第5話 ご褒美は戦闘後? 残念! 戦いに参加出来ない鍛冶師は戦闘中に貰う!
森の中を進むと日の光が当たらないせいか少し寒くなってくる。
「ご主人様、大丈夫ですか?」
「ん? あぁ」
ルナが心配してくれる。ええ子やね。
ひとまず現状俺が一番足手まといだ。何か対策を練る為にもこの経験はしっかりと糧にさせてもらおう。まず戦闘を生で見れるのは大きい。
「寒いのなら……あ、暖まりますか?」
ルナが手を広げてくる。これは……抱き締めてくれていいということか!? 駄目駄目! 童貞にしたら息子さんが反応するから!
「な、何してるんだルナさん!」
「えぇ!? だ、だってご主人様が寒そうでしたので……」
そんなこと言われても。いや、寒いけどよ。流石にジャージはきつかった。
「こういう時は身体で暖めるものじゃないですか!」
んー、ルナさん熱いぜ。しかしなんだ、こう、うん。世話好き過ぎて困る。自分の身体もう少し大事にして欲しい。
「俺として嬉しい限りだが……。でもルナ、状況考えるとルナはすぐに動けるようにしている方がいいんじゃないか?」
「た、確かにそうですが……。私の命よりもご主人様の命が優先です!」
「ルナが死んだら俺も死んだようなもんなんだけどな」
ゴブリンに対抗出来る手段を残念ながら俺は持っていない。ならルナが死んだ時点で確定で俺も死亡である。
「そんなこと許しません!」
「いや、お前が許さなくてもどうしようもないんだが……」
とりあえず俺の命よりルナには自分の命を優先して欲しいものだ。
「普通そこまで精霊に好かれることなんてないのに。刀夜くんは心が綺麗なんだね」
「どういうことだ?」
「精霊は主人と魔力で繋がるだろう? だから心の綺麗さを見分けることが出来ると聞く」
そうなのか。でも俺の心は別に綺麗でもなければ極一般的な男の思考回路をしているような。むしろ俺よりリアの方が綺麗なんじゃないか?
「いや、ルナが特別世話好きなだけじゃないか?」
「そんなことはございません。ご主人様は最高に心が綺麗です」
「うーん……」
全く自覚はないんだが。そもそも心が見えるっていうのもいまいち分からない。
「ルナさん、刀夜くんの心の綺麗さは100を最大にしてどのくらいかな?」
「90です!」
「100じゃないんかい」
自信満々に言われても困る。というかそれって高いのか?
「90! 凄いね……」
「凄いのか?」
「一般の人で50くらいかな」
確かに相当高いな。でもそれってルナの主観というか世話好きが含まれての数値じゃないのか?
「刀夜くん、私とも是非友達になって欲しい」
「…………ちなみにリアは自己採点で自分は難点くらいだと思う?」
「えっと……30点くらい…かな」
何で自己評価そんなに低いんだよ。聞いたこっちが申し訳なくなるだろうが。
「友達っていうのはなって欲しくてなるものじゃなくて既になってるものなんだよ」
「う、うん? つまり?」
「ふふ、もうランケア様もお友達ということかと思います」
流石ルナさん分かってらっしゃる。こういうのは付き合いが大事だ。友達を皮切りにどんどんと仲を深めていくものである。
「刀夜くん……ありがとう」
「いや、礼を言うのはこっちだぞ。後、俺全く戦闘では役に立たないからな!」
本当にごめんね? 鍛冶師ってもう何すればいいのか分からないんだから仕方ない。今はな。
「っ! ご主人様、私のそばにお寄りください!」
「っ! 刀夜くん、僕のそばに来るんだ!」
「え? え? どっち? とりあえず真ん中のここにいればいいのか?」
どうすりゃいいんだ俺は。というかなんだ? どうせゴブリンが出たんだろ?
「ご主人様!」
「おおう!?」
ルナに手を引っ張られ、抱き寄せられる。すると俺がいた場所に何やら矢が突き刺さった。
「んむ!? んんー!!」
ルナさん!? 胸! 柔らかくて大きくて良い匂いのする胸が顔に押し当てられてるんですが!?
「ルナさん! そのまま援護を頼む! 僕がゴブリンをあぶり出すから!」
「はい!」
「んん!?」
このまま!? 俺このままルナの胸に顔を埋めろと!? 何それなんてご褒美?
「ご主人様、私が精一杯守ります!」
「んん!」
守る前に死んでしまう! 間違いなく!
ルナの手をパンパンと叩く。流石にこの状況を長時間維持出来る程俺は悟っていない。というか無理。
「ご、ご主人様?」
「んっ! って普通に引き剥がせば良かったんじゃないか。ルナ! 流石に胸に顔を埋めるのは駄目だ! 俺が社会的に死ぬ!」
「ふぇぇ!?」
こんな所で元気になったら終わる。間違いなく!
「ってご主人様危ないです!」
「だからそっちの方が危なっ、んむ!?」
再度抱き寄せられてしまう。だから何で胸に抱き寄せるん!?
俺のいた所にはやはり矢が刺さっていた。くそが! ルナは守ってくれてるだけなんだよ! 何考えてんだ俺は!
「ん! ルナ、ゴブリンはあっちの方向だ!」
「え? は、はい!」
俺が指差した方向にルナは腕を突き出した。その際に胸がぶるんと揺れる。大き過ぎない?
突き出した腕の先に青い魔法陣が展開された。
「フリーズボール!」
撃ち出されたボールサイズの氷塊が木々の上に向かって撃ち出される。魔法というが規模はそんなに何だな。対人にはあまり使えなさそうな魔法だ。
「プギャ!」
しかし対人に使えないからといって魔物に通用しないということではないらしい。木の上から狙っていたゴブリン達が木から落ちて背中を強打していた。
「凄いですご主人様!」
「いや。というか矢が飛んできた方向にいるんだから普通分かるような……」
「僕に任せて!」
背中を強打して苦しむゴブリン達に槍を持ったリアがどんどんと切り裂いていく。魔物は切り裂かれた瞬間に黒い粒子となって虚空に消えていった。
「おぉ、速い……」
「あれは身体強化魔法ですね。前衛を務める方々はあの魔法は必須条件です」
「なるほど……」
確かに重量級の魔物を相手にする際にも役に立つ。身体強化の魔法か。リアに頼めば教えてもらえるだろうか?
「ん? そういや魔物を倒したのに金が出ないんだな」
「え? 魔物を倒したところでお金は出ませんよ?」
あ、そう……。確かにそれなら依頼をこなす必要性がなくなるしな。
「ですが稀に素材を落とします。そちらを売るとお金になりますね」
なるほどな。確かにそれなら納得だ。冒険者の価値がなくなるんだから冒険者という職が存在する以上は何かしらの存在意義があるからだと考えるのが妥当だろう。
さて、そんな思考は後回しにしてまず現状先手を完全に取られているのが問題だな。矢が飛んで来た方向からゴブリンの場所を探知するしかないってのは流石にキツい。
「ルナ、リア、ちょっと考えがあるんだがいいか?」
ここは入り口の草原の近くだ。ならば誘い出した方が早い。それに俺というお荷物を抱えている以上は戦略の面で役に立たねば。
「どうなさるんですか?」
「ゴブリンはあんまり頭はよろしくない。矢を射った後に場所を移動するのは後衛の基本的なものだ。それをしないってことはそういうことだろ?」
「確かにその通りです」
脅威なのは群れるという習性と数の暴力だ。ならばまず最低限そこだけに持っていきたい。現状それに加えて奇襲という要素が加わっているのは問題にしかならないからな。
「こっち」
「は、はい!」
「えっと……仕方ないかな。お手並み拝見ってことで」
ルナとリアも付いて来ている。後は。
「ルナ、その氷魔法で壁を作ったり出来るか?」
「えっと、はい、大丈夫ですが」
「リアはゴブリン何体まで相手出来ますか? ルナのサポート付きで」
「そうだね……安全を加味すると5体かな」
確かに安全を取るのは間違いではない。魔力消費が心配ではあるが様子見も兼ねてやってみるしかないな。
入り口に到着するとそのまま駆け抜ける。2人も何も言わずに付いて来てくれる。その後ろでは何十体ものゴブリンがわんさかと来ている。もうこれが巣なのでは?
「ちょ、刀夜くん!? 流石に予想外に多いんだけど!?」
「私1人でもあれは無理です!」
「それくらいは流石に分かる。だから良いんだよ」
ある程度ゴブリンと距離を置くと立ち止まり、ルナに指示を出す。
「ルナ! 俺達を囲うように大きな円状に氷魔法の壁頼む!」
「はい!」
両手を左右に突き出したルナは青い魔法陣を展開する。
「フリーズウォール!」
魔法陣から地面に伝ってどんどんと氷の壁が張られる。かなり広いな。でもそちらの方が動きやすい。
「このくらい入り口を開けておけばいいですか?」
「あぁ、充分だ」
ルナは俺の意図を理解していたらしい。入り口というのは円状にした一部分だけを穴を開けておくことだ。ゴブリンはここからしか入って来れない。
「これなら確かにゴブリンの複数の厄介さもこれなら防げる……。凄い……」
え、俺そんなに凄いことしてますかね? このくらい当然では……。
「流石ご主人様です!」
「んむ!?」
だから何で俺を胸に抱き寄せる! やめて! これ以上刺激しないで! 童貞には荷が重い!
「ぷはっ! だからルナ! 胸に抱き寄せないでくれ!」
これ以上されたらもう本当に俺の息子がとんでもないことになりそうだ。そんな社会的に死ぬことしたら俺の人生終わっちゃう。
「す、すいません……嬉しくてつい」
何で俺のことなのにお前が嬉しそうやねん。あ、はい、世話好きだからですよね。分かってます。
「そんなことしてる場合じゃないよ!? 確かに有利にはなったけど数が多いんだから!」
「これってこの森全体が既にゴブリンの手中ってことか?」
「恐らくそうだと思います。森を焼きますか?」
「物騒だなおい……」
そんなことしていいのか? 絶対に駄目だろ……。
「この森は僕の故郷の食糧源だからあまり傷付けたくはないんだ」
「だと思った……」
だって食料の場所とか詳しいしな。とりあえず俺はここからは全く協力出来ないわけだ。
「あー、ここからはその……お願いします」
「はい!」
「うん! 任せてね!」
こんなことくらいしか出来なかったが役に立てたのだろうか? とりあえずこの窮地を抜けることだけを今は考えよう。