第64話 身体も心も小さくなっちゃった!
「え、ちょ、え、えぇ!?」
「…………」
お姉さんは慌てた様子で何度も目をパチクリとさせた。僕のことを知ってる人?
「と、とと、刀夜さんが!?」
「ど、どうしたのマオさん!?」
「何かあったのか!?」
次々に色々な美人の女性がやってくる。な、何? それにここどこ!?
「え、えぇ!?」
「と、刀夜殿!?」
え、な、何? この人達も僕のこと知ってるの?
「な、何で身体が縮んでるのよ!?」
身体が……縮む?
「あの、えっと……お姉さん達誰ですか? あ、あと、ここ……どこですか?」
僕のいた施設とは違う。それにこのお姉さん達は僕のことを知ってるみたいだけど……。
「そ、それにその耳と尻尾は……」
これってエルフ族とか獣人族だよね? え、こ、コスプレ? でもこの人のエルフの耳は本物にしか見えないし……え、え?
「も、もしかして記憶もないの!?」
「こ、これはマズくないか!?」
慌てふためく女性達。えっと、つまり僕は今小さくなってしまっているわけで本当はもっと大人ってことかな。
少し信じられないけどそうだったならこの女性達の驚きようも納得は出来る。出来るけど……あり得るの?
でもこの人の耳や尻尾もこの人のエルフ族の耳とかは現実だとしたらどうだろう? 多分そうならあり得る話かもしれない。
「あの、少し落ち着きませんか?」
ひとまず落ち着かないとどうにもならないみたい。この女性達は悪い人ではないみたいだけど……信用していいかも分からないからとりあえず様子見で。
「あ、う、うん、そ、そうだね。えっと……ほ、本当に刀夜くん……だよね? 萩 刀夜くん」
「はい。僕の名前は刀夜です。す、すいません。あなた方は……」
僕はこの人達の名前を知らない。正確には知っているのかもしれないけれど今の僕には知りようがない。
「わ、私はアリシア。アリシア・ランケアだよ」
「…………外国の方、というわけではなさそうですね」
「う、うん。刀夜くんは異世界転移者だから。こ、ここは刀夜くんにとっては異世界……かな」
ここが異世界……。でもあの本物にしか見えない耳も尻尾もそうかもしれない。
「ほら、こうして魔法もあるよ」
赤い魔法陣を展開したランケアさん。そこから炎が発生する。
「ほ、本当に…………」
本当に異世界……。ぷ、プロジェクションマッピングとかじゃない……よね?
「ただいま帰りました。あれ、どうかなさいましたか?」
「…………誰? ……可愛い」
ま、また人が増えたよ。それにあ、あれって翼? ひ、人から翼が生えてるの?
「と、刀夜殿が小さくなってしまったんだ!」
「へ?」
キョトンとする2人の女性。この5人の女性は僕の何なんだろう?
落ち着け。この世界は異世界だとしたら僕がどうしようとも飢え死にするだけだ。この人達が好意的な間に情報を集めないと。
「えっと……すいません」
「…………本当に刀夜?」
翼の生えた女性は僕に近付いてくると頬をむにっと摘んでくる。痛くないんだけど距離感が……それにその……む、胸が……。
「あ、あの……」
「…………この触り心地。……やはり刀夜」
あ、触り心地だけで分かるんですね。えっと……ほ、本当にこの人達とどういう関係なんだろう。
「ご、ご主人様……」
「ご主人様……?」
え、何その呼ばれ方。僕そんな風になってたの? 僕はあんまりそういうの好きじゃないんだけど……。
「……お身体はどこにも異常はございませんか?」
「え、あ、は、はい」
涙目で本当に心配した様子で僕に視線を合わせるその金髪の女性。何だろうか。何か安心する。
「うぅ……すいません。ただ……本当に良かったです……」
「え、ちょ」
金髪の女性は僕の背中に手を回すとギュッと抱き締められる。その手は優しくも少し震えていた。
信用……してもいいのかな。この人達は悪い人じゃないって。で、でも僕は施設育ちだから裏切られるなんてことも……。
「ご主人様……大丈夫です。大丈夫ですから甘えてください」
「あ、あの……」
この人に抱き締められると本当に安心する。と同時にドキドキしてしまう。
「えっと……あ、あなたは……」
「私の名前はルナです。ご主人様からいただいた大切なお名前です」
「僕が……?」
僕が名前を付けたの? で、でも僕はそんな記憶がない。やっぱり本当に僕は小さくなってしまったみたいだった。
全員落ち着いたところで僕は改めて頭を下げた。
「すいません……僕何も覚えてなくて……」
「気にしなくていい。確かに焦ってしまったけど刀夜殿が無事で良かった」
「そうね。死ぬ確率も充分にあったのだし」
とそこで失言だったと思ったのかマオさんは口を押さえた。
「大丈夫ですよ。僕は死ぬのは怖くないですから」
「それは小さい頃からなんだね……」
あ、みなさん知ってるんですね。
それにしてもやっぱり異世界だから死ぬ可能性もあるのか。それなのにこんな無力なガキになってしまって……。
「…………敬語じゃなくていい。……刀夜は敬語が苦手」
「そ、そんなことも知ってるんですね」
確かに僕は敬語が苦手だ。ま、まぁみなさん年上だから敬語の方が良いと思ったんだけど。
「…………私達は刀夜の恋人」
「恋……人?」
恋人って……え? あの、え、え? 僕が恋人を? それも5人も!?
「あの……」
「何かしら?」
「あの……僕に脅されてるとかならその……逃げてくださっていいんですよ?」
僕がそう言うと驚かれ、そして慌てた様子で詰め寄ってきた。
「私達別に脅されなんていません!」
「そうだよ! みんな刀夜くんのこと好きだから一緒にいるの!」
「ん……失礼」
どうやら嘘って感じでもなさそう。でも本当に僕なんかを……?
「あ、す、すみません。声を荒げてしまって」
「あ、い、いえ」
それだけ真剣だってことだと思うから。まだ完璧に信用出来るかどうかは分からないけど多分この人達は良い人達だ。
「わ、私達は夕食のご用意を致しましょうか」
「そ、そうだね」
ルナさんとアリシアさんがキッチンの方へと行った。異世界の料理か。ちょっと楽しみだなぁ。
そういえば今って何時なんだろう? そもそも時間の概念って一緒なのかな。
ちらりと時計を見ると全く読めない字だった。えっと……どうしよ。
「あら、今はもう22時よ?」
「あ、そ、そんな時間なんですね。えっと……す、すいません」
「どうして謝るのよ?」
「いえ……気を遣っていただいて……」
そんなに注意深く観察されてるとは思わなかった。いや、この世界は命に関わるような事が多いならそういう観察眼は普段から鍛えられていると思った方が良かったかも。
「……あなた、本当に刀夜さんよね?」
「え、あ、はい。そうですけど……」
「可愛いわねもう!」
「え」
いきなりマオさんに抱き締められてしまう。む、胸が! 胸が顔に!
「あら、ごめんなさい。子供には刺激が強かったわね」
「お、大人の僕は毎日こんなことを!?」
「割といつもこんな感じね」
そ、そうなのか! う、うーん、それはそれでどうなんだろう? 恋人も5人いるし……こ、これは僕は将来とんでもないたらしになるんじゃ!?
「ふふ、それにしても本当に可愛いわねあなた。お持ち帰りして抱き枕にしたいわ♡」
「あ、あの」
ソファに座って僕を後ろから抱き締めたマオさんは頬ずりしてくる。えっと、これはなんというか。美人だから物凄く幸せかも……。
「ねぇ、あなた今は何歳なのかしら?」
「13ですけど……」
「そうなの。ふふ、可愛い♡」
この人何言っても可愛いって言うんじゃないかな!?
「ず、ずるいぞ! 私もしたい!」
「…………私も」
「あら、なら正面から抱き付けばいいんじゃないかしら?」
「え!?」
前後から胸で挟まれてしまう! そ、そんなこと……や、やりたくないって言ったら嘘になっちゃうけどでも……。
うぅ、この人達は僕のこと知ってるみたいだけど僕は初対面だし……ほ、本当に良いのかな……。
「あ、あの、や、やっぱり」
「…………刀夜好き」
「え!? うぷっ!」
正面からアスールさんに抱き締められてしまう。
「あの……重いのだけれど」
「…………ごめん」
無理だったらしい。あとこれ僕も息出来ないから助かった。
「あ、あの、マオさん。僕も離して欲しいんですが……」
「あら、嫌?」
「い、嫌じゃないですけど……恥ずかしいです」
「はぅ……やっぱり可愛いわね本当!」
だから何で頬ずりをするんですか!? そ、そんなことされたら思春期は反応してしまう! めちゃくちゃ良い匂いしますし!
「…………ずるい」
「あ、そうね。私ばかりじゃあれだものね。次はアスールちゃんね」
やっと離してもらえると思ったのに人が変わるだけ! も、もう僕に選択権がないっぽい。
「刀夜殿が困っているだろう!?」
「…………したくないの?」
「し、したいけど刀夜殿の気持ちが優先だ!」
あ、僕の味方が! 僕は慌ててコウハさんの後ろに隠れる。これ以上ドキドキさせられるのは恥ずかしい。
「ほら見なさいコウハちゃん! そんなにも可愛いのよ!」
「確かに可愛いけど! 刀夜殿にとっては私達は初対面なんだ。いきなりそんなことをしてしまうと嫌われてしまうぞ?」
「た、確かに……。刀夜さんに嫌われてしまっては意味ないわね……」
「ん…………気を付ける」
あれ……何か反省してる? しかもそれが僕に嫌われたくないから……?
「お待たせしました。とても遅くなってしまいましたが夕食です」
ルナさんとアリシアさんが戻ってくる。やっぱりご飯の時間遅かったんだね。何かした後だったのかな。
「あ、ご主人様はこちらにお着替えください」
ルナさんが魔法陣を展開するといきなり衣服が現れる。やっぱり魔法って凄い。
「ご主人様のお部屋に案内しますね」
そういえば僕の服はかなりぶかぶかだ。着れないこともないけど歩きにくい。
ルナさんに案内され、かなり広い一室へ連れられる。ここは?
「こちらがご主人様のお部屋になります。服を着替え終わった際には部屋の外にいますので声をお掛けください」
「あ、は、はい」
ルナさんがにっこりと微笑みながら部屋を出ていく。この広い部屋が僕の部屋……?
「ま、まぁいいか……」
この世界の僕はかなり上手く生活出来ているようだった。恋人が5人もいるなら当然かな。
「…………愛とか恋とか、僕には分からないなぁ」
そんなものを向けられた記憶がない。愛だとか恋だとかそんなことを気にしている暇などなかったから。
「僕は……」
僕はここにいてもいいのだろうか? ここは僕が大人になった、色々と成長して考え方が変わったからこそ一緒にいるんだと思う。
今の僕は全くの部外者。愛されているのも僕ではなく大人の僕だ。
でも僕は異世界で1人で生活出来るとは思えない。だから今だけは手を借りよう。そうしてこの世界の情報を集めないと。




