第48話 同じ境遇だとしても心の持ちようで変わる
声を掛けるのも阻まれるくらいに幸せそうだったアリシアだがそろそろ日も暮れてきた。夕飯の買い物をして帰るとしよう。
「何だろう。下着売り場とぬいぐるみ屋に行っただけなのにものすっごい疲れた……」
「…………どっちが疲れた?」
「どっちもだ」
もう色々とあり過ぎてな。下着姿も告白も俺にとっては刺激が強いんだよ。裸を見たことがあると言っても見慣れているわけじゃない。
「す、すまない……」
「いや謝らんでも。俺としては嬉しかったし……」
「刀夜殿……」
あ、そのうるんだ瞳を向けないで欲しい。俺もつい視線を合わせてしまう。
「あの、私達もいるから2人きりの世界は作らないでね?」
「そ、そんなつもりはないぞ!」
そんなつもりはなくてもそうなってしまうんだけど? ま、まぁコウハが嬉しそうで良かった。というか幸せそうだ。
「まだ喜ぶのは早いだろ? もう数日後にはコロシアムだ。今日は休日にしちまったがそろそろ本格的に考えないとな」
素材は揃ったのだ。後は実現可能か試すだけ。時間的に考えると試運転に丸一日使いたいので本当に時間がない。
「…………刀夜空気読んで」
「それお前にだけは言われたくないな……」
お前も普段から空気読まないだろうが。いや、俺も読まないというか読めないのは認めるけどな?
「うむ……でも刀夜殿なら出来ると信じている」
「刀夜くんは最強だから信じるんじゃなくて確定してるんだよ?」
「はい! 当然です!」
確定はしてない。してないがまぁ負ける気はない。最強だしな。
「なるほど。確かにその通りかもしれない」
お前も納得すんのかい。お前には俺が最強だと伝えたことあったっけ? まぁ口癖みたくなってきたから知らない間に言ってるかもしれんが。
夕飯の買い出しも済ませて家に戻ってくるとアスールが何故か手を挙げる。何やら提案があるようだ。
「…………私がご飯作る」
「なっ!?」
これはもしや……アスールの手料理の謎を解明するチャンスでは? あ、いや、今日のは駄目だ。
「魚三枚におろせないだろ?」
「…………突っ込むだけじゃ駄目?」
「刺身用らしいからな。駄目だろうな」
まぁまたの機会ってことで。今日は普通に手早く用意しちまうか。
「ご主人様はお疲れなのですからお休みください。私が作りますので」
あー、さっき疲れたとか言っちまったからな。しかし料理するくらい別にどうってことはない。日本では仕事後にしてたわけだし。
「平気だぞ?」
「駄目です。コウハ様とイチャイチャして過ごしてください」
「え」
当の本人全く聞かされてなくて固まってるんですが。いきなりイチャイチャしろと言われても困る。
「ですが……あの……ちゃんと頑張った私にもご褒美をくださいね」
「お、おう……」
やはりルナは手強い。というかもうそんな可愛いことを言われたら頷くことしか出来ない。
「そ、そんな! 私は頑張ってもいないのにご褒美をもらうわけには!」
「今日の告白頑張ったではありませんか。ふふ……ご主人様に自分のことを知ってもらえるチャンスですよ?」
ルナさんマジ大人。確かに時間を共有するなら早い方が良いかもしれないが。
「そうだね。それじゃあ私もルナさんの方を手伝おうかな。アスールさんはどうする?」
「…………邪魔になりそうだから料理手伝う」
お、おう……みんなそっち? ということは2人きりというわけだが。うーむ、何を話せば良いのやら。コミュニケーション能力の低さが恨めしい。
3人があっさりとキッチンに行ってしまい俺達2人はそれを見守ることしか出来なかった。まぁなってしまったものは仕方ない。気まずいというよりは嬉しい方だし別に問題ないだろう。
「コウハ」
「ひゃ、ひゃい!」
めちゃくちゃ意識しとるな……。ここで俺の部屋なんかに連れて行っても良いものか? でも他の部屋に連れて行く意味もないしな……。
「俺の部屋でいいか?」
「えぇ!? わ、私はもう初めてを奪われてしまうのか!?」
「いや、流石にそこまで手は早くねぇよ……。というか晩飯の準備が終わればルナ達が呼びに来るのに何故その発想に……」
告白早々に抱いてたら流石にルナに説教されてしまう。そもそも頑張っているルナに対してそんなことしてたら嫌われちまうだろうに。
「単に俺の部屋が広くていいかなと思っただけだ」
「やはり刀夜殿の部屋が一番大きいのだな」
「いや……大きいってか大きくさせれたっていうか。俺は全員平等の部屋の大きさでいいと言ったんだがな」
利用頻度を考えるとルナ達は自分の部屋にいるより俺の部屋にいる方が多いと言われてしまい、巨大なベッドも置くということでとんでもない大きさの部屋を用意されたのだ。
普段もエッチなこと抜きで普通に全員で一緒に寝ている。何故か知らんが俺を囲むようにだが。そのくらい大きなベッドなのだ。特注レベル。
コウハを俺の部屋に入れるとあまりの広さに目をパチクリとしていた。まぁそうだろうな。俺の日本での家より広い部屋だからな。何か悲しくなってきた……。
「どうしてこんなに広く?」
「あー、ルナ達の出入りが多いからって理由で」
「あ……そういうことか」
今の説明だけで分かっちゃうか。ま、まぁ別に隠していないし別にいいんだが。
「…………私も……そうしたいしな」
「え?」
「え!? い、いいいや! なんでもない!」
何でもなくはないんですが!? 表情には出さなくとも内心すっげぇ焦ってるんですが!?
落ち着け。俺は女性経験3人もある熟練者だ。…………そうだよな? ひ、ひとまず俺がリードしなくては。
「ひ、ひとまずどこでもいいから座ってくれ」
「う、うむ!」
無理だわー、コミュニケーション能力に自信ないわー。くっ、コウハが食い付きそうな話題は何だ?
ひとまずベッドに座ったのを確認すると俺は対面に座ろうとする。
「と、刀夜殿」
「ん?」
「貴殿のこと……もっと知りたい」
「え」
コウハに腕を掴まれ、引き寄せられてしまう。そのまま優しく抱き留められた。
「あ、あの、コウハさん?」
「刀夜殿……暖かい」
「え、お、おう?」
そういうコウハは柔らかいけど。特に胸とか胸とか胸とか。
「私は人肌の温もりというのを知らずに生きてきたんだ」
「そうなのか?」
確かに奴隷種族と呼ばれるくらいだがエルフ族というのは同族との絆が深い生き物だ。なら人肌の温もりを知っている方が普通なのではないだろうか?
「う、うむ……実は私は親の顔を知らないんだ」
俺と同じだ。いや、でもそれでもエルフ族なら。
「それに私は髪が赤いだろう? だから他の人とは違うからって……」
ああ、そうか。同族での結束が強いと言ってもそれは見た目で判断されたそれだ。つまり人間のそれと何も変わりはない。
複数の人間が共通の敵を作り、いじめ、それに優越感を感じて周囲との関係を築くようにコウハの周りでも同じようなことが起こっていたのだろう。
何だ。やはり種族間の絆だとかそんなものは存在しないんじゃないか。見た目が違うというただそれだけで居場所を失う。
「…………」
そんなエルフ族に守る価値なんてあるのだろうか? コウハを傷付けておいて俺がエルフ族を守る義理はない。むしろ逆だ、コウハを蔑むというのなら容赦はしない。
「でも唯一私を気遣ってくれた人がいたんだ」
「…………それが今回コロシアムで捕まってるっていう?」
「うむ……」
それだけの為にこいつは人間の世界へと踏み込んできたのか。やはりこいつは強い。何よりも心が強固だ。
「そうか……お前は凄いな」
普通はそんな余裕なんてないだろう。こいつは1人で生きてきたのだから。
気を遣ってもらったというのも多分ただの気まぐれなんじゃないだろうか? それでも助けたいからと行動に出たんだろう。
「…………俺も親がいなくてずっと1人だったよ」
「そ、そうなのか?」
「あぁ。それにルナもアスールもアリシアも……ずっと本当に誰かに甘えることは出来なかったんだよ。だからだろうな、あいつらもお前のことを認めるのが早いし俺もお前を好きになるのは早かった」
そういう繋がりのようなものがあったのだろう。俺達を繋いでいるのはそういう悲しみであり、そしてそれを超えるくらいの幸運だろう。
「刀夜殿も……?」
「あぁ。俺も同じだ」
俺と似ているから、なんて大した理由じゃない。やはりこいつは真に強く、俺はそこに惹かれたんだろうな。




