その7
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4体の見た目は猿、馬、犬、羊だが、間違いなく普通の動物ではない。
猿の周りは静電気のようなものがパチパチと弾けている、恐らく電気使いだろう。
馬は額に立派な角を持つ白馬だ、ユニコーンかな。
犬は全身が真っ黒で、足元が影と一体化している、まるで影から生えているみたいだ。こいつがさっき襲ってきた影の正体か。
でも怪我してる様子が無い、もう回復したんだろうか。
羊は毛が白いが顔が真っ黒だ、それに禍々しい立派な角が生えている。なんだか悪魔のモチーフっぽい。それは山羊だっけ。
ところで、みんな仲良しさんなの? 珍しい。というか、今まであった動物さんはみんな一匹だったからなぁ。
でもさ、ワンちゃんさっき問答無用で私の首切ってきたよね? 私は仲間に入れてくれないの?
でも仲良しにしてはみんなの目が死んでるというか、意思が感じられない。私への敵意はあるみたいだけど、なんと言うかゾンビにでも見つめられている気分だ。
そんなことを考えながら、全身をドラゴンからいつもの戦闘モードに変える。相手の能力が分からない以上、まずは様子見だ。
というわけで、まずは炎に氷剣、空気をぶつけてみる。それらは動物たちに近づくと空間に飲み込まれたように消え、空間から生えるように現れて私の方に向かってきた。
そうなるのはさっきビームが戻ってきたことから予測済みだ。私はそれぞれの操作能力で攻撃を消す。
これは跳ね返したというより、空間を歪めて方向を変えたのかな? そうなると遠距離攻撃はほぼ無効と思っていいだろう。
ならば範囲攻撃だ、まずは窒息狙いで空気を……あれ? 敵のところ空気が感知できない。空間が歪んでいるせいか?
次に鉱石操作で落とし穴を作ってみようとするが、こちらも敵の近くは地面が感知できない。
少し遠くから槍を生やしても、相手の近くで空間にのまれて消えてしまった。
どうやら相手は実際に私が見ている場所にいるわけではなく、別の場所から空間をつないでいるようだ。
むう、逆に言えば相手と空間がつながっているわけだから、こちらからそっちに行くことはできないかな。
そう思って接近すると猿が動いた。両手を地面に伸ばして電撃を放つ。それは地面につく前に空間に飲み込まれて……ん? 背後の空気が動いた?
私はとっさに屈むと、頭の上を2本の電撃が通り過ぎた。
あーなるほど、空間操作は防御以外にも使えるのか。猿はそのまま電撃を撃ち続け、打つたびに空間の出口が動いて攻撃の方向を変わる。
うわ、めんどくさい。あ、くそ、少しかすった。うーん、痛くは無いけど、ピリピリ痺れてそこだけ動きが悪くなる。直撃はまずい。
ただ、これくらいなら避けられないこともない。電撃を避けながら前に進むと、今度は犬が水に潜るように自分の影に沈んだ。
念のため足を止めて警戒する。すると、私の上下左右から影でできた刃が襲ってきた。あ、これはやばい。
さっきくらった限り、あれは私の体を簡単に切り落とす。ドラゴンさんの腕ですら一瞬だったから防御する手段がない。
私は仕方なく接近することをあきらめて回避を優先する。
私の体は完全に切断されなければすぐにくっつくので、影だけなら問題は無いのだが、合間に猿が電撃を撃ってくる。
さすがに両方を避け続けるのは難しく、少しずつ後退してしまう。
私はあちこちに飛び跳ねたり鉱石操作で壁を作ったりするが、相手はそんなことはおかまいなく、私の近くに空間をつないで攻撃を仕掛けてくる。
しかもご丁寧に動物たちに近づくと、攻撃の方向を調整して動物たちとは反対の方へ避けるように誘導してくるのだ。
ぐぬぬ、防戦一方というのはまずい、何か勝つための手を考えないと。
どちらかの攻撃を腕で防げれば楽になるんだけど、影には切られるし、電気は痺れるし。
体を石にすれば電気は防げると思うけど、すでに人体には不可能な動きで回避しているので、動かすことができない部位があると回避に問題が出る。
当たるところだけ器用に石にするというのも難しい。
それなら影の方だけど、多分これ、どんな物質でも切られそうな気がする。それこそ影だから単分子レベルまで薄いんじゃないか?
でも物質以外でガードなんて……あ、そうか。
私は時間を稼ぐため、大きく飛びながら周囲に炎を出す。これは攻撃ではなく光源用だ。次に両手に光を集中させて、すべての爪からビームを出し、発射ずに止める!
つまり、爪がビームの剣を出したのだ。名付けてビームファング。そして、影の攻撃に対して逆にこっちから切りつける。
軽い抵抗だけで影が切り落とされた。毛が焼けるような匂いがして、影が地面に落ち犬の足に変わる。よし! うまくいった。
しかし次の瞬間、犬の足が地面に沈んで消えた。
動物たちの方を見れば、犬が影から元に戻っている。私が切ったのは犬の前足のようで、切り口からは煙のようなものを出していた。
犬の足元には切れた足が落ちている。
犬が体を伏せて、前足の切り口を切れた足を近づける。そこにユニコーンが角を近づけると、犬の足がボワァと白く光った。
すると、犬の足から煙が消えて元通りにくっついてしまった。犬は動きを確かめるように前足を少し動かすと、また影に沈んでしまう。
えー、そんなのありかい。あのユニコーンは回復能力持ちか。そうなると、空間操作をしているのは羊の方だな。
うーん、相手に回復がある以上、中途半端なダメージを与えても意味がない。
対策を考えているうちに影の攻撃が再開される。しかも、反撃をされないように足元を狙ってきた。足元への攻撃を手では防ぎにくいし、動いて避けた方が早い。
攻撃が緩くなったとも言えるが、こっちから攻撃ができなくなってしまった。それに、電撃が上半身を狙うようになり、結局避ける手間は変わらない。
まったく敵ながらバランスの良いパーティーだ。攻撃役2人に防御と攻撃補助ができるのが1人、そして回復役1人。それが連携して襲ってくるのだからこっちとしてはたまらない。
どんだけ気が合えばこんなに完璧な連携ができるんだろ。
……ん? まてよ、こいつらどうやって連携しているんだ?
特にしゃべっている様子もないし、そもそも言葉が通じるとは思えない。
今まであった動物さんは、それぞれ別の世界から召喚されたみたいだし、こいつらも出会ってからせいぜい数日しかたっていないはずだ。
そんな奴らが急に仲良くなって、完璧な連携をこなすなんてありえない。つまり、こいつらに指示できるような能力を持つ司令官がいるはずだ。
そんな余裕がありそうなのは……回復役のユニコーンか? それとも別の誰かがいるのか?
どちらにせよ方針は決まった。司令官さえいなければこいつらは瓦解するはず。攻撃を一匹に絞ろう。とりあえずはユニコーン狙いだ。
さて、あとは相手に攻撃する方法だが、一つ思いついたことがある。
まずは右腕の中に空洞をつくり、そこに空気を少しずつ圧縮しながら詰める。
さらに、右手の内部から肉を減らして軽量化する。威力は落ちるかもしれないが、今回は速さの勝負だ。
それに、ビームなら当たれば十分にダメージを与えられるだろう。
あとは距離だ。露骨にやると警戒させるので、少しずつ接近する。
十分に近づいたら、まず炎や氷を飛ばして相手に空間操作を使わせる、これは念のため相手の処理能力を落とすのが目的だ。
そして、グーにした右手を相手に向けて発射!
爆発音とともに、私の右手の肘から先が切り離されて飛んでゆく。そう、ロケットパンチだ。
基本は圧縮空気の反動で飛ばして、炎やビームで速度を増加させている。私とつながっていないと操作できないので、細い肉がつながっている有線式だ。
ロケットパンチはユニコーンに向かって真っすぐ飛んでゆく。その速度は砲弾のように早く、猿や犬は妨害することができなかった。
そして、ユニコーンに当たる前に手を開いてビームファングを出す。ユニコーンもとっさに回避したので直撃はできなかったが、ビームがユニコーンの首を大きく切り裂いた。
大量の血が流れ出しその体が揺れる。よし! やっぱり空間操作をされなかった。
なぜ空間操作をされなかったのか?
そもそも私が疑問に思ったのが、なぜ私に直接空間操作を使わないのか? ということだった。
自由に空間操作ができるのなら、私の足元にでも空間の穴を開けて、私が通り抜ける途中に穴を閉じてしまえばいい。それで私を真っ二つにできるはずだ。
それをしないということは「できない」ということだ。
「できない」条件は何か?
生物か無生物か? いや、ワンちゃんは普通に空間操作を通過している。ならば「生物には同意がいる」のが条件ではないかと思ったわけだ。
しかし、接近できない以上、飛び道具を使わざるを得ない。というわけで考えた結果がロケットパンチだ。有線式なので空中で動きを操作したり、引き戻したりもできる優れものだ。
これでユニコーンはやっつけ……あれ? 見ればユニコーンの体は倒れていない。
まさかと思いその目を見ると、その光は失われつつも狂気のようなものが感じられる。そして、角が光るとユニコーンは首の傷を治してしまった。
ユニコーンはまた私を睨み付ける。切られたことはまるで意に介さず、私と戦うことだけを考えているようだ。
その視線に寒気がした。あのユニコーンの目は間違いない、自分の意思なんてとっくに無くなっている。
そうか、動物たちは指揮されているわけではなく、完全に奴隷として精神を操作されているんだ。
つい足が止まってしまった、しかし犬からの攻撃は無い。すでに動物たちの近くで元の姿に戻っていた。そして私の右手をつなぐ線に飛びかかる。
あ、やばっ。反応が遅れたせいで右手をつないでいた線を切られてしまった。操作できなくなった手が地面に落ちる。
そして上下から幕が閉じるように動物たちの姿が見えなくなっていく。まずい、逃げるつもりか。
私は空間操作を妨害するため、とっさに左手をロケットパンチにして放つ。
しかし、準備不足のため速度の遅いそれは、空間の切れ間から飛びだした犬に体とつないでいる線を切られてしまった。
犬はその手を口にくわえて持って行ってしまう。
犬が動物たちの元に戻ると、空間が閉じて私の体だけがその場に取り残された。