コンビニさんとコンビニおとこ
「コンビニさんは、どうやら絵柄を重んじるタイプだな」
その男子はいつからか私をコンビニさんと呼ぶようになった。
コンビニで会うから、という理由らしいが安直だにゃー。
今日もコンビニで二人並んで雑誌コーナーにいる。
まあなんだかマスコットみたいな呼ばれ方は、そんなに嫌いじゃあなかった。
「コンビニおとこは、そうじゃないの?」
私も私で、この同級生と思われる男子にニックネームをつけたのは、彼の名札にある二文字が、いまだに読めないのが理由の一つだった。
「ううん………絵柄は大事だけどな、でもそこにはなんて言うか―――ううん。コンビニさんは絵を描いたりしないの?」
「………まあ女子だし、そこそこはね………」
お茶を濁しておいた。
平静を装った。
実際、作品はそれほど大量に描いているわけではない、美術部に入っているわけでもないし。
そうだ、そう。
私は美術部には入っていないのだ。
美術部に、入っていれば―――よかったのだろうか?
私は―――あの時。
「ねえ」
「うん?」
「何か部活に入っているの?コンビニおとこは」
「………入っていたら放課後にコンビニに寄ることはないよ、こんな時間に」
そりゃそうか。
「私も、そうだよ―――でも」
でも、例えば。
「マンガが好きでさ―――ただ、マンガが好きっていうだけなら、美術部に、入るべきなのかな?」
コンビニおとこは少し、遠くを眺めたままゆらりと揺れた。
「それは、わからないな―――マンガが好きだから、かぁ、ううん………」
何故私がこんなことを彼に聞く気になったのか、それはわからない。
ただ、教室のだれにも問うたことのない、疑問が口をついて出たのだった。
そしてコンビニおとこは、考え込んでいるのか、それとも手に乗せたままの週刊少年日曜日に見入っているのかわからない状態で、呟く。
「美術。とは違うと思う―――マンガは」
美術というと堅苦しいイメージが先行する。これは自分の偏見かもしれないけれど、マンガは美術とは違うジャンルに属していると思う。飾って美術館に置くようなものではないと思うし、それでいい。美術の教科書か何かに少し載せられていた時があったけれど、俺はそれを見て、違和感を覚えたのだ、と。
「芸術だと思いたくないな―――なんて、思ってみたり」
そこまで言って一人でくすくす笑っていた。
「………そう」
私もそう思っている。
私が描いているものは―――芸術じゃない。
好きなものを描いているだけだ。
「ところでこれ、このマンガ面白いな」
「ん?どれ?」
「『大造じいさんとスナイパーライフル』」
「ああ、『だいスナ』は安定だね。毎週面白い。絶対毎週見る」
「第一話を見たときはよくわかんなかったけどな」
「えー?あの孫が可愛くて好きだなー」
コンビニでは話題は尽きなかったし、毎週話題は調達できた。
調達できたっていうか、週刊で発行されてくるんだ。