第49話 コロシアム開始と同時の超速決着
「ふぅ……間に合ったな」
ギリギリで間に合った。でも破壊力は調整しないとな。それに武器も作り直しだな。残念ながらこの速度に耐えられるものじゃない。
まぁいい。これは使えるし全く俺の身体に影響もない。動体視力も鍛えておいて良かった。
「と、刀夜殿……これは……」
「後で説明する。それより……コロシアム、行くか」
今日が開催日だ。そしてもう時間もないだろう。ルナが転移魔法陣を展開してくれる。
「参加されるのはご主人様と……アリシア様もでしょうか?」
「あ、私は遠慮しておこうかな。その……と、刀夜くんに勝てる気がしないし……」
あー、うん、今のを見せちまったからな。でもまだ未完成だな。人に使えるだろうか? まぁ剣じゃなければ死にはしないか。
「まだちょっと調整も必要だしな。使う分には問題ないが……。まぁ結局はアブソォーの核が足りないんだ。お前らの分はもうちょい待ってくれ」
「あ、う、うん」
ルナの転移魔法でコロシアムにやってくる。かなりの盛り上がりで既に大量の観客が見物の為か押し寄せていた。
「うん?」
「あ」
そこに見知った顔があった。相変わらず気配も読めないし何考えているのか分からない。
「久しぶりだな、ムイ」
「うん、久しぶりだね。キミがいるってことは目的はエルフ族かな?」
「そういうお前もエルフ族が目的か?」
ムイなら別に悪いことにはならない気がするが。それでも俺にはコウハの依頼……いや、約束がある。
「うーん、僕は正直強くなりたいからかな。刀夜くんは相変わらずだね」
「…………お前、優勝したらエルフ族はどうするつもりだ?」
「森に帰そうかなって思ってたんだけど……。僕は奴隷に興味はないからね」
そうだろうな。こいつがそういう奴なら俺は間違いなく幻滅してる。
「まぁ俺は負けないけどな」
「うーん、確かに僕もまだまだ完成度が低い技ばかりだからね。キミと当たった時は棄権させてもらおうかな?」
「冗談だろ?」
こいつがそんなタマかよ。
「ふふ、そうだね。今度はチャレンジャーとして挑ませてもらうよ」
「あぁ。でももうお前が俺に速度で勝つことはないと思うがな」
「本当かい?」
まぁだからといってその種明かしをする気は無いんだけどな? でも実戦で使うには早いし……まぁムイなら問題なしか。
「そういやコウハと知り合いなんだっけ?」
「コウハ? あ、そういえばキミは……」
「う、うむ、久しぶりだ」
やはり知り合いのようだ。どういう仲なのだろうか?
「以前はすまない……」
「いや、僕の方こそ無断でエルフの村に行こうとしてしまったからね。こちらこそ申し訳ない」
あ、そういう感じ。まぁでも結果的にはムイが勝ってしまい、されど負けたコウハには何のデメリットもなかった、という感じだろうな。
「それじゃあ僕達は行こうか。リアさ……ごめんアリシアさんだったかな。キミも参加かい?」
「あ、ううん。私は観戦するよ」
「そう。刀夜くんがいるからキミも相当強くなってると思ったんだけど」
「うん、おかげさまで。でも刀夜くんが強過ぎて今は勝てるイメージが湧かなくて」
そんな酷いくらい大差付けた覚えはない。いや、人間の反応速度では多分追い付けないだろうな。身体強化魔法がある場合は別だけど。
「そ、そんなにかい?」
「うん。やっぱり刀夜くんは最強だと思うよ」
「お前な……もう行くぞ?」
これ以上は恥ずかしくなってきた。やめて欲しい。
「…………刀夜照れてる」
「はい。可愛いです」
お前らは黙ってると思ってたら俺を見てただけかよ。余計に恥ずかしいからやめて欲しい。
「それでは私達は観客席でご主人様の勇姿を見ておりますね」
「ん…………余裕で勝ってきて」
無茶を言う。でも仲間の頼みとあれば仕方ない。情けない姿は見せられないしな。これを機会にこいつらには惚れ直してもらおう。
コロシアムの中に入ると中々に人が多い。何かゴツい奴が多いな。
「おい、あれムイじゃねぇか?」
「嘘だろ! 勝てるわけねぇじゃねぇか!」
うわー、もう既に負けを認めてんのかよ。根性が足りんな。むしろ勝つつもりで行かないと弱腰になるだろうに。
「あ、でもその隣のヒョロそうな男は余裕そうだな」
「本当だな」
もしかしなくても俺のことだよな? でもまぁ俺はその程度の認識ってことなんだろうな。知名度はあっても多分姿までは知られていないだろうし。
「最強を目指してるんだよね? ああいうの放っておいていいの?」
「別に構わない。ボッコボコにしてやるだけだしな」
「相変わらずだね……」
しかしコロシアムってくらいだから乱闘でもするんだろうな。丁度乱戦時のこいつの性能を試したかったんだ。
「そういえばどうやって勝者を決めるんだろうね」
「その辺りは何も書いてなかったな」
開催時間になると何やらマイクパフォーマンスが始まる。その間スタッフだろうか、スーツ姿の男達が何やら紙を配っている。
俺達はそれを受け取ると俺の方はAと書かれていた。ムイの方はBだ。恐らくはブロックに分かれているのだろう。
「Aって書いてあるぜ?」
「俺はBだな!」
どうやらブロックは2つしかないようだ。ということはこの半数が敵なわけだが。思ったよりも多いな。
「奴隷がいるなら早く終わらせる方が良いんだけどね」
「俺は速攻で終わらせるつもりだ。全員俺が叩き潰す」
「いや、流石に全員は無理だと思うよ……?」
それがいけるんだなこれが。まぁ俺がAブロックだ。見せてやろう。
「ではAと書かれた方々、ステージへお願い致します」
やはりAからか。まぁ俺も早めに終わってくれる方がありがたい。いろいろ調整する時間も出来るしな。
「それじゃあ先に行ってくる」
「うん、心配ないと思うけど頑張ってね」
まぁ以前なら魔力消費が心配だったが今ならその心配すらもしなくていいしな。例え人数が多くとも俺にはもう関係ない。
コロシアムの中央へと足を踏み入れる。そこは以前のような闘技場のようだ。こういうパターン多いな。前より広いけど。
ざっと見積もって人数は30人程度か。まぁこれなら全員間違いなく落とせそうだな。
「へへ、ここはガキが来る場所じゃねぇんだぜ?」
「調子に乗るなよおっさん? ここの下卑た目的の参加者は全員手加減はしない。覚悟しろよ」
すぐ隣にいたおっさんが随分と調子に乗ってくる。この下心満載の男どもは全員潰すとして、何か1人フード被った女性もいる。
うーむ、女性に対してはそこまで感情的にはなれんな。普通に殴るけど他のよりは手加減入れるか。
「皆様には今から乱戦をしていただきます! なおルールは戦闘続行不可能、もしくは場外に出た時点で失格となります! では始めたいと思います!!」
簡潔にルールを説明される。何か雑な気がするが……まぁ異世界だとそういうパフォーマンスというよりはバトルの方に重点が置かれているのかもしれない。
「用意……」
「へへ」
審判らしき男が腕を高く上げる。その瞬間隣のおっさんが下卑た笑みを浮かべるので何をしたいのかすぐに分かってしまう。
全身に大きく力を入れる。身体強化魔法が限界まで発動され、身体機能が大幅に上昇していく。
「スタート!」
「くたばれやクソガキがぁ!!」
やはりな。始まると同時に隣のマッチョなおっさんが大振りに拳を振るう。しかしそこにもう俺はいない。
「おっさん邪魔」
こんなおっさんを相手にしている場合でもないのだ。早く終わらせてコウハの喜ぶ顔が見たい。
俺は瞬時におっさんの反対側の側面に回り込むと同時にバチバチと雷の纏った拳を叩き込んだ。
「ぐぼぇ!?」
おっさんはあっさりと吹き飛んで場外へ。そのまま壁に叩きつけられて魂が抜けたかのようにピクリとも動かなくなった。
「な、何をしたのでしょうかあの子は! 全く見えませんでした!」
そりゃあ常人にはな。あ、ちらっとムイの顔が見えた。めちゃくちゃ驚いてるな。
「さて、お前ら全員覚悟しろよ?」
下卑た笑みを浮かべていた男共が一瞬で青ざめる様は見ていて面白い。しかしその程度の恐怖で許されるはずがない。
「ご主人様格好良いです!」
「…………流石」
「刀夜くーん! 頑張ってー!」
「刀夜殿! ファイト!」
おおうおおう目立つ目立つ。というかあれだけの美女だ。しかも4人。当然目立つだろう。視線集めちまってるし。
「刀夜って…………あの萩 刀夜!?」
「刀夜ってこんなガキがかよ!?」
失礼な。ガキガキ言うけどもう大人だからな? 確かにまだ酒飲めるようになって間もないけど。
「お姉さん方俺達と遊びませんか!?」
「やっべぇ超可愛い」
「げへへ」
うわっ、ルナ達絡まれてる!?
「てめぇらちょっと降りて来いやぁ! ぶちのめしてやる!」
「刀夜殿がご乱心だ!?」
当たり前だ。くそが! ここから剣ぶん投げて成敗してやろうか!?
「あ、私達ご主人様一筋ですので。格好良いですし」
「ん…………諦めて。…………刀夜イケメン」
「ごめんね。でも刀夜くん以外はその……魅力的に思えなくて。刀夜くん可愛い……」
いいぞいいぞ! もっと言ってやれ! ついでに何やらめちゃくちゃ恥ずかしいこと言ってる気がするがこの際なんでもいい。
「おい、あいつめちゃくちゃ恵まれてんじゃねぇか?」
「美女4人を独り占めとか何様だごらぁ!」
「ふざけんなぁ!! それでまだ奴隷に手を掛けようってかぁ!」
うーわ……男の欲望ってすげぇ……。でもこいつらは俺のこと勘違いしているしやっぱり下心満載じゃねぇか!
向かってくる男達を俺は全員を一瞬にして場外へと叩き出していく。やはりその速度は誰にも捉えられることはなく、周囲からすれば一瞬で複数の男達が場外へと吹き飛んでいるという状況だろう。
「さて、あとはお前1人なわけだが……」
残りはあのフードの女性だけだ。どうしたものか。流石に殴るのはいいんだが顔の方を歪めたりするのは不本意なんだよな。
「あなたは……あの女性をどうされるおつもりですか?」
「あの女性? 奴隷にされそうな奴のことか?」
「はい」
何故そんなことを気にするのだろうか? 質問の意図が全く分からない。
「…………私は」
ちらりとフードをめくる。あぁ、そういうことか。あの奴隷にされ掛けのエルフ族はコウハとは違うらしい。
「お前の目的は分かった。その上で1つ聞かせろ」
「はい」
「…………コウハはエルフ族にとって敵か? 味方か?」
俺が視線をコウハに向ける。フードの女性もコウハに視線を向けた。
「…………真っ赤な髪。血塗られたあの髪は神の怒りの体現です」
「何言ってんだお前?」
神? 今更そんなの誰が信じるんだよ。
「あれはエルフ族ではありません。あれは神の怒りの体現者、血塗られた化け物です」
「…………」
何だ、もうそういう認識なのか。くだらねぇ。話すだけ価値もなければこいつのことは気に食わない。
「おい、歯。食いしばれ」
「え? っ!」
俺はあえて見えるように一気に距離を詰めると女性の腹部を思い切り蹴り飛ばした。情けや容赦なんてもう頭から吹き飛んだ。ただただ気に食わないというそれだけだ。
「しょ、勝者……萩 刀夜!」
くだらない勝敗が決した。俺は舞台から降りて倒れたその女を冷たく見下ろした。
「うっ……」
「さっきの質問の答えだけは言っておいてやる。コウハの願いでその奴隷にされそうなエルフは逃すことにしている。満足かよ」
本当にエルフ族に救う価値なんてあるのだろうか? それでもコウハがそう望むのだ。なら俺はそれを叶えてやりたい。




