第7話 勉強はするにしても優しい美人のお姉さんに教えてもらえる方がテンション上がる
翌朝、目が覚めた時の俺は大変幸せな状態だった。何が幸せかというと隣に裸の美女がぐっすりと眠っているのである。何故に?
「…………ルナ!? 何でお前裸なんだよ!?」
「ん……んぅ…………?」
ルナは寝惚け眼を擦りながらゆっくりと上体を起こした。ちょ、見える! 胸が見える! というか見たい!
「ご主人様……おはようございます……」
「あ、あぁ、おはよう。じゃなくてだな! 服を着ろ!」
「服……?」
ルナは自分の身体を見ては服がないことに気が付いて顔を真っ赤にして大慌てで掛け布団で隠した。くそ、見えなかった。
「昨日はちゃんと着てたろ!?」
「寝ている時に魔法が解けてしまったみたいです……。す、すいません、お見苦しいものを……」
「いや、大変素晴らしいものだったが……。と、ともかくあんまり裸を見せるのは感心しないな」
というか見せないでほしい。ほら、俺童貞だからどうなるか分からないぞ?
「は、はい。申し訳ありませんでした」
素直に謝るルナは良い子である。昨晩も俺は床で寝ると言っているのにルナがさせてくれなかった。結局一緒のベッドで寝てしまった。もちろん疲れていたので何もしていない。
「今日は勉強だ。でもその前に飯食いに行こうか」
「昨日のアレですか!?」
「お前ハマり過ぎだろ……」
「す、すいません……」
本当にこうして見ると年上なんだけど可愛いな。クスリと笑みをこぼしてしまう。
「そんなに食いたいならまた行くか?」
「よ、よろしいんですか?」
「あぁ。食いたいんだろ?」
ルナの目が輝いている。そのまま勢い良く頭を下げた。
「ありがとうございます!」
「うん。その前に服着ろよ?」
とりあえず飯の場所は決まったし、今日は精一杯教わるとしよう。
朝食を終えて宿屋へと戻る前に準備をしなければならない。2人で街を散策しながら目的のものを探す。
「何を探していらっしゃるのですか?」
「紙とペン。ん? そもそもある……よな?」
「はい、ございますよ」
良かった。これで勉強は始めれる。後はルナ先生の力量次第なところもあるからな。まぁ心配はしていないが。コミュニケーション能力の高いルナなら安心だ。後優しい。出来たら沢山褒めてくれそうだ。
「女教師プレイか……それはそれで有りだな」
「えっと……ご主人様?」
「いや、何でもない。アホみたいな話だ忘れてくれ」
何考えてんだか。でもいつかはしてもらおう。いつかはな。まずは初めては普通にしたい。
「それよりルナ、口頭でいいから大まかにこの世界の言語について説明頼む」
「えっと、まず50音からなっております」
「俺の世界と一緒だな。というか言葉は話せてるってことはそういうことか」
しかしよく言葉が同じになったものだ。文字が違うならそうならないはずだが、ここは俺のいた世界と似通った、いわばパラレルワールドの別の進化を遂げた世界という認識を持つ方が良いのか?
まぁそんなことを考えたところでどうしようもない。まずは現状はこの世界に馴染むことから始めないとな。
「えっと……他には……」
「いや、無理に探す必要はない。後はまた宿屋で聞かせてくれ」
「はい、もちろんです」
ルナ先生は優しいな。こんな人になら一生教わっていられる気がする。
「あ、ご主人様。あちらに紙とペンがございます」
「本当だな。買いに行くか」
2人で一緒に露店は顔を出した。
「らっしゃい!」
「紙とペンをください」
にっこりと笑顔で告げるルナに店主のおっさんは頬を赤らめた。気持ち悪い。後腹立つからあんまりルナを見ないで欲しい。
「こ、この2つだけでいいのかい?」
「ご主人様、他には何か必要ですか?」
「んー……魔法の鞄っていうのに興味あったんだが……ここにはないみたいだしな……」
ここで売っているのはあくまでも雑貨だ。鞄などは売っていないみたいだしな。お、消しゴムもあるんだな。まぁ無くても問題ないが。
「あ、あの!」
「はい?」
「良かったら今度俺と1日過ごしませんか!?」
お、おう、マジか。この世界って何だ、こんな感じなんだな。どうしようか。というかルナはなんて返事をするんだ……!?
ごめんなさい、顔が好みじゃないんです。とか言うのか? それともオーケー! とか言っちゃうのか?
「申し訳ございません。私はご主人様一筋ですので」
うん、やっぱりルナさんとっても優しい人。というか惚れてまうやろ!
「そ、そうかい。あんた愛されてるねぇ」
「うぅ……」
「ご、ご主人様!? どうして泣いていらしてるんですか!?」
そりゃ泣いちまうだろ。だってルナ……ええ子や……。
必要な道具を購入し終わって宿屋へと戻る。机やら椅子がないので床に座ると早速ルナに頼んだ。
「お願いします先生」
「せ、先生?」
そう言うとルナは戸惑った様子だった。何故に?
「わ、私はご主人様の師匠じゃありませんよ?」
「え? 師匠?」
あぁ、そうか。この世界では学校という概念がないのか。だから真っ先に思い浮かぶのは師弟関係ということなのだろう。
「俺のいた世界では勉強を教えてくれる人を教師、もしくは講師って言ってな。総じて先生って呼ぶものなんだよ」
「そうなのですか? ふふ、それじゃあ私はご主人様の先生です」
この先生可愛いなおい。にっこり微笑みながら悪ノリしてくれるとか。いや、事実しか言ってないんだけどな。
「それじゃあルナ先生、お願いします」
「はい。文字の読み方ですが、まずは50音を書きますね」
ルナは丁寧な字で綺麗に50音を書いていく。ふむ、文字の構成はひらがなとは全く違うな。
「こちらが構成される文字となります」
「これがあ行か?」
「あ行というのは聞いたことはございませんが……」
この50音というのは中々に苦戦させられた。何故なら日本の場合はあ行、か行とあるのだがこの世界ではその配置というのがない。つまりこの50文字の羅列はルナが独自に書いたものであり他の人が書くと文字の位置が変わってしまうのだ。
「ルナ、ちょっと書き直すから読み方を教えてくれ」
ひとまずは作業として全ての文字の読みをルナに聞き、あ行、か行、さ行と日本の文字列になるように並び替えた。ここまで出来れば後は文字を覚えるだけである。
「そういや濁点とかはどうなってるんだ?」
「濁点というのがちょっと……」
うん、まぁそうなるだろうな。
「がぎぐげごとかざじずぜぞとかのことだ」
「それでしたらこちらになります」
お、おう、全く違う文字になった。日本では点々を付けるだけだがこの世界では大きく変わってしまうらしい。これはかなり覚えなければならないな。
「ありがとルナ。ここからは1人で頑張れそうだ」
「そうですか……。何かございましたらいつでもお声をお掛けください」
何でちょっと残念そうなんだろうか? そんなに先生をしたかったのか?
「ルナ」
「はい! 何ですか!?」
うお、めっちゃ嬉しそう。そんなに気に入ったのか、教師役。
「いや、勉強のことじゃなくてな。何か趣味とかないのか?」
「趣味ですか? ご主人様にお仕えすることが私の趣味です」
「…………それ以外は?」
俺が勉強している間、ルナは暇になる。それならば何かしらしていた方が有意義だろうしルナも気が晴れるだろう。
「それ以外ですか。…………特にこれといってございません」
本当だろうか? ルナは勘が鋭いからな。俺の意図を汲んで遠慮している可能性もある。これは少し強引にでも聞いておいた方が良さそうか?
「本当にないのか?」
「はい。あ、マッサージとかなら得意です」
「お、おう」
やっぱり世話好きだなおい。
「ふふ……ご主人様がいますので退屈ではございませんよ」
ルナがにっこりと微笑んでそんな嬉しいことを言ってくる。うん、相変わらずルナは優しいし性格も良い。
しかしやはりこちらの意図は読まれていたか。でも遠慮しているような雰囲気でもないしな。うーん、どうしたものか。
「あぁ、そうだ。ルナも勉強するか?」
「失礼ながら私はもう文字は書けますが……」
「いや、この世界のことじゃなくて。俺のいた異世界の話」
そう言うと目を輝かせるルナ。確かに異世界の話は珍しいんだろうけど。何度も言うがあまり良い話ではないぞ?
「是非聞かせて欲しいです」
「いや……まぁいいか」
俺はひたすらルナの書いた文字を写しながら日本のことを話した。ルナも真剣に聞いており、あっという間に時間は過ぎていく。
「とまぁそういうことで。俺は両親が事故で亡くなってて孤児院ってとこの育ちでな。あんまり良い目で見られることはなかったってのが俺の今までだ。え? る、ルナ?」
俺の近況を話したところルナは目尻に涙を溜めていた。いや、あの? 何でルナが泣いているのだろうか?
「悲しい思いを沢山なさったんですね……」
「え、ちょっとルナさーん?」
俺そんなに暗いこと話したか? まぁ良い目で見られることもなかったが孤児院のおじさんおばさんは優しかったし決して孤独ではなかった。強いて言えばもう少し友達が欲しかったってくらいか?
「ご主人様……」
「うえ、ちょ、何で抱き締める!?」
ヤバイヤバイヤバイヤバイ。ルナの何かに触れてしまったか!? すごい包容力で迫ってくる。何これ超癒される!?
「これからは私にもいつでも甘えてくださっていいですから……。だからこれから辛いことを一緒に乗り越えていきましょう……」
「えっと……ルナさーん? ちょーい、待って。マジで色々待って」
こんな2人きりの空間でこんなことされたら俺も我慢出来なくなっちゃうんですけど。ルナさんの豊満過ぎる胸が柔らか過ぎるんですけど。
「私がご主人様のメイド兼先生として沢山頑張りますから……」
「お、おう……」
何か余計な称号が増えていた気がしたが。ま、まぁいいか! ルナ美人だし。こんな人が先生なら俺も色々とテンション上がるだろうしな。