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その23

9/10 誤字を修正しました。

 色々と話が弾んでしまって、気が付いたら夜になっていた。簡単に夕飯を作り3人で食べる。

 ロイは口の中で吸収されるのに違和感があるようだが、慣れてもらうしかない。


 食べ終わったところで話を切りだす。

「これからのことを話したいんだけどいいかな」

 そう言うと、食器を片づけたロイがこちらを見る。アリスは興味なさそうだが、まぁいいか。


「さっきも話した通り、私はこことは別の世界から来たの。だから、家に帰る方法を探したい。そのために、まずは魔法の知識をつけたいのよ」

 魔法で帰ることが可能かどうかは分からないが、一番可能性があるのはこれだと思う。


「だから、魔法の国に行ってみたいの。できればロイも……」

 そこまで言うとロイの目が細くなる。あれ? 変なこと言った? ……あ!

「ロイも一緒に行こうね!」

 そう言えばロイも「そうそう」とうなずく。そうだよね、来てくれないわけないもんね。


「それに、リコがそっちの世界に帰るなら、僕もついて行くからね」

「んー、私の世界は戸籍とか個人を管理する制度があるから、ロイが暮らすのは難しいのよね。だから、一度は帰るけど、家族や友人に挨拶したらこっちに戻ってこようと思うの」


 どこまで事情を話すのか、こっちの世界に戻ることをどうやって説得するか。そのへんはまだ考えてないけど、それは帰れるようになってからでいいだろう。


「分かった。それならこっちの世界に戻ってくる方法も見つけないとね」

「うん、でも私の目的は急ぎじゃないし、まずはロイが体に慣れるのが先かな。それに、ロイの家族にも会っておかないとね」

「……うん、そうだね」


 ロイとしては早く家族に会いたいだろうけど、どんな顔をして会えばいいのか悩んでいるようだ。

 どのみち体に慣れるのに時間がかかるだろうし、その間にゆっくり考えてもらおう。



「ところで、夜も遅くなったのに眠くないのは、この体だから?」

 時計は無いけどそろそろ深夜だろうか。どこかでフクロウが鳴いている。


「うん、この体は眠ることが『できるわよ』

 私の言葉をアリスが遮る。え? そうなの?


「この体は寝ることのメリットが少ないし、周囲の警戒ができなくなるから寝させなかっただけよ」

 衝撃の事実である。できれば早く教えてもらいたかった。


「でもベッドは一つしかないし、どうしようか」

 え!? ロイと一緒のベッドで寝るなんてそんなまだ早……

「えい」

 私が盛り上がっている間に、アリスがロイの額に触れる。すると、ロイはガクッと机に突っ伏してしまった。


「え? 何をしたのアリス?」

「何って、寝かせたのよ。普通に眠気を発生させてもよかったけど、鼠の能力を使えば一瞬で眠れるでしょう」

 いや、そりゃ早いだろうけど、こんなところで寝かさなくても。


「別に体が痛くなったりはしないわ。警戒は私がしているし、朝になったら起こしてあげるから、おやすみ」

 え、いや、どうせならロイとベッドに……ガクッ。

 残念ながら、私は久しぶりの睡眠に抵抗することはできなかった。



『バチッ』 

 はっ!? なんだが電気ショックのようなものを受けて目が覚めた。私の体勢は、昨日机に突っ伏した時から変わっていない。


「おはよう、朝よ」

 アリスが起こしたのだろう、窓を見れば陽が差している。どうやら本当に眠っていたようだ。


 でも作業的に眠っていたというか、スイッチをオンオフされた気分だ。目が覚めたときの、あのうとうと感が懐かしい。

 同じようにアリスに起こされたロイも、微妙な顔をしている。


「アリス、次からはベッドで寝かせて頂戴。あと、起こす時はもう少し優しく起こして欲しいな」

 アリスは「寝かせてやったのに不満なのか?」といった顔でこっちを見る。


「それは、命を維持するために重要?」

「精神的に超重要」

 ロイも「うんうん」とうなずいている。ベッドも早く人数分作ろう。



 今日からの生活サイクルは、ロイのリハビリも兼ねて以前のものを続けることになった。

 変わったことと言えば、暇を見てはアリスがロイに能力の使い方を教えていることくらいか。


 ロイは今まで体力が落ちていたこともあり、どうしても動くときに力んでしまう。

 で、今の体でそれをやると、当然ひどいことになる。


 上り坂で足が地面に沈む。ドアを開けるとき手をかけたところが砕ける。料理をするときまな板ごと切り落とす。弓はもちろん弦が切れる。


 やらかすたびにロイは耳がへにょーんと垂れてかわいい。それに、今までは私がやらかす側だったから、なんだか新鮮だ。


 ここぞとばかりにお姉さんっぷりを発揮しようとフォローする私だが、結局事態が悪化してアリスが後処理するのが常である。


 しかし、一週間もすればロイも体に慣れたようで、やらかすことは少なくなった。

 そして、今度は体の使い方の練習と称して、アリスと組み手までしている。なぜかアリスがロイに提案したそうだ。


 ロイも最初はアリスと組み手することに抵抗があったようだが、アリスのえげつない攻撃の前にそうも言っていられなくなったみたいだ。


 なんせアリスは初手からドラゴンビームをぶっぱなし、地面から槍を生やし、炎と水と氷と電気と空気を飛ばして、木々から枝を伸ばして動きを阻害する。

 そうなるとロイも全力でいかざるを得ない。


 ロイも能力を使えばそれらの攻撃を無効化できるのだが、どうもロイは記憶の再現ができないようだ。


 記憶が無くても頑張れば能力を使えるけど、ロイは肉体の再現以外はキッパリとあきらめたらしい。

 そのため、身体能力頼りでアリスに挑んでいる。

 

 私だったら能力縛りで戦うなんてムリゲーだと思う。しかし、以外にもロイは善戦している。

 と言っても、回避が精いっぱいの様だけど。


 どうやら獣人は人間よりも身体能力が高いので、私とは下地が違うのだろう。

 私の戦闘は基本的に動物の記憶頼りなので、経験値もあまり溜まってないと思う。


 それに比べ、ロイは自力で戦っているので、戦えば戦うほど体の使い方が上手くなっていく。

 それに、動物の肉体の再現が私より器用なのだ。


 やっぱりネコ科なせいか、虎さんの変身が性に合っているようだけど、ロイは自分の動きに合わせて体をカスタマイズしている。

 私の変身はほぼ動物まんまなのに。


 それから数日たった今では、ロイは半人半獣のような姿になってアリスと戦っている。

 うーん。普段は可愛い系のロイが、あの姿になるとワイルドで萌える。


 あの姿のロイは、私では目に追えないくらい素早くなる。

 実体のある攻撃なら爪で薙ぎ払うし、大木だって一刀両断だ。というか強くなりすぎじゃないですか?


 なんでそんなに強くなりたいのか聞いてみたら、真顔で「リコを守りたいから」と言ってくる。やーん、もー。それを聞いたときはつい「ロイ大好きー」と抱きついてしまった。


 とはいえ、手数の差で今回もアリスの勝ちの様だ。

 私は少し離れてその様子を見ていたが、そこにアリスが空間操作でやって来る。


「おつかれ」

 私が水を渡すと、アリスは「ん」とだけ言って受け取る。

 ロイとの戦いでこの子もいろいろと成長しているようで、特に空間操作はかなり上手になっている。

 

 私は空間に穴を開けてそこを通るのだが、アリスは自分が転移するとき、ごく小さな穴しか開けない。


 そして、自分の通過に合わせて穴の大きさを変えるのだ。まるで穴を自分の体に沿わせるように。

 そのため、余計なものを通してしまうことは無いし、妨害もされにくい。


 さらに、穴を開けるスピードも速く、一瞬で相手の近くに大量の穴を開けて、全方位からビームを浴びせるなんてこともできる。

 あれ、でもこれどっかで見たような。多分、私の記憶から漫画かゲームの技を再現したな。


「なにか用?」

 おっと、そんなことを考えていたせいで、アリスを見つめてしまっていたようだ。


「いや、二人とも頑張ってるなぁ、と思って」

 私も何か必殺技でも考えた方がいいだろうか。ビームファングは地味だし、ロケットパンチは女の子の技じゃない気がする。


「なら理子も訓練したら? ま、ロイはあなたを守れる方が嬉しいだろうけどね」

 さすがに私も守ってもらうばかりでは性に合わない。やっぱり必殺技だ。

 うーん、何の能力がいいだろうか、ビームはアリスと被るから何か他の……


「ちょっと聞いていいかしら」

「ん? なに?」 

 おや、アリスから話を振るなんて珍しい。


「あなたは、なんで私を恨んでないの?」

「え? 何の話?」


「前に言ったけど、私は洞窟にいたあなたを捕食した。つまり、あなたを殺したのは私。それについて、あなたは何も思っていないようだったから」

 ああ、そういうことか。


「うーん。私としては目が覚めたらあの洞窟にいただけだから、アリスに殺されたって実感が無いのよね。起きた後に食べられていたら、違ってたかもしれないけど」


「あなたは捕食された『水野理子』と、同一の存在ではないことは分かっているわよね?」

「そりゃもちろん。私は記憶を引き継いだだけの別物よね」


「普通は、そう割り切れないものだと思うけど?」

「でも、ロイだって平気だったでしょ。『生き返らせた』とは言ったけど、その辺は理解していると思うわよ」


「ロイは例外。彼にはそれでも生きていたい理由があるからね」

 それって私よね。やーまいったなー。


「例えばだけど、ロイを生き返らせようとしたとき、私が『ロイの記憶のないクローンを作ろう』と言ったらどうしてた?」

「そりゃ反対していたわよ」


「生物としては完全にロイと同じなのに?」

「だって、記憶が無ければ別人でしょう」


「そう。その人を『その人』たらしめるのは記憶。それは分かるわよね」

 当たり前だ、アリスは何が言いたいのだろう?


「ロイに体の使い方を教えている時に気が付いたんだけどね、ロイは記憶を再現することに強い拒否感があったわ。『自分が自分で無くなるみたいだ』ってね」


「あれ、そうなの? 私そんな風に感じたこと無い……かな。『記憶が混ざってるなー』って思ったことはあるけど」


「あなたとロイ、どっちが普通なのか考えたんだけど、多分ロイが普通なんでしょうね。さっきの話に戻るけど、その人を『その人』足らしめるのは記憶。他人の記憶が混ざったら、それは『その人』と言えるのかしら?」


 えー? あー? うーん? 言いたいことは何となく分かるけど。


「その辺は、アリスが上手くやってたんじゃないの?」

「昔の私は、あなたの精神衛生なんて気にしてなかったわよ」


 言われてみれば確かに。最初なんて、私の気持ちなんか気にせず蛇さんに喰らいついたからなぁ。あれはトラウマになってもおかしくないと思う。

 色んなものを食べた今となっては気にしてないけど。


「私が言いたいことはね、『あなたも呼ばれたんじゃないか』ってこと」

「へ? 呼ばれたって誰に?」


「この世界に呼んだ奴によ。あの洞窟にいた動物は、皆なんらかの能力を持っていた。例外は理子、あなただけ。そう思っていたんだけど、ひょっとしたらあなたは例外じゃないのかもしれない」


「他人の記憶が混ざっても平気なのが私の能力だってこと?」


「それに、記憶があれば死んだことを気にしないこともね。その能力……『性質』と言った方がいいのかしら。ともかく、あなたも理由があって呼ばれたって考える方が、偶然この世界へ呼ばれたって考えるよりは可能性があると思うの」


「なんだか話が飛躍してる気がするんだけど」

 そんな能力? 性質? を持っているから異世界に呼ばれました。なんて言われてもなぁ。


「私の立場で考えると、洞窟で出会った初めての獲物が『知的生物』で、『死んでも記憶があれば気にしない』で、『他人の記憶が混ざっても平気』。だから私の能力と相性抜群でした。ということになるんだけど、これが偶然だと思う?」

 うーん。確かに都合が良すぎる気がする。


「それに、そう考えると色々とつじつまが合うのよ。なぜか私の近くにいた理子。戦いやすいように微妙にばらけて召喚された動物。本当は最後に会うべきだった地下深くのドラゴン。しかも、ドラゴンは時間とともに弱体化されるおまけつき。さも『吸収して力をつけなさい』って感じでしょう?」


「むう、言われてみれば確かに。私だって最初にドラゴンさんに合っていたら、間違いなくビームで蒸発していたわね」


「それに、仮に理子ではなくロイが呼ばれていたら、能力が使えないから洞窟を脱出できなかったでしょうね」

 私だって能力が使えなければ戦闘で苦労するし、結界が破れないので洞窟から出られなかっただろう。


「つまり、今の私の状態は、この世界に呼んだ奴の想定通りだってこと?」

「多分、あなたが洞窟を出るところまではね」

 ふむ、さすがに洞窟を出た直後の魔女さんや、ロイのことまで想定していたとは考えづらい。


「でも、いったい何のため?」

「それは分からないわ。ただ、相手の意図が分からない以上、注意は必要ってことよ」


 そう言ってアリスはロイのところに行き、また組み手を始めた。

 なんでアリスがロイに組み手を提案したのか疑問だったが、どうやらアリスなりに今後のことを考えていたようだ。


 しかし、私が誰かの陰謀の中にいる? そんなことは考えたことも無かった。

 しかも、相手は異世界から人間や動物を召喚する技術をもっている。


 いったいどんな奴なんだろう。そして、何を企んでいるんだ?

 私はどうしたらいい?

 分からない。相手の意図も正体も分からないのだから、対策のしようがない。


 ……うん、保留! 

 もちろん注意はするけど、考える材料の少ない今、悩でいてもしょうがない。

 アリスもいろいろと考えているみたいだし、ロイも私を助けてくれる。


 だったらきっとどうにかなる。そう信じてがんばりましょう!


 さっ、ロイの応援に行こっと。

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