特別編ルナ視点第3話 美人はよく絡まれるもの
私達は少し休憩の為にベンチに座ります。ここは人もまばらで落ち着きやすいとても良いところです。景色も綺麗ですし。
あれからも何度か男性から声を掛けていただきその度にお断り致しました。
隣にご主人様が立っていますのに皆様遠慮がなさ過ぎです。
「まぁ普段から綺麗なお前が今日は一段と綺麗だからな……」
ご主人様も納得したご様子でした。ですがどうして私が綺麗だと褒めてくださるのでしょうか?
「何故キョトンとする……」
「い、いえ……あの、私って綺麗なんでしょうか?」
「当たり前だろ。鏡を見てから言え」
まるで悪口のように褒められてしまいました。
「私が綺麗……ふふ……ご主人様がそう思ってくださるだけで私は満足です」
「そうか……」
ご主人様は力無く頷きました。何かあったのかと慌ててご主人様を見てしまいます。
「もしかして眠たいのですか?」
「ん……? あぁ、いや、気にしなくていいぞ」
連日銃の試行錯誤をし、今日は2人きりで朝まで愛し合って今に至るのですから当然です。
むしろ慣れていないご主人様に気を遣わせてしまい綺麗なネックレスまでプレゼントしていただきました。もう私は充分です。
「帰りますか?」
「だから気にしなくていいって」
「いえ、気にします。ご主人様、これはデートですので」
そうです。別に家に帰る必要はありませんでした。私はご主人様の後頭部に手を回すと優しく胸に抱き寄せました。
「ここは大変静かで落ち着きます。ここで眠ってしまいましょう」
「いや、でもせっかくのデートなのに」
「眠気を我慢する必要はありませんよ? それにこれもデートの一環です」
家ではあまり甘えてくださらないご主人様ですが今は膝枕するチャンスです。
「ご主人様……」
私は穏やかな気持ちでご主人様の頭を撫でます。ご主人様の目がトロンとしてきて徐々に体重が私の方へと寄ってきてくださいます。
「…………悪い、ルナ」
「いえ、私も大変嬉しいです」
最後に申し訳なさそうな謝罪だけを残してご主人様は目を閉じられました。そのまま心地良さそうな寝息を立てます。
「んしょ……!」
この体勢では寝にくいかもしれません。私は端に寄ってご主人様をきちんとベンチに横たわらせますと自分の太ももにご主人様の後頭部を乗せました。
「…………ふふ」
ご主人様の寝顔です。可愛いです。格好良いです。
ついついご主人様の頭を優しく撫でてしまいます。この程度では起きませんよね……?
「お? へぇ、すっげぇ可愛い子いるじゃん」
「え?」
ご主人様の寝顔を眺めていると影が見えてつい顔を上げてしまいました。そこには3人の男性がニヤニヤしながら私を見つめています。
「えっと……」
「そんな奴放っておいて俺達と遊ぼうぜ?」
「そうそう。絶対後悔させねぇから」
これは噂に聞く遊びのお誘いということでしょうか。少し高圧的な方が女性はキュンとするらしいです。私もご主人様にそんなことを言われてしまえば間違いなく頷いてしまいます。
「すみません。私はご主人様一筋ですので」
「あ? 俺達よりそいつの方が良いっていうのかよ?」
そんなことを言われましても。ご主人様が良いに決まってます。
私はご主人様の素敵な寝顔と男性を見比べてみます。
「もちろんです」
比べるまでもありませんでした。ご主人様が素敵なのは知っておりますしお顔もとても整っていらっしゃいます。この方々と比較するのは可哀想でした。
「何だと!?」
「あ、し、静かにしてください。ご主人様が起きてしまいます」
「知らねぇよ!」
うぅ、ど、どう致しましょう。ご主人様以外の方と一緒にいるのは嫌ですし……だからといってこのまま続けてしまえばご主人様が起きてしまいます。
「あ、あの、諦めてくださいませんか?」
「あぁ? ちょっと可愛い顔してるからって調子乗ってんじゃねぇぞ?」
本当に高圧的です。これがご主人様ならとても嬉しいんですがこの方々は嫌です!
「いえ、で、ですから……」
「こんなクソガキなんかの何がいいんだ、あぁ?」
「…………クソ、ガキ?」
今ご主人様のことをクソガキと言ったんですか……? とても聡明で可愛らしくて格好良いあのご主人様を?
「ふふ、分かりました。仕方ありませんので遊んであげましょう」
「え? お、おう、分かればいいんだよ分かれば」
「では何を致しましょうか?」
私は自然と笑みを浮かべていました。この方々を相手に笑いしか出て来ないです。
「そうだな……火遊びなんてどうだ?」
「へへ……」
「いいねぇ」
火遊びですか……。文字通りに受け止めてしまっても良いのですよね?
「ほら、そのクソガキ置いておいてとっとと行こうぜ?」
「そんなゴミクズの何が良いの分かんなかったが、最後は賢明だな」
ニヤニヤと笑みを浮かべる男性達に私はにっこりしながら腕を伸ばします。赤い魔法陣を展開しました。
「座ったままで構いませんよ。火遊びしましょうか」
「へ?」
すぐ目の前にいた男性に向かって魔法を発動させました。
「ファイアボール♪」
打ち出された火の玉が男性の胸元に当たります。死なないように威力は抑えましたが多少の痛みや火傷は我慢していただきましょう。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「な、何すんだてめぇ!?」
全身が燃えて苦しむ男性を放置しまして次の方に向かって手を突き出します。
「ファイアボール♪」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
もう1人苦しむ様を確認しながら私は更にもう1人に腕を突き出しました。
「ひぃぃぃぃ!」
お顔を蒼白とさせた男性は慌てて逃げようとします。
「ホーミングフレイム♪」
問答無用で追い討ちです。赤い火の玉が幾つも飛んでいきます。
「うわっ! 危ねっ!」
しかし男性は流石は冒険者でした。後ろから迫る火の玉をギリギリで躱しました。
「へへ、これで」
「あ、それ追尾しますので防ぐ以外の回避方法はありませんよ?」
「え? うぎゃぁぁぁぁ!?」
弧を描いて返ってきた火の玉が男性を焼いてしまいます。ですがこれだけでは終わりません。
「熱ぃ! 熱いよぉ!」
「み、みみ、みずぅ! 誰か冷やしてくれぇ!」
「冷凍ですね。かしこまりました」
冷たいものをご所望でしたので私は青い魔法陣を展開致しました。
「アイスウォール」
本来なら壁を作るものですがそれを人に向けて使用した場合は相手を凍らせることが出来ます。
3人の男性を顔だけ出して身体は凍らせてあげました。
「う、動けねぇ! つ、冷めてぇ!」
「た、たす、助け!」
「ふふ、ご主人様をクソガキ呼ばわりした罰です」
ですがまだですよね?
「お次はご主人様をゴミクズと仰いましたよね? どんなお遊びを致しましょうか?」
「…………ルナ、その辺にしたらどうだ?」
「っ!? ご主人様!?」
ご主人様の静止の声につい下を向いてしまいます。いつもの無表情で私を見つめておりました。
「お、起きてしまったのですね……」
「そりゃこんだけ騒がれりゃ流石にな」
怒りで我を忘れてしまっていたようです。ご主人様を起こしてしまうだなんて……メイドとしても恋人としても失格です。
「ん、んんぅ〜…………ちょっと寝ただけで結構スッキリするな」
ご主人様は上体を起こして身体を大きく伸ばしました。うぅ……もう膝枕は終わりなのですね……。
「ありがとなルナ。気持ち良かった」
「っ!」
ご主人様に感謝されました。もっと膝枕したかったのですがこれだけでも報われます。
「お、おい、てめぇそいつの彼氏なんだろ!?」
「ん? だったら何だ?」
男性は私ではなくご主人様に絡もうと……もっと激しいお遊びが必要なようです。
「ご主人様」
「まぁ待てって。で、何か用かよ?」
ご主人様に静止されて私はおとなしく引き下がります。後はご主人様がどうにかしてくださるようですが……。
「お、俺達いきなりその女にこんな目に遭わされてんだよ! 何とか言ってやれよ!」
ちょっ!? 先にふっかけてきたのはそちらではないですか!? ご主人様が誤解なさると私嫌われます!?
「はぁ? ルナがそんなことするわけないだろ。大方お前らがルナを怒らせるような何かをしたんだろ」
ご主人様は酷く冷たい瞳で男性方を見つめると腕を突き出し赤い魔法陣を展開しました。
「ルナを馬鹿にした罰だ。後エロい目で見たのも許さん」
まるで全ての状況を悟っているかのような口振りでした。流石ご主人様です。
ご主人様の手から発射された極小の火の玉。あれでダメージを与えられるとは思いませんが……。
「そんなちっさい火の玉弱過ぎて話になら…………うぎゃぁぁぁぁ!? か、髪がぁぁぁぁ!!」
「お前らの髪の毛を焼き尽くしてやるよ」
無表情で凄いことをされます。髪の毛を燃やしてしまうようです。ご主人様を馬鹿にした罰です、仕方ありません。
「さて、ルナ。デートの続きでも行くか」
「お身体は大丈夫ですか?」
「あぁ。ちょっと寝てスッキリした」
そうですよね……ご主人様ですもんね……。
「膝枕は帰ってからでも堪能させてくれ」
「っ! はい!」
ご主人様が甘えてくださってます! 嬉しいです!
「おっと。忘れてた」
ご主人様は水魔法で3人の男性の頭を消火しました。それはもう見るに耐えない感じになってしまっていますが。
「全焼は勘弁してやるよ」
「あの……そうですね」
ご主人様の優しさなのですが……もういっそのこと全て焼いてしまった方が良かったのではないでしょうか?
やはりご主人様は世間と少しズレています。ですがそういうところがとても魅力的で格好良いです。
私の為に怒ってくれるご主人様と一緒なら私はどこまでも頑張れそうな気がします。
「ふふ……」
「どうした?」
「いえ、幸せだったもので」
ご主人様にもらった沢山の想い。沢山の優しさ。その全てに恩返しがしたいです。
私は胸元の月のネックレスに触れながらご主人様の優しさににっこりと微笑みました。




