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第60話 甘えない人は甘える人をよく見るべき

 暇な時間とは思いの他長く続くものだ。獣人族からの連絡もなく、ダンジョンにも行けず。そして家を開けるわけにもいかず大変暇なわけだが。


「なぁアリシア」

「うん? どうかした?」


 暇なので近くにいるアリシアに話し掛ける。というか何してんだ? 編み物?


「何作ってるんだ?」

「マフラーだよ? そろそろ寒くなる時期だからね」


 そうなのか。この世界にも四季なるものがあったんだな。意外だ。


「マフラーか。そういうの買ったりしないんだな」

「もちろん買ったりもするけど……。こ、これは特別かな」

「特別?」


 何が特別なんだろうか? 何かあったっけ?


「こ、これはね……」

「ん?」


 何やら恥ずかしそうにモジモジしている。いや、何故? そんなに恥ずかしいイベントでもあったのだろうか?


「と、刀夜くんへのプレゼント……のつもりなんだけど……」

「え?」


 俺へのプレゼント……? ん? いや、そもそもこの世界誕生日なんて概念なかったよな? 昭和とか平成とかその辺りの概念すらないし。


「刀夜くんに風邪を引いて欲しくなくて。少しでも暖かい格好をして欲しいから」

「お、おう……」


 ここでそんなの魔力装備生成魔法で作ればいいんじゃねとか言ったら怒られるんだろうな。それに普通に手作りマフラー欲しい。


「しかし俺が貰うだけじゃアレだな……。何かお返しを考えないとな」

「そんな! わ、私がしたくてしてることだからいいよ!?」

「駄目だ。貰ってばかりじゃ申し訳なくなるしな」


 しかし俺はこういったことをしたことがないわけで。女の子って何すれば喜ぶんだろうか?

 くそっ、こういう時に困るからちゃんとその辺りも勉強しておくんだった! あ、そもそも友達すら少なかったな。


「何かして欲しいこととかあるか? それとも欲しいものとか」

「し、して欲しいこと?」

「あぁ、何でもいいぞ?」


 死ねと言われれば本当に死ぬし。まぁアリシアのことだからそんなことは言わないんだろうけど。そもそも何かお願いされることってあるのか?


「あ、あの、1ついい?」

「まぁ1つと言わず幾らでも構わないが。何かあるのか?」


 意外だな。普段からあまり何も言ってこないからな。お姉さんって呼んで欲しいと言われたくらいか?


「あの……えっとね……」

「あぁ」


 何やら言いにくそうだ。そんなに恥ずかしいお願いをされるのだろうか? ちょっと警戒した方がいいか?


「あ、愛して?」

「…………何言ってんの?」


 え、愛して? 何その可愛いお願い。そんなのお願いとして成立するわけないだろ。というかもう愛してる。


「だ、だって……お願いってそれくらいしか」

「お前は欲が無さ過ぎだな……」


 俺みたくこうハーレム! みたいなのはないのだろうか? まぁないんだろうな……。残念ながら。


「仕方ないな……」

「ご、ごめんね……」

「いや。ひとまずその編み棒置いてくれるか?」

「え? あ、うん」


 編み棒をテーブルに置いたアリシアは何やら急に正座を始める。


「な、何か大事な話だよね?」

「いや、そんなに大事な話でもないけど……。とりあえずその座り方は駄目だ。こっち来い」

「え……」


 アリシアの手を引っ張って引き寄せると俺の股の間に座らせる。そのまま俺は後ろから抱き締めてやる。


「別にお願いなんてされなくても愛してる」

「〜〜〜〜っ!」


 お、おう。こちらが心配になるくらい真っ赤な顔をされた。と、とりあえず俺も恥ずかしいなこれは。


「な、何をしているんだ2人は!?」

「こ、コウハさん!? み、みみ、見ないで!」


 いや、それは無理だろ……。こんな居間のど真ん中でイチャついてたら。


「羨ましい! と、刀夜殿! 私もして欲しい!」

「順番な、順番」


 しかしそうなるとアリシアだけは特別に何かやはり用意するべきだな。うーむ、何が良いのか。

 ルナ達に相談してみるか? いやしかし相談したものをそのままあげるってのもアレだよな。


「難しい顔をしてどうかしたのか?」

「いや……何でもない。ちょっとな」


 本当にどうしようか? 流石に俺とのデート券とかアホみたいなことは出来ないしな。


「あ、あの、刀夜くん」

「ん?」

「は、恥ずかしいから離して? ひ、膝枕するから!」

「その代案は却下されました」

「そんな!?」


 アリシアには甘えることも覚えてもらわなければ。ルナには頼って欲しくてアリシアには甘えて欲しいなんてまぁ贅沢な悩みだな。


「お前はアスールみたいにもっと豪胆になるべきだな」

「わ、私もバスタオル姿で刀夜くんの部屋に行くの!?」

「そこは真似しなくていい」


 あいつはあいつで遠慮が無さ過ぎる。聞いたら無表情でどうせ脱がされるからとか言われた。いや確かにそうだが……!


「あ、アスール殿はそんなことをしていたのか!?」

「あいつは特殊だからな……」


 本当に変わってる。俺が言えたことじゃないが。


「あら、今日はアリシアちゃんもコウハちゃをはべらせているの?」

「言い方もっとあるだろ」


 確かに昨日はルナとアスールとこいつの3人でいたけど。別に狙ってやってるわけじゃない。


「そういえばルナさんがそんなこと言ってたね……」

「うむ、刀夜殿の好きなタイプが分からないって言っていたな」


 あいつそんなこと言ってたんだな……。いや、別にいいんだが。事実だし。


「俺はお前らだって言ったはずなんだけどな……」

「具体的に欲しかったんでしょう? あなた何て答えたか覚えてる?」

「だからお前らだろ?」

「いえ、おっぱい大好きって言ってたわよね?」

「言ってねぇ!」


 何つーこと言ってくれんだ! アリシアとコウハが誤解したらどうするんだ!


「うーん、それは今更だよね?」

「そうだな。よ、よく私の胸も揉んでいる……」

「…………」


 今更だったらしい。俺の性癖に詳しい彼女達である。まぁ当然か。


「俺を辱めたんだからお前らの性癖も暴露してやろうか……」

「それはやめて!」

「駄目だそれは!」


 2人から慌てて静止の声が掛かる。顔を真っ赤にして。そうそう、こういう感じだよな。からかうって。


「どうだマオ」

「そんなドヤ顔されても困るわ。確かに今のは高評価ね」


 やったぜ。マオに認められた。


「一体な、何の話?」

「いえ、刀夜さんって凄く……ふふ……す、すごく不器用で…………」

「お前笑い堪える気ないだろ」


 からかってるのかと思ったけどこいつ本気で笑ってやがる。ある意味こっちの方が心にくる。


「べ、別に俺のことはもういいだろ」

「あの、刀夜くん。恥ずかしいのは分かったからその、だ、抱き締めないで。わ、私もう心臓が凄いことに……」

「マジか」


 触って確認してみたいのだが、こう変態みたいに思われそうだ。胸元触ることになるしな。


「う、うん。ほら……」


 と思ったらアリシアの方から触らせてきたよ! あ、すっごいドキドキしてる。


「心配になるくらいなんだが……ほ、本気で離した方が良いか?」

「う、うん……出来れば……」


 アリシアを離すと交代でいきなりマオが乗ってきた。うん、まぁいいんだけどね。


「わ、私が先約だったのに!?」

「あら、私はあまりしてもらったことがないからいいでしょう?」

「私もあまりしてもらってないのに!?」

「そうなの?」


 まぁそうだな。こいつら基本的に甘えるより甘やかしたいって人達だし。


「まぁそうだな」

「なら半分こにする?」

「俺が無理だろ。そこまで横幅ねぇよ。もしかして遠回しにデブって言われてる?」

「考え過ぎよ。というかあなた、普通の人より細いじゃない」


 それはまぁ異世界人だからな。最近は筋肉も付いてきている。腹筋が割れた時はそれはもう嬉しかったよ。


「それより早く抱き締めなさい」

「はいはい。アリシアもこれくらいワガママ言っていいんだぞ?」

「そ、そう…だね。あの、刀夜くん」

「ん?」

「そのね? 後ででいいから膝枕で耳かきさせて?」


 だから何でそっちやねん。とツッコミを入れたいな。しかしこのラブラブイベントは逃してなるものか。


「それは構わないが、終わったら俺に甘えること。いいか?」

「うん! やりたいことやって欲しいこと何でも言ってね!」


 うん、いや、違うよ? 勘違いしてる。お前がやりたいことをやりたいんだが。あー、もういいか。本人嬉しそうだし。


「ねぇ刀夜さん。私とイチャイチャしてるはずなのにこの疎外感は何なのかしら?」

「いや……というか俺とアリシアが先にイチャついてたはずなんだけど?」

「…………今は私の番でしょう?」


 こいつも嫉妬とかするんだな。可愛いところあるな。


「な、何ニヤニヤしてるのよ」

「いや、嫉妬とか可愛いなと思ってな」

「っ!? あ、あなたね! そんな冗談ばかり言ってたら痛い目に遭わすわよ!?」


 何だその怒り方は。というかこいつもしかして?


「何ならこのままベッドまで連れて行ってやろうか?」


 耳元で囁くように言ってやる。するとマオは顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 やっぱりか! マオはこういう冗談をすることには慣れていてもされることには慣れてない!


「と、刀夜殿がチャラくなった!?」


 しまった。コウハは聴覚が良いんだった。今の聞こえちまったか。


「え? な、何て言ったの?」


 アリシアは分かっていないご様子。ま、まぁ分かっていたら怖いしやめて欲しいんだが。


「冗談だぞ?」

「え、じょ、冗談なの?」

「え? ほ、本気にしたか……?」


 本気にしてしまったのなら俺もやぶさかじゃない。というかしたい。


「だって……私もみんなと並びたいもの……」

「ん?」

「私だけ経験無しなんて不公平でしょう? 私もきちんと愛して欲しいわ」


 マオ的にはもう既に問題ないらしい。これはいつでもどこでもウェルカム的な感じですか?


「お、おう……」

「…………刀夜さん顔真っ赤よ?」

「お互い様だろ」


 何で2人して顔を真っ赤にしてるんだか。しかもそれを見ている2人は不満そうだなおい。


「と、刀夜さん……」

「ん?」

「よ、よろしくね……」

「お、おう……」


 あ、もうそういう雰囲気ね。というか何やら楽しみにしてるっぽい。尻尾ピンって立ってるし。

 尻尾で感情表現する猫と同じなのだろう。ということはこれは喜んでる。こいつ隠し事出来ないんじゃないか?

 まぁ何にしても楽しみにしてるのか。なら俺も優しくしないと。初めてだって言ってたしな。

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