表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/190

第71話 悲しみの別れ、そして最強の復活

「んじゃさっさとストレス発散始めますか!」


 2人が戻って来て僕は殴る蹴るなどを繰り返す。時折あまり痛くない攻撃も混じってる。多分さっきのあの冷静な男性だろう。

 そしてその逆、全力でしてくる男もいる。多分それが僕がタックルしたあの男性だ。


「キャン!」

「っ!」


 その特徴的で聞き間違えるはずもない鳴き声。僕は咄嗟に目を大きく見開いた。


「あ? 何だ?」

「犬だろ?」

「ガウ!」


 素早く男性の1人、あの容赦なく蹴りを入れてくる男の腕に噛み付いた。


「うわぁぁぁぁ!!!!」


 牙が深く食い込み暴れても離さない。そのまま腕が噛み千切られる。


「なっ……」


 そんなことが出来たのか。あのやり返さなかったリルフェンがあっさりとその牙を人に向けた。


「グルゥゥゥゥ……」


 そして僕の前に立つと低いうなり声で威嚇する。ここまで出来るのか。僕はリルフェンのことを優しい魔物と思っていたけど違った。

 リルフェンも僕と同じなのかな。僕が一歩踏み出す勇気が持てなかったように。リルフェンもまた誰かを殺す覚悟がなかったのかもしれない。


「グラァ!」

「くそが!」


 しかし今、その一歩を踏み出した。僕の為に。


「リルフェン……」


 僕は期待など全くしていなかった身だ。それなのにリルフェンは駆けつけてくれた。


「リルフェン! 1人じゃ無茶だよ!」

「ガウゥ!!!!」


 リルフェンはその素早い動きで翻弄し、隙あれば噛み付いている。


「くそが!」


 乱雑に振り回される手足。噛み付こうとしたリルフェンのお腹を捉え、見事に殴り飛ばした。


「リルフェン!!」

「クゥゥン……」


 身体を張って殴り飛ばされたリルフェンの元へと駆け寄る。


「くそが!」

「お、おい、頭に血が上ってんのは分かるけど先止血だ! 死ぬぞお前!」

「ぐぅ!」


 男性3人を尻目に僕はリルフェンの元へ。猫などもそうだがお腹というのは内臓が詰まっており弱点だ。そこを殴られて大丈夫なのかな!?


「リルフェン!」

「ガウ……」


 リルフェンは平気そうだ。多少苦しそうだけど。魔物だから猫とは身体の構造が違うのかな。

 リルフェンは立ち上がると僕の頬に軽く頬擦りした後に再び前へと立ち塞がった。


「ワオォォォォン!!!!」


 大きな遠吠え。それは多分マオお姉さんに向けてなんだろう。もしかしたら来てくれるかもしれない。


「グルルルル…………」

「このクソ犬がぁ!」


 腕に包帯を巻いた男性は思い切り突っ込んでくる。マズイ!


「リルフェン! 僕のことは気にせず逃げて!」

「ガウガウガウガウ!」


 何やら怒った様子のリルフェン。多分僕を置いて逃げたくないとかそんな感じなんだろう。

 男性の一撃にリルフェンは横に飛んで躱すと同時に一気に踏み込んで飛び込んだ。


「うわっ!?」


 男性の足に噛み付いた。足も持っていければもう勝ちのようなものだ。


「させるかよ!」


 しかしもう1人の男性が近くにあった鉄パイプのような棒でリルフェンを殴り飛ばした。


「リルフェン!」


 その一撃はかなり効いたのだろう。リルフェンは身体を小さく震わせながらも懸命に立ち上がった。


「いいんだリルフェン。僕はもうそろそろ消える。だから……もういいんだよ?」

「クゥゥン……」


 リルフェンは落ち込んだように僕の頬を舐める。それは慰めでもあったのかもしれない。


「このクソ犬が! 俺の仲間に何しやがる!」

「リルフェン!」


 思い切り鉄パイプで殴り掛かってくる。振り下ろされるそれはリルフェンが避けたら僕に当たる。

 しかしリルフェンは避けなかった。それどころか僕を庇うように覆い被さって代わりに殴られる。


「リルフェン! やめて! やめてください!」

「あぁ!? さっきまであんなに平気そうな面だったってのに何だいきなり?」

「このままじゃ……このままじゃリルフェンが死んじゃう!」

「クゥゥン……」


 こんなことなら僕が死ぬ方が良い。僕が死ねばいいんだ。だからリルフェンは! リルフェンだけは!


「クゥゥン……」


 どんどんと衰弱していくリルフェン。しかしそれでも僕の頬を舐め慰めてくれる。

 嫌だ。こんな形でお別れなんてしたくない。嫌だ! 嫌だ! 嫌だ!

 目頭が熱くなってくる。人の心がないはずの僕が涙? はは……おかしいなぁ、おかしいよね? おかしいよな?


「ガゥ……」


 熱い。身体が熱い。全身が熱い。

 こいつらが憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。


「ガウゥ……」


 リルフェンが僕の手の鎖を噛みちぎってくれる。そこまでして僕を……。


「ぐっ……!」


 身体熱っ! これはもう……元に戻るのか? 僕はこのまま何も出来ずに?

 嫌だ! そんなのは嫌だ! ここで気を失ったらリルフェンは助からない!


「うわぁぁぁぁ!」


 僕は叫びながら鎖が繋がったままの足を横に振り払った。それが足払いとなって男性の足を引っ掛け転ばせる。


「ぐっ! くそっ!」

「リルフェン! リルフェンしっかりして!」

「クゥ……ゥゥゥゥ…………」

「リルフェン!」


 やめてよ! こんなお別れ嫌だ! やめて!


「ガウ……ガゥ……」

「リルフェン大丈夫! 大丈夫だからね!」


 ギュッと抱き締める。赤い血がもう既に命が風前の灯火であることを残酷なまでに知らしめてくる。


「うっ……!」


 身体熱っ……! も、もう戻るのか。な、なら最後に……最後にこれだけは……!


「リルフェン……僕ももう限界だから……これだけはみんなに伝えて……」

「てっめぇ! 何すんだよ!」

「ガゥ!?」


 今にも振り下ろされる鉄パイプ。それでもこれだけは言っておかないと。

 僕はリルフェンの耳元で囁くように呟いた。


「僕のこと、好きになってくれてありがとう」

「ガゥ!?」


 言った瞬間頭に衝撃が走る。一瞬にして意識を暗転させる。そのまま僕は……いや、僕の心は消滅してしまった。


「へへ……やった。やったぜ……。って何だ!?」


 気が付けば視界が真っ白だった。これは……煙か? それになんかフサフサのものを抱いてるような?


「つか頭痛った……」


 何やら殴られたような感じが……。と思って頭触ったら血が出てるんだが? というかよく見たら身体がボロボロなんだが?

 ひとまず回復魔法を使用する。ん? 何かいつもより魔力をかなり取られたような……。

 周囲の煙が晴れてくると見慣れぬ景色が広がっていた。血だらけの男がいたり鉄パイプのようなものを持ってる男がいたり驚いて固まってる男がいたり……。

 で、俺は何故か狼みたいな白い魔物を抱いているわけだが。…………状況が分からん!


「ガウ! ガウガウガウ!」

「うおっ! な、何だ?」


 いきなり白狼に頬を舐められる。何かめちゃくちゃ嬉しそうだけど何これ?


「て、てめぇ何者だ!? あのガキをどこへやりやがった!?」

「ガキ?」


 何の話だ? というかこいつらは何で好戦的なんだ? それにこいつはやけに俺に懐いてるし。


「ちょっと落ち着け。で? 状況説明頼む」

「ガウガウガウガウ!」

「いや、分からん」


 何が言いたいんだか。ひとまず状況を整理すると俺はどこかへ連れて来られたって感じか。ガキって言ってたな。そいつと場所が入れ替わったと見るべきか?

 でもそれだとこいつに懐かれる理由が分からん。そもそも魔物に知り合いなんていないんだよなぁ。アスール関係か?


「で、俺は何故足を鎖で繋がれてるんだ?」

「ガウ!」


 俺が短剣を精製して鍛錬魔法で破壊してやろうかと考えた瞬間白狼が俺の足の鎖を噛みちぎった。マジですか。


「お前さては良い奴だな?」

「ガウ!」


 可愛い奴だ。頭を撫でてやると気持ち良さそうに目を細めた。さてと……。


「で? お前らは?」

「あん? まずてめぇが名乗るべきだろうが? あぁん?」

「あ、チンピラか。納得」


 俺は即座に跳躍する。チンピラの男がキョトンとしたその瞬間に顔面に蹴りを入れて吹き飛ばした。


「さて……その怪我を見るにお前はこいつに噛まれたみたいだが……。どうせ自業自得なんだろ?」

「何だとコラァ!?

「片腕ないのに凄んでも無駄」


 こいつらどうせくっだらない考えで人を誘拐とかしたんだろ。明らかにこいつとは別の血もあるしな。常習犯か?


「1つ聞く。お前は俺の敵か? 味方か? どっちだ?」

「ガウ! ガウガウ!」

「あー……もしかして事情説明してくれてるのか?」

「ガウ!」


 いや分かんねぇよ。普通に俺に分かる言語でお願いしたいところだが……多分喋れないんだろうな。


「すまん……分からん。あ、こう質問すりゃいいのか。あいつらは敵か?」

「ガウ!」

「お前や俺を痛めつけた?」

「ガウ!」


 ふむ、やっぱりか。というかお前頭良いんだな……。


「やっぱりそういうことなんだろうな。さて? お前ら全員俺にボコられるか素直に土下座して謝るか選べ」

「あん? 2対1で勝てると思ってんのかよ?」

「あぁ、思ってる。俺は最強だからな」


 俺は2人を睨みながらどんどんと距離を詰めていく。相手は3人。動けるのは2人。つまり残り2人を一掃すればいい。


「さ、最強……だと? まさかお前!?」

「じゃ、始めるぞ」


 俺は魔力装備生成魔法を発動させ、刀を創ると怪我人を守っている男へと一気に距離を詰める。


「させるかよ!」

「…………」


 ちらりと横を見ると赤い魔法陣を展開していた。室内で炎魔法とか馬鹿かよ。


 俺は更に短剣を精製し、手裏剣の如く投げる。ルナ先生との特訓はよく効く。

 射出される火の玉は発生すると同時に破壊され、また短剣はそのまま男の手に突き刺さる。


「ぐぁぁ!!」

「ちっ!」


 男は怪我人を離して構える。なんだ守る気なしか?


「そっちの怪我人から殺す」

「そうかよ!」


 真っ直ぐに怪我人の方へ。というのはもちろん冗談である。

 怪我人の方へと行くと見せかけ、本命に峰打ちで刀を振るう。


「っ!」


 身体強化魔法を使用しているのだろう。即座に反応した男はすぐにバックステップする。


「こいついいのか?」

「た、助けてくれぇ!」


 片腕がなく足も負傷。まともに動くことすら出来ない状態で放置とか。


「まぁいいか……」


 俺は足を振りかぶると思い切り顎を蹴り上げる。


「あがっ!?」


 これで流石に気絶しただろ。敵に情けなど俺は掛けない。


「や、やったことそのままやり返されてんじゃねぇか……。しかも顎だし」

「何の話だ?」

「ガゥ!!」


 何やら白狼が喜んでるけど。まぁいいか。さて、残り2人という現状は変わってないんだよなぁ……。


「白狼、お前もやり返すか?」

「ガウ!」


 やる気だな。こいつ俺のペットにでもしようかな。犬とか飼ってみたかったし。狼だけど。


「これで2対2だな」


 ひとまず早々に終わらせて帰るか。下手すりゃあいつら心配してるだろうし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ