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第3話 吸血鬼に弱点は多いもの

 吸血鬼の能力は危険だ。その気になれば幾らでも増殖出来る。一刻も早く退治する必要性が出てきた。

 流石にこういう危機感は冒険者特有だ。怯えるでもなく蔑むでもなく単に戦わなければいけないという義務感がある。

 アリシアも恐怖というよりは普段している魔物との殺し合いであることに気付いたようだ。平気そうにしている。

 といっても現状出来ることは近くの街まで行くことだ。しかし村があの様子では街も終わりだろうな。


「街がどんなものか見ておきたかったんだけどね」

「期待はせずに行こうぜ。どうせ頑張っても3日は掛かるんだし」


 ライジンで駆け抜ければまだ早いだろうが。流石に何の調査もせずに走り抜けるのはマズイような気がする。

 それに今回は裏で誰かが糸を引いてやがる。そいつの情報は重要だ。


「刀夜くん」

「ん?」

「吸血鬼ってかなり強いんだけど、あのさっきの村の人が吸血鬼の強さだと考えればどの程度かな?」


 アリシアも何か考えているようだ。流石は前衛、俺が教えた通り色々と思案するようになってきた。

 先程の吸血鬼が一般的な吸血鬼という種類の魔物の平均的な強さだと仮定すれば……。


「俺1人でも勝てるくらいだな」


 正直に言うとまだまだ雑魚い。俺達は強くなり過ぎてしまった節があるが……まぁ現実問題まだまだなんだろうな。俺達の知らない脅威というのは存在するだろうし。


「それじゃあ誰か別の人が黒幕にいるんだよね?」

「そうだが……」

「それなら二手に分かれる方がいいのかな?」


 なるほど、そういう考えか。確かにそちらの方が良いかもしれないな。そういう条件ならばの話だが。

 言わば生存率の話だ。奇襲攻撃に備える部隊と標的を殺す部隊。二手に分かれれば対応も早くなる。

 しかしこの作戦は吸血鬼が弱い前提での話だ。恐らくそれはないだろう。


「あんまり得策じゃないかもな」

「そ、そうかな?」


 あからさまに落ち込んだ!? ちょっと自信あったんだろうな。


「あいつらは吸血鬼になっただけで身体の構造は魔物ではなく人間だ。仮に身体能力が上がっているといってもあくまでもベースは人間だ」

「た、確かに」

「それにこいつらはあくまでも感染者。本物の力は未知数な以上は戦力の分断は避けたい」


 目に見えて落ち込むアリシアだった。しかし俺はその頭に手を置いて優しく撫でる。


「落ち込まなくてもむしろ良い感じだ。そんな感じでバンバン意見は出してくれ」

「う、うん!」


 一転して喜んでくれたアリシアに俺満足気に頷いた。

 こういう意見があると、より別の観点から色々と見れる。そういえ視点というのは大切だ。俺以外にも色々と見てくれる人がいるとかなり助かる。


「だが確かに黒幕の存在は避けられない。鼻が効くリルフェンは周囲の警戒を、それにマオは俺達の援護は最小限、周囲の警戒もしておいてくれ」

「えぇ、分かったわ」


 リルフェンは結局は戦えない。こういう時の為に遠距離の攻撃があれば便利だな。何か作るか。


「ガウ!」

「与えられた仕事だものね。しっかりこなしましょう」

「ガウガウガウ!」


 何も出来ないというのは歯がゆいのだろう。気持ちは分かる。俺も最初はルナの世話になりっぱなしだったからな。

 こういう少しの仕事でも与えられると落ち着くものだ。まぁ元々この中でリルフェンが役立たずと思っている奴はいないだろうけどな。単に相性が悪いだけだ。


「っ! 刀夜さん、また吸血鬼が来るわよ」

「そうか。ならお前らは周囲の警戒しててくれ。誰かが何かしらの方法で覗いてる可能性がある」


 手の内は極力晒したくはない。前衛は俺と……ムイで行くか。心配なさそうだしな。


「ムイ、悪いが俺に付き合ってくれ」

「うん、いいよ」


 快く快諾してくれる。こいつ本当に良い奴かよ。良い奴だな。


「そこで1人で行くって言ってたら怒るところだったね」

「はい、もちろんです」


 あっぶねぇ……。1人で行き掛けた。俺1人でも勝てるしな。


「コウハ、マオ、リルフェンは特に索敵の要だ。頼むぞ」

「うむ!」

「えぇ」

「ガウ!」


 ルナはいざという時の援護だ。アリシアとコウハを前提に活躍出来る。アスールもそこが一番安全だろう。


「んじゃ行くぞ」

「うん」


 俺達はそれぞれの得物を構えると走り出す。迎え撃つように大量の吸血鬼達が押し寄せてきた。

 前列にいた男2人の首を斬り落とし、更に奥へと入る。周囲が吸血鬼に埋め尽くされるものの関係はない。

 柔よく剛を制す。力で劣る俺が覚えた剣術だ。

 速度で勝るムイにも勝てないのならば相手の剣をいなしてカウンターを狙えばいい。身体強化魔法のおかげで刀は軽いしな。

 右側にいた男の胴体を斬り裂くと同時に手から離して軽く小突く。刀は宙を舞って反対の手へと移動する。


「ふっ……!」


 そのまま刀を振るって斬り裂いた。とにかく攻撃を相手に読ませることは絶対にしない。パターン化した攻撃は長期戦では不利だ。

 あとは刀を振るう時に止まったまま振るう必要性は皆無だ。俺は跳躍すると同時に身体を回転させ、吸血鬼の顔を斬り裂いた。

 回転の勢いを殺すように着地すると同時にしゃがむと前方の吸血鬼の足を斬り裂き体勢を崩させる。


「うらぁ!」


 そのまま跳躍してライジンの勢いそのままに顔面を蹴り飛ばした。周囲の吸血鬼もろとも吹き飛んでくれる。


「ご主人様格好良いです!」

「ん……さすが」

「刀夜くーん!」


 あいつらなんか知らんけど観戦してね? 観戦じゃなくて周囲の警戒をして欲しいんだが!?

 着地すると一気に駆け抜ける。刀を横に向けるだけでライジンの勢いを利用して斬り裂ける。余裕だなこいつら。


「ゔぁぁ!」

「っ!」


 吸血鬼の中にも個体差はあるらしい。俺の速度に反応したボロボロの服を着た女が手を振り下ろして来る。

 こいつらの肌に触れるのは多分危険だ。切り傷からウイルスの感染というのもあり得ない話ではない。

 俺は刀を地面に突き刺すとその勢いを止め、女の腕をギリギリで躱すように身体を捻りながら跳躍する。

 そのまま刀を掴んでいる腕一本で身体を支え、一回転するように倒れながら後ろの吸血鬼を蹴り下ろす。

 そのまま着地し、刀を引き抜くと同時に斬り上げて女の胴体を真っ二つにする。


「ゔぁぁぁぁ!」


 キリがない。というかなんだこいつ。完全に服はだけてんじゃねぇか。


「ちょ!? そんな格好駄目ですよ! おっぱいが見えてるじゃないですか!」

「あなた吸血鬼の分際で刀夜さんに色仕掛けなんて良い度胸ね!」

「な、なんて大胆な! ひ、卑怯だぞ!」


 あいつら真面目に索敵してくれねぇかな……。いや、何も感じなくて暇なのは分かるんだが。

 ひとまず色仕掛け? してくる吸血鬼の首を斬り裂くとその横を通り抜けて真後ろの男の吸血鬼の足を引っ掛ける。


「ぐおぉ!」


 後ろを巻き込むように転んだ吸血鬼達。それに向かって俺は跳躍しながら回転を加えて刀を振り下ろす。

 遠心力も入れたのだ。こうすることで大きな力が加わり、威力が上がる。

 俺の刀はまだまだだが強度重視で作ったものだ。この程度で折れない。

 倒れた吸血鬼達をまとめて斬り裂いて殺すとライジンを使用して縦横無尽に駆け回る。やはり個体差があるか。


「やあ」

「っ! なんだムイか」


 いつの間にかそばにムイがいた。気配がしたので斬り裂こうとしてしまったじゃねぇか。


「あの人達は随分と余裕そうだね」

「そうだな。あとで説教だな」


 ひとまずかなりの数は減ったはずだ。それにしても少なくなった気がしないのは俺の気のせいか?


「ゾロゾロと増えてるのかな。もうちょっと人数が欲しいところだね」

「そうだな……。コウハ辺りに助っ人を頼むか」


 しかしそれだと向こうが手薄になりそうだ。まぁすぐに俺達が援護に回ればいざという時は対応出来るか。


「弱点を探る意味でもルナさんはどうかな?」

「ルナの魔法は極力見せたくない。弱点を探るなら俺がやる」

「それこそ駄目じゃないかな? キミが魔法を使えるとバレてしまう」


 俺に魔法が使えるからといってバレて困ることってあるか? いや、ねぇな。


「もし仮に俺の噂が広まってるならステータスも同様だ。今更隠す必要性はねぇよ」

「確かにそうかもしれないね」


 とりあえず手の内をバラすのは俺だけでいい。それに銃はまだ使っていないしな。バレてはいないはずだ。


「ひとまずコウハにもあまり手の内は見せて欲しくないからな。範囲攻撃で援護してもらう形にしよう」

「そうだね」


 前衛の俺達はすぐに手の内がバレる。この場合は中衛後衛がどうするかによって大きく変わってくる。

 俺達の動きは中衛後衛が入ると読めなくなるはず。ならばとりあえずはその方向で攻めるまでだ。


「この人達は随分と刺激的な格好をしているしね。コウハさんで大丈夫?」

「平気だろ。…………俺ので見慣れてるだろうし」

「そういうところ隠した方がいいと思うんだけどね……」


 ムイが珍しく読める表情を浮かべた。戸惑ってるんだな。まぁ確かにこんな会話することもないだろうけど。


「お前は平気なのか?」

「うーん、あくまでも魔物だからね」

「え、魔物でも欲情とかしねぇの……?」


 俺がアスールに欲情するのって変なのか? いや、それはない。あいつらの可愛さは間違いなくトップだからな。異論は許さん。


「普通はしないよ」

「アスールは?」

「うーん、有翼種っていうだけで蔑む人もいるからね」


 まぁそれは事実だろう。しかし俺が聞きたいのはそういうことじゃない。

 眼前に迫った吸血鬼の顔面を斬り裂き、横から迫った吸血鬼には肘で顔面を殴りながらムイに問いただす。


「お前はどうなんだ?」

「僕?」


 ムイも剣を振って吸血鬼を斬り殺しながら質問に応じる。余裕だな俺達。


「うーん、良い子だとは思うけどね」

「そういう話お前からは全然聞かないからな」

「僕は純愛派だからね。1人の女性に愛を注ぐタイプだよ」

「…………ってことは既に恋人が?」

「うん、いるよ」


 いるんだな。まぁ別に驚くことじゃない。こいつは普通に同性の俺から見ても格好良いしな。

 初級属性魔法の炎を使って刀にまとわせると吸血鬼を斬り裂く。切り口から発火した吸血鬼はしばらく苦しんだ後に生き絶えた。


「ということは既にご経験が?」

「もちろんあるよ。その人も僕のことを好きでいてくれてるからね」


 やはりそうか。まぁこいつが告白して断られる可能性の方が少ないか。

 続いて風魔法をまとわせると吸血鬼を斬り裂いた。飛んでいった斬撃が前方の吸血鬼だけでなく奥の吸血鬼も切断していく。

 続いて氷。殺傷能力はないが地面を伝らせた氷が吸血鬼の足を完全に止める。

 そこを雷属性をまとわせた刀を突き刺した。あっさりと突き刺さり大した力も入れていないというのに刀が貫通してしまう。

 最後に土属性。地面から盛り上げた土の拳が吸血鬼を殴る。大勢いるせいで楽々当たる。


「結論。全部有効」

「…………みたいだね」


 実はこいつら雑魚いんじゃないか? まぁ所詮は手下だが。


「うん、今のでほとんど減ったね」

「そうだな。コウハの助っ人もいらなさそうだ」


 特に炎と風魔法が広範囲に広がってくれたおかげでまとめて殺せた。魔法が弱点のこいつらを相手に俺達は常に優勢を維持し続けた。

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