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第6話 いつの間にか忘れていたもの

 街の外へと出ると早速始めるわけだが……。


「ふらふらで大丈夫かよ?」

「多少酒が入ってた方が実力が出るもんだ!」

「あ、そう」


 酔っ払いの相手は避けたいものだ。しかそそれでも技術面や知識面では目を見張るものがあるのも確か。


「僕からやるよ。刀夜くんは見てて」

「いいのか?」


 先攻後攻どちらが有利かなどいうまでもない。魔法というのはタネが割れればそれだけ不利になるものだ。

 ムイがそのことに気付いていないはずがない。それを分かってて先攻を申し出るということは……。


「僕がやるより刀夜くんの方が可能性は高いからね。相性良いでしょ?」


 魔法核の破壊。これはかなりのアドバンテージなのはまず間違いない。こいつの実力はルナ以上の可能性は高いがそれでも確かに俺が有利であるという点に変わりはない。


「分かった。あいつから教わった技術はお前にも必ず伝授する」

「ふふ、刀夜くんとの共闘は楽しいから僕は好きだよ」

「お、おう。男に好きとか言われてもな」


 確かにこうして一緒に1つの目的に向かっていくのはいいものだ。特に同性ということで奇妙な友情のようなものすら感じる。

 ムイも既に俺にとっては仲間ということなのだろう。失うだけで悲しい存在というのは何も異性だけに限られることじゃない。


「ふふ……それじゃあ僕も勝って彼女に沢山褒めてもらおうかな」

「お前の彼女か。会ったことないな。機会があれば頼む」

「手を出さないでよ?」

「それはない」


 別に人の彼女を寝取ろうなどと考えていない。ムイが惚れるような女に興味があるというだけだ。きっと良い人なんだろう。


「それじゃあ始めるぞ〜!」

「まずは僕から行くよ」

「2人同時じゃなくていいのか〜?」


 え、マジで? それって2対1ってことだよな?


「もちろん片方が食らえば即終了だけどな」

「マジか。太っ腹過ぎて逆に裏を感じる」


 それならばお互いにカバーし合える方がいい。一定以上の実力がないのであれば情報の方が大切だがムイなら信用出来る。俺が出会った中で一番最強の剣士だしな。


「2人同時なら色々と何とかなりそうだね」

「そうだな」


 魔法に関してこいつがどれほどの腕前なのか。それを確認するだけでもかなりの財産になりうる。

 油断はしない。こいつは一見油断させやすい性格をしているが逆だ。こういうタイプが一番油断ならない。


「それじゃあ始めるぞ〜」


 間延びするようなやる気の出ない声で開始された。5分……短いようで長い時間だ。特に戦場という緊迫した状況であれば。


「ほれ」

「っ!」


 いきなり眼前に迫った雷。魔法陣が見えなかったぞ!? いきなり迫ってくるとは!


「やぁ!」


 横からムイが剣を振り上げて雷を切り飛ばしてくれる。危ねぇ。ムイがいなけりゃ終わってた。


「大丈夫!?」

「あ、あぁ」


 しかしこれで多少は分かった。こいつの魔法はあり得ない速度で発動されている。それこそ魔法陣が視認出来ない程に。

 魔法陣を見てから動くという固定観念は完全に通用しない。こいつは魔法の腕だけでなく速度だけでも相当マズイものだ。


「身体強化魔法は前衛職のみが必要だと誰かが言った。でも本当にそうか? 俺は冒険者全員に必要なことだと思うわけだ」

「…………そうだな」

「じゃないと……今のも反応すら出来ねーままだっただろ?」


 その通りだ。今の速度の攻撃を認識する間もなく終わる。身体強化魔法の重要性を世間は勘違いしている。


「しかし今のは2人とも反応出来ていたじゃねーか。前衛職のムイがちっと速かったってだけだ」


 確かに結果としてはその通りだ。しかし考えが甘かった。こいつの魔法の腕はルナ以上ではない。世界一なのだと認識した上で動かないと。


「だとしても避けられなきゃ意味なんてねぇだろ」

「ストイックだな〜」


 ストイックとかそういうことじゃない。要は結果が伴っていなければ努力や技術など何の価値もない。


「ふぅ…………」


 大きく息を吐き出すと真っ直ぐにおっさんを見据える。おっさんは悠然と笑みを浮かべていた。


「おうおう、怖いね〜。じゃあこれはどうかな」


 今度は魔法陣が見える。見えるのはいいが……一体幾つ同時に展開してんだよ!

 おっさんは周囲に幾つもの色々な色の魔法陣を展開してみせる。この量を同時に展開出来る技量は間違いなくマズイ。


「これは避けれるかな〜?」


 同時に発射される幾つもの魔法。俺達は左右に散るように分かれた。

 飛んでくる魔法自体は大したものじゃない。大したものじゃないが量が多過ぎてさばくのだけでギリギリだ。

 跳躍し、身体を捻りながら刀を振るう。魔法を紙一重で躱しながら他の魔法を破壊する。


「なるほどなるほど。鍛冶師とは思えない身体能力だ。ムイも噂に違わない実力者だね〜」


 こいつは少しムイに似ている。余裕なのかそうではないのか。全く読めない点に関して。

 強者というのは常にそういうものなのか? 俺は別に強者ではなかったから分からない。

 分からないが……今の俺は強者だ。最強でなければならない。


「じゃあこれはどうだ?」


 半周すると反対側のムイと合流する。おっさんはムイに向けて緑色の魔法陣を展開した。

 単発? そんな弱い魔法が当たるわけがない。

 あまり速度も速くないそれに何の意味もない……はずなどない。


「っ!」


 その魔法は瞬間的に消え去った。その場から忽然と。

 消えた? 違う! そんなはずはない。そんなやわな魔法じゃなかったはずだ。

 視認魔法を発動させると分かった。消えたんじゃない。見えなくなったんだ!

 風魔法だけじゃ不可能だ。あの単発の簡易的な魔法には3つの属性が付与されているはずだ。

 水魔法を微かに、炎魔法で水蒸気と化して光を屈折させている。ただでさえ風魔法は視認しづらいというのにそれを完全に視覚から消したのだ。

 俺は魔力装備生成魔法を使用し創った短剣を投擲する。


「ほう?」


 短剣は的確に風魔法の核を破壊し、魔力を散らせる。散った魔力は水、炎、風。水色赤色緑色の魔力の粒子は普通に綺麗だった。


「…………萩 刀夜。なるほど、目を見張る技術があるな」

「…………お前には言われたくねぇよ」


 どんな技術と知性を持ち合わせりゃこうなれるんだろうか。おっさんは天才だからと片付けるのは簡単かもしれない。しかしそれ以上にこいつには何かがある。

 努力など当然。そういう話じゃない。何か強い、信念のようなものを感じた。


「鍛冶師……世間の当たりも強いだろう」

「関係ねぇよ」


 時間的にはあと何分だ? 全力だ。ここで全魔力を使い切ってでもこいつの攻撃を防ぎきる。


「…………ふっ」


 おっさんは笑みを浮かべると巨大な魔法陣を展開した。特級属性魔法……それも炎属性。インフェルノか。


「こいつは防げるか?」


 特級属性魔法を使用して魔力が持つはずがない。例え技術が凄いとしても精霊であるルナ以上の魔力を有しているとは思えない。

 これが正真正銘最後。いや、こいつはまだ何かを隠しているがこの一撃に賭けているのだろう。

 混合魔法を教える教えないという話じゃないのだ。もう既にそういう戦いじゃない。

 これは男と男の意地。ガキっぽく見えるかもしれないがそれでも構わない。

 そういえばこの魔法を見たのはゴブリンキングの時か。久しぶりに見るこの魔法はやはり綺麗だ。まるで太陽のように照らしてくれる。


「身体強化魔法なら避けられるよ!」

「そうだな。だからお前は逃げろ」

「え!?」


 ここで逃げるわけにはいかないのだ。男として。そして、最強として。

 仲間に甘え過ぎていたんだな、俺は。世の中には常に上がいる。上がいるからこそ俺は最強になった。最強を目指した。

 みんなで助け合い、なんて生易しいことを考えている場合じゃねぇな。俺は1人でも……1人でも勝てるようにならないと。


「目付きが変わったな。何か決心でもしたか?」

「別にお前には関係ねぇよ。ただ……」


 ただきっかけをくれたのはこいつだ。人生の先輩っていうのはこういうことなのかな。


「ただ、なんだ?」

「ここで逃げたら負けな気がするだけだ」


 魔法のぶつかり合いでは俺に勝ち目はない。しかしそれでもあの魔法の核に届くほどの威力があるなら別だ。


「セルブレイズ」


 風属性の特級属性魔法。これ以上の威力を今の俺は出せない。今の俺には、な。


「炎に風って、正気かよ?」

「…………」


 大量の風が刀をまとい、その大きさをどんどと伸ばす。全長20mを超える風の刀が出来上がる。


「まぁいーけどよ。死んでくれるなよ!」


 放たれた太陽は無慈悲に俺に迫る。この魔法を防ぐ攻撃。確かゴブリンキングは特技で吹き飛ばしていたな。

 人間の俺にそんな力は出せない。出せないが……この太陽そのものを斬り裂くことは出来る。

 風の流れのコントロール。確かに難しいな。こいつはあっさりとそれをして見せ、見えないか風の弾丸を作り出していた。


「すー……はー……」


 失敗すれば倍の威力のインフェルノが返ってくる。間違いなく俺は死ぬだろう。

 久しぶりの感覚だ。笑みがこぼれてしまう。

 危機的状況だから? 違うな。俺は最強、こんなところで死ぬはずがない。


「うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 全体重を乗せて刀を振り下ろす。魔法のぶつかり合いでは勝てない。しかし球体と一点集中では話は別だ。

 激しい灼熱の風が周囲のものを吹き飛ばす。ムイも激しい風を感じながらも目を離さまいとしている。

 負けられない。負けられないから……俺はこの魔法を超える!

 一旦刀から手を離すとどんどんと押し返される。


「なんだ、諦めたのか〜?」

「ふんっ!」

「うぇ!?」


 堪えても押し込めないなら諦める。俺は刀を思い切り踏み付けて無理やり押し込んだ。全体重掛けるのもいいが踏んだ方が早い。

 インフェルノに切れ目が出来て微かに核が見える。しかしセルブレイズも限界だったようだ。切れ目だけを作り、魔法を大きくしただけで大した意味はなかった。


「なんてな……」


 予想通りだ。更に刀を踏み付けると地面に突き刺さり柄が上を向いた。俺はそれを勢い良く掴むと同時に引き抜きながらぶん投げた。

 回転する刀は切れ目を通り、見事に核に突き刺さる。そのまま破壊し、大量の赤い魔力の粒子を散らせた。


「…………」


 流石に魔力も空だな。刀もボロボロになっちまったし。


「流石だな。噂通りの実力だ」

「刀夜くん……?」


 地面に突き刺さった刀を引き抜くとその衝撃でポッキリと折れてしまう。これでいい。どんなものにも逃げる必要などない。

 1人だろうと立ち向かえ。俺は最強だ。仲間を言い訳になどしない。

 仲間は守る。でもそれは周りに期待していい理由にはならない。仲間に甘えていい理由にはならない。

 俺は俺だけの為に。俺だけの個人的な理由だけで仲間を守る。


「5分、経ってるよな?」

「あぁ。約束通り魔法は教えるが……絶対に悪用はしないこと。これは絶対条件だ」

「…………あぁ。当然だ」


 悪用するしないは多分約束出来ることじゃないかもしれない。こいつにとっての悪を俺は易々と犯してしまえるくらいに心が常人のそれとはかけ離れているのだから。

 でもせいぜい、利用させてもらおう。俺の強さの糧にする為に。

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