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特別編コウハ視点第1話 赤い髪の努力家

 私は強くならなければならない。だって私は独りだから。誰にも頼ることなど出来ない。そう、出来ないとそう思っていた。


「コウハ、これ見てみろ」

「うむ」


 それが今では気付けば3人の仲間と大切な恋人に囲まれている。人生何があるか分からないとはよく言ったものだ。

 刀夜殿が見せてくれたのは特技の本だった。数ある剣の特技からわざわざ大剣の項目を見つけてくれたのだ。


「破壊の断罪……」

「あぁ。独りで使うにはあれだがパーティーメンバーがいるなら使えると思うぞ」


 隙が大きい分、威力も大きい技だった。前の私ならこんなもの覚えようとも思わなかっただろう。


「特技はまだよく分からんな……」


 刀夜殿は魔法に関しては覚えるのが早いが特技は別のようだ。完璧じゃないのだろう。そういう当たり前のことも刀夜殿といると忘れそうになる。

 刀夜殿は私が知る中でも本当に最強だ。鍛冶師という不遇の職業を持った中でそれに戦闘による価値を見出した。

 刀夜殿曰く、異世界の最強職は鍛冶師ということらしい。私もそれは同意するくらいに凄い職業であると思う。

 でも私もそこに並びたい。刀夜殿といつでもそばに居られるように強くなりたい。

 昔は頼る人がいなかったからなのに今では大好きな恋人の為に強くなりたいと思っているのだから本当に私の心は移ろいやすいのだろう。


「刀夜殿」

「ん?」


 私は刀夜殿を呼び掛けると本から顔を上げてキョトンとした表情を浮かべた。

 ルナ殿やアスール殿、アリシア殿が言っていたこともよく分かる。刀夜殿は童顔であどけない顔立ちに加えてこの仕草は可愛いと思う。

 私はあまり刀夜殿のことをよく知らない。告白したあの時から今も新しいものを見てばかりだ。


「私のこと、どう思うだろうか?」

「ん? どうってのは……戦い方の話か?」


 ちょっと言葉足らず過ぎた。想いを伝えるのは難しい。


「そうではなくてだな。あの……私の髪とか…………気持ち悪くないだろうか?」


 真っ赤な血塗られたような髪は私が孤独になった原因。私のこれは神の怒りの体現らしい。

 刀夜殿はこの血のような髪をどう思うだろうか? 怖くはないのだろうか?


「気持ち悪い? そんなにサラサラしてて気持ち悪いのか? 風呂入るか?」

「え、い、いや」


 一体何の話だ? お風呂? 何故いきなりお風呂の話を?


「と、刀夜殿は一緒に入りたいのか?」

「そりゃあもう」


 刀夜殿はこういうところが大胆だ。どうしてこんなにも当たり前のように肯定出来るのだろうか。

 私も本音のところは一緒に入りたい。もっとそばにいたい。一緒にいたい。愛して欲しい。

 でもそれを羞恥心が邪魔をしてくる。だからあまり甘えられない。


「で、でも私の髪は気持ち悪いだろう?」

「髪が気持ち悪いのか? 洗ってやればいいのか?」

「え? あ、ち、ちが! そうではなくてだな!」


 刀夜殿は勘違いしている! 髪が気持ち悪いってゴワゴワしてるとかそういう話じゃないんだ!


「コロシアムでエルフ族が言っていただろう? 私の髪は血塗られた神の怒りの体現者だと」


 刀夜殿はそれに関して怒ってくれた。それが嬉しかった。

 でも髪については何も触れられてない。実は刀夜殿もこの髪のことが嫌いだったりしないだろうか?


「あー、言ってたなそんなこと。何言ってんだかって感じだけどな」


 信仰心の強いエルフ族だからこその感性だ。刀夜殿には分からない感覚なのだろう。


「そ、それで……私の髪は気持ち悪くないだろうか?」

「あぁ、そういうことか」


 ようやく話を理解してくれたみたいだ。刀夜殿も少し天然が入っているからな……。いや、これは私が遠回しに聞いてしまったせいだ。

 刀夜殿は何て言うんだろうか? 私の髪は気持ち悪いと思っているのだろうか? 不安に思っていると刀夜殿の手が伸びてきた。


「こんな綺麗な髪なのに何言ってんだろうな。アホなのかと思うけどな」

「え?」


 き…れい? 私の髪が……綺麗?


「な、な、な!」

「うぉ、ど、どうした? いきなり顔真っ赤になったぞ?」


 私の髪が綺麗なんてことあり得るはずがない! だ、だってこんな真っ赤な髪はおかしいじゃないか!


「あ、赤いんだぞ!? 血と同じ色なんだぞ!?」

「いや、俺別に血液恐怖症とかないけど?」

「そういうことじゃなくてだな!」


 刀夜殿に上手く話が伝わらない! 私が悪いのか!? 刀夜殿が天然なのか!?


「私のこの変な髪を見て何とも思わないのか!?」

「え? …………綺麗だな?」

「違う!」

「違うのか。えっと……あ、前髪切った?」

「それも違う!」


 刀夜殿本気で……本気で何とも思ってないというのか!? だってこんな髪の色をしている人はどこにもいないのに!

 刀夜殿は首を傾げてよく分からない様子だ。本当に何とも思ってないのか?


「何に悩んでるのかはよく分からんが、普通に俺はこの髪綺麗だと思うけどな」


 刀夜殿は私の髪を少し手に取りそんなことを言ってくる。刀夜殿は本当に何とも思っていないというのか!?


「…………なら証拠を見せて欲しい」

「証拠って。どうすりゃいいんだ?」

「そ、それは……」


 でもそんなことでもないと信じられない。今までどんな人でもおかしいと言ってたのに。そんなに突然に綺麗だと言われても信用出来ない。


「あ、じゃあこれでいいのかは分からんが」

「え?」


 刀夜殿は私の髪を手に取ると優しくキスをした。え? き、キス?


「な、な、な、な!?」

「これでも信用出来ないか?」


 刀夜殿は何故そんなことを!?

 いや、理由なんて分かりきっている。刀夜殿は本当に私のこの髪が怖くないんだ。


「仕方ないな……」

「ちょ、と、刀夜殿!?」


 私が返事に戸惑ってしまったからだろう。刀夜殿は私をお姫様抱っこで持ち上げるとそのままソファへと連れていかれる。


「ほれ」


 刀夜殿はそのまま座ると私を膝の上に乗せる。そのまま後ろから抱き締められる。


「アリシアにもたまにするんだがな。どうだ?」

「どうって……は、恥ずかしいだろう!?」


 アリシア殿もこんなことをしてもらっているのか!? な、なんて幸せな……!


「刀夜殿、や、やっぱり離して欲しい」

「…………そんなに嫌か?」

「い、嫌なわけじゃない! でも……その、してみたいことがあるんだ」

「してみたいこと?」


 刀夜殿の抱擁をやんわりと引き離すと私は隣に座る。そして刀夜殿の肩に頬を預けた。

 抱き締めたりするのはまだ私には早い。絶対にテンパってしまうから。


「こんなのでいいのか?」

「うむ……幸せだ」


 いつまでもこうしていたい。私は刀夜殿のそばでこうしていられるならエルフ族に嫌われたって関係ない。

 私にとっての仲間はエルフ族じゃない。ルナ殿達だ。そして一番大切な人が刀夜殿だということだろう。

 私の髪は怖くない。気持ち悪くもない。普通に受け入れてくれる刀夜殿の側が一番落ち着く。


「じゃあこうしてていいか?」

「う、うむ!」


 刀夜殿は私手に自身の手を重ねる。手を繋ぐというたったそれだけの行為。もっと凄いことを経験しているはずなのに私の心臓は自然と高鳴った。


「ふふ……」

「いきなりどうした?」

「いや、幸せだったからつい」


 本当につい笑みが溢れてしまう。それだけ刀夜殿とこう出来るのが嬉しい。

 こういう普通の恋人のようにするのが憧れだった。私を受け入れてくれるような人はいないと思っていたから。

 コロシアムのあの時、刀夜殿を頼りにしていなければこの温もりは味わえなかっただろう。

 そう思うとゾッとした。私がもしエルフ族を見限っていたらコロシアムのことなど気にもしなかっただろう。

 そうなれば刀夜殿と会うこともなかった。あの選択が私にとっては好機だったのかもしれない。

 突然、頭に少しの衝撃が。何事かと思えば刀夜殿がこちらに倒れてきていた。私の髪に頬を預けて静かに寝息を立て始める。

 寝落ちしてしまったのか。つまりそれだけこの体勢が気持ち良かったということか。私が側にいてもこうして無防備な姿を晒してくれる。


「徹夜明けなんだろうな……」


 それなのに私の言葉を聞いてくれて。そして解決してくれた。やっぱり刀夜殿は流石だと思う。

 私も刀夜殿のような人になれるだろうか? 誰に対しても優しいことを無自覚で行えるようなそんな人に。


「多分難しいだろうな……」


 それが出来れば苦労はしない。あっさり出来ないことをさも当然のようにするから刀夜殿は凄くて魅力的なのだろう。


「すー……すー……」

「ふふ……」


 それにこうして与えてくれるのは嬉しい。起きたら刀夜殿は謝るだろうけど私はこれだけでもう満足だ。

 アスール殿みたくもっと色々と要求してもいいのだが、それをするには私の心はまだ羞恥心に耐えきれそうにない。

 身体だけじゃない。心も強くならないと刀夜殿には追い付けない。それくらいの差が私と刀夜殿にはある。


「ただいま……? 刀夜くん寝ちゃったの?」

「あ、アリシア殿。おかえり」


 買い物に行っていたアリシア殿が戻ってくる。ルナ殿とアスール殿は一緒じゃないのか?


「あ、2人は別のお買い物もあったからそっちに行ってるよ」

「どうして私が考えてることが分かったんだ?」

「うーん、なんとなくかな。聞きたそうだったから」


 不思議な能力でもあるのかと思った。


「ふふ、可愛い寝顔…………」


 アリシア殿は刀夜殿の寝顔を覗き込んではうっとりとした表情を浮かべた。そして優しく刀夜殿の頭を撫でる。


「飲み物入れてくるね。何がいい?」

「あ、で、ではコーヒーを」

「うん。ちょっと待っててね」


 アリシア殿はにっこりと微笑みながらキッチンの方へと向かった。

 私にはあの気遣いは出来ない。アリシア殿は女の子らしい雰囲気で世話好きで優しい。私とは正反対だ。


「…………」


 確かに刀夜殿に追い付きたい。でもそれ以上に刀夜殿に好かれたい自分でいたい。だからああいう女の子らしさも覚えた方がいいような気がした。

 私に出来るだろうか? 不器用で男勝りな私に。

 きっと向いてないって思われるかもしれないけど。でもそういう努力をすることは間違っていないはずだ。

 私はみんなに勝てない分、そういう努力で補わないといけない。もっと刀夜殿の隣に似合う素敵な女でありたい。


「頑張らないと……!」


 私は決意を新たに刀夜殿がもっと好いてくれるよう努力することを決意した。

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