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特別編アスール視点第3話 のんびりとした時間

 人は1人では生きれない。なんて事はない。外にいる魔物を倒せば簡単に素材は手に入る。それを調理することも出来れば生きることなど容易いことだろう。

 でも刀夜の世界では違ったらしい。人は1人では生きられないらしい。


「俺の話なんてくだらないだろ?」

「…………そんなことない。……刀夜の世界のこと、もっと知りたい」


 本当はそれを通して刀夜のことを知りたい。刀夜がどういう世界で生きてきたのか。どういう感性をしているのかを。

 刀夜からの話では地球というのは色々な人種がいるらしい。黒い肌の人もいれば白い肌の人もいる。金髪だったり白髪だったり。

 そんな多種多様でありながら手を取り合って生きているらしい。

 仮に1人で暮らせるか聞いてみたところはっきりと無理だと答えられた。でもそれは言葉の意味次第ということらしい。


「人は1人では生きられない。そんな言葉はある。でもな、1人では生きられなくても独りで生きていかないといけないこともある」


 1人と独り。言葉としては若干のニュアンスの違いだろうけど意味は大きく変わる。


「例えば食料を作る奴もいれば電気を供給する奴もいる。水をろ過して家庭に届ける奴もいる。どいつもが関わりがなくともそれがなければ人は生きれない」


 刀夜の世界では科学技術というのが発展している。それを中心に世界は回っているらしい。だからその供給を絶たれたら終わるとのこと。

 だから直接関わりはなくとも1人では生きていけないのだ。しかし関わりがないからこそ独りということ。


「…………刀夜は?」

「ん? 俺か?」

「ん……刀夜は独りだった?」

「もちろん」


 刀夜には親がいないのだから必然的に独りになるらしい。

 デートの時にも思ったけど刀夜はそういうのをよく経験している。色々な経験があるからこそ自分の意見をしっかりと持っている。

 周りに流されるなんてことがないのはそのせい。同時にちょっと浮いてる気がした。

 刀夜の世界ではそういったことに敏感らしい。人というのは自分の理解の範囲外の人間には恐怖するもの。そして同時に他者を蔑むことで自分の心を保つ生き物らしい。

 この2点があるからこそ刀夜は自分の世界では馴染めなかったらしい。確かに刀夜は人に合わせるのは苦手だろう。そして環境が人が蔑むのに充分な理由を整えてくれていたのだ。


「…………施設? の人は?」

「あー…………確かに俺の親代わりといえばそうだが。でも実際は金と評判を気にしたジジイとババアだぞ?」

「…………そう」


 刀夜が珍しく酷い言い方をした。いや、珍しくはない? 色々な人にそう言うし。

 多分刀夜が話している以上に酷い人だったのかもしれない。だからこそ刀夜は強くなった。強くならざるを得なくなった。


「まぁ俺はそんな感じだ。つまらないだろ?」

「…………そんなことない。……また聞かせて欲しい」

「機会があればな」


 そう言ってはぐらかす。刀夜は多分言葉を選んでいる。だからそこまで酷い印象にならない。

 でもそこまで酷い印象にならないという程度になってしまっているということは本当に救いようのない現実を経験しているのだろう。

 刀夜は私とは違う。怖がられていた私とは。直接被害に遭っているのだから。私も石を投げられたことがあるけど。


「…………刀夜、甘えて」

「え? 何だいきなり?」


 ただ刀夜はそういう人に甘えるという事をしてこなかった人だ。私は昔色々してもらった経験があるけど刀夜にはないのかもしれない。

 だからだろう。今刀夜に甘えて欲しかった。デートの最後にも感じた愛おしい気持ち。それをまた満たして欲しい。

 刀夜が幸せなら私も幸せ。だから今まで辛かった分、沢山甘えてたくさん笑って欲しい。


「…………はい」

「何故手を広げる。だ、抱き付けと……?」

「ん……そう」


 手を広げていつでも刀夜を抱き締められる体勢を取る。刀夜は盛大に溜息を吐いていた。


「何を考えてるのかは知らんが恥ずかしいしまたルナに怒られるぞ?」


 ルナは今はお買い物中。それもご飯の。荷物持ちはいらないとのことなのでこうして2人で待っているのだ。


「…………前のデートではお昼寝出来なかった」

「あー、そういやそうだな」


 今が丁度良い機会。刀夜が寝てくれてる間にルナに事情を説明すればきっと分かってくれる。

 ルナは刀夜の1番になりたいだけで私のことを嫌いになってない。だから多分受け入れてくれる。ルナも良い人。


「ん…………前の続き」

「いや、でもな……」


 刀夜は渋っている。ちょっと不安。


「…………私も一緒にお昼寝したくない?」

「それはない」


 間髪入れずに否定がきた。早い。最速だった。


「じゃ、じゃあ……」


 刀夜は遠慮がちに私に近付いて頬を赤く染めながら抱き付いてくる。はあ…………幸せ。


「ん……寝転がる」

「あぁ」


 私は刀夜を胸に抱き寄せながらそのままソファに寝転がった。刀夜とこう出来る時間は貴重だ。これを機会に私も幸せになりたい。


「…………気持ち良い?」

「あぁ。すぐに眠くなってくるな」


 刀夜はよく徹夜する。昨日もずっと起きてたみたい。だから今日はこうしてのんびりしながら一緒に眠りたい。


「…………よしよし」


 刀夜の頭を優しく撫でると刀夜の目がうつらうつらとしてくる。


「悪いアスール。本気で寝そう……」

「ん…………問題なし」


 刀夜の頭を優しく撫で続けると刀夜の目が完全に閉じられる。少しして気持ち良さそうな寝息が聞こえてきた。

 私のおっぱいに頬を押し付け、心地好さそうに眠る刀夜。寝顔可愛い……。

 もっと刀夜を甘やかしたい。その為にもルナみたいな包容力が欲しい。


「んぅ……好き………」


 刀夜が寝言で告白しながら私の背中に手を回してギューっと抱き締めてくる。

 こ、これは破壊力抜群。胸がドキドキしてしまう。

 このドキドキで刀夜起きない? 平気?

 私も刀夜の背中に手を回すとギューっと抱き締める。最高の抱き枕みたい。こんなに幸せになれる抱き枕があるならどれだけ高額でも買ってしまいそう。


「…………ふふ」


 寝顔可愛い。頬をツンツンとつつく。


「うぅん……やぁ……」

「…………嫌?」


 刀夜が胸に顔を埋めて寝顔を見えなくする。多分頬をつつかれるのが嫌だったんだと思う。そういう子供らしい仕草も可愛い。

 頬をつつくと起きてしまいそうなので今度は優しく頭を撫でた。これで警戒心を解く。もう既に寝てるから無防備だけど。


「…………おっぱい気持ち良い?」

「すー……すー……」


 聞いても答えてくれない。でもそれで私は満足。こんな時間がずっと続けばいいのに。

 しばらく頭を撫で続けると刀夜は横を向いた。これで可愛い寝顔が見える。

 刀夜の頬に手を添えてみたり口元を指で触れてみたりと普段出来ないことをしてみる。

 刀夜の頬は柔らかい。唇も。ちょっと女の子みたい。


「…………手、繋ぎたい」


 願望を口にすると本当は起きているのではというくらいに簡単に私の手を握ってくれる。刀夜はそれを自分の頬にくっ付ける。


「……可愛い」


 ここまで甘えてくれるのは珍しい。今なら何でも出来るかもしれない。

 私は刀夜を少し強引に持ち上げると顔を合わせる。そのまま目を閉じて少しずつ近付いていく。


「ん…………」


 唇が触れる。触れるだけの優しいキス。でも足りない。もっと触れ合いたい。


「…………刀夜好き」


 更に唇を触れ合わせる。何度も何度も。いつの間にか夢中になってしまっていた。


「ちょ、あ、アスールさーん?」

「っ…………!」


 いつの間に起きていたのか刀夜に声を掛けられて私は我に返った。


「…………顔真っ赤だぞお前」

「……刀夜も」

「俺はそりゃ……」


 恥ずかしい。本当に。まともに刀夜の顔が見れない。つい止まらなくなってしまった。それ程までに刀夜が可愛かった。


「というかそんなキスしなくても……。エロいことしてる時くらいの必死さだったぞ……」

「ん…………テンション上がり過ぎた」


 恥ずかしい。改めて指摘されると余計に。刀夜は乙女心が全く分かってない。そういうのは見て見ぬ振りをするものだ。

 なんて…………キスされまくってる状況で見て見ぬ振りなんて出来ないのが普通。これは私が悪い。


「…………ごめん」

「い、いや、俺も別に悪い気分じゃなかったし……」


 刀夜は私を抱き締めると胸元に顔を埋めさせてくれる。


「顔、恥ずかしくて見れない。こうしてていいか?」

「ん…………嬉しい」


 刀夜の胸に顔を埋める。刀夜は痩せ気味だけど筋肉質な身体付でとても魅力的。抱き締めてもらうと安心する。


「…………怒ってない?」

「あぁ。悪い気分じゃなかったって言ったろ?」

「…………つまり嬉しい?」


 そういうことなの?


「…………恥ずかしいから言わせんな」


 背中に手が回され少し強めに抱き締められる。照れてる刀夜かわゆす。いたずら心がどんどんと湧き上がる。


「…………何なら舌も入れる?」

「入れない。というかもう寝ろ」

「…………刀夜眠れるの?」


 凄いドキドキしてるのが分かる。有翼種の私でも刀夜はドキドキしてくれる。それが嬉しい。

 目を閉じると刀夜が優しく頭を撫でてくれる。私がしたみたいに。これは刀夜にとってお返しなのかもしれない。

 しばらく頭を撫でられているとどんどんと瞼が重くなってくる。もうそろそろ眠れそう。

 刀夜のドキドキもいつの間にか収まっていた。顔を見てみると天井を見上げてボーッとしていた。


「…………どうかした?」

「え? あぁ、いや、何も考えずにボーッと出来る時間は良いなと思っただけだ」

「…………彼女を抱き締めながら?」


 あえて意地悪な言い回しにした。私がいるのにボーッとしているので少しからかいたかった。もう少しときめくような理由が欲しい。


「ここ最近色々と張り詰めた毎日だったからな。こうしてゆっくり出来る時間は良いなと思ってただけだ。それに……まぁ確かに彼女を抱き締めながらだと安心はするかもな」


 予想外の返答に私は目をパチクリ。そして自分でも分かるくらいに頬が赤くなった。


「うお、ど、どうしたいきなり?」

「…………ズルイ」


 本当に刀夜は。乙女心を軽々触れてくる。

 私は顔を見られないように刀夜の胸元に顔を埋める。そのままいやいやと首を横に振ってしまう。


「恥ずかしいのは分かったから暴れるなって」

「…………」


 本当に私は刀夜に引っ張られっぱなしだ。からかってるつもりでもこうしてたまに反撃が入る。

 刀夜は無自覚なのかもしれないけど私の心はいつも落ち着かない。どれもこれも全部刀夜のせい。

 それでも……いや、だからこそ一緒にいたい。刀夜といると新しい自分が見つかる。新しい自分を見つける。

 デートの時にも何度も口にしたこの言葉をやはりはっきりと伝えよう。刀夜が私から離れないように。私が刀夜から離れないように。


「…………刀夜好き」

「あ、あぁ……俺も好きだぞ」


 2人告白し合いながら同じ時間を共有した。

 ちなみにルナが帰ってくるなり流石に怒られるのを分かったのか刀夜はルナも誘って3人でお昼寝した。

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