第53話 獣人からの依頼だけでなく報酬も含めて中々ハードなもの
朝食の準備を終えるとそれをいただきながらとにかく自己紹介する。耳と尻尾触りたいなぁ……。
「まずは私からね。私の名前はマオルーク・ヴェール・フォレストゥリア。見ての通り猫系の獣人よ。よろしくね」
「よろしくな」
それぞれ俺達も名前を名乗ると挨拶していき最後に俺に視線が向けられる。
「あなたが萩 刀夜ね?」
「あぁ」
「本当に可愛らしい子ね? 刀夜ちゃんって呼んでもいいかしら?」
「ちゃ、ちゃん……ま、まぁ好きに呼べはいいけど」
男にちゃん付けって。ま、まぁいいんだが。実際そっちの方が年上だろうしな。そもそも呼ばれ方なんて気にしない。
「俺もマオルークって呼べばいいのか?」
「マオでいいわよ?」
どうやら愛称があるらしい。確かにあまり言い慣れない言葉だろうしな。
「んじゃマオで」
「えぇ」
自己紹介も済んだところで早速本題へ。
「実はあなた達に倒して、捕らえて欲しい悪党がいるのよ」
「…………ほう?」
悪党か。それにしても今回の敵は人ということなのだろう。俺はまだいいがアリシアなんかは戦いにくそうな相手だな。
「名前は分かっていないわ。金髪のボサボサ頭をしているらしいわ。身長は180程、全身黒ずくめの男よ」
「そいつ、何かしたのか?」
「別名、獣人殺し。出会う獣人全てを殺し回ってるサイコ野郎よ」
なるほどな。無差別の殺人みたいなものだろう。そいつは相当獣人に恨みがあるのか、それともただの快楽か。何にしてもそれは確かに止めなきゃ駄目だな。
「数日前、獣人族内で私を含むパーティーが結成されたわ。そして捕らえることを、最悪殺すことを想定して動いたの」
「あぁ、まぁ当然だな」
やられっぱなしというわけにはいかないだろう。しかし何となく結果は見えたな。
「それで負けた、とかか?」
「えぇ……強過ぎるのよ」
「でもたかだか人間だろ? 獣人の方がステータスは高いはずだが」
獣人族は基本的なスペックが高い。だから普通にやれば敵わないはずなのだ。加えてパーティーを組んだ獣人だぞ? 単独犯がそれに勝るなんて可能なのか?
「そう、なのだけれどね。けれどこちらの攻撃が全て何かによって防がれてしまうのよ」
「防御魔法みたいなもんか?」
「えぇ」
しかしそれは防御魔法ではいのだろう。だから獣人族内でも困っていると。
「もちろん今回の依頼はタダで、とは言わないわ」
「え、そうなのか?」
コウハの時がそうだったのでてっきりそうなのかと。別に対価目的に引き受けてるわけじゃないからどうでもいいんだけどな。
「報酬はわ・た・し♡」
「はぁ?」
「あら酷い。私じゃ満足出来ないかしら?」
いやそういうことじゃなくてだな。というかこれ普通に生贄みたいなもんじゃね?
「私ね、あなたに一目惚れしたのよ」
「ひ、一目惚れ?」
マオは立ち上がると俺の前へとやってくる。そして俺の顎に手を掛けた。
「え、何?」
「私ね、実はあのコロシアムであなたのこと見させてもらっていたのよ」
へぇ。人間の世界にエルフ以外も紛れていたとは。全く気付かなかった。
「あなたのその真剣な眼差しも……それに覚悟も……。可愛い顔もその強さもその在り方も全部素敵だったわ」
「お、おう? あ、ありがとう?」
「ふふ、照れ屋なところもね?」
な、何だこのベタ褒めは。ヤバイんですが。こんな美人に顔を近付けられてそんなことを言われても困る。
「あ、あの、何か近くないですか?」
「う、うん。あの、先にご飯食べよう?」
「ん…………早く離れるべき」
「初対面なのだろう!?」
うーん、仲間達もこう言ってるし、俺も早く飯食いたいんだけどな?
「大好き♡」
「え、ちょ……っ!」
いきなり顔を近付けてきたマオに唇を奪われる。俺は大きく目を見開いてしまう。睫毛長いなこいつ。
「ふふ、私のファーストキスよ?」
マオの顔も少し赤い。本当にファーストキスのようで余裕そうながらも照れている。ちょっと可愛いじゃねぇか。
「お、おう……」
「可愛いわね。もう一回したくなっちゃうわ♡」
何ですと!? 再び顔を近付けてきたマオに再度キスされてしまう。こ、こいつ積極的どころの騒ぎじゃない。行動力高過ぎ!
「な、何してるんですか!」
「ん…………痴女!」
「そ、そういうのは早過ぎると思うよ!?」
「うむ! 早く離れるんだ!」
無理やり4人に引き剥がされる俺達。うぅ、絶対に今顔赤い。というか熱い。
「ふふ、続きはまた今度ね♡」
「お、おう……」
何だろうか。積極的過ぎてついて行けない。というか本当に処女か? もうプレイガールレベルなんですが?
相変わらず悠然の笑みで席に戻ったマオはにっこりと満面の笑みを浮かべて手を合わせた。
「それじゃあいただくわね」
「あ、あぁ」
我先にと朝食にありつくマオ。完全にこちらのペースを持っていかれてしまっている。
ルナ達が不機嫌なせいで全く無言の朝食がようやく終わって俺達はひとまず被害拡大を防ぐ為にと作戦会議を開始する。
「私達が住む森はここ。それにここと、後はここもかしらね」
「お、おう……そんなあっさりと自分達の住処バラしていいのか?」
「大丈夫よ。あなたは他言しないでしょうし、それに私の恋人でしょう?」
「…………」
それ本気で言ってるのだろうか。あとそれ言ったらルナ達から冷たい目を向けられるからやめて欲しい。もうちょっと時間をください。
「はっきり言うが俺はお前をまだ完璧に信用していない。ただ人を見る目はあるつもりだ。お前が悪い奴じゃないっていうのは分かってる」
「あら、そう?」
「あぁ。…………だからお前に告白されても俺はすぐに返事するのは」
「えぇ、問題ないわ。けれど」
はっきり言ったつもりなのに何故か途中で遮られてしまう。そしてマオは魅惑的に笑みを浮かべながら……。
「素敵な返事を期待してるわね♡」
こいつは妙に余裕があるな……。でもそういう感じを出す度に周りの視線が!
「…………ご主人様ああいうのが好きなんですか?」
「…………俗物」
「刀夜くん本当?」
「刀夜殿は真面目な方だ。あ、あんな破廉恥な人は嫌いなはずだろう!?」
お、おう、どないしましょう。ちょっと好きとか言えない空気。
「お、落ち着けお前ら。と、とりあえず話を進めるとその獣人殺しってのはお前らの住処の場所は分かってるのか?」
「いえ、全く関係のない森で見つけたと報告もあるわ。けれど恐らくだけれど獣人との遭遇頻度からここはバレていると思うわ。もちろん他を隠す為のカモフラージュだけれど」
なるほど。逆にここを罠に使って安全を確保しているわけか。中々考えるな獣人族も。
つまりここまで頭が回る獣人族のパーティーをそいつは蹴散らしたわけか。マジかよ。
「ご主人様、どう思いますか?」
「…………会ってみないと分からないな。どういう戦法を取るんだ?」
相当頭が良いのだろう。だからこそ勝てた、と考えるべきだ。
「それが何も。普通に力で……速度で……負けたのよ」
「は?」
「妙な薬を使ったと思えば……いきなり、ね」
妙な薬……? そんな薬物が存在するのか? 自身の力を引き上げるような薬が?
「あなたは異世界人なのよね? 前の世界でそういったものはなかったの?」
「いや、ないな」
多分だけど。秘密裏にそういうのが開発されてるなら別だが。そんな人体の限界を超えるような薬はないはずだ。
「だがそれは俺の世界での話だ。この世界の薬物のことなんて俺は大して詳しくない」
「そう、でもこの世界もそんなもの存在しないわよ?」
「例えばだが俺と同じような異世界転移者で別の技術を持っていたとしたら? 新薬を開発して使用している可能性は大いにあり得る話だ」
まぁそれが真実かどうかは知らないがな。
「それって……!」
「だから見たままのものを信用するとすると相手はその薬の使用者ではなく薬の製作者、という話になるな。まぁ使用者が製作者の可能性あるけどな」
その辺りは今考えても仕方がない話だ。ひとまず現状の手掛かりとしてはその薬の使用者に会うのが早そうだが……。
「お前、俺のコロシアムの試合を見たって言ってたな?」
「え? えぇ……」
「それだけで判断してくれていい。俺とその薬の使用者、どっちが強いんだ?」
こちらから当たるのは危険かもしれない。接触するにしても何かしらは対策を取る必要があるだろう。前段階としてどのくらいの強さかを聞いておきたい。
「互角くらい……かしらね。あまり信用ならないけれどね」
「そうか。じゃあひとまずこの森に行ってみるか」
互角、というのなら奇襲出来る分こちらの方が有利だ。でも油断出来ない以上は充分な準備もいるわけで。
「その前にマオ」
「何かしら?」
「お前にも渡しておく。サイズは若干合わないだろうけど締め付けりゃなんとかなるだろうしな」
「え?」
俺は鍛冶屋のスペースから制作した予備の脚装備を持ってきてマオに渡す。
「これは?」
「ライジンが無条件で使える装備。あ、お前って身体強化魔法使えるよな?」
「えぇ、一応ね」
「なら問題なしだな」
あっさりと渡す最強の道具にマオは戸惑っている。初めてこいつの余裕が消えた気がする。いつまでも主導権を握られっぱなしではない。
「い、いいの? 私のこと信用していないって言っていたでしょう? 私がこれを悪用したらどうするのよ」
「安心しろ。そうなっても俺にはお前を止める手段がある」
当然完璧に安心して渡しているはずがない。ムイにも渡したが俺は鍛冶師、脚装備すらも作り直して破壊することが出来るのだ。
同じ条件下でそれが出来るのならこちらの方が有利だ。だから別の問題の解決を優先したまでである。
「それよりもお前がその獣人殺しに襲われる危険性を考えるとそちらの方が厄介だ。自衛出来るくらいにはなっておいて欲しい」
こいつは獣人のパーティーにも選ばれているのだ。単純に強いのだろう。それに加えて負けたという実績もある。こういうタイプが一番成長するし一番厄介なのだ。だからこそその部分に関して信用出来る。
「自分の危険よりも私の命を取ってるってことよね?」
確かに厄介な敵に加えてマオが寝返ったりしたら大変だろうな。そうなった場合は俺の見る目がなかったということになる。
「まぁそうなるな」
「ふふ、そう」
マオは本日いつも通りの悠然の笑みを浮かべている。でも先程よりもどことなく嬉しそうに見えるのは俺の気のせいだろうか?
「それじゃあ行きましょうか。転移魔法陣は私が張るわね」
転移魔法も使えるようだ。俺達はひとまずマオの案内の元、一番被害が多い森の入口へと転移した。




