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第72話 恩人に対する御礼はどうすればいいのか分からない

 俺は一気に距離を詰めると刀を強く握り締めた。


「痛ぇ! 痛ぇよ!!」

「その程度で何騒いでんだお前」


 たかが手に短剣が刺さったくらいで大袈裟な。その程度で痛がってたら何も出来ないだろ。


「まぁいいや」


 敵のことだしな。俺の知ったことじゃない。

 刀を逆さに持ち、峰打ちで振るう。痛がっている相手にするのは酷? まさか、手加減など無用だ。

 敵の弱点を突くというのは大切だ。俺が狙うは手に短剣が突き刺さった方だ。


「ひぃ!」


 腰が抜けたのか俺の刀は見事に空ぶった。だからなんだという話だが……。

 俺はその男の顔面に蹴りを入れて飛ばす。更に追撃に刀をぶん投げた。


「ぐぼえ!?」


 刀は見事に柄が股間に直撃した。いや……あの……うん、狙ったわけじゃないんだぞ?


「さて、後はお前だけだが……」


 もう1人の男は白狼が押さえていた。一触即発、動けば動くという張り詰めた緊張感から一歩も歩き出せなかったのだろう。

 魔物にしては利己的で良い子だ。


「…………俺達のしたことを考えれば当然だ。好きにしろ」


 お? 意外にも降伏という手に出た。しかもこちらの攻撃も甘んじて受け入れるようだ。


「まぁお前はこの中でもマシな部類か……。これで許してやるよ」


 俺は腹部に思い切り拳をめり込ませる。


「ぐっ! ゲホッ! ゲホッ!」


 罪を犯した分、罰は必要だ。特に被害者の俺はこいつを殴る権利くらいはあるだろう。敵だったら容赦しないけど。


「白狼、一緒に来るか?」

「ガゥ!」


 やっぱり俺のペットにしよう。いや、ペットというよりは仲間だな。狼用のライジン装備とか作れるか……?


「ま、待て」

「ん?」


 倉庫を出ようとしたところで声が掛かる。あの男だ。


「…………お前、名前は?」

「萩 刀夜。聞き覚えくらいはあるだろ?」

「やはりか。…………あのガキもお前か」

「だからそのガキが何なのか分からないな。…………いや、もしかして俺って身体が小さくなってたのか?」


 時間を戻す? そうか。獣人殺しの腕が復活したのはそういうことか。時間を戻したからダメージも抜けるわけか。

 そして最後に証拠が残らないよう時間を戻しまくって産まれたというその事実自体を消滅させたと。


「まぁいいや。これに懲りたら誘拐なんてくだらないことはやめておけ」

「…………心に留めておく」

「あぁ。今回みたく報復されるだろうからな」


 手を振って適当に分かれると転移魔法陣を展開する。


「ガウ!」

「ん? どうした?」

「ガウガウガウ!」

「え、あ、ちょ」


 白狼が急に走り出す。何だ? 何か見つけたのか?

 白狼の後を追うように走ると前方から真っ青な顔をして走って来るルナ達が見えた。


「ワォォォン!!」

「あら、リルフェン。に……と、刀夜さん!?」

「大人のご主人様です!?」

「ほ、本当だ……よかった……」


 何やら俺の顔を見るなり安心した表情を浮かべる。あ、そうか。こいつら俺が誘拐されたこと知ってるのか。


「な、何があったんですか!?」


 知らないんかい。いや、知ってたら助けに来るか。ということはあれは秘密裏に行われたということか。


「…………服、ボロボロ」

「ガウ! ガウガウガウ!」

「え? ゆ、誘拐? それに殺されかけた?」


 え、何かマオが普通に会話してるんだが。いや、そもそも知り合いかよ。

 いきなり涙を流し始めた白狼は重い口を開いた。


「ガウ……ガウガウガウガウ……ガウゥ……」

「そ、そう……あの子が…………」


 マオも何か涙目になったぞ? 一体何の話だ?


「あの子の最後の言葉を伝えるわね……。『僕のこと、好きになってくれてありがとう』だそうよ……」

「ご主人様……!」

「そんな……」


 全員が膝から崩れ落ちて涙を流す。…………そうか。俺と入れ替わったんだから俺が帰って来れば当然そっちは消える。


「…………帰ってゆっくり話でも聞かせてくれ」

「はい……」


 転移魔法陣を展開すると家へと帰って来る。雰囲気が暗い。というかもう絶望したレベルだった。


「子供の俺……ね。捻くれてるだけだと思ったが」

「そんなことありません……。ご主人様のようにとても聡明で素敵な方でした」


 そうなのか? うーん、俺の昔の頃。聡明か?


「でも……多分俺が覚えてる昔の頃よりは幸せだったろうな」

「どうしてですか?」

「…………お前らがいるからだけど。恥ずかしいからあんまり言わせんな」

「刀夜くん……」


 そう、幸せだったはずだ。最後にそういう言葉を残せるのなら。


「最後は確かに誘拐なんてくだらないものに巻き込まれて後悔してるかもしれないけどな。でもお前らに……あー、リルフェン? には見られていたかもしれないけど別れなんて悲しいところを見せたくもなかっただろうしな」


 そういう意味では良いタイミングだったのかもしれないな。悲しい表情で別れるよりも最後に楽しい思い出だけで終わらせたかったはずだ。


「それに俺はお前らのそんな悲しい顔より嬉しい顔の方が好きだぞ?」

「刀夜くん……そう、だよね。今は刀夜くんが帰ってきたことを喜ぼう」

「はい! ご主人様おかえりなさいませ!」

「お、おう……いや、俺全く子供だった時の記憶ないんだけどな?」


 寝て起きたら何か倉庫だったし。ま、まぁいいか。こいつらが嬉しそうなら。

 ひとまず着替えようと自室に戻るとテーブルに見慣れない紙が置いてあるのが見えた。子供の俺が何かしたのか?

 手に取ってみると白紙。いや、裏に何か書いてあるな。


『大人の僕へ。勝手にリルフェンを仲間にしてごめんなさい。でもとても良い子なのでお世話を頼みます。後ルナお姉さん達は繊細だから一人一人にきちんと目を掛けておくこと。悲しませたりしたら許さないからね?』


 …………うん、まぁ子供の頃の俺だな。筆跡もそうだし。


「何で俺自分の小さい頃からの手紙で謝罪と説教受けてんだろ?」


 全く記憶にないのにすっごい被害。誘拐されてるしいつの間にか仲間増えてるし仲間悲しんでるし。


「…………お前を許さねぇよとかツッコミ入れた方が良いんだろうか」


 実際今悲しませているのはお前だろうが。何してくれてんだよ。なんて、こいつも俺なんだよなぁ……。


「ガウ!」


 ノックというか体当たりというか。そんな音と共にリルフェンの声が聞こえた。マオから大まかに事情を聞いたが、こいつは俺の命の恩人なんだよな。

 ドアを開けると何やら凄くキリッとした顔で立っていた。あ、いや、真剣なだけか?


「何か用か?」

「ガウ!」


 用があるならマオ通してじゃないと俺には分からないんだが……。


「ガウガウ!」


 リルフェンは真っ直ぐテーブルへと向かう。そして何も乗っていないことを悟ると首を傾げた。


「そこにあった紙ならもう読んだぞ?」

「ガウ!?」


 こいつの存在を教えに来てくれたのか。俺はベッドに座るとリルフェンを手招きする。


「ガウ?」

「よいしょ」


 リルフェンの腕下に手を入れて抱き上げる。


「ガウ!?」

「お前は可愛いな」

「ガウ? ハフーッ!」


 何で鼻息を漏らしたんだろうか? 嬉しそうなのと自慢げなのと両方だった。


「お前は最後まで子供の俺に付いていてくれたんだってな」

「ガゥ……」

「落ち込むなって。ありがとな」

「ガゥ!?」


 そう、責めるところなんて何もない。こいつはこいつなりに頑張り、そして俺のことを大切に想ってくれていたのだ。

 何度も危ないところを庇ってもらい、結果として俺は生き残った。自分の命よりも俺の命を優先してくれたこいつに出来る恩返しなんてあるのだろうか?


「お前がいてくれて助かった」

「ガ、ガゥゥ……」


 何やら急に喜ぶのをやめ、カチーンと固まってしまった。凍り付いたか?

 しかしすぐに一転して俺の腕からピョンと跳ねると慌てた様子で部屋を出て行った。あいつめちゃくちゃ器用にドア開けるんだな。


「しかしあれは何だったんだ?」


 なんか気に触るようなことしただろうか? なら早々に謝った方が良さそうだな。

 恐らくは居間だろうと考えながら居間のドアを開ける。するとリルフェンはいた。マオと何やら楽しそうにお喋りしている。


「キャン! キャンキャンキャン!」

「あら、そうなの? ふふ、良かったわね」

「ガウ〜!」


 何やら嬉しそうだが……何話してるんだ?


「でもそんなことで逃げてたらこの先持たないわよ? 刀夜さんは素敵なんだから」

「え、本当にマジで何の話だ?」


 俺の話してたんだな……。でも嬉しそうだったよな?


「刀夜さんが嬉しいことを言うから恥ずかしくて逃げちゃったのよ。ね?」

「ガウ……」


 何やらマオの後ろに隠れるリルフェン。これは照れてるのか……全く分からなかった。でもまぁ悲しんだりしたわけじゃないならいいか。


「あ、刀夜くん。これ見て欲しい」

「ん?」


 いきなりキッチンからアリシアが飛び出して来て駆け寄ってくる。渡されたチラシを見るとそこには驚愕なことが書かれていた。


「俺が……闘技場に出場?」


 何か勝手にエントリーされ、勝手に参加を決定されたような書き方でコロシアムから召集が掛かっていた。無視しても良いような気がする。


「コロシアムってあれだよな? コウハの知り合いの」

「うん。あそこでまた大会を始めるらしいんだけど」


 勝手に参加させられていると。いや……おかしくね?


「今から殴り込みに行くか?」

「それは……で、でも今回の優勝商品を見て欲しい」


 優勝商品? そういやこのコロシアム、レベル低いくせに商品だけは無駄に豪華だからな。何か反応するようなものでもあったのかもしれない。


「えっと……魔剣ホワイトフォレスト? 白い森?」

「知らないの? 有名な魔剣で、その一振りで辺りを凍らせることが出来るって言われてる強い魔剣だよ?」

「そもそも魔剣ってあれだよな? 俺が普段使ってるような魔法付与の」

「うん。参考にならないかな?」


 確かにそれなら参考になる。魔剣というのは既に魔法陣が組み込まれた武器全てを指す言葉だ。使用者の魔力を使い発動させる魔法。

 普段俺が魔力装備生成魔法で作っている剣もそれに含まれる。つまり俺は普段から魔剣乱用してるわけだが。

 魔剣というのはかなり高額な上に売買が少なく参考にしようにも出来ない代物。確かにここで取っておくのは俺の武器の方の改善に繋がるかもしれない。


「なら丁度お呼ばれしてるみたいだし、行ってみるか」

「うん。今回は私も参加したいなぁ」

「何かあるのか?」

「え? あ、あの……私が勝ったらと、刀夜くんにご褒美貰えるかなって……」


 恥ずかしそうに呟くアリシア。やべぇ、可愛い。特に俺の為にというのがポイント高い。


「刀夜くん?」

「はっ! 悪い悪い、アリシアの魅力につい抱き締めてしまいたい衝動に駆られた」

「あの……も、もう抱き締めてるよ?」


 あれ? あ、本当だ。勝手に身体が動いたな。アリシアがキュンとするようなこと言うから悪い。


「あ、あの……わ、私はもっと抱き締めててくれても……」


 まだ抱き締めて欲しいそうだ。こういうところも可愛い。


「ちょっとズルくないかしら?」

「ガウ!」

「っ!? そ、そそ、そうだよね……」


 パッ! っと離れたアリシアは恥ずかしそうに俯いた。照れるアリシアも可愛いが、嫉妬するマオも可愛いんだよな。これはどうしたものか?


「まぁいいや。ひとまず飯にして、その後にでも色々考えようか」


 何やら一触即発の雰囲気になりそうだったので別の方向へ会話をスライドさせた。さて、また忙しくなりそうだな。

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