1.プロローグ
気が付くと、僕は見渡す限り真っ白な空間にいた。一体ここはどこだ? 明日は魔術学園卒業試験の最終試験があるから、必要な持ち物を確認したあとベッドへ入ったはずだが……。一体どうなっているんだ?
「やぁ、アレイス君。久しぶりだね」
状況が理解できず何か手掛かりがないか探していると、突然背後から若い男の声が聞こえてきた。驚きつつも僕は急いで振り返る。
振り返ると、この真っ白な空間とは少し違う温かみを感じる白地に、金色の刺繍が施されたローブを身に纏う男がいた。男はフードを目深に被っている為、顔が見えない。
男は先程「久しぶりだね」と以前僕と会ったことがあるように話しかけてきたが、僕の記憶にはこんな怪しい人物に会った記憶も、この男の声を聞いた記憶もない。一体この男は何者だ?
「おっと、そうだった。君にはボクと会った時の記憶がないんだったね。それじゃ、改めて自己紹介をしよう!」
そう言うと男は「こほん」と咳払いをした。
「ボクはね、君が住んでいる世界を創った“神”なんだ」
男は胸を反らしながら得意気な様子でそう名乗る。見知らぬ場所で初対面なはずの男が自らのことを“神”だと名乗るこの意味不明な状況……うん、これは夢だ。明日の最終試験を前に、無意識のうちに緊張し過ぎてこの変な夢を見ているに違いない。
こんな夢から早く目覚めてくれ、と願いながら僕は目を閉じた。
「えっ、ちょっと! ボクが神だと正体を明かしたのに無反応って酷くない!? ってかこの状況、夢じゃないから目を開けてー」
神(?)はそう言いながら僕の両肩を掴み、ガクガクと体を揺さぶってきた。はぁ……最終試験前日になんて変な、しかも面倒な夢をみているんだろう。
ため息をつきながら、僕はゆっくりと目を開けた。
「神を前にしてため息をつくなんて君、相当図太い神経をしているね。まぁ、そういう“前世”の性格が、今世の君に色濃く残っているってことなんだろうけど」
「『前世』?」
神の口から出てきた「前世」という言葉に、僕は何故か強く反応してしまった。
「お? 興味を持ってくれたみたいだね。よし、君の興味がなくなる前に君の前世について教えてあげよう!」
僕の反応を見て神は僕の両肩から手を離すと、今がチャンスとばかりに話してきた。
「前世の君は容姿は残念だったけど、努力家でとても頭の良い魔術の研究者だったんだ。あ、先に言っておくけど前世の容姿については、ボクが悪意をもってそうしたとかじゃなくて、前々世の君の希望だったからその希望を叶えただけだからね」
「『前々世の希望』?」
前世の僕には前々世の僕が関わっている? しかし何故、前々世の僕は残念な容姿を来世(前世)に希望したんだ? 容姿について希望するなら普通、誰もが羨むような容姿になることを希望するものじゃないのか?
「フッフッフ……自分の過去世について気になってきたでしょ~? それじゃあ、今から君の過去世のことを教えてあげよう!」
そう言うと神は再び得意気な様子で話し始めた。




