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第8話 世話好きルナさんのマッサージは気持ち良い

 ルナもようやく落ち着いて勉強を再開する。とりあえずルナ、顔を赤くしないで欲しい。俺も思い出して赤くなっちゃいそうだから。

 ひとまず俺はこの世界の文字を全て書き出して覚えるという安易な手を取っている。これくらいしか暗記方法が思い付かない。


「ご主人様、ご質問よろしいでしょうか?」

「ん?」

「あ、す、すいません。お邪魔してしまって」

「いや、それは構わないが、どうした?」


 ルナは遠慮ばかりだな。こういう時くらい別にいいのに。


「えっと……その……ご主人様の世界は平和ながらも偽りの多い世界だったと感じたのですが」

「あぁ、その認識で間違ってないな」

「ですがその、ご主人様はとても嘘を付かれているようには思えないのですが」

「あー、俺は変わってるからな。俺のいた世界を基準に考えちゃ駄目かもな」


 周りからも浮いていたしな。良い意味でも悪い意味でも。ルナの言う通り俺はそういうことから日本で馴染まなかったのだろう。だから友達も少なければ付き合いもない。

 引きこもりとまではいかないが人を避けていたという節はある。信用出来ず、騙されるのが怖かったからだ。


「ご主人様……」

「おっと、泣くなよ? 俺には俺の幸せがあったしやりたいこともあった。特別俺が不幸だったわけでもない」


 俺より酷い奴もいた。親を亡くした俺とは違って殺されている奴とかな。そんな奴は人を恨んでいたりしたかもしれない。


「はい……ですがこれだけは言わせてください」

「何だ?」

「私はいつでもご主人様の味方です。ですからいつでも頼ってください……」

「お、おう」


 相変わらず優しいルナさんであるが、こう涙脆いしちょっとチョロくないか? 色々心配になってくる。


「あの……ご主人様」

「ん? まだ何かあるのか?」

「いえ……マッサージなどいかがでしょうか?」


 そういえば得意と言っていたな。しかしこのタイミングでか?


「少しでもご主人様に癒されて欲しいんです。お願い致します」

「それ普通俺が頼む方だと思うんだけどな……。まぁいいか。それじゃあ頼めるか?」

「っ! はい!」


 だから自分がやるのに何でそんなに嬉しそうなんだよ。この人世話好き極め過ぎてないか?


「ではベッドにうつ伏せになってください」

「了解だ」


 ルナの指示通りにベッドにうつ伏せになる。さて、何してくれるんだろうか? 背中を指圧とかしてくれるのだろうか?


「本当は肌に直接触れた方が良いのですが……は、恥ずかしいのでこのままで……」

「あ、あぁ」


 俺もこのぶよぶよの身体を見せるのは恥ずかしい。いや、この世界の人間が妙に筋肉質で良い身体をしているのだから仕方ない。自信無くなっちまう。


「では行きますね」


 ルナが俺の肘から肩へ、肩から背中へ、背中から腰へと順に撫でていく。気持ち良い。自然と身体の力が抜けてくる。


「どうですか?」

「気持ち良い……」


 ルナがこんなにマッサージが上手いとか。むしろプロなんじゃないか?


「ご主人様が癒されてくださって私も嬉しいです」

「最高だ……もうルナ無しでは生きていけない……」

「な、何を言ってるんですか突然……」


 だって事実だし。昨日から世話になりっぱなしで俺は何も返せていない。ルナの為に俺は何が出来るだろうか?


「それに……私もご主人様無しでは生きていけません」

「お前はそんなことないだろ?」

「そんなことありませんよ。頑張っているご主人様はとても素敵で格好良いです」


 ルナは人の心を掴むのが上手い。こういうことを言われたら照れてしまうだろうに。いや、それは俺が童貞だからか?


「ルナだって綺麗だし優しいだろ?」

「そんなことありません!」

「俺だってそんなことないだろ?」


 と、このまま言い合っても仕方ないな。


「ま、まぁ互いに素敵だという結論で終わらせておこう。一緒平行線を辿りそうだ」

「そ、そうですね」


 お互い照れてしまう。何だろうかこのむず痒いような空気は。


「あ、指圧致しますので痛かったら言ってください」

「あぁ」


 続いてルナは指圧で的確に俺の背中のツボを突いてくる。気持ち良い。


「どうですか? 痛くありません?」

「丁度良いし気持ち良い……」


 ルナは何をしても完璧だな。このまま寝てしまいたいくらいに気持ち良い。


「あぁ、そうだ。ルナ、風呂入った後に髪を梳かせてくれ」

「髪を……ですか?」


 ささやかなお礼だ。昔はおばさんの髪を良く梳いたものだし、腕は確かなはずだ。


「もちろん触られるのが嫌だっていうならやらないぞ? でも流石に俺もやられっぱなしってのはちょっとな。俺もルナを癒したい」

「そ、そうですか……。で、ではお願い致します」

「あぁ、任せてくれ」


 良かった。少なくとも触られるのを嫌だとは思っていないらしい。ここで触るなとか言われたら俺泣く。間違いなく。


「ご主人様はお得意なのですか?」

「まぁな。前は結構やってたしな」

「そうなのですか。た、楽しみにしております」


 あ、そういや風呂で思い出した。着替えないんだよな。


「ルナ、俺の分の服って魔法で作れたりするのか?」

「服ですか? はい、もちろん作れますが……その……私が寝てしまうと魔法が解けるので……」

「あー……その辺りは仕方ない……な」


 でも朝起きて男女が裸で寝てたらマズくね? もしかしなくても結構ヤバイ状況だったりするのだろうか?


「それと俺が文字を読めるようになった後でいいんだが俺にもその魔力装備生成魔法だったか? 教えてもらえないか?」

「はい。ご主人様は鍛冶師ですのでこの魔法を最も使える職業かと思います」


 確かにそうだろうな。そもそも何故ルナがこの魔法を覚えているのかが分からない。


「剣とか、そういう武器関係も作れるのか?」

「はい、問題ありません」


 なるほど。確かに使える魔法だな。むしろ極めたら強いまである。


「他に何か覚えるべき魔法もあるだろうしな……。とりあえず鍛冶師の能力を優先させるべきか……」


 他のものを覚えるよりも先に鍛冶師であることを大前提に動くべきだ。戦場でどう役に立つのかは後々考えるべきだろう。


「ふふ……。ご主人様、背中は以上になります」

「ん? あぁ、ありがとな。かなり気持ち良かった」


 上体を起こすとルナは満面の笑みで俺の足を手に取った。


「えっと……?」

「次は足のマッサージを致します」


 どうやらまだ続けてくれるらしい。でも流石にルナもしんどいだろう。


「いや、もう充分だぞ?」

「やらせてください。ご主人様の疲れを取ることが私の癒しなんです」


 だからこの人はもう……。俺は自分でも意図せず手を伸ばしてルナの頭を撫でていた。


「あ、あの、ご主人様?」

「あー、いや、悪い。あまりにも良い子過ぎてな。そこまで言うならしてもらおうかな……?」

「はい!」


 めちゃくちゃ嬉しそうだった。しかし足ツボか。ちょっと怖いな。結構痛いって聞くしな。


「では始めていきますね。痛かったら言ってください」


 言いながらルナは俺の足裏を指圧してくれるわけだが……全く痛くない。それどころか気持ち良い?


「力加減はどうですか?」

「丁度良い……」

「ふふ、では続けますね」


 ヤバいな。もう本当に寝てしまいたくなるがそれは駄目だな。


「悪いルナ、このまま勉強してていいか?」

「え? あ、はい。もちろんです」


 俺は俺の出来ることをしなければ早くルナに楽をさせてあげたいしな。俺が負担になっているだろうしな。

 勉強道具を取るとルナがマッサージを再開する。あぁ、気持ち良い。


「ん?」


 そこでふと気付いてしまった。これは……。

 ゆ、揺れとる!? ルナさんの豊満なお胸が上下にボヨンボヨンしてらっしゃる!? それに上から見下ろしてるから谷間も見えて!?

 い、いかん。これはもう勉強どころの話ではない。このアングルは危険過ぎる。ど、どうすれば!?


「る、ルナ」

「はい? あ、痛かったですか?」

「い、いや、そうじゃなくてな。その……」


 い、言うべきか? いや! もっと見たい! もっと見たいが……!


「そ、その、む、胸がな……」

「胸……? っ!?」


 しかしここで言わないのはルナの好意を無駄にしている気がしてならない。くそ、もっと見たかったが仕方ないので指摘した。


「す、すみません……見苦しいものを」

「いや、だから何度も言うけど大変素晴らしいと思います……」


 あの胸に顔を埋めてたわけだが……。ヤバい思い出したら息子さんがとんでもないことになりそうだ。別のことを考えねば。


「と、とりあえず勉強に集中する」

「は、はい。マッサージはこうやって致しますね」


 ルナは大勢を変えて俺の股の間に入って背を向けた。確かにこれなら胸を凝視することもないだろう。非常に残念だが!

 ルナに足ツボを刺激してもらいながら勉強を続けていると急にグーっと腹の虫が鳴る。そういえばもうお昼時か。


「ん?」


 見るとルナが顔を真っ赤にしていた。ま、まぁ恥ずかしいのは分からなくもない。


「腹減ったな。またあの料理食べに行くか?」


 聞かなかったことにして流した。流石にそれくらいは童貞の俺にも分かる。これは触れちゃいけない。余計に辱めるだけだ。


「は、はい……お願い致します……」


 やっぱりあの海鮮丼好きなんだな。確かに美味かったから俺も別に構わないが。食に興味があまりない俺には正直栄養さえ補給出来れば何でも構わない。


「それじゃあ行くか」

「は、はい! 食べ終わった際にはまたマッサージを再開致します」

「いや、そこまでしてもらうのは流石に……」

「だ、駄目……ですか?」


 上目遣いで聞かれた。こりゃもう駄目だな。


「お、お願いします」


 上目遣いは反則だろう。俺はもう受け入れるしかなくなる。とりあえずルナさん可愛過ぎである。

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