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特別編コウハ視点第2話 女の子らしさは難しい

 刀夜殿に好かれるような女性とはどういうものだろう? 少し聞き取り調査をすることにした。


「ご主人様がですか? 確かメイドが好きだと仰ってました」


 メイドというのはアリシア殿の家にいるという使用人のようなことのはず。刀夜殿はもしかして使用人が好きなのか?

 ルナ殿だけでは情報不足。続いてアスール殿に聞いてみた。


「…………エロいこと?」


 こちらは全く参考にならなかった。た、確かに男の子だ、そういうことも好きなのかもしれないが。それは私の求める好きとは違う!

 続いて私が一番女の子らしいと思っているアリシア殿だ。アリシア殿は気遣いが上手く、こういうことに長けているはずだ。


「刀夜くんが好きそうな女性像?」

「うむ」


 アリシア殿は少し思案するといきなり頬を赤く染める。


「えっと……私達、かな」

「え?」


 何を言っているのだろうか? 私達?

 刀夜殿の好きな女性像が私達? なら私は何を頑張ればいいのか分からない。


「刀夜くん本人に聞いてみればいいんじゃないかな?」

「ほ、本人に聞くのか!?」

「うん。刀夜くんならすぐに答えてくれると思うよ?」


 確かに刀夜殿ならすぐに答えてくれそうだった。でも少し恥ずかしい。

 ええい! そういう自分を直さなければいつまで経っても進展しない!

 私は羞恥心を無理やり押し込め、刀夜殿に聞いてみた。


「俺が好きな女性像か?」


 刀夜殿は少し思案し、私を指差してきた。


「お前ら」


 アリシア殿の言う通りだった……!


「そ、それじゃあ私は何を頑張って変えればいいんだ!?」

「頑張るとか変えるとか何の話だ?」


 私は刀夜殿に説明すると視線をそらされたをでも分かる。笑いを堪えているのが。ちょっと震えてるからな!


「何故笑うんだ!」

「い、いや……ちょっと待って……」


 私はこんなにも悩んでいるのにどうして笑うんだ!? それに刀夜殿も関係してるというのに!


「ふぅ。面白かった」

「面白い要素なんてなかっただろう!?」

「アリシアに言われて俺に聞きに来たんだろ? 普通そういうのは遠回しにするものだっての」


 確かにそうかも。どうして私は刀夜殿に聞いているのだろう?


「素直過ぎるな。まぁそこがお前の良いところの1つだけどな」


 刀夜殿は私の頭を撫でてくる。今はそんなことされても馬鹿にされているようにしか思えない。

 あと刀夜殿ってあんなに可愛く笑うんだな。そこを指摘すればやり返し出来るかもしれない。


「好きな人がどんだけ頑張っても好きなものは好きだ。アリシアも言ったろ? 俺の好きな女性像はお前らだって」

「そ、そんなのは……」

「じゃあ逆に聞くけどなをお前の好きな男性像は?」


 刀夜殿に言われてすぐに思い浮かんだのは……言葉より先に刀夜殿だった。

 ああ、そうか。私の考え方が間違っていた。

 好きな人のタイプは漠然と好きだと考えていたけど違うんだ。好きな人がこういうタイプだから好きなんだ。


「確かに何が好きだとかはあるかもしれないがな。好きな人がいる今はその人が中心になるだろ? つまりそういうことだ」


 で、では……私はどうすればアリシア殿達に並べるのだろうか? 私は何をすればもっと愛してもらえるのだろうか?

 もう努力をしてもこの関係は変わらないのか……?


「え、ちょ、うぇ!? な、何で泣く!?」

「っ! な、泣いてなどいない……」


 自然と涙が出てしまった。慌ててそれを拭き取ると刀夜殿は慌てた様子で抱き締めて来た。


「だ、大丈夫だ! 何か知らないが何とかするから!」


 …………やはり刀夜殿は優しい。相変わらず鈍いけどそれでもきちんと言えば何かしてくれるのかもしれない。

 でもそこに甘えるのは駄目な気がした。私自身が変わらないといけないのに刀夜殿は多分自分が変わるように努力してしまうから。


「…………刀夜殿、この問題は私が何とかさせて欲しい」

「え、お、おう?」


 刀夜殿に好かれる為に私がしないといけないのはもっと女の子らしさを磨くことだ。刀夜殿は確かに私のことが好きなのかもしれないがそれだけじゃ足りない。

 抱き締めてもらって勇気はもらった。後は私の気持ち次第だ。


「ありがとう刀夜殿」

「…………あぁ」


 刀夜殿は何か言いたそうにしていたが黙って私を見守ってくれた。

 私はすぐにアリシア殿に駆け寄った。


「アリシア殿!」

「うん? あ、コウハさん。刀夜くんから話は聞けた?」

「うむ! それで頼みがあるんだ!」

「頼み?」


 私はキョトンとするアリシア殿に勢いよく頭を下げた。


「私にオシャレの仕方を教えて欲しい!」

「えっと……お、オシャレ?」


 そう、まずは私は女の子らしくする振る舞いから覚えるべきだ。だから形から……格好から入ろうと思ったのだ。


「以前刀夜殿にスカート姿を見せていただろう?」

「う、うん」

「わ、私も女の子として刀夜殿に意識されたいんだ!」


 刀夜殿がたまに見せてくれるような……。アリシア殿にはいつもしているような甘えてくれる方法が知りたい。


「充分してると思うんだけどね……」

「そ、そんなことはない!」


 だって刀夜殿は私にはその……甘えてくれないし。


「私は男勝りでがさつで……女らしさなんて微塵もないじゃないか……」

「そんなことないと思うんだけどね。ならこういうのはどうかな?」


 アリシア殿はこっそりと耳打ちで教えてくれる。


「膝枕してあげたらどうかな? 刀夜くん眠そうなのにいつも起きてたりするから」

「それはそうだが……」


 確かにそうなのだがそれは女の子らしい項目に入るのか?


「コウハさんがどういう気持ちで刀夜くんに女の子として見てもらいたいのかよく分からないけどしてみると何か分かるかもしれないよ?」

「そ、そうか?」


 確かにしてもいないのに否定は出来ない。でも刀夜殿はさせてくれるだろうか?


「甘えてくれない人けど甘えさせたいよね」

「そ、そうだな」


 確かにその通りかもしれない。刀夜殿が甘えてくれないのだからこっちが甘えさせてもらうしかない。

 でもそれをアリシア殿が言うのか? アリシア殿もあまり刀夜殿に甘えていない気がする。刀夜殿ももっと甘えて欲しいと言っていた。


「…………」

「うん? どうかした?」

「い、いや。なんでもない」


 私達はどうも甘えるのが下手のようだ。だから刀夜殿も私に甘えてくれないのだろうか? もしかして私に足りないのは女らしさじゃなく甘やかし方なのか?


「そ、それじゃあ行ってみる!」

「うん。頑張ってね」


 アリシア殿は優しい。多分自分もしたかっただろうに。

 アリシア殿の分まで頑張ると誓って私は再び刀夜殿に会いにいった。


「コウハ? どうした?」


 少し心配そうな表情を浮かべる。先程泣いてしまったせいだ。


「と、刀夜殿!」

「お、おう」

「ひ、膝枕させて欲しい!」


 単刀直入にお願いしたところキョトンとされてしまった。


「えっと……ん? 悪い、全く意味が分からないんだが。膝枕……させて欲しいのか? して欲しいのではなく?」

「う、うむ、させて欲しい」


 やはり変だろうか? 今の私は自分で何をしているのかよく分かっていない。刀夜殿もこんな私では幻滅してしまうかもしれない。


「…………まぁいいんだけど」

「ほ、本当か!?」

「お、おう……。そんなに張り切らなくてもいいだろうに」


 や、やった! 刀夜殿が甘えてくれる!

 ソファに座ると刀夜殿も隣に座り横になる。私の太ももに頭を乗せたまま固まってしまう。


「えっと……ここからどうすりゃいいんだ?」

「え? さ、さぁ……」

「いや、何の為に膝枕したんだよ」


 た、確かにそうなるんだが何の為と言われても……。あ、理由ならあった。


「刀夜殿あまり寝ていないだろう?」

「寝落ちしたのは悪かった」

「い、いや、嬉しかったからいいんだ。でもどうせ眠るなら今日も無理せずに眠って欲しい」


 そしてもっと甘えて欲しい。甘えるのが苦手な刀夜殿にももっと甘えてもらえるような私でいたい。

 刀夜殿は少し優しい笑みを浮かべるとそのまま目を閉じてくれた。


「珍しいな。お前がそんなこと言ってくるなんて」

「そ、そうか?」


 自分らしくないことなんてもう分かっている。でも刀夜殿はそれでも受け入れてくれるのだろう。


「普通に寝るなら夜に寝ろとか言うかと思ってたけどな」

「た、確かに夜に寝て欲しいがそれでも刀夜殿は直さないだろう?」


 ルナ殿でも無理なのだ。私など言っても無駄だろう。


「んー…………夜中はエッチしてるしな」

「い、今はそういう話じゃないだろう!?」

「いや……まぁそうかもな。でも実際したいたろ?」

「それは……そうだが」


 愛し合っているのだから当然したい。でもそれを口にするのは恥ずかしいから言えないだけだ。


「コウハもやってる最中可愛いからな。やめられん」

「な、何を言ってるんだ急に!」


 刀夜はくすりと笑みを浮かべる。今日の刀夜殿は少し意地悪だ。


「まぁ恥ずかしい話は置いておいたとして。俺はこのまま眠らなきゃならないのか?」

「う、うむ……」

「もうちょい膝枕を楽しみたいんだがなぁ……」


 そういえば刀夜殿はよく言う。確か寝てる間にキスしてもそうだったはずだ。起きてる時にしてくれないと刀夜殿が楽しめないと。

 されてることに怒るわけでもなく、ましてや注意するわけでもない。ただ自分も参加したかったというただそれだけ。


「楽しみたいって……私の膝枕など大したことはないだろう?」

「え? 何でだ?」

「ルナ殿やアリシア殿の方が……」


 刀夜殿はキョトンとしている。何を言ってるのか分からないという感じで。


「ルナやアリシアも確かに膝枕は気持ち良いが、嬉しさはお前も変わらないぞ?」

「そ、そうなのか?」


 変わらない!? そんなことはないはずだ!


「わ、私なんだぞ!?」

「……? だから何だ?」


 まるで2人と差異がないかのような言い方をされてしまった。でもそんなことはない……はずだ。だって私は女らしさの欠片もないじゃないか!


「わ、私は男勝りだし……がさつだから……」

「そうなのか? あー、まぁ確かに気が強いし不器用だな」

「…………そうだろう?」


 改めて言われて傷付いた。でも事実だ。受け入れなければならない。


「でも普通に可愛いと思うんだがな」

「え?」


 かわ……いい? 可愛い!?


「そんなに気にすることか? 俺は女らしさとかよく分からないしな。何気にしてるのか分からんがお前はお前だろ?」


 私は大きく目を見開いた。たったの一言だった。

 私は私。そうだ……私は今この状態で愛されている。そして刀夜殿は私達に特別な感情を抱いているとはいえその差はないのだろう。

 簡単なのだ。人の気持ちは難しく複雑だけど……それでも簡単なのだ。

 喜怒哀楽。そこに差はあれど大きく分けられる感情だ。


「刀夜殿は……私のことをどう思ってるんだ?」

「好きだぞ? 何当たり前のことを言ってんだ?」


 知っていた。知っていたのに忘れていた。刀夜殿がどういう人かを。


「…………」

「うえ、ちょ、え!?」


 目頭が熱くなる。悔しい涙じゃない。悲しい涙じゃない。嬉しい涙だ。


「私でも……もっと好きになってくれるか?」

「あ、当たり前だろ!? うぇ!? ちょ、な、何で泣いてるんだ!?」

「刀夜殿!」


 私は刀夜殿をつい抱き締めてしまう。自然と胸を押し付けてしまう形となってしまったがそれでも私は刀夜殿を抱き締められる喜びでそこまで頭が回らなかった。


「うぷっ!? んー! んんぅー!」

「刀夜殿刀夜殿刀夜殿!」

「…………刀夜死に掛け?」


 アスール殿がやってきて状況を見るなりそんなことを言ってくる。し、死に掛け?

 刀夜殿は親指をグッと立てて何かをアピールするとそのまま力無く倒れた。


「と、刀夜殿!?」

「…………おっぱいに埋もれて死んだ。……これぞ男のロマン」


 刀夜殿はまるで死んだように動かない。でもその表情はどこか満足げだった。

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