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ペンネームもちもちの、生きる理由


家に帰ってパソコンを立ち上げると、私の公開した絵にコメントがついていた。

いくつかの高評価。

うっふふ。



―――中学生のころ、親は私の、インターネット使用を禁じた。

理由はネット上の犯罪、それに娘が巻き込まれることを心配してのことだ。

教師から、あるいは親同士の会話で、何かそういうことがあったのだと、言われたらしい。


―――ネットで知り合った人間と会ってはならない。


という、親の主張。

その理屈だけなら中学生の親として当然の心配だと思うのだが、インターネットすべてを禁じるのは子供ながらに、やり過ぎだと思った。

電脳世界にまったく接点がない―――現代の日本に生まれて、そんな子供が果たしているのだろうか、授業でもパソコンの使い方を習う時代なのに。

親の主張は、しかし命令のようなもので、頑なだった。


ネットは、ただ怖いだけのものじゃない。

とか何とか言っても中学生の私のいう事を親がなかなか理解してくれるわけもない。

勉強に励むようにと。

だがネットに繋がれていなくてもペンタブでごりごり絵を描いていた私は、今ではネット上に絵を公開することは許されている。

許されてはいるが親とは仲良くしていない。

悪いことをしてはいないのなら許可しよう、というような呟きだけを聞いた気もするけれど。

わざわざ悪いことをするかボケ、あんたの娘だぞ。

どうしても信用しないならぐれるぞ、不良娘になるぞ。

というような苛々だけがつのった日々だった。


実際私は、あまり良い子ではなかった。

何しろ親と仲良く出来たこと、その記憶がしばらくないので、友達と仲良くできないことがあった。

絵の所為ではない。

絵を描いてばかりいるから人と仲良くできない、というのとは違った。

それは有り得ない。

絵を描いていることで、それでようやく繋がることができた友達は、たくさんいた。

今も―――いる。


ネット上には、無数のイラストが存在していた。

絵も、そして、それを描いている人もたくさんいた。


【marumaru】「カッコいいです!最近の推しキャラはシュウくんなんですね!」


【Ai】「可愛い!色使いが独特ですね」


【☆みな☆】「カワ(・∀・)イイ!!」


「そ、そうかなぁ。えへへへへ………。うぇふふふふ!」


にんまりと笑う私。

私は画面の前で世界一気持ち悪い笑顔になる。

決して大人数ではないけれど、私の大切な友達。

かちゃかちゃかちゃ。

ノートパソコンのキーボードをたたく私。


【もちもち】「ありがとうございます!シュウくんはカッコカワイイので、描いていて飽きません!原作もダイスキ!」


ふう―――と、打ち込み終わってからひと息つく。

シュウくんはかなり気合を入れて描いた推しキャラだから、それなりに自信はあった。

女の子を描くのがメインの私だけれど、男の子も描けるようにならなくては。

シュウくんはしかし、一般的な女の子よりも遥かに可愛いので描きやすかった。

もはやこれは男子ではないと、私の中で話題になっている。


【もちもち】「今週号、『だいスナ』もいいですよ!」


【☆みな☆】「あー!私も好きです!」


【Ai】「孫が可愛い!もちもちさんは描かれないのですか?」


うーん………どうしよっかなー。

悩みながら、キーボードをぺたぺたと叩く。


【もちもち】「いつか描きたいです!」


私は、なにも親と―――両親と喧嘩したいわけじゃあ、無いのだ。

私は自分の絵が好きな友達と、そう、一緒にいたかった。

最初は、そうだった、それだけだった。


でも親はいつだって、私を邪魔してきて―――禁止して。

そして、それは一か月や二か月で終わることではなくて。

校則だけでもうちの学校、色々とあるのにこれ以上に居場所を削って、私は嫌だった。

嫌というよりも、意味がわからなかった。

確かに、私はそんなにすごい女じゃないし、物足りないところ濁さんあるけれど。


「―――いちどくらい、私の絵をほめてくれたっていいのに」


そう思う私は―――ただの反抗期だったのだろうか。

いわゆる、よくある、それだったのだろうか。

なんの変哲もない中学生だったのだろうか。

まあ反抗してしまったのだけど。


あれから紆余曲折あって、私は描いている。

みんなのために、絵を描いている。

今のこの時間が大好きだ。

ペンネーム『もちもち』として―――みんなのためにペンを握っている、今の自分が大好きだ。

うーん、このペンネームは我ながらビミョーかな。

でも本名は出すの怖いし。


ネットにはいいヒトがたくさんいる。

そりゃあ怖い人も中にいるだろうけど―――親の言う通り、そういう面もあるのかもしれないけれど。

でもそういうの、ネットに限らず、教室でだって、好きな人ばかりじゃあないじゃん。


いいヒトとか、面白い人の方が多いよ。

絶対そうだよ。

私は。

そのヒトたちのために生きたいよ。



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