第73話 地球の武器は異世界ではあまり通用しない
俺達は現在、コロシアム前の下準備をしていた。どうせコロシアム自体は余裕なのだろうがもっと色々と出来るようにしたいということもあって盛大な準備を始めていた。
「弱っ……」
日本では役に立つであろう必殺の武器も異世界じゃ何の役にも立たない。まぁ分かってて作ったんだけど。
「とても速いですね」
「あっさり躱されて使い物になるか微妙だけどな」
俺が製作したのは拳銃だ。銃そのものを作るのは鍛冶師の領域に反する。魔力装備生成魔法では作れるが構造が複雑な分精製に時間が掛かる上に消費量もなかなかだった。
また、銃弾も製作しなければいけないので長期戦には向いていない。駄目なところだらけだった。
まず初めに銃弾が当たらない。身体強化魔法が相手では普通に反応されるし撃った後の銃弾の軌道すら見抜かれる始末。
ここまで考えて思ったのはまずスピードが足りない。あっさり避けられるのはまず論外。そして次に威力だ。これなら魔法でぶん投げた槍の方が速いし強い。
「うーん…………」
ここまで使い物にならないものとは思わなかった。多分俺も避けれるだろうしな。異世界のものである分意表は付けるだろうがそれ以上の成果は得られない。
「これがご主人様の世界の武器なのですね」
「あぁ……まぁこの世界では役に立ってないけどな」
例えばファンタジー小説でよく銃を持ち出される。それは強いという固定観念があるからだろう。しかしそれはあくまでも創作の中での話だ。現実問題と向き合うと銃はかなりキツイ。
例えば硬度が高い魔物の場合は? 銃弾ではどうしようもない可能性が高い。殺傷能力が高いと言ってもそれはあくまでも人に対して、という点が大きい。
「…………」
恐らく身体強化魔法があるこの世界で人に通じる銃とは何かと聞かれるともう電磁加速砲、いわゆるレールガンしか存在しないのでないだろうか。
しかしレールガンにも弱点はある。それは大量の電力を要するところだ。
この世界では雷魔法がある。しかしその分の消費魔力を考えれば別の手段を取る方が良いのではないだろうか?
「んー…………」
魔力を外気から蓄え、それを撃ち出すようにするか? ライジン装備にも使った武器バージョンだ。
いや、でもそうすると威力が欠ける。魔力というのは単体では攻撃力は低い。更にそこに魔法を付与してしまうと例えば水属性弱点の敵に対して炎属性で攻撃するようなものだ。
決められた属性しか撃てない銃など使用場所は限られてくる。それならばわざわざ作る必要性がなくなるだろう。他で代用出来る。
「どういう武器にしたいんだ?」
「基本的には応用力が高い武器だな。でも水魔法に向けて炎を撃ったとしても無意味だろ? 魔法属性を変えられるようなものはないかと思ってな」
やはり俺の理想は高過ぎるだろうか? コウハも困った顔をしている。
「刀夜くんのことだから多分それも外気の魔力を使おうと思ってるよね」
「そりゃあな。魔力消費ってのは基本予想外の事態な対応する時だけにしたい」
そういう事態が多いのがこの異世界だ。だからこそ事前の準備は万全を期さなくてはならない。
「確かにそうだね……。でもその武器を4つも持つのは多いよね?」
「まぁ基本1つか2つだな。ルナは2つ持っててもいいと思うが」
例えば俺はメインは刀だ。もちろんいざという時の為に中衛に下がれるよう銃は俺の分も作るつもりだが。
前衛職というのはパーティーの要。ここが手薄になるのは避けたい。
「確かにそうですが……魔法が使いづらくなりそうです」
「まぁな。でもそれ以上に援護が望める」
「ねぇ、今作ってる武器は遠距離用には出来ないのかしら?」
遠距離用か。まぁスナイパーライフルとかあるくらいだからな。でも既存の形でいくとやはり攻撃力不足だ。
「出来ないこともないが中距離程効果は望めないぞ?」
「どうしてかしら?」
「例えばだが魔力を撃ち出すとして、多分魔力になるとビームみたいな撃ち方になっちまうと思う。攻撃力が足りないからな。そうなった場合遠距離攻撃をすればどうなると思う?」
俺の質問にマオは形の良い顎に手を当てて少し思案する。
「そうね……軌道がバレバレね」
「そうだな。逆に俺の世界の銃弾っていうのがあるんだが。まぁこんな感じだな」
俺は魔力装備生成魔法で銃弾を作ってみせる。全員興味津々に覗き込んでくる。
「これが銃弾が。この拳銃ってのにこれを装填して初めて武器として使用出来るわけだが」
「えぇ」
「重力と空気抵抗って分かるか?」
この世界じゃ聞き慣れない言葉かもしれない。
「確か特級属性魔法のガイアプレスが重力というものになっているんですよね?」
「まぁそういうことだな。この世界でも多分そうなんだが俺のいた世界は球体だった」
「きゅ、球体ですか?」
俺は丁度近くにあった木の棒を拾うと地面に球体を書いた。
「これが俺のいた世界だ。そして重力ってのは丁度中心に発生していてな。俺達や地面を引き込んでいるわけだ」
分かりやすく矢印を書いていく。
「ガイアプレスってのはこれに対して重力を意図的に発生させるものだ。引っ張る力がこっちの方が大きい為に地面やらが引き込まれる」
「なるほど……」
「最後に弾けるのは重力が解けた瞬間反発するとかなんとか。その辺りはよく分からん」
まぁガイアプレスのことは置いておくとして。
「重力っていうのはそういうことだ。次に空気抵抗だが、簡単に言えば空気中に物体が右方向に動いた場合左方向にその抵抗がある、とだけ覚えてもらえればいい」
「は、はい。ですが何故その2点が関係あるんですか?」
「例えば銃に装填されて構えた時、それは人間がこうして支えているわけだから重力の抵抗はない。当然空気中を進んでいるわけでもないから空気抵抗もないわけだ」
そういうふうに仮定した方が分かりやすいだろう。
「でも弾丸を撃ち出した場合支えていたものが全てなくなる。つまりこいつに重力と空気抵抗の2種類が発生するわけだ。例えばこう進むのに対して下向きやら逆向きやらに力が加わった場合どうなる?」
「えっと……方向が変わってしまいます」
よく武器をいなしたりするのだ。その辺りはこの世界では分かりやすいかもしれないな。
「そういうことだ。つまり敵が何もしなくても標準から外れる形で弾丸は飛んでしまう。遠距離になればなるほどその傾向は当然強くなるわけだ」
「なるほど……それじゃああまり向かないのね」
「一応遠距離用の武器もあるにはあるが、多分魔力を介して、となるとさっき言ったみたいに軌道がバレバレだ」
もちろん銃口を見られれば中距離でも反応はされるだろうが。それでも反応出来る時間に大きな差がある。この差が大きい。
「ひとまず今は重力と空気抵抗があるってだけ覚えてくれればいい。拳銃を使う上で重要な部分だからな」
さて、問題はこれをどう改善するかだ。諦めてもいいんだが、折角武器の元案があるんだ、利用しない手はない。
「やっぱりご主人様はとても博識です!」
「ん…………流石」
この程度で褒められてもなぁ……。まぁこの世界では常識ではないのかもしれないが。
「まぁ俺のいた世界では常識ってだけだ。それよりこいつの改善方法とかあるか?」
「うーん……例えばなんだけど。こう、4つの魔法陣を用意して、切り替えが出来るようなものは無理かな?」
「確かに出来ないこともないが……」
例えば魔力が流れる道を変えればいい。アブソォーの核を埋め込み、スイッチ1つで切り替えが出来るよう調整は出来る。しかし当然危険もあるわけだが。
「切り替え部が壊れた瞬間終わる。それに切り替え出来るように厚みを薄くすると衝撃に耐え切れないかもしれないな」
「確かにそうだね……」
「いや、でも方向性としては悪くないと思う。ちょっと試しに作ってみるか……」
物は試しだ。初めてのことなのでどの程度の強度なのか試してみる価値はあるだろう。
「それじゃあまずはアブソォーの核から取りに行くか……」
「はい!」
ひとまず以前同様ダンジョンの中に入るとアブソォーの素材を乱獲する。ライジン装備があるので回収はかなり楽だった。
「なんだかとても簡単でしたね」
「うむ。流石刀夜殿だ!」
「そうだね。刀夜くんが作ってくれたこれ、凄いね」
「ガウ!」
いや、お前の分は作ってねぇよ。
「しかしお前、魔物の匂い分かるんだな」
個人的には一番役に立っていたのはリルフェンだ。リルフェンは嗅覚が優れており魔物の跡を匂いで追うことが出来た。アブソォーも一瞬で発見出来たのだ。
「ガウ!」
「流石だな」
頭を撫でると気持ち良さそうに目を細める。リルフェンは魔物の中では異常だと言えるくらいに優しく、また普通の魔物より強い。
アブソォー相手でも簡単に1人でも勝ててしまう。そのくらいだからあまり心配しなくて済むというのは良いことだ。
「ガウガウガウ!」
「ん?」
「刀夜さんの役に立てるよう頑張るそうよ」
「そうか。ありがとな」
頬を撫でた後に踵を返す。
「じゃあひとまず家に戻るか」
「ん…………刀夜、他に素材はいらないの?」
「まぁ今は実験段階だからな。もっと強い鉱石が必要になるかもしれんがそれはもうちょい後の話だな」
何がいるかとかはその実験結果から算出していく。つまり今はまだ必要ない。
「ん……了解」
「それじゃあ帰るか」
のんびりとダンジョンを出ると転移魔法で即座に家へと戻る。気が付けばもう既に日は暮れていた。
やはり洞窟内だと時間の感覚が狂う。少し潜り過ぎたか。お陰で6個も核は集まったが。
「これだけあれば大丈夫でしょうか?」
「あー……ひとまずリルフェンのライジン装備優先にしようかな。4つ使わないといけないだろうしな」
「ガ、ガウ……」
ん? なんかリルフェンが落ち込んでるんだけど?
「足が4つでごめんなさいって言ってるわね」
「ああ、気にするなよ。むしろこれからもその強さと嗅覚はアテにさせてもらうぞ?」
「ッ! ガウ!」
これは翻訳しなくても分かる。やる気満々だな。
「銃はコロシアム後にでも考えるとする。で、流石に腹減ったな」
「すぐにお作り致します」
「あら、私も手伝うわね」
「わ、私も盛り付けなどは出来ると思う」
こうして何気ない1日は過ぎていく。この大切な日常は俺の中でかなり大きなものとなっているだろう。
それは過去の俺にはなかった感情、なかった環境だ。
俺も……みんなと出会って変わってきているのかもしれない。それが嬉しく思ってしまう。
「刀夜さん、どうかしたの?」
「ん? いや…………俺も飯作るの手伝うぞ」
少し気分良く、俺はルナ達の元へと向かった。




