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その3

8/25 誤字を修正しました。

 あっ、あぶなかったー!

 いやマジで、腕2本切られたときは死を覚悟したわ。

 ん? でも私、脳も心臓もないけど、どうやったら死ぬんだろう?

 腕を切られても平気ってことは足も平気だろうし、胴体も平気だろうし。


 うーん、みじん切りみたいに細かくされると危ない気もするけど、こればっかりは検証したくないなぁ。保留にしよ。

 しっかし、肉だけだとあんなにスパスパ切られるとは思わなかった。これからはある程度、骨でも入れておいた方がいいかもしれない。


 で、問題は虎の死体である。さっさと喰えとでも言いたいのか、私の体はジリジリとそっちに近寄ろうとする。

 はぁー。はいはい、わかりましたよ。どうせ抵抗しても勝手に食べさせるんでしょ。

 私は諦めて虎の体に近づき、蛇の時と同じように抱きついて吸収を始める。

 味は……まぁ肉食だもんね、美味しいわけがないよね。

 

 吸収が完了したところで検証を始める。ふむ、せっかくだから完全に変身をしてみよう。そう考えれば私の体は一瞬で虎になる。肉が足りないので元の虎よりは少し小型だ。


 私は四足になりその辺を歩き回ってみる。そして駆け足から全力疾走まで。

 狭い洞窟内では限界があるが、かなりのスピードが出せるし、私はそれに対応して問題なく動き回ることが来た。

 ジャンプ力も高いし体も柔軟だ。爪と牙もあり攻撃力も申し分ない。動いていて楽しいし、普段からこのままでもいいかもしれない。いや、さすがにそれは目立ちすぎるか。


 さて、次はお楽しみの魔法の時間だ。いや、超能力かな? 虎になった時に額の宝石もちゃんと再現されている。

 使い方も問題ない。宝石に意識を集中してみれば、私は周囲の空気を完全に把握することができた。そして、把握した空気は自由に動かすことができる。

 なんと言うか、空気でできた新しい腕を動かしているような気分だ。

 

 ただし、特殊な動作をするには準備が必要になる。たとえば空気弾を打つには、腕を振るう前みたいにぐっと空気を「溜める」必要がある。

 集中すればカマイタチなんかもできそうだけど、戦闘中にそこまでやるのは難しそうだ。


 ちなみに人間の姿でも空気操作をすることはできた。……が、なぜか宝石と「虎耳」を出さないと発動しない。

 どうやら耳が能力を使うためのセンサーか何かになっているようで、耳無しではどれだけやっても発動できない。

 うーん、恥ずかしいけどまぁいいか、誰も見てないし、虎耳の方がよく聞こえるし。

 とりあえず普段は虎耳と宝石をだして、腕と脚も虎にしておこう。


 あっ、そういえば「私の」食べ残しがあるんだった、それも吸収しておくか。

 ……危ない危ない、また記憶が混乱していた。私は女子高生、私は女子高生。虎と平気で格闘しているあたりもう手遅れの気もするが、気にしたら負けだ。


 食べ残しをよく見てみればそれは牛だった。やけに角が立派で、皮がところどころ緑色になっているが、多分牛だ。

 虎は首をバッサリやったあと柔らかい内臓から食べたようで、お腹の部分が大きく欠損している。


 とりあえず吸収してしまおう。味は牛だしマシなはず……おぇ、血なまぐさい。やっぱり処理されてない肉ってだめだわ。

 そんなこんなで吸収は完了。再現や検証は別にいいかな、この子は角くらいしか特徴が無いし。一応記憶だけ覗いておくか。


 やっぱりこの子も気がついたら洞窟にいたようだ。そして、餌となる草もなくうろうろしていたところ、虎が音もなく近寄ってきて(今更だが空気操作で音と匂いも遮断できる)洞窟では得意の植物操作もできず首を切られ……。

 植物操作?


 気になったので完全に牛に変身してみる。

 虎になった時に気が付いたのだが、全身で変身したほうが変身元の記憶を使うので、記憶を探りやすいのだ。

 変身元の記憶に引っ張られるときがあるから両刃の剣ではあるけど。


 そして分かったが、この子もなかなか強力な能力があるようだ。自分の周囲の植物を自由自在に操ることができるのである。

 ただし、複雑な操作をしているときはそっちにかかりっきりになってしまい、自分の体の操作がおろそかになる。あんまり大きな植物を操作するもの難しい。

 

 そのため普段は蔓を絡ませたり、草を足が引っかけるトラップにしたりして、その隙に逃げていたようだ。

 いやー平和主義だわー。癒されるわー。この体さんも蛇さんも虎さんも「全部喰い殺せ!」な奴ばかりだから助かるわー。こいつら肉食だから当然だけど。


 あっ、そういえば蛇さんに全身で変身をしたことが無かったな。何か隠し玉があったかもしれないし確認しておくか。

 そう思い全身を蛇に変える。やっぱり肉が足りてないので本物よりは小さい。舌を出しながらその辺うろうろしていると、色々と思い出してきた。


 この子はもともと川辺と言うかジャングルで暮らしていたようだ。

 そして、この子の種族は水を操る能力で他の種族を圧倒し、ジャングルでは敵なしの存在。しかもこの子は、多数の部下を従える一族の長にあたる個体であったと……。

 うん、女子高生の一撃でやられた残念蛇とか思ってた。ごめんね。


 ま、それはいいとして水操作の方だ。

 記憶では相手を水中に引きずり込んだり、水で押しつぶしたりしているので、かなり強力ではあると思う。

 しかし、現状では水がほとんど無い。正確に言えば天井から若干滴っているので、それで試したところ感覚的には空気操作と同じだ。

 後はもっと水を見つけたら検証しよう……こんな能力を持っていたのに、こんなところに転移しちゃうあたり、やっぱり残念蛇かもしれない。


 さて、改めて外を目指そう。虎さんには危ない目に合わされたし、もっと注意深くならなければ。


 と、思っていた時期が私にもありました。


 はい。私はすでに超強くなっていました。というか虎さんの能力が強すぎました。



「んひゃ!?」

 虎さんを倒して洞窟を歩いていると、突然私の足がズボッと地面を貫いた。

 何事かと思っているうちに、まるで沼に沈むように私の体が地面に飲み込まれていく。

 そして、沈んでいるのに、地面は噛みついているかのように私を離さない。


 なんだこりゃ、また誰かからの攻撃か?

 周りを見渡しても何の姿も見えない。いや、それよりも脱出が先だな。私は下半身を蛇に変えて、にゅるんと地面から抜け出す。


 その場から離れれば地面は硬く、沈むようなことはない。しかし、私が息をつく暇もなく、今度は地面から槍のような物が何本も飛び出して私を貫いた。

 ぐえっ!? びっくりした。やっぱり何者かから攻撃を受けているようだ。まぁ虎さんの爪と違って切り落とされてないから、実質ノーダメージだな。

 これなら肉を動かせばすぐに抜けられるし。


 あ、そうだ。このまま死んだふりして相手を探そう。でも頭を動かすとばれるかもしれないから……よし、こんなときこそ空気操作だ。

 相手が生物なら、じっとしていても呼吸しなければならないはず。つまり空気が動くはずだ。さて、どこに隠れているんだ?


 えーと、あっ! いた! 少し先の壁から、何本か細く空気が出入りしている。たぶんあれは空気穴とのぞき穴だな、本人はあの壁の中に隠れているんだろう。

 ならばと私は空気を操作して、空気穴を塞いでしまう。すぐに別の穴が空いたが、もちろんそれも塞ぐ。

 

 何回か同じ事を繰り返して面倒になり、その辺の空気を全部無くしてしまった。また壁に穴が開いたが、もちろん空気は入らない。

 しばらくするとさすがに堪えたのか、壁が崩れて巨大な猪っぽいのが現れた。その口には熊ぐらい一突きで倒せそうな牙が生えている。

 今ので私が生きているのに気がついたのだろう、さらに地面から槍を出して私を攻撃してきた。


 うーん、ばれちゃったからもういいか。私は自分の肉を操作して槍から抜け出す。そして猪に向けて空気弾を放った。

 猪は避けられずに鼻に直撃を受けて血を流す。すると、痛みで頭に血が上ったのか私に突っ込んできた。


 しかし、その速度は虎さんに比べれば遥かに遅い。私は軽く避けると、すれ違いざまに猪の首に爪を振り下ろした。

 スパッと猪の首が切れて血が吹き出す。そして猪は地面に倒れた。


 え? 死んだ? こんな簡単に?

 しばらく警戒したが、もちろん猪は動かない。

 ほっといても仕方ないので吸収する。うげ、不味い。私を狙ったことも考えれば、さてはこいつ肉食だな。



 猪を倒して歩いていると、不意に周りの空気がまるで南極のように冷たくなった。

 周りを見れば、空気がパチパチと音を立てて結晶のようなものができている。まさか、空気が凍りだした?


 つい一歩下がろうとするが、足が地面にくっついたかのよう動かない。いや、かのようにじゃなくてくっついてるわこれ。

 どうやら地面も超低温になっているので、足の裏が凍ってくっついてしまったようだ。

 どうしようか考えていると、指先まで凍りだし硬くなっている。うげ、まずは保温しよう。私は周りの空気を遮断して冷気を防ぐ。


 この冷気の元を探っていると、岩場の陰からつららが飛んできた。まるで投げナイフのように鋭いそれは私の体に深く突き刺さる。

 飛んできた先を見れば、大型犬くらいの大きさの兎が私を睨んでいた。


 あ、目付きはともかくかわいい、毛皮がすごいモコモコだ。ってそれどころじゃない。

 兎はこの寒さがなんともないのか、岩場の陰をこそこそ移動しながらつららを放ってくる。

 うーん、私じゃなかったらこの空気を吸っただけで肺が凍りそうだな。それに凍って動けないところに氷のナイフとか、結構えげつないなこの子。


 まぁ、私にはどっちも問題ない。

 というわけでしばらく放って置いたら、さすがにとどめをさしたと思ったのか、兎が岩場の陰から姿を現した。

 待ってました。私はダッシュで兎に近づく。足の裏が張り付くのなんて、そこだけ切り離してしまえばいいだけだ。


 兎が驚いているうちに爪で振り下ろす。あっけなく兎は6枚下ろしになった。

 さて吸収しよう、って毛皮ぶ厚!? 肉ほとんど無いじゃん。くそう、騙された気分だ。



 兎を倒して歩いていると、水晶の光とは違う明かりが見えた。そこに近づけば、洞窟の中だというのにあちこちに炎が燃え盛かっている。

 最初は、だれか火を着けた人がいるのでは!? と喜んだ私だったが、どうやらこの炎、自然現象ではないようだ。地面や空中でも平気で燃え上がっている。


 嫌な予感がする。この炎はいったいなんだろう。

 すると、どこからともなく炎をまとった何かが高速で突っ込んできた。そのスピードは早く、とっさに避けきれず腕を深く切られてしまう。そいつはそのままの速度で通り過ぎていった。

 

 切られた時に見えた、あれの正体は鳥だ。頭からしっぽまで火のように真っ赤で、全身から羽のように炎を吹き出している。

 鳥が通り過ぎた跡には、炎が飛行機雲のように空中を漂っていた。どうやらこの辺の炎はあの鳥の仕業のようだ。

 

 鳥は私から離れたところで方向転換し、またこっちに突っ込んでくる。その軌道はジグザグでとらえどころがない。どうやら羽ばたき以外にも、ジェットのように炎を出して方向を変えているようだ。

 しかも、今度は飛びながら私に向かって炎を飛ばしてきた。

 

 私は腕を前に出し炎をガードする。衝撃こそ大したことはなかったが、直撃を受けたところの肉が黒い炭のようになり崩れ落ちた。

 それはほんのわずかな量だったが、どうやら私の肉ではなくなってしまったらしい。あれは本物の炭だ。

 この体の組織は切られても大丈夫だが、焼かれると死んでしまうようだ。


 なら炎は避けて爪を食らうようにしよう。どうせならカウンターを狙えないかな?

 しかし鳥の動きは素早く、規則性もないので私は炎を避けるのに精一杯だ。鳥も私が炎を避ける事から何か察したのか、近寄らず炎を連発してくる。


 くそう、鳥頭の癖に考えよって。いいもーん、ならこっちも遠慮しないから。

 空気操作の準備をしながら、追い詰められたふりをしてジリジリと下がってゆく。

 そして絶好のタイミングがきた。鳥が壁の近くで反転するときを狙って……今だ!


 私は鳥の周囲から空気を無くす、つまり真空状態にしたのだ。鳥は空気の反動が得られないので慣性で動いてしまい、そのまま壁に激突した。

 すかさず飛びかかりその首を切断する。良し! と思ったら、鳥の首からマグマのように沸騰した血が吹き出した。

 んひゃ!? びっくりした!

 どうやら血もかなりの高温だったみたいだ。まったく最後まで脅かせよって。

 

 しばらくしたら熱さも落ち着いたので吸収。あ、意外と美味しい、普通の鳥の味だ。欲を言えば塩でも欲しかった。とりあえずごちそうさまでした。

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