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その22

 普通の女子高生、水野理子は目が覚めると見知らぬ洞窟にいた。


 自分のものではない体、食べたものを吸収・再現できる能力。異常な事態に混乱する彼女だが、そこに様々な能力を持つ動物達が襲いかかる。


 それでも理子は、動物達を吸収することで力をつけ、洞窟から脱出することに成功した。

 しかし、洞窟を出た彼女に待ち構えていたのは、巨大な力を持つ魔女による攻撃だった。


 辛くも魔女から逃げ延びた彼女だったが、魔女の攻撃により体の大部分を失ってしまう。

 自分が化け物であると自覚し、人目を避けて川を遡行した彼女は、その先の湖で「ロイ」という名の少年に出会う。


 ロイは悪魔の呪いを受けたことにより、人目を避けてこの地で暮らしている猫の獣人だった。しかも、彼の体は呪いの影響で衰弱しており、先は長くない。


 ロイを放っておけない理子は、彼と一緒に住むことを決める。

 初めは理子の姿や能力に驚いたロイも、彼女と触れ合い人の温もりを思い出したことで、彼女を受け入れるのであった。


 言葉が通じない二人であったが、共同生活を続けることによりお互いの心は通じ合い、楽しい生活を送っていた。


 しかし、理子は自身の『体本来の精神』に乗っ取られ、ロイを襲ってしまう。責任を感じ彼から離れようとする理子だったが、ロイは優しく彼女を許すのだった。


 だが、それは彼の最後の贈り物だった。彼の体はすでに限界を迎えており、理子の腕の中で息を引き取る。


 ロイを失った悲しみにより、再度暴走をしようとする体を押さえつけるため、彼女は『体本来の精神』と対峙する。


 ところが、『体本来の精神』も悪魔の呪いにより暴走していただけだった。


 悪魔の呪いを除去し『体本来の精神』を解放した理子は、協力して新たな肉体を作成。ロイを生き返えらせることに成功する。



「と、いう訳なのよ」

「うん、ごめん、よく分からない」

 ですよねー。

 自分で言っといてなんだけど、これで理解できたらエスパーだと思う。


 そもそもロイには「女子高生」って単語も説明して無いし、それを説明するには「異世界」とか話さないといけないし。

 あれ? そもそもロイに「世界」って認識あったけ?


 ざっくりとその辺の説明もしたが、やっぱりよく分からないようだ。まぁ、今後疑問に思った時に聞いてもらおう。


「今言ってた『体本来の精神』ていうのは、その子のことでいいの?」

 そう言ってロイは私の横に座る少女を見る。見た目は10歳くらいで、今は興味なさそうに明後日の方を見ながら、足をプラプラさせていた。


「そうそう、『アリス』って名前を付けたから、ロイもそう読んでね」

 ロイに紹介しながらアリスの頭をなでる。


「アリスちゃん、僕の呪いで迷惑かけたみたいだね。ごめん」

「別に気にしてないわ。それに『ちゃん』はいらない、アリスでいい」

 ロイの言葉にアリスはそれだけ言うと、またそっぽを向いた。ロイが苦笑いしている。


「まぁ、今回の件は私とアリスのミスが大きいから、ロイは気にしなくていいわよ」

 アリスの反応があんまりなのでフォローしておく。アリスも本当に怒っているわけではないし、そのうち打ち解けるだろう。


「アリス、とりあえずロイの頬を直してちょうだい」

 アリスにロイのちぎれた頬を渡す。アリスはそれを受け取るとロイの膝に押し付ける。


「なんでそんなところに?」と思っていそうなロイの膝にその肉が吸収され、ロイの頬が元に戻った。

 膝に押し付けたのは、単にアリスの手の届く位置だったからだろう。


 ロイが驚いているうちに説明を始める。


「まず、大事なことを言っておきたいの」

 そう言ってロイの顔を正面から見る。


「今、アリスがロイの頬を直したでしょ。あんなのは序の口でね、この体は切り刻まれてもすぐにくっつくし、血も出ない。力も強くて普通の人なら殴るだけで殺せる。そして、よく見せたけど、吸収したものを再現する能力で、体を色んな動物に変えることができるわ。それに、動物達から吸収した能力もあって、風や炎に水……自然のものならたいてい操作できるし、本気になれば光を操作して山も吹き飛ばせると思う」

 いったん言葉を区切る。ここからが本番だ。


「でもね、そんなことより重要なのは、この体は老化しないし簡単には死ねないのよ。死ぬ心当たりはあるけど、普通に生活していれば、永遠に生きられるでしょうね」

 ロイは表情も変えないまま私の話を聞いている。


「……私の勝手でロイをそんな体にしたのは悪いと思ってる。それでもロイに会いたかった。ロイに会える方法を思いついたからそれを実行した。だから、もし……」

「ちょ、ちょっと待ってよリコ」

 そこでロイが話を遮った。


「えーと、なんで謝ってるの?」

「え? それは、私の勝手でロイをそんな体にしたことを……」

 そう言うと、不意にロイがベッドから体を起こして私に近づく。

「えい」

 そして、私の頬をつまむと横に引っ張った。


「ふえ? ふぉい(ロイ)?」

 ぐえ、やっぱり怒ってる?

「前から言いたかったんだけどね、リコは暴走し過ぎ」

 そう言ってロイは私の頬を離し、ベッドに腰掛ける。


「僕を食べようとした時だって、勝手に思いつめて出て行こうとしたでしょ? 僕がそんなことで怒ると思った? 事情も考えないで追い出すと思った? しばらく一緒にいたんだから、そんなことをしないくらい分かるでしょ?」

 

 いや、でも、殺そうとした相手をそんな簡単に許してくれるものかと言うと……


「まぁ、あの時は言葉が分からなかったからしょうがないと思うけど、今は違うでしょ。だったら、リコが謝るのは僕がどう思ったか聞いてからでもいいんじゃない? それとも、僕が問答無用で怒ると思った?」


 えー、あー、うーん。


「……おっしゃる通りです」

 私は負けを認めて頭を下げる。ロイは「よくできました」と頷く。


「この体はリコと同じになっただけでしょ。なら何も問題ないよ。僕も、もっとリコと一緒に居たかった。生き返らせてくれてありがとう」

 ……あーもー、まったくこの子は。感極まってガバっとロイに抱きつく。


「ロイ! 良かった、本当に良かった! ロイにまた会えた!」

 私は、笑いながらも涙が止まらなかった。ロイも私を抱きしめながら、私の頭を「よしよし」撫でてくれる。その顔は微笑みながらも、目には涙が滲んでいた。


 しばらくして涙も落ち着いた。ロイと向き合い、その目を見つめる。

「ロイ、大好き。あなたのおかげで私は人でいられた」

「リコ、僕も君が好きだ。君のおかげで僕の心は死ななかった」


 私はそっと目を閉じた。すると、ロイは私の唇にキスをしてくれる。

「んっ……ふっ」

 ロイの唇の柔らかさが、そこから伝わる温もりが心地良い。それに幸せだ。

 キスってこんなに幸せになれるものなんだ。


「ロイ……」

「リコ……」

 唇を離してまた見つめ合う。体が芯から熱くなっている。もっとロイに触れたい、両手の指をロイと絡める。もっと私に触れてほしい、もっと……


「興味深いわね」

「んひゃい!」

 アリスの言葉にびっくりしてロイから離れる。


 うわー、完全に二人の世界に入っていたみたい。こんなの初めてだわ。人目を気にしないカップルの気持ちが分かった気がする。

 ロイの顔は照れているのか赤くなっていた。多分、私も同じだろう。


「あはは。えーと、ごめんね。話の続きをしようか」

 私はごまかすように手でパタパタと顔をあおぎながら、話を変えようとする。

 ところが、なぜかアリスがロイに近づいてその肩を引き寄せた。


「えい」

 は?

 私の目の前で、アリスが、ロイに、キスをした。


「んっ……ふっ」

 アリスのそれは単純に好意を示すようなものではなく、まるで死に別れたと思っていた恋人と再会した時の様な……って、それどころじゃない!


「なにしてんよ! アリス!」

 私はアリスの体を掴んでロイから引っぺがす。ロイは状況に混乱しているのか固まっていた。


「ロイも! ぼーとしてないで、早く振りほどきなさい!」

「え? あ! ごっごめん!」

 やっと我に返ったようだ。さっきとは別の意味で恥ずかしいのか耳が垂れている。


「やっぱり、私だとあなた達みたいに気分が高揚しないわね」

 キスした後の第一声がそれかい、反省してないなこいつ。


「アリス! それよりもロイに謝りなさい! あと、こういうことは好きな人にしかやっちゃダメです!」

「私だってロイへの好意はあるわよ」

「え!?」

 まさか、恋のライバル誕生か!?


「あなたの思考の再現だけど」

「そういうのは含みません! 自分の経験で見つけなさい!」

 まったく、油断も隙もありゃしない。



 ひとしきりアリスに説教したので、改めてロイの体の説明をする。


「こほん。さっき話したこの体の能力なんだけど、ロイは使い方が分からないと思うのよね。力の強さとかは慣れてもらえばいいんだけど、切ったり張ったりとか変身はコツがいるから、そこは練習してほしいの。アリスが手伝えば能力が使えるはずだから、まずはそれでコツをつかんでちょうだい」


 先ほどやらかしたアリスは私の膝の上で拘束中である。

 そのアリスに目配せすると、彼女は手を伸ばしてロイの足に触れた。すると、ロイの左手が虎のものに変わる。


「うわ!」

 ロイが驚いている間にも、その手は様々な動物のものに変わる。


「私はあなた達の肉体も自由に操作できる。勝手に変えられたくなかったら、さっさとコツをつかみなさい」

 そう言ってアリスは、ロイの左手を虎のまま固定してしまった。まずはこれを戻せるように頑張れということだろう。


 左手なのは、今まで使えてなかったから一時的に使えなくても大丈夫だろう、という気遣いかな。それとも合理的な判断だろうか。


 ロイは左手を見ながらうんうん唸っているが、不意に私に質問をしてきた。

「そういえば、リコはなんで僕たちの言葉が話せるようになったの?」

 あ、説明してなかったかな。


「この体は吸収したものを再現できるって言ったけど、それには記憶も含まれているのよ。ロイの記憶から言葉を理解させてもらったわ」

「へー、記憶も……え?」

 あ、ロイが固まった。耳もピーンと立ってる。


「あのさ、リコ、ひょっとして、僕が死んだあたりの記憶も見た?」

「ええ、死んだところから遡って見ていく感じかしら」

 あ、ロイの耳が寝ちゃって、顔が真っ赤になってる。

 ははーん、さてはあれのことか。


「あの、その、あの時は死ぬはずだったから、けっこう過激なこと考えちゃったというか」

「そーねー、『リコの一部になれるならそれもいい』とか考えてたよねー」

「わー! わー! ちょっとやめてよ!」


 慌ててロイが私の口をふさごうとする。はっはっは、いやー愛が重くて辛いわー。

 そんなことを考えながらロイをおちょくっていると、アリスが爆弾を落とす。


「ロイの体は今まで理子が得たデータも全部コピーされているわ。つまり、ロイが頑張れば理子の記憶を見ることも可能よ」

 え!? アリスさん何を言ってるんですか!

 その言葉にロイの目の色が変わる。


「よし! なら頑張って能力を使えるようにならないとね!」

「ちょっとロイ! そんな理由で頑張らないでよ!」

「リコは僕の記憶を見たんだろう。だったら、僕がリコの記憶を見ても良いじゃないか!」

「そうなんだけど、恥ずかしいものは恥ずかしいのよ!」


「別に、お互い考えていたことは同じようなものなのだから、恥ずかしくもないでしょう」

「アリス! 頼むから黙ってなさい!」

「はいはい、夫婦げんかの邪魔ならあなたの体に戻るけど?」


「夫婦だなんてそんな……、ロイはまだ子供なんだし」

「子供って、リコも同じだろう」

「私はこれでも17歳よ、ロイより2つは上なんだから!」

「そうなの!? 年上だったんだ!?」


 その後も「それを言うならロイだって見た目は……」「だったらリコだって……」と延々と話が続き、3人の初めての1日は騒がしく過ぎて行った。

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