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特別編コウハ視点第3話 いつまでも続いて欲しい時間

「そんなこと悩んでたのかよ」

「う、うむ……」


 真夜中、私はベッドで刀夜殿と手を繋ぎながら今日のことを話した。不安になってしまったこともそうだがアリシア殿に迷惑まで掛けてしまった。


「俺との関係か……。これ以上って言ったらもうあれだな。結婚しかないな」

「それは確か刀夜殿の世界の儀式だろう?」

「いや、儀式って……。間違っちゃいないだろうけど」


 生涯を共にすることを誓う儀式。少し憧れる。私もそういうものをしてみたいものだ。


「刀夜殿はこうして私と一緒にいて楽しいのか?」

「楽しいっていうか嬉しい、だな。こうして抱き締められるのもいいな」


 刀夜殿は優しく私を抱き締めてくれる。確かに私もこうされるのは幸せだ。


「…………私は女の子らしくないからな。か、覚悟するんだぞ?」

「何の覚悟だよ。そもそもお前普通に可愛いんだから気にすることないだろ?」

「そ、そう思ってるのは刀夜殿だけだ」


 私が可愛いなどとありえない。そんなこと言われたこともないのに。


「俺だけが思ってたら不満か?」

「…………」


 その言い方はずるい。そんなこと言われても、別に他の人が私をどう思っていようと関係ない。大好きな人にそう思われてるだけで満足だった。


「嬉しいな……」

「だろ?」


 好きな人だけでいいんだ。その人だけに想われていれば後はどうでもいい。


「俺もお前らだけが格好良いと思ってくれるならそれでいい」

「うむ。刀夜殿は格好良いに決まっているだろう?」


 当たり前だ。そうでなければ私は刀夜殿にここまで惚れていない。いや、確かに顔だけじゃなく性格も好きなのだが。


「お前も乙女だな。そんなこと悩むとは」

「む……そ、そりゃあ私だって女なんだぞ?」

「それは分かってるっての。でも恋人以上なんてもう嫁以外ないんだよな」


 刀夜殿は何か考え込むような表情を浮かべる。私のことにも真剣な刀夜殿だ。色々と考えてくれているのだろう。


「ふふ……」

「どうした?」

「いや……刀夜殿がこうしてくれるのが嬉しくてつい」


 本当に昼間悩んでいたのが嘘みたいだ。刀夜殿のあの一言で私は気付けた。

 単純なことだった。単純なことなのに焦って複雑に考えてしまったから深みにハマってしまったのだろう。


「それにこれ以上っていうのはもういいんだ」

「え? ってことはもうこれ以上上はないのか?」

「いや、そういうことではない」


 そう、そういうことではない。これ以上上は目指す。でもそれは私が変わってしまっては意味がないんだ。

 私は私だ。だから私なりのやり方で刀夜殿にもっと好きになってもらうしかない。


「もっと刀夜殿が好きになってくれるように私は私を磨くつもりだ」

「お、おう?」


 でもそれは私らしくというのが大前提だ。無理に女の子らしさを求めて自分を偽るなんて刀夜殿が一番嫌いそうなことじゃないか。


「だから……もっと私も見て欲しい」

「…………」


 刀夜殿はキョトンとした後にすぐに優しく微笑んでくれた。


「あぁ。俺ももっと好きになってもらえるよう努力する」


 刀夜殿はいつも私に初めての感情をくれる。私は刀夜殿にそういう気持ちを与えることが出来るだろうか?

 刀夜殿の為に出来ることは何でもしたい。刀夜殿は何か悩んでいることはあるのだろうか?


「刀夜殿は悩みはあるか? 何でも相談して欲しい」

「悩みか? んー…………」


 刀夜殿は真剣に考えた後に何か思い付いたような表情を浮かべる。


「絶倫ってどうすればなれるんだ?」

「刀夜殿……どうして今それを聞いたんだ?」

「そりゃあ5Pしたいからに決まってんだろ?」


 刀夜殿はこういうところがある。エッチなことに正直というか隠す気がないというか。


「…………刀夜殿は充分絶倫だろう」

「そうか?」


 だって一日中してくれたりとか……本当に凄く愛してくれる。


「う、うむ。刀夜殿が愛してくれる時間は大好きだ」

「俺もお前と愛し合う時間は好きだけど……。やっぱりもうちょっと長い時間愛し合いたくないか?」

「わ、私は今のままでいいと思うぞ?」


 これ以上なんてされたら私達全員刀夜殿に殺されてしまう。本当に。何回もその……気持ち良くさせられ過ぎて本当に死んでしまう。


「そうか?」


 刀夜殿は納得していないながらもひとまずは頷いてくれた。


「他には何かないのか?」

「他か。んー…………そうだな。一番はこれかな」


 さっきのが一番じゃなかったのか。それ以上の悩みがあるなら最初から言って欲しい。


「お前らがそうやって悩んだりしないようになること、だな」

「え?」


 私達が悩まない? な、何だそれは?


「確かに悩むことは大事なことかもしれないがな。それでも良い悩みと悪い悩みってのはあるだろ? どうしようもないようなものはあんまり悩まないで欲しいってくらいだな」


 それは一番に私達を想っておる言葉かもしれない。

 好きになりたい、関係を進めたいというのは自分の欲だ。でも刀夜殿が望んでいるのは違った。

 刀夜殿は自分よりも他人を、特に私達を優先してしまう。死ぬことも怖くなく、あっさりと自分を犠牲にして私達を助けようとしてくる。

 それがさも当然のように行えるのは自分のこと以上に私達のことを想ってくれているからだ。

 情けない。私は私利私欲だというのに刀夜殿は違った。私とは全く別次元の考え方をしている。


「…………やはり刀夜殿だな」


 刀夜殿だからこそそういうことが出来る。憧れているだけじゃなれない。多分一生その境地には立てないかもしれない。

 それでも隣に並びたいというエゴをまた私は抱えてしまう。


「何が俺なんだ?」

「ふふ……そういうところだ」


 本当に格好良い。鈍いところも……そういうのを意識せずにしてしまうからなんだろう。

 刀夜殿に追いつくくらい素敵な女になりたい。私はその為にも努力は続けないといけない。

 ルナ殿達がいつも頑張っているのは……そして魅力的に見えるのはそういうことをしているからだ。ようやくそれが分かった。


「…………格好良いぞ」

「お、おう?」


 何故褒められているのか分かっていない刀夜殿。少し混乱しながらも頷いた。


「こういうところは可愛いな」

「いや、何でだよ」


 ルナ殿達が刀夜殿のことをそう言う理由もよく分かる。刀夜殿は格好良いが普段は可愛い場面が多いのだ。

 それはキョトンとする顔もそうだったり照れて視線をそらすところもそう。全部可愛いのだ。


「ふふ、可愛いぞ? 本当に」


 母性本能をくすぐってくるのが上手いのだ。刀夜殿は無自覚なのかもしれないがそういう人はモテると聞く。


「お前もルナとかアリシアみたいなこと言い出したな……。俺のどこが可愛いんだよ」


 刀夜殿は呆れた様子だ。本当に無自覚なんだな。だからこそ魅力的に映るのだろうか?


「それに可愛いのはお前もだろうが」

「え?」


 そ、そうだった。刀夜殿は私のことをそう思ってくれてるのだからそうなってしまう。

 意識してしまうと少し恥ずかしくなってきた。心臓の鼓動が凄い事になってしまっている。

 このドキドキ、刀夜殿には聞こえていないよな? で、でもこんなに密着していて気付かないわけがない!?


「と、刀夜殿! 今は!」

「何かすっげぇドキドキしてるけど。大丈夫か?」

「ふぇ!?」


 バレてた!? しかも指摘までされてしまった!


「そ、そういうのは分かってても言わないものじゃないか!?」

「そうなのか?」


 だから刀夜殿は天然なんだ!


「でも何というか。こういう風にドキドキしてくれるのは嬉しいものだな」

「そ、そうなのか?」

「あぁ。ちゃんとまだ意識してくれてるって事だろ?」


 確かにそうかもしれない。これに慣れてしまったらこのドキドキも無くなってしまうのか。

 それはかなり寂しい事なのだろう。慣れてしまうということは当たり前にあり得る話。でもそれをすると新鮮味に掛けてしまい一緒にいることも嫌になってしまうかもしれない。

 そういう関係にだけは絶対になりたくないな。刀夜殿に飽きられたら私はもう生きて行く自信がない。

 今まで独りだったのにいつのまにか刀夜殿無しでは生きていけなくなるくらいに私の想いは偏っているのだ。

 胸が締め付けられるように痛んだ。刀夜殿に飽きられたくない。私はついギュッと刀夜殿に抱き付いてしまう。


「えっと……コウハ?」

「…………すまない。少し寂しくなってしまって」

「悪い、俺が変なこと言っていらない心配を掛けちまったんだな」


 刀夜殿が優しく頭を撫でてくれる。本当にその通りなのだがそれが事実なのがこの世界なのだろう。

 こうして過ごせる時間も限られているのだというのがよく分かってしまう。刀夜殿もアリシア殿も私達とは違って短命な種族だから。

 私達は種族の壁を超えているのかもしれない。でもその実、流れる時の差に関してはどうしようもないのだ。

 こういう時間はいつまでも続かない。だから今を全力で生きている。そういうものなのだろう。


「なぁコウハ」

「…………どうした?」

「俺も寂しくなってきた。だから今日はその……そういうの忘れるくらいに愛し合わないか?」


 そ、それって…………つまりそういうことか!?

 寂しいという気持ちが一瞬にして吹き飛んだ。同時に顔が真っ赤になってるのが分かるくらいに熱を持った。


「と、刀夜殿……」


 熱を持った視線を向けてしまう。刀夜殿は私の頬に手を添えるとそのまま顔を近付けてくる。


「コウハ、大好きだ」

「ん…………」


 触れ合うだけのキス。それが次第に長く、そして熱いものへと変わっていく。

 いつか何かは変わってしまうのかもしれない。それでも私は変わらないものがあると信じている。

 そして願わくば、その変わらないものに私達の気持ちが含まれていて欲しい。

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