第58話 良くも悪くも弟は姉に逆らえない
「ご主人様、ご主人様」
「ん……んぅ…………ルナ、もう少し寝かせてくれ……」
「ふふ、もう少しってどのくらい? 私のおっぱいを揉んでしまうくらい眠いのかしら?」
「何ですと!?」
目を開けるとそこにはにっこりとからかうように笑みを浮かべていたマオの姿が。
「何で俺膝枕されてるんだ?」
「あら、あなたが寝ぼけながらおねだりしてきたのでしょう?」
「嘘!?」
そんな記憶が全くないんだが。いや、寝ぼけながら?
「というか俺がいつお前の胸を揉んだっていうんだ。そんな素敵な思い出があるなら意識があるうちにやりたかった!」
「どうして私が怒られてるのかしら……」
そんな素敵な記憶、ちゃんと心に留めておきたかった!
「くそ、膝枕だって起きてる時の方が堪能出来るだろ?」
「そんな本気で悔しがられても……。刀夜さんが望むならいつでもしてあげるわよ?」
「マジで!?」
何そのサービス。何でそんなことになってんだ?
「恋人なんだから当然でしょう?」
「そ、そうか。こ、恋人なら当然なのか」
「えぇ。何なら今からしちゃう?」
マオは頬を少し赤く染めながらも相変わらずのいたずらっ子のような笑み。このまま流されてしまうのもいいが俺もやられっぱなしは嫌だな。
「なら本気にしようかな」
「え?」
俺が胸に手を伸ばそうとするとマオは顔を真っ赤にした。やはり初心だなこいつ。
「し、仕方ないわね。ほら……」
モニュッ、と手のひらに物凄く幸せな感触。え、え?
「な、何してんだ!?」
「えぇ!? か、感触が気に入らなかったかしら!?」
違う! いやむしろもっと揉んでいたいくらい幸せだがちょちょ、ちょっと待て!
「え、マジでこのままいいのか?」
「え、えぇ……刀夜さんならいつでも……」
マジですか。というか本気でこの人エロいんですけど! 耳も尻尾もピンと立っている。
「ソファで何してるんですか……」
「ひぇ! る、ルナ!?」
「ズルイですよ! 私だってしたいです!」
「相変わらず痴女ねあなたは……」
お前も人のこと言えねぇだろ。なんてツッコミは入れない方がいいよな………。
「けれど今は私に譲ってもらえないかしら?」
うん、とりあえず会話始める前に俺の手を離してもらおうか? それとも俺はこのままマオの胸を揉みしだいていいのか?
「た、確かにご主人様が甘えられるお相手は少ないのでとても良い傾向ですが……うぅ、私にも甘えて欲しいです……」
「あの、マオさん?」
「何かしら? あ、生の方が良いわよね?」
「違う! いや、違わないけど……。というかそもそも俺達こんなことしてる場合じゃなくないか!?」
獣人殺しを探さないといけないのに何で俺は自宅で恋人に膝枕されながら胸を揉んでるんだ!?
「どうせあんなことがあった後じゃすぐに獣人殺しは来ないわよ。だからこうして甘えているのでしょう?」
「いや……そうかもしれんが」
それにあの反応。獣人殺しはもしかしたら二度と来ない可能性もある。気になることは何点かあるんだけどな。
「なぁルナ、魔法って複合とか出来るのか?」
「えっと、あまり見ないですがございます。獣人殺し様のあの魔法ですね?」
「あぁ……」
あの魔法は完全に予想外だ。ま、まぁ多分魔力核を破壊すればいいんだろうけど。
「あの、人のおっぱいを揉みながら真面目な話をしないでもらえるかしら?」
「はっ!? つ、つい揉んでしまった……」
いつの間にか手を動かしてしまっていた。まさかそこまでの魔性を秘めていたとは。流石おっぱい!
「うん、とりあえずお前が手を離そうか。というか気持ち良くなったりしないのか?」
「気持ち良いけれど少しくすぐったいわね」
あんまり敏感じゃないのかな。今度試してみよ。
本当に、ほんっとうに名残惜しいが仕方なくマオの胸から手を離す。よ、夜にでももう一回するか!
「さてと……」
上体を起こすとマオは名残惜しそうな表情を浮かべる。何でそんなにやりたいんだお前も。こういうのはやられる方が良いだろ。
「おはよう……」
居間に寝ぼけ眼を擦りながらアリシアが入ってくる。うん、ちょっと服はだけてるから直して。エロい。
「おはようさん。服直せ」
「あ、うん……」
服を直したアリシアだがまだ寝ぼけているようだ。珍しいな。
「何かあったのか?」
「ううん……刀夜くんにお姉さんって言われてからドキドキしちゃって……」
俺のせいか! というかどれだけ気に入ってんだよ。
「羨ましいです……。あの、ご主人様。私もお姉さんって呼んでくれませんか?」
「あらいいわね。私も呼んでもらおうかしら?」
な、何だこれ。急に姉と呼べとか言い始めたんだけど。
「…………私もお姉さん」
「うお、びっくりした……。何でお前はいつも気配を殺して近付いてくるんだ……?」
「…………そんなつもりはちょっとしかない」
ちょっとあるんじゃねぇか。アスールは相変わらず人をからかうのが好きだな……。めちゃくちゃマオと気が合いそうだ。
「おはよう……。何の話をしているんだ?」
「あ、コウハさん。おはよう。今みんなで刀夜くんにお姉さんって呼んでほしいなってお願いをしていたところだよ」
「っ! 私もお願いしていいだろうか!?」
参加者増えちまったよ。しかし問題もあるだろそれ。
「全員お姉さんになっちまったら誰が誰だか分からなくなんだろ」
「た、確かにその通りです」
「…………つまり?」
「誰がお姉さんって呼んでもらえるか争奪戦ってことだね」
えっと……いや、何で。
「なぁ姉御、何でこんな話になるんだ?」
「姉御って……。私もお姉さんがいいわ」
姉御は妥協点にはならないようだ。うーむ、難しいな。
「どうやって決めますか?」
「ここは公平に何かで勝負しましょうか」
何だろうこの妙なバトルは。俺にお姉さんと言われたいがために行われてるわけだが……。ふざけて言っただけなのに本気にされても困る。
「あのー……一回くらいなら別にいいんだが。そもそも永続的に呼ぶわけじゃないぞ?」
「本当ですか!?」
「お、おう……」
何つー食い気味! というか俺に姉と呼ばれて嬉しいのか?
「で、ではご主人様はお部屋でお待ちください! 一人ずつお伺い致しますので!」
「え、いや、部屋で一人ずつ姉と呼んで交代するとかどんな珍プレイだよ」
はぁ…………仕方ねぇな。こいつらは多分言わないと納得しないだろうし、言うしかないか。恥ずかしいが。
「ルナお姉さん」
「ふぇ……?」
ルナはキョトンとした後に急に顔を真っ赤にした。爆発とかしないよな?
「は、はぅ……」
「何だはぅって」
何やら照れて何も言えないご様子。そんなにいいのかこれ? 俺としてはただの羞恥プレイなんだが。
「…………刀夜、私も」
「お、おう……。アスールお姉さん」
「ん…………」
なんかめちゃくちゃ嬉しそうだ。顔にやけてんだけど。いつもの無表情はどうした。どんだけ嬉しそうなんだよ。
「と、刀夜殿! 私も頼む!」
「…………コウハお姉さん」
「はわわわわ!!」
何かバグった。顔真っ赤だしはわわわ言ってるし。目も潤んでる。
「最後は私ね」
「姉御じゃ駄目か?」
「駄目よ」
そのこだわりは何なのか。まぁ望むなら仕方ない。俺も恋人だ、好きな人の願望は叶えたい。
「マオお姉さん」
「えぇ……。こ、これら想像以上の破壊力ね」
何やら妙な破壊力があるらしい。呼び方1つでここまで変わるんだな……。全員俺を見る目が変わってるし。
「あ、あの、刀夜くん。私ももう一回言って欲しいんだけど……」
「アリシアお姉さん」
「っ! 刀夜くん大好き!」
「うお!?」
いきなりアリシアに抱き締められてしまう。む、むむ、胸が! アリシアの胸が顔に!
「あ、ズルイですアリシア様! 私も甘やかしたいです!」
「ん……私も。…………お姉さんだから!」
「刀夜殿が困ってるだろう!? あ、で、でも私もその……出来れば…………」
「あらあら……凄いわね」
何やら全員に抱き締められてとんでもないことに!? 四方八方胸胸胸! これがおっぱいパラダイス!
「落ち着けお前ら! 俺が興奮したらどうするつもりだ!?」
「刀夜さん……その止め方は逆効果だと思うわよ?」
へ? 逆効果ってどういうことだ? ここで興奮する変態は流石にキツイだろうに。逆効果になる意味が分からない。
「弟の性欲処理はお姉さんの役目だよ!」
「はい! 異議なしです!」
「ん…………姉の特権」
「う、うむ……。刀夜殿は気持ち良い感覚に身を委ねて欲しい」
うおぉぉぉぉい! マジかいな! こいつら俺の服を脱がしに掛かってきた!
力強っ! ちょ、身体強化魔法使っても抜けられないんですが!?
「あー、もう! 全員落ち着きなさい! 刀夜さんが困ってるでしょう!」
流石マオ! 頼りになる!
全員がハッとしたように何かに気付いて俺から離れる。なんか知らんがこの虚しさは何だ? 押し付けられるだけ押し付けられて揉めないとかどんな拷問だよ。
でも何にしても助かった。マオには感謝しないとな。
「刀夜さん、大丈夫?」
「あぁ、なんとかな……。流石姉御」
俺が親指を立てるとマオはにっこりと微笑んだ。あれ、なんか怒ってない?
「しつこい男は嫌われるわよ? みんな、やってしまいましょう」
「ちょ!?」
それから全員を止めるのに時間が掛かってしまい見事に昼になってしまうのだがそれはまた別のお話。
今回思ったのは姉御は姉御だがマオはそう呼ぶと怒るということだ。なんで姉御は駄目なのだろうか? もうよく分からん……。




