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第51話 どれだけ辛いことがあろうとも今が幸せなら問題ない

 コロシアムの件は肩が付き、エルフ族の奴隷は俺に盛大に礼を言ってきた。そしてコウハにも。

 されどやはりコウハはエルフ族には認められないようだった。奴隷になり掛けていたその女性もどうにかしたい気持ちはあれどどうにもならなかったらしい。その子は良い子だったがどうしようもないのでは仕方がない。

 フードを被ったエルフ族にその奴隷にされ掛けていたエルフ族を押し付けたので後のことは何とかしているだろう。

 ひとまず俺は目的だったエルフ族の知識を得ることは失敗してしまったわけだが。それも仕方がないといえば仕方がない。コウハが優先だ。

 ひとまず前代未聞となった超高速の決着はこれからの歴史に語り継がれるようだ。それに主催者は奴隷を扱うのをやめるようだった。これはアリシアの父の影響である。

 権力に物を言わせるというのは正直嫌いだがこの際利用出来るのならと利用させてもらった。というかあのおっさん、娘の頼みに弱過ぎないか? 償いなのか親バカなのかよく分からない。


「ふふ……刀夜殿♪」


 そして今この状況はなんだ!? 何故俺は自室のベッドでコウハと2人きりで抱き合っているんだ!?


「あ、あの、コウハさん? 状況の説明を頼む」

「え? 今日は私と一緒に寝てくれるのだろう? ルナ殿達からそう聞いているが……」


 いや、俺は聞いてない。あ、でもだからいつもいるのに今日はルナ達がいないのか。別にあと数人増えてもこの馬鹿でかいベッドなら問題なく入るのに。


「ま、まぁそういうことならいいか。でもその……お前はいいのか?」

「もちろんだ。むしろ嬉しい♪」


 今日のコウハさんは何やら上機嫌だ。俺に抱き付いてきては頬擦りしたりしてくる。俺が色々と限界なんですが。


「こ、コウハ? 何かあったか……?」


 確かにコロシアムが終わって安心するのも分からなくはないが、この変化はイマイチ理解出来ない。でもちょっと可愛いから困る。


「実は刀夜殿があのフードを着たエルフ族に言っていたことを全て聞いてしまっていたんだ」

「え、マジで…………?」


 かなり距離があった上に小声で話したのに。審判ですら分からないくらいの声音で話してたんだぞ?

 わざわざ聞かれないようにしたのにそれでもエルフ族の聴覚は聞き取ってしまうのか。羨ましいような複雑なような。


「…………てことはお前がエルフ族にどう思われているか」

「うむ……全て知ってしまった」


 マジかよ。くそっ、油断した。


「でも大丈夫だ」

「え?」


 あんな話を聞かされて大丈夫なのか? いやいや、どんな心の持ちようだそれは?


「私の代わりに刀夜殿が怒ってくれただろう? それが嬉しくて」

「コウハ……」


 こいつは本当に前向きというか何というか……。それがこいつの魅力なんだろうけどもうちょっと深刻に捉えて欲しい。


「刀夜殿のお陰だ」

「え、いや、俺は何もしないだろ?」

「そんなことはない。刀夜殿が私に沢山の初めてをくれるから」


 いや……なんかちょっとエロかった! というのはまぁ冗談として確かに俺はコウハにとっては新鮮な感じなのかもしれない。


「私も刀夜殿と同じくらい強くなりたい」

「充分強いと思うんだけどな……」


 もう既に一人で生きていけるくらいだ。俺には到底真似出来ない……こともなかったな。日本では一人で暮らしてたし。

 それでもそういう環境下で味方もなく生きてきたのは素直に凄いと思っている。だからこそこいつの心はどんどんと鍛えられたのだろう。


「ううん、まだまだだ。刀夜殿に追い付けるくらいになりたい」

「…………まぁ俺は最強だからな。それに約束しただろ? 俺がお前を強くする。だから……」


 俺は優しくコウハの頭を撫でる。俺より年上のコウハだがこういうことには慣れていないのだろうと思いながら。


「だから、お前は俺のそばで笑っていて欲しい」

「刀夜殿……」


 それが俺の唯一の願いだ。強くなりたいのもルナに頼られたいから。アスールのことを悪く言うのが許せないから。アリシアに負けたくないから。そして……コウハに目標にして欲しい。俺がコウハの望む強さの体現者でいたいと願ってしまう。

 いつまでも一緒にいたいと思っているからこそ頑張れる。俺一人の力なんかじゃない。俺のワガママで強くなりたいと願っているのだ。


「お前は……俺のそばにいて幸せか?」

「もちろんだ」


 少しの躊躇いもなく、そして少しの間もなかった。少しくらい躊躇して欲しいな。照れる。


「刀夜殿?」

「今あんま顔見ないでくれ。恥ずかしい」


 うぅ……絶対に赤くなってる。くそ、まさかコウハに赤面させられるとは。あ、割とかなりの頻度であったな。告白とか。


「な、なるほど。これが皆が感じていた感情か。確かに刀夜殿は可愛い……」

「いや、おいちょっと待て。その気持ちは理解しなくていい」

「刀夜殿可愛い可愛い」

「うえ、ちょい、こ、コウハさん!?」


 ヤバイヤバイヤバイヤバイ。コウハが何やらアリシアとかと同じになっとる!? 年上の呪縛か!?


「刀夜殿……」

「こ、コウハ? 落ち着こう? いや、うん、何で顔近付ける?」

「刀夜殿大好きだ……」


 強引にそれでいて情熱的に唇を奪われる。ちょちょ、いつになく積極的というかベッドでそんなことされたら俺反応しちゃうんですが!?


「ってコウハ! それ以上詰め寄ったら俺落ちる! 落ちるから!」

「大きいベッドなんだからそんなことないだろう? 恥ずかしいからって逃げたくてもいいじゃないか」


 いやさっきから俺後ずさってしまってるんですが。というかめちゃくちゃ積極的じゃないですか!? 本当にあの堅物のコウハか!?


「いや、マジで落ち……あ」


 ほれ見たことが落ちるよ? しかもこの体勢間違いなく受け身取れない。あ、これヤバイ角度っぽい。


「うげぇ!」


 変な声が出た。泣きそうなくらい痛い。ん? というか何か腕の感覚が。


「あ、折れた」


 プラーンと肘から先が垂れていた。あ、マジヤバイかもこれ。


「と、とととと、とととととと!」

「落ち着け! 治るから! 痛いような気がするが痛いって感覚すらもうないような気もするから!」


 俺が一番テンパってるかもしれない。とりあえず回復魔法で腕を治した。


「すまない! 本当にすまない!」

「いや大丈夫だから。と、とりあえずうん……ベッドは真ん中を使おうか」


 なんていう無駄な魔力消費。しかも骨折だからめちゃくちゃ魔力食ったし。コロシアムよりも使わされるとは思わなかった。コウハ恐るべし。

 ベッドに戻ると気を取り直して、というわけには行かないらしい。


「と、とと、刀夜殿……」


 まぁさっきの気にするなって方が無理だろうな……。別に俺は何ともないんだからいいんだが。


「コウハ、目閉じろ」

「ひう……」


 叩くとでも思ってるのだろうか? 強く目を閉じたコウハに俺は優しくキスをした。


「あ……」

「好きだコウハ。愛してる」

「と、刀夜殿!?」


 結局コウハだけに任せると締まらないらしい。というかこの手の状況で俺がまともに成功した記憶がない。


「うむ……うむ! 私も! 愛している!」


 でもこの笑顔でそんなことを言ってくれるのなら俺の人生も捨てたものじゃないだろうな。幸せだ。

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