特別編アスール視点第2話 2人きりのデート
…………本日は晴天。私は刀夜と2人で買い物へと来ていた。刀夜の腕に抱き付いて頬ずりをする。
「……刀夜」
「…………なんだよ」
刀夜は少し恥ずかしげに返事を返してくる。可愛い……。
「…………恥ずかしいならやめる?」
「いや……こうしてたいんだろ?」
「ん……幸せ」
本当に。このままずっとしてたい。でもそれだと刀夜の迷惑になるかもしれない。嫌われたくないから迷惑なら素直にやめる。
「なら別にいいぞ」
「…………本当?」
「あぁ。幸せなんだろ?」
「…………刀夜は無理してたりは」
「してない。こうされるのは男冥利に尽きるしな。それに可愛いからいいぞ」
可愛い! ふふ、私が可愛い。そんなこと言ってくれる人は刀夜以外いない。
「…………」
「どうした? ってすっごい嬉しそうだな」
「ん……嬉しい」
本当に。私の心をいつも穏やかにしてくれるのは刀夜だ。
「そんなに俺と腕を組むのがいいのか?」
「ん……」
嬉しいに決まってる。自分の好きな人がこうしてくれるんだから。
「…………デート」
「デートか。確かにそういうのもいいな」
デート……どんなことをすればいいんだろう? 刀夜はそういうの詳しい?
「でも何すりゃいいんだ?」
「…………知らない」
刀夜も知らないみたい。そういえば刀夜は童貞だったって聞いてた。ルナが初めての彼女?
「…………刀夜は経験ない?」
「デートか? ルナとしたくらいだな。ウィンドウショッピングしてただけだが」
「…………前の世界は?」
前の世界なら沢山してるかも。刀夜がモテないなんて到底思えない。こんなにも素敵な男の子なのに。
「前の世界はそんな余裕もなかったからな。それに友達とかそういうのは少なかったって言ったろ?」
「ん…………言ってた」
そういう経験はないらしい。刀夜なのに。意外だ。
「だから俺はそういうの経験したことがない。リードとか期待してたなら悪いな」
「ん……別に気にしない。…………誰かをお手本にするより私達の気持ちが大事」
お手本にするのは悪いことじゃない。でもそれで私達が楽しめなかったら意味がない。
「そうだな。アスールは何かしたいこととかあるか?」
「…………刀夜は?」
刀夜はこういう時に自分の気持ちを蔑ろにしがちだ。だから逆に聞き返してやる。そうすると何て答えるのか、大体想像が付いた。
「別に俺は何もないぞ?」
多分刀夜はこういうのに本当に慣れていない。だから何をすればいいのか分からないんだと思う。
「それに今日は元々お前にお詫びのつもりで連れてきてるからな」
「お詫び?」
「いや……まぁその……この前ルナに怒られちまっただろ?」
「…………? ……それはエッチしたから」
どちらかというとルナは自分も誘って欲しかったっていう感じだったけど。多分刀夜は勘違いしてる。
「そうなんだよな。やっぱりあの時は駄目だったな」
「…………」
やっぱり。刀夜は怒られた内容をよく分かってない。
「…………ルナが除け者にされたから怒ってる」
「そうなのか? さ、誘えばよかったとは」
「ん……それなら怒られない」
刀夜は少し落ち込んだ様子だった。普段戦闘時には凄まじい程の思考能力を見せるのにこういう時は本当に駄目みたい。
「…………3Pのチャンスだった」
「お、おう」
刀夜は戸惑いながらも返事を返す。私は表情には出さないが少し嬉しくなる。
刀夜とて完璧じゃない。どこか欠けていて人間らしい。親しみが持てるというのはこういうところなんだと思う。
刀夜も焦ったり戸惑ったり。そして喜んだり怒ったり悲しんだり楽しんだりするのだ。
そういう当たり前の感情を持っている。心を閉ざしたから強い訳じゃない。冷たく、容赦がないから強い訳じゃない。
優しく、そして強い。その両方を合わせ持つから刀夜は凄いと思う。
「ま、まぁエロい話は置いておいて。どこか行きたいとこあるか?」
「…………前はウィンドウショッピング?」
「あぁ」
それなら別のことにしないと刀夜が飽きそう。それに私もこの街を見て回っても仕方ない。
刀夜が疲れないようなこと…………お昼寝?
「…………なら別のことする」
「別のこと?」
刀夜はキョトンとしている。恋人がイチャイチャ出来るスポットがあるのを私は知っている。
「…………来て」
私は刀夜を先導しながら目的の地へと向かった。
中央には噴水、それを取り囲むように草花が咲いておりとても綺麗だった。
「ここは?」
「…………有名なデートスポット」
そう言うと刀夜は苦笑いを浮かべた。いきなりなんだろう?
「結局既存のデートメニューになるんだなと思っただけだ」
「…………確かに」
結局何かを参考にした気がした。でも流石にお昼寝目的でここに来る人は少ないと思う。
「で? 何するんだ?」
「…………寝る」
「え、寝る?」
刀夜は驚いていた。確かにデートというのに寝るというのはおかしいかもしれない。
「…………刀夜はお昼寝好き」
「いや、嫌いな奴いないだろ?」
確かに気持ち良い。だから嫌いな人なんていないだろう。
「それで2人で一緒に寝るのか?」
「ん……駄目?」
「いや、どうせやる事もないしな。お前がそうしたいならそうしよう」
やっぱり私を優先してくれる。どうすれば刀夜が私にワガママを言ってくれるんだろう?
「…………ここでエッチ」
「それは無しの方向で頼む」
流石に私もこんな所でしたくはない。みんなに刀夜が見られるのは嫌だ。普通は逆かもしれないけど私はそうだ。
中は案の定沢山のカップルで溢れていた。甘酸っぱい雰囲気が漂っていてとてもお昼寝出来るような環境じゃなかった。
「…………ごめん」
「いや。……でも流石に寝ろっていうのは無茶だな」
刀夜は気にした様子もなく周囲を見回す。そして口元を緩めた。
「良い景色だな」
「ん…………」
刀夜は少し考えると何かを思い出したようにこちらに視線を向けた。
「ん…………?」
「寝るのは無理だが2人きりになれる所に行くか」
「…………そんな所があるの?」
「まぁな」
刀夜は私の手を握ると少し強引に引っ張る。こういう所は男らしい。
「それじゃあ何度も歩かせて悪いが行くか」
「ん……刀夜とならどこへでも」
「な、何だいきなり……」
刀夜は少し照れて視線を逸らす。可愛い……。
刀夜に連れられたのは街から外れた外である。完全に魔物が出る範囲内なのにどうしたんだろう?
「この辺りは街の範囲内だぞ?」
「…………そうなの?」
「あぁ。魔物も全く来ないらしい」
それは誰情報? 異世界から来た刀夜がどうして私も知らない場所を知ってるんだろう?
「ルナに教えてもらった場所なんだけどな」
「……そう」
ルナなら納得。確かに刀夜はこういうの興味なさそうだった。
「ここだ」
刀夜に案内されたのは様々な色の葉や実を実らせる綺麗な自然溢れる場所だった。
「…………確かに綺麗」
「だろ?」
本当に生き物がいない。虫とかそういうのもいないような気がする。
こういう所でお昼寝したら気持ち良さそう。でも刀夜は出来ないって言ってた。
「…………どうしてお昼寝出来ない?」
「何となくここで寝るのは危険っぽいから」
「…………実は刀夜も信じてない?」
魔物出ないんじゃ……? でも確かにシャドウフレイムみたいな魔物がいるかもしれない。
「ここは夜になると街を一望出来るからな。夜に来て見ても面白いかもな」
「…………ロマンチック」
「そうだな」
こういう所で愛の告白とかされたい。でも刀夜は多分無理。
「…………なぁアスール」
「ん…………?」
刀夜は振り返るとくすりと笑みを浮かべた。何か言うつもり……?
刀夜はこういうの苦手。だから期待しちゃ駄目。駄目なのに期待してしまう自分がいる。こういうのが乙女心って言うの?
「俺はさ、この世界に来てもあんまり自分のことを大事に思えなくてな」
「…………それは知ってる」
躊躇いなく1人でシャドウフレイムに突っ込もうとするしルナから聞いたら1人でゴブリンキングにも挑んだとか。
「でもお前らがいるこの世界だと生きていてもいいかなと思える」
「…………刀夜」
それは死にたくない理由にはなってないのかもしれない。でも生きたい理由にはなっていた。
不安になったり悲しくなったり。この世界はいわゆる正の感情よりも負の感情の方が多くくる。
人はそれを仕方ないことだと思うかもしれない。でも刀夜は違うのだ。
数々くる負の感情の中で正の感情を見つけ、それを維持しようと必死になっている。
刀夜の目指す最強はその為の手段なのかもしれない。息をするように最強であることの裏にはそういうものがあるのかも。
「前に言ったろ? この世界に来れて良かったって。多分元の世界よりここの世界の方が良いんだろうな」
「…………そう」
それは私にとってはとても嬉しいこと。それと同時に前の世界では私の想像がつかないくらい酷い目にあってるのかもしれない。
刀夜はどんな風に生きて何を考えて来たんだろう。私のそれと変わらない?
私と刀夜の共通点なんて両親がいないことくらい。感じ方もまるで違うのに。
「だから……」
刀夜は顔を真っ赤にすると視線を逸らし頬をかいた。口ごもっていて本当に恥ずかしそう。
それでも刀夜は決意したような表情を浮かべ、真剣な様子で目を合わせる。
「あり……がとな」
「っ!」
胸が締め付けられるように痛む。それは告白されるよりもより強く私の胸を痛めた。
つい身体が勝手に動いた。刀夜を強く抱き締める。
「あ、アスール?」
「…………刀夜好き」
「え、お、おう?」
胸の内から溢れ出して来て止まらない。刀夜がそんな風に思ってくれてるなんて思わなかった。
刀夜がそこまで大事に想ってくれているなら私は不安になることはない。むしろ刀夜が不安にならないようにきちんと自分の気持ちを示さないと。
だから何度でも。刀夜が認めてくれるまで何度でも私はこの言葉を言う。
「…………刀夜、大好き」
「…………おう」
少し恥ずかしそうにしながら返事を返す刀夜を見て私は胸の内から溢れ出る幸せな気持ちに浸った。
ちなみにその後…………。
「…………」
「えっと……」
家に帰るなりルナがにっこりと微笑んでいた。黒い笑みで。
「2人で……デートしてたんですか?」
「…………そ、そっすね」
「私は除け者ですか?」
「ちょ、ち、違っ!」
ルナが悲しそうな表情を浮かべた途端に刀夜は慌てた様子だった。その様を見て先程の幸せな気持ちとは裏腹に別の感情が芽生えてくる。
「…………2人きりで抱き締め合ってた。……私が1番」
「ちょ、アスール!?」
刀夜はからかうと面白いし可愛い。だからつい困ることもしてしまう。
「…………」
「ちょ、ルナ? な、泣くな? アスールの冗談だからな?」
「ご主人様なんて知りません!」
「る、ルナ……」
プンスカと怒るルナを追い掛けて刀夜も去っていった。ちょっと意地悪過ぎた……?




