第69話 第一回、誰が刀夜を満足させられるか選手権
「ねぇリルフェン、あなた刀夜さんのどこが好きなの?」
「キャンキャン! キャンキャンキャンキャン!」
「そうなの。確かにその辺りも格好良いけれど大人になった刀夜さんはもっと格好良いのよ?」
マオお姉さんとリルフェンが何やら僕の話で盛り上がってる。でも何だろう……ちょっと絵面が違和感あるよね。
「クゥゥン…………」
「え? あ、あぁ、大人に戻っても刀夜さんは刀夜さんよ。生き物とか好きだろうしあまり気にする必要はないと思うわよ?」
「クゥゥン……」
「ふふ……だから大丈夫よ。安心なさい」
えっと……リルフェンも僕のことを考えてたのかな。多分僕のこれは時間制限があるんだと思う。ルナお姉さんも言っていたけどこの世界で永続的に発動させられる魔法や事象など存在しないということらしい。
そんなことが出来るなら不老不死も出来てしまうことになる。それが出来ないのはやはりそういうことらしい。
魔法関連に関して僕は全くの無知だけどルナお姉さんがそう言うなら多分そうなんだと思う。じゃあ僕はどこに消えていくんだろう?
きっと何も残らないのかもしれない。なら精一杯今を生きて、それから死のう。本来僕は生まれることすらなかった偽りの刀夜なのだから。
「心配しなくても大丈夫だよ? それよりリルフェン! ギューってしよ!」
「キャン!」
リルフェンが飛び込んでくるのを受け止める。もふもふ……。
「はあ……尊いわ」
え、何その反応は。
「リルフェンの言葉、僕も分かったらいいのに」
「キャンキャンキャン!」
「それは乙女として恥ずかしいそうよ」
「え?」
言葉が分かるのが恥ずかしい……。魔物ってそうなの? よく分からないけど……。やっぱり感覚が人間と違うのかな。
「恥ずかしい台詞を言ってしまったら穴に入りたいくらいでしょう?」
「それ人間も同じなんじゃ……」
「…………それもそうね?」
納得しちゃったよ。でもとりあえず僕には動物の言葉を聞く力はない。魔法とかなら存在するのかな。
「ルナお姉さん」
「はい、何ですか? 可愛いです」
その定期的に可愛いを挟むのやめてほしい。喋りにくい。
「動物の言葉が分かるようになる魔法ってあるの?」
「いえ、ありませんね。もう完全にマオ様に頼るしかないかと」
そっか……。それは残念だなぁ。
「クゥゥン……」
「おっと、もしかして慰めてくれてる?」
「キャン!」
そうらしい。こういうことは分かるんだけど。
というかリルフェンは完全に人の言葉を理解してるよね。逆にリルフェンに人の言葉を教えてみるとか?
「リルフェンが喋れるようになる?」
「キャン!?」
あ、驚いた。多分だけど……。
「声帯が違うから無理かもしれないわね」
「そっかぁ……」
リルフェンと話してみたかったんだけど無理かぁ……。
「…………リルフェン、お手」
「ガウ!」
アスールお姉さんが手を出すとちょこんと手を置く。
「…………両手」
「ガウ!」
更に両手を上げて2つの手でお手。ま、マジですか。リルフェン超頭良い。
「…………ジャンケン」
「ワン!」
「…………グー? パー?」
「グー……」
お、おう。ジャンケンの意味分かってるの? というかグーしか出せないんじゃ? 指の関節動かないだろうし、グーしか言えないんじゃ?
「チョキって言ってるわね」
「それは分からないよ!」
そもそも何でいきなりジャンケンを始めるの!? 無理に決まってるじゃん!
「…………ジャンケンを分かっているとは。……流石魔物」
「あ、褒めてるんですね」
まさかあのジャンケンにそんな意味があるとは。
「…………ジャンケンとは争いを回避する一番の戦闘方法」
「た、確かに」
一番公平かもしれない。でもそこに駆け引きとかあったらどうする気なんだろう? 多分争い発生するよね。
「…………ということで第一回、誰が刀夜を満足させられるか選手権」
なんか始まったんだけど!?
「…………このままではリルフェンに刀夜が取られてしまう」
「そ、それは駄目です!」
「ん…………だからここであえて決着を付ける」
格好良いこと言ってるけどやってること微妙だなぁ……。でもみんな何でか乗り気なんだよね。
「つまり勝てば刀夜さんを好き放題出来る訳ね?」
「ねぇ、僕の意思は?」
「…………関係なしで開始します」
「うん、だと思った」
開始してしまうならもう仕方ない。僕が酷い目にあわされる訳じゃなさそうだし。でも注意もしておいた方が良いかな。
「…………前みたいに言い争わないでね?」
「ん……安心していい」
本当かなぁ……。アスールお姉さんは特にその辺り不安だ。何の躊躇いもなく危ない橋へ突っ込んでしまうし。
「あれ? アリシアお姉さんとコウハお姉さんは?」
「あの2人なら今は…………」
「ん…………組んず解れつ」
え、ふ、2人ってそういう関係だったの!? そんな馬鹿な!?
「ただいま」
「ただいま帰った。うん? 刀夜殿、どうかしたか?」
「…………2人とも、何してたの?」
本当に……? そ、そんなわけないよね?
「私達はその……」
「う、うん……」
顔を赤くして照れてる!? ま、まさか本当に!?
「ね? だから言ったでしょう?」
「ほ、本当だ……。え、そ、そそ、そうなの!? 冗談じゃなくて!?」
「いえ、冗談です……。下着を買いに行っていただけですよね」
あ、そ、そうなんだ。
「な、なんで言うんだ!?」
「す、すす、すみません。ですがその……お2人がそういう関係だと誤解される方が問題かと思いまして」
「そういう関係……?」
事の顛末を聞いた2人はキッとアスールお姉さんとマオお姉さんを睨みつけた。
「冗談でもそういうことを言うのは酷いと思う」
「刀夜くんに誤解されちゃったらどうする気?」
「…………ごめん」
「冗談のつもりだったのだけれど。まさか本気で信じるから面白くてつい」
うん、本当に信じてしまった。この2人の冗談って本当にタチが悪い時あるよね。
「お仕置き」
「え?」
「ん……?」
2人の頬をムニッと摘む。2人は抵抗することもなくそしてどことなく嬉しそうな気が……。
「刀夜さん可愛い……」
「…………痛くない」
むしろ微笑ましそうに僕を見ていた。ふーん? そういうこと言うんだ?
「…………5日間くらい口聞かないよ?」
「ごめんなさい!」
「……ごめん」
2人とも早いよ……。速攻だったよ。
2人が頭を下げてきたのでもういいかな。僕はそのまま2人の頭を撫でる。
「ちゃんと節度は守ってね?」
「えぇ。これからはちゃんと刀夜さんだけをターゲットにするわ!」
「やっぱり口聞かなくていい?」
反省する気皆無なんだけど。僕の方が罰を受けてる気がしてきた。
「…………そんなことより刀夜を満足させる」
「そんなの簡単じゃない。おっぱい触らせながらやろって言えばいいのよね?」
「…………エロは禁止。……リルフェンが不利」
確かに僕はリルフェンをそういう目で見てないけど。そういうところに気を遣えるのにどうしてからかう方向にそれを生かせないんだろう?
「刀夜殿、何の話だ?」
「えっと、何だか僕を満足させる大会が始まろうとしてる……かな」
「それは是非参加したい!」
「私も参加していいよね!?」
あ、2人も参加するんだ。しかも食い気味だし。
「もちろんよ。誰が刀夜さんを満足させられるか……そして刀夜さんの1番を決める戦いよ!」
「負けられません!」
何だろうこの温度差。僕だけ置いてけぼり感が半端ない。
「ガウ! ガウガウガウ!」
「あら、あなたもやる気ね?」
「ガウ!」
リルフェンまで!? くぅ……どうしよう。僕だけこんなにやる気がないのも駄目だよね。でも僕の1番って何?
「僕頑張るよ!」
「いえ、刀夜さんはいつも通りにしてくれればいいのよ?」
あ、そ、そうなんだ? せっかく意気込んだのに……。
「…………やっぱり嫌だ」
「え?」
「みんなも頑張るんだよね? 僕だけ楽するのは嫌だ」
「え、いえ、あの、この企画の意味分かってるのかしら?」
この企画の意味? 僕が満足すればいいんだよね?
「満足するかしないかだよね? そんなの考え方次第だと思うよ?」
「確かにそうかもしれないけれど。刀夜さんは楽にしていつも通りでいいのよ?」
「…………やだ」
僕だけ楽しても意味なんてない。どんな遊びをするにしてもみんな必死で、それに真剣だからこそ楽しいものだ。
「と、刀夜さん?」
「みんなが頑張るんだよね?」
「え、えぇ……」
「でも僕だけ頑張らないって……そんなの……」
そんなの……。僕はみんなと対等でいたい。だからそんなの認めたくない。
「…………寂しいよ」
「と、刀夜さん!?」
マオお姉さんは一瞬にして顔を真っ赤に染めた。え、な、何?
「刀夜くん可愛い……もう私の胸がいっぱいだよ……」
「え? え?」
「ご主人様……だ、抱き締めても良いですか!?」
「…………尊みが深い」
「と、刀夜殿大好きだ……」
あ、あれ? なんだか話が変わってきたような……。
「ガウ!」
「え? えっと……撫でればいいのかな」
よく分からないながらも甘えてくるリルフェンの頭を撫でる。
結局第一回、誰が刀夜を満足させれるのか選手権は当事者の僕が優勝するというよく分からない締まり方で終わったのだった。




