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第2話 吸血鬼を超える脅威はすぐそこに

「刀夜くん……ふふ……」


 握った温かい手が気持ち良い。アリシアも同じように感じているのか頬を赤く染めながら幸せそうに微笑んでいる。


「羨ましいです……」

「私も刀夜殿と手を繋ぎたい……」

「わわっ! ご、ごめんね!」


 羨ましそうに見つめるルナ達にアリシアは慌てた様子で手を離した。今ので大丈夫になったのか?


「ふふ……」


 幸せそうに握られた手を見つめるアリシアに俺の心もポカポカしてきた。


「あら? 刀夜さん魔物の気配がするわよ?」

「うむ。私も感じる。これは……下からか?」


 コウハとマオがその魔物の気配を感じ取ったらしい。下から、ということは地下からか。

 ひとまず言えることは俺が幸せに浸っているのを邪魔したことだ。キツイお仕置きが必要のようだな。


「ルナ」

「はい、お任せください」


 指示をしなくても何をして欲しいのか分かったらしい。流石はルナだ、俺が詳しく伝えなくても通じ合える。

 地面に手を付いたルナは茶色の魔法陣を展開する。


「えっと、どの辺りですか?」

「そろそろ真下に来るわね。今はその辺りかしら?」

「分かりました」


 ルナが魔法を発動させて地面を盛り上がらせる。突如出来た大きな山、そこから巨大なチョウチンアンコウのような魔物が飛び出してきた。

 俺は特級属性魔法であり脚装備に付与した魔法、ライジンを使用する。身体能力が一気に向上しその速度は雷に匹敵する程にまで底上げされる。

 刀を抜くと同時に強く踏み込みながら跳躍する。同時に刀に風魔法を使用しその切れ味と攻撃範囲を拡大させると高速の一振りを実現させた。

 チョウチンアンコウの身体が真っ二つになり、大量の紫の血が撒き散らされる。


「流石ですご主人様!」

「ん……格好良い」

「ワォォン!」


 当たり前に出来ることだろうにベタ褒めされてしまった。というか別に俺がやらなくてもお前らでもすぐに仕留めれるだろ?


「アリシアとのラブラブタイムを邪魔したあいつは許さん」

「っ!?」


 ん? 何かいきなりアリシアの顔が真っ赤になった。何があったんだ?


「まだ敵襲か?」

「刀夜さん自覚なさ過ぎよ」

「……?」


 何故頬を摘まれる? 俺何か変なこと言ったっけ?


「まぁいいか。ひとまずこの辺りは魔物も出るわけだし立ち止まる理由はないな」

「ん……行こ」


 その場を離れるように歩き出す。魔物の大群に襲われ魔力が尽きかけて、なんて事態は避けたい。


「うぅ……吸血鬼ってやっぱり怖いのかな……」

「いや、その吸血鬼ってのがどういう奴かは知らないが一つ言えることはあの村は異常だ」

「そうなの?」


 確かに吸血鬼が持って帰ったとなれば話は簡単だが血痕を残さずに持ち去れるのか?


「吸血鬼ってのは人間の血を吸うんだよな?」

「う、うん」

「本来吸血鬼ってのは人を殺すくらいに血を吸うとなれば6分は掛かるらしい。まぁ俺の世界の知識だが」


 大動脈から流れる血を吸うのに、という前提ではあるが。直接吸い出しているというのならもっと早いのだろうが。


「6分あれば人は抵抗出来る。血痕は無し、死体は無し。争った形跡すらない状態だ」

「確かにおかしいね」

「だろ? だから吸血鬼の可能性は少ないと思うけどな」


 それよりももっとヤバい相手がいるかもしれない、という言葉は飲み込んだ。こんな一方的なことが出来る力が存在するってのか?


「そ、それじゃあ!?」

「あぁ。この一連の事件は別だろうな」


 しかし吸血鬼の噂が出てからこの状況。関連性がないとも言えない。どうする……? 危険過ぎる依頼だ。


「ご主人様、難しい顔をされてどうかなさいましたか?」

「…………いや、何でもない」


 こいつらを無駄に不安にさせることもない。俺の考え過ぎな可能性もあるしな。


「…………ガウ」

「ん? どうした?」

「ガウガウガウ」


 リルフェンが何やら話し掛けてくるがよく分からない。でも何となく慰めれている気がした。


「…………よく分からんがお前は良い子だな」


 優しく頭を撫でてやると気持ち良さそうに目を細めた。相当難しい顔でもしていたのだろう。全員心配そうにしている。

 ひとまず気持ちを切り替えて思案するとしよう。例えば魔法はどうだ? そういった魔法が存在するのか……?


「例えばだが人を操るような魔法とかはあるのか?」

「いえ、ありません。直接人に干渉出来る魔法は回復魔法と補助魔法とされています」


 つまり直接何かしたわけじゃないということだ。なら魔法の域を出た何かと仮定する方がいいのか。

 家は多少は破壊されていた。つまりは物理的なものであることはまず間違いがない。その方法がよく分からないのだが。


「…………悪い、お手上げだ」

「そうですか……」


 未知の能力は警戒しておかなければならない。ひとまず前段階として人を消す能力が存在するということだけ頭に入れておくしかないか。


「ん? 刀夜さん、また何か来るわよ」

「魔物か?」

「いや、唸り声みたいな感じだ。それも人の」


 人の? ひとまず人なら何か話を聞けるかもしれない。


「かなり大人数だ」

「もしかして避難していたのかしら」


 そうだとすれば全員無事だったということになる。そんな奇跡が存在するのか?


「ひとまず会ってみるか」

「ん…………」


 2人に案内してもらいその人々の元へ。しかし予想に反してその人間達は意識がなかった。いや、既に死んでいると表現した方が良さそうだ。


「何だこいつら、ゾンビか?」


 目は真っ赤に染まり瞳が完全に消えている。口からは大量の血を垂らしており、首元には噛跡がある。


「な、何あれ!?」

「そういや吸血鬼に噛まれた者は吸血鬼になる、だったか。ってことは吸血鬼ってあんな奴なのか?」


 日の光を浴びても平気な点は知らないが……。まぁ確かに元が人間であれば日の光など大した影響も受けないか。

 吸血鬼というのは元は死んだ人間のされている。元が人間であるのに太陽が苦手という認識はおかしな話だ。

 第一月の光も元は太陽の光。夜中にだけ動けるというのもおかしいな。太陽の光全然弱点じゃねぇな……。


「ということはあれは元は人間ってことだよね?」

「まぁそうなるな。でも致死量レベルの傷だらけなのに生きてるな。もう人間とは呼べないと思うぞ」


 吸血鬼の生命力は高いということだろう。面倒な相手だがもう既に人間ですらないのなら遠慮をすることはない。


「あ、あの人……」

「知り合いか?」

「う、うん、さっきの村の人だよ」


 会ったことがあるのだろうアリシアは少し悲しげな表情を浮かべた。それでも殺す気なのは流石は冒険者というところか。意思が固い。

 しかし今のでこの連中はさっきの村の住人だと分かったわけだが。吸血鬼の能力であの村の惨劇を生み出すことは不可能だということだろう。

 全く抵抗出来ないはず。今の有様では状況が違い過ぎる。別に犯人がいると考えた方が妥当だ。


「うがぁぁぁぁ!!!!」

「全員ひとまずこいつらを仕留めるぞ」


 俺は刀を抜くと吸血鬼達は一気に押し寄せて来る。完全に敵対関係と認識されたようだ。

 殺されるくらいなら殺す。それくらいの精神でいかなければこの世界はやっていけない。敵対するなら俺も例え人間だろうと容赦はしない。殺す。

 吸血鬼達は人間離れした脚力で襲って来る。その速度は全員一定。速度としては身体強化魔法を使用する前衛職より少し上というくらいだろうか。

 ライジンを使用している俺達には敵わない。ルナが魔法で迎撃と援護、アリシアが槍で突き刺しコウハが大剣で両断、マオが弓矢で援護、リルフェンは残念ながら待機だ。

 仮に妙なウイルスを持っていた場合はリルフェンも危ない。大切な仲間を無下に扱う気は無い。


「…………えいっ」


 可愛らしい掛け声を出すアスールだったがやってることはえげつなかった。

 防御魔法と防御魔法で吸血鬼を挟み込むとそのままぺちゃんとにする。大量の血と肉片が残るというグロテスクな映像だった。

 アスールは防御魔法に加えて操作魔法を使用して更に圧縮力を高めた特別仕様だ。普通のものとは大きく違うだろう。


「防御魔法をそんな使い方する人初めて見たよ……」


 ムイには少し呆れられてしまったがまぁ仕方ない。ひとまずこいつらは何とかなりそうだな。

 一掃し終わると俺は周囲を見回す。もう何もいない、か。


「どうかしたか? もう周りには誰もいないぞ?」

「そうね。何の気配もないわ」

「…………そうか」


 何もいない、か。これは様子見か。俺達は試されているのか。


「…………」


 手の内を晒すのはマズイな。でもどこにも気配はない、か。どういうことだ?

 これも人が消えたってのと関係があるのか? 人を消す力を自分にも使用出来るとすれば? 気配などあるはずもない。


「マオ、匂いもなしか?」

「匂い? …………何か妙な匂いはするけれど」

「っ! どんな匂いだ?」


 やはり何かいたのか。匂いが微かに残っているということはそれ程遠い距離からではなかったということだ。そこまで接近されていて何故気付かないんだ?


「何かしらこの匂い。妙な香り……ね。魔物の匂いだと思うのだけれどかなり濃い匂いよ」

「獣臭いってことか?」

「いえ、何でしょう……。形容しがたい匂いね。ただ、かなり不安になるわ」


 マオが本能的に危険を察知する程の魔物か。獣人族というのは人間よりも危機察知能力が高い。そのマオが危険だというのなら相当なものなのだろう。


「ご主人様、どうかされましたか?」

「いや…………。この吸血鬼事件、裏で何かが糸を引いている可能性があるな」


 まさか俺のことを聞いて村を囮に何かを仕掛けてきている……とか? いや、まさかな……。

 それ程まで高い知能を持つ魔物がいるだろうか? 本能で動くのが魔物だ、知性とは正反対の生物といえるだろうに。

 もし仮に高度な知性を持つ魔物がいるとなれば……その力は間違いなく脅威だ。ただでさえ強い力を持つ魔物が頭を使うとかマジないわー。せこい。


「では気を付けないといけませんね」

「あぁ」


 いや……なんか呑気だなおい。


「大丈夫ですよ、ご主人様」

「いや、何がだよ」

「ふふ……ご主人様は最強ですから」


 あー、うん、そういうことな。でも油断すると死ぬんだから油断はしないで欲しい。


「気を抜けば死ぬから気を付けろよ」

「はい、もちろんです」


 その辺は分かってるんですか。いや、うん、だろうな。ルナは聡明だもんな。


「…………ならいいんだけど」

「はい!」


 元気良く返事をするルナに俺は溜息を漏らした。分かりにくいから笑顔でそういうこと言わずに気を張ってる時はちゃんと気を張って欲しい。

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