間者であることを白状するような発言だった。だがこうすることで彼は、バンに忠誠を誓う戦士であることを証明しようとした。


 ケビンの働きかけでスーパーステイトの砦の門が開く。

 そこになだれ込んだのはバンとケビンを中心としたレジスタンスの面々だった。砦の中は混乱に包まれ、その時点で大勢は決まっていた。わずか1時間も立たぬ内にバンが砦の主の首を狩り、レジスタンスはわずか100名で砦を奪取したのだ。




***


 翌日、カミーユが報告を聞き、事態を理解したとき、彼女は歓喜の声を上げていた。


「バン・シュバイツァーがやってくれた!」


 スーパーステイトの最東端、ボルチモアの砦陥落。




 カミーユはすぐさまレジスタンスの面々に荷支度を指示し、バンの待つ砦へ向かった。砦には、カミーユが壁に飾っていた男性の写真が掲げられていた。


「パパ……!」


 カミーユは込み上げるものを堪えていた。この3ヶ月、スーパーステイトにレジスタンスの誇りを掲げたいと考えてやってきた。それがこの僅かな時間で達されたのだ。


 砦の門をくぐるカミーユを出迎えたのはバン・シュバイツァーと、すっかりバンに陶酔したケビンだった。


「カミーユ。よく来てくれた。これで俺もまた黒子に戻れる」


 バンはカミーユに王の間へ進むよう促し、王座へ座るよう勧めた。だがカミーユは王座を前にして、立ち止まった。


「バン。私は今回のことでよく身に沁みたことがあります」


 カミーユは大きな目でバンを見つめる。


「私はあなたに敵いません。首刈りのバン。レジスタンスのリーダーになってもらえませんか」


 カミーユは言うと、バンの前に跪き、右手を心臓に当てた。


「私はあなたに忠誠を誓います。あなたは私達の希望なのです」


 カミーユに連れ立ってここまで来ていたエレナは、バンの方を心配そうに見た。悪魔にとりつかれたバンは、周囲に不幸をもたらすと考えて、これまでエレナ以外の人と深く関わらなかった。そのバンが今、200人のレジスタンスのリーダーに推薦されている。試されているのは、この男に200人の命を背負う覚悟があるのか、だ。




 長い沈黙を破り、渦中の男は口を開く。


「わかった」


 バンが言ったのは肯定の言葉だった。彼は鞘から剣を抜き、天に掲げる。


「スーパーステイトの市民に、バン・シュバイツァーが戻ったことを伝えよ!ホールデンの圧政からこの国を救う。それがバン・シュバイツァーだ!」


 レジスタンスのメンバーは、バンの力強い言葉に雄叫びを上げた。彼は200人の命を背負い、弟ホールデンと戦うことを決めた。この日、スーパーステイトの片隅から、市民の反逆が始まったのだ。


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