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第8話 目的の古城にて

 転移魔法陣で以前の場所に戻ってくるなり俺は死んだ目をしてしまった。


「うわー……」


 来た瞬間敵に囲まれていた。というか敵もいきなり現れた俺達にキョトンとしていた。気持ちは分かる。


「アクアウェーブ」


 おっさんが瞬時に水魔法を発動。少量の波が半円状に広範囲に広がって行く。


「エレキショック」


 地面に手を付いて雷魔法を発動。水を伝って一気に広範囲に広がる。流石はおっさん。一瞬で一気に殲滅した。


「エアーカッター!」


 ルナも即座に動いておっさんとは反対側の敵に向かって横方向に伸びた風魔法のカマイタチを飛ばす。

 この2人だけで相当な数の吸血鬼が減った。俺達いらないんじゃないか?


「ご主人様、やはり本物です!」

「あぁ、そうだな」


 ルナが興奮気味に俺の肩を叩いて嬉しそうにする。そんなにこのおっさんがいいのだろうか?


「どうしてここまでの実力者ですのに性格は腐り切ってしまっているのでしょうか?」

「お、おう、なかなか辛辣だな」


 びっくりした。ルナもそういうこと言うとは。


「おいおい酷くねーか?」

「正当な評価なのは間違い無いんだが。ルナがそういうことを言うなんて珍しいな」

「本当にひでーな!?」


 ルナは基本的に悪口を言うことはない。ないばす……いや、なくはないのか。俺のことを馬鹿にした連中に凄いお仕置きしてた記憶もある。


「ご主人様がそういう評価ですから」

「あ、俺のせいなのか」


 まさか俺の評価でそんなことになるとは。


「それに安易に身体の関係を築こうとされるのは駄目です。最低です」

「反論の余地もねぇな……」


 確かに仕方ない評価だ。こいつらにもおっさんはロクでなしなのが分かっているのだろう。まぁ俺が出会ってすぐに理解したくらい目に見えてこのおっさんは駄目駄目だからな。


「刀夜さん、呑気にしてる場合じゃないわよ?」

「そうだな……」


 ほとんど減ったがまだ残っている。そこまで脅威でもないんだが。


「まぁやるか」


 適当にやっても勝てそうだ。ひとまず俺達は監視されているとして、最低限手の内は見せたくない。


「おっさん、どういう方法かは不明だが俺達は監視されていると見ていい。あんまり手の内は見せないでくれ」

「はいはい。で、監視ってのは敵か?」

「それすら分からない状況だ。獣人族のマオが微かに匂いを感じ取った程度だ」


 用心し過ぎているのかもしれないがしないよりはマシだ。もちろんやめ時を見失うとあっさり殺されそうだが。


「なるほど。お前考え過ぎじゃね〜?」

「うるせぇ。もし本気で監視されてりゃヤバいのは俺達なんだぞ」

「はいはい、分かってますよ〜」


 うぜぇ。いや、こいつがこういう奴なのは分かっているが。


「んじゃ簡単な魔法でやりますか」


 ひとまず俺達は手の内を見せないようにそれでいて簡単に敵を殺し切る。


「あ、そういやこれ。サイズ多分合わないだろうけどな」

「何だこれ?」

「ライジンが無制限に使える装備だが?」

「…………頭大丈夫かお前?」


 凄く失礼なことを言われた。俺本気でぶん殴りたくなったぞ。


「ライジンが無制限とかあり得るわけないだろ?」

「あり得るんですよ。刀夜くんは外気の魔力を使用して魔法を使う構造を開発したんです」

「…………マジで?」

「はい、マジです」


 ムイが丁寧に解説してくれる。このおっさんが相手だとどうも俺は悪態をついてしまうようだ。まぁ主に第一印象が悪いのでこいつのせいだが。


「まぁロクでなしだが信用はしてる。死なれると俺も困るしな」

「うちの馬鹿弟子は素直じゃねーな!」


 何故か頭をぐりぐりと撫でられる。しかしふと何かを考え付いたのかそれとも思い出したのか真剣な表情で俺を見つめてくる。


「何で現地でそれ渡すんだ?」

「いや……単に渡し忘れてただけだろうが……」


 本当は出発前に渡すつもりだったんだがおっさんがルナ達を性的な目で見ていたせいですっかり頭から抜け落ちてしまった。


「命が掛かってる戦場でか?」

「お前の性格のせいだろうが」

「お? もしかして大事な仲間に手を出されそうで動揺したとか? お? おぉ?」


 うぜぇ!

 ニヤついて顔を近付けてくるおっさんの顔をアイアンクローしながら視線を逸らす。図星だったりするわけだがこいつが悪いが事実だ。


「痛っ、いてーし!」

「黙ってろこのクソジジイ。このまま二度と外に出れないくらいまで顔面をめちゃくちゃにしてやろうか」


 というか戦場でこんなことをしている場合じゃなかった。いつ誰がどういうことをしてくるのか分からないというのに。


「落ち着け俺。こんなクソジジイに人生浪費するなんて無駄なことをしてる場合じゃないな」

「アイアンクローよりそっちの台詞の方がきついぜ……」


 ひとまずおっさんを離すと周囲を見回す。方向的にどっちが正解か分からなくなっちまったな。


「ガウ! ガウガウ!」

「次はリルフェンも戦いに参加したいそうよ?」

「ん? あぁ、そうだな。せっかく覚えたんだ、使いたいよな」


 元々そのつもりだ。リルフェンが覚えたのは中級属性魔法までらしいが充分活躍出来る実力者だ。

 特にリルフェンは魔力の流れが速い。魔物だからなのか魔法の発動速度が慣れればおっさんよりも早くなるというものである。

 もちろんそこに至るまでにとんでもない年月は必要になるだろうが。それだけおっさんの技術は凄まじい。


「期待してるぞ」

「ガウ!」


 良い返事を返すリルフェンの頭を優しく撫でた後にルナに視線を向ける。


「どっち行けばいいんだ?」

「えっと……街はどっちの方向でしょうか?」

「そうね……方向的にはこちらかしらね」

「うむ。沢山の吸血鬼の声が聞こえるからな」


 そんなんで分かるの嫌だなぁ……。吸血鬼がいるって分かってるってのに突っ込まないといけないわけか。

 しかし確かにどちらが正解のルートかと言われれば吸血鬼がいる方だろう。争いは避けられないな。


「それじゃあ進むか」


 方向が分かれば後は歩くだけだ。今日1日で到着するかは知らないがまずはブルートの前までは急がないと。

 出てくる吸血鬼を討伐、シャドウフレイムに似た魔物の場合は全力で討伐として草原を駆け抜ける。

 そしてついに目的の地、ブルートが目前に見えてきた。


「あれが古城か」


 思いの外大きい。中に入ってもすぐに吸血鬼に会えるとは限らないな。

 しかしこうも面倒な奴が門番をしているとは。やはり統率力に優れているらしいな。

 古城の門の前には2匹の二足歩行のトカゲがいる。俗に言うリザードマンという奴だ。

 鎧を付け、手には盾と剣。体長はおっさんと同じ程度だから2mくらいか?


「グオォォ!」


 こちらに気付いた、というよりはもう正面突破しかないのだ。

 ご丁寧に見張り台まであるしな。そこにも弓矢を持ったリザードマンが立っている。塀を抜けるのは無理か。


「行くぞ」


 前線組である俺、アリシア、コウハは一気に駆け出した。敵は2体。見張りの方はマオが殺害してくれるだろう。


「俺は1人でいい。そっち頼む」


 今回の敵は武器を持っている。ならまずはそれを奪うだけだ。もし仮に相手が武器の扱いに長けた魔物であればそれだけで戦力半減ということである。


「ガウガウガウ!」


 リルフェンが先にホーミングフレイムを使用する。様子見をさせてくれるのは良いな。流石俺の仲間だ。

 リザードマンは大振りに盾を振ってホーミングフレイムをかき消した。しかしその一瞬視界はそちらへと向いたことだろう。

 俺はライジンを使用して一気に距離を詰めると同時にリザードマンの視界の反対から背後を取る。

 刀を少し引くと思い切り雷魔法を使用しながら思い切り突いた。それはリザードマンの首に突き刺さり、一瞬にして絶命させる。


「あれ?」


 なんかあっさりしすぎてて怖い。何かあるんじゃないだろうか?


「紫電の矢!」


 マオも特技で紫の雷を纏った矢を放つとリザードマンの首元に突き刺さり、見張り台から突き落として絶命させていた。


「やぁ!」


 反対側、アリシアとコウハも。アリシアの槍がリザードマンの剣を弾き、その隙にコウハが大剣でリザードマンを斬り裂いていた。

 普通は逆じゃね? 重い大剣の方が敵の攻撃を弾きやすいような気がするが。というか今のは多分アリシアも防いだというよりも様子見で槍で弾いたって感じだったな。

 見張りが弱過ぎないか? この程度ならまだ吸血鬼……も微妙か。もっと強い魔物を寄越すべきでは?


「えっと、終わっちゃったね」

「そ、そうだな。刀夜殿の方も終わっているようだ。意外と弱かったな」


 全員そんな感想らしい。こんなにもあっさりと終わっていいものなのか? いや、俺は別にいいんだが。

 3人で後衛の元へと戻るとルナが落ち込んだ様子だった。


「私何もしてません……」

「同じくだよ」


 ムイには後衛の護衛を任せていた。結局仕事もなしということらしい。


「…………」


 どういうことだ? 吸血鬼は数で攻めてきた。その辺りを理解した上での戦術であれば数が少ない門前は強い奴を置いておくべきではないのか?

 いや、これ自体が罠と仮定するべきか? 中に入ったところを一瞬で、というのも考えられるわけだ。


「と、刀夜さん」

「ん?」


 いきなり、本当にいきなりマオが顔を真っ青にした。どうしたんだ?


「ほ、本当にいきなりなのだけれどあの気配が。あ、あっちから」


 マオが震える手で古城の最上階を指差した。いきなり例の気配が現れたらしい。

 俺が上を見上げた瞬間だった。ピキッと古城の壁にヒビが入る。


「っ! ルナ!」

「はい!」


 ルナも気付いたのだろう。即座に青色の魔法陣を展開して氷の壁を作る。同時に古城の上半分程が破裂した。

 大量の瓦礫が飛んできて氷の壁に傷を付ける。それでも破壊するまでには至らなかった。


「せっかく待ってたのに遅かったね」

「っ!」


 そんな……この声は。

 聞き間違えるはずがない。何よりも印象的な声である。俺の日本での人生を大きく変えたそいつのことを。

 氷の壁が砕けると古城の残骸の上に立つその人物が視界に入る。


「久しぶりだね。萩くん」

浅野あさの……」


 やはりその人物は俺が知っている人物だった。

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