第47話 好意というのは向けられる本人はあまり気付かないものである
下着売り場を出ると次にどこに行こうかと迷いながら適当にブラブラする。というか顔が熱い。男が来る場所じゃないな。
「…………刀夜、照れてる」
「当たり前だろ。というか試着まで見せようとするな。俺が反応しちまったらどうしてくれんだ」
「…………若干大きくなってた」
それは言わないで欲しい。というか好きな人達の下着姿なんて興奮するに決まってんだろ。
「私まで買ってしまって良かったのか?」
「別に仲間の為の出費は痛くないしな。それより普通にお前も俺に見せようとしてたのが驚きだった」
「あ、あれは……! と、殿方の意見も欲しかったからで……」
いや分かってるから。そんなに慌てて否定しなくても真っ赤にならなくてもいいだろうに。俺まで恥ずかしくなるだろうが。
「…………普通は見せない」
「えっと……つまりはそういうことですよね?」
「うん、そうだよね」
何だろうか? 何やら3人が納得した様子だが。ひとまず次の予定を立てないといけないんだがそういう話をしてるわけでもなさそうだしな……。
「…………刀夜鈍い」
「え?」
「…………でも好き」
いや、意味が分からん。何で腕に抱き付かれたのだろう。あ、柔らかい感触。
「ず、ズルイですアスール様」
「うん、私も我慢してたのに!」
何故かルナとアリシアも抱き付いてくる。お、お前らな。
「むぅ……」
そして何故か不機嫌そうにコウハも俺の服の裾を摘んでくる。いや、何で?
「やっぱり」
「え? な、何がだ?」
3人が口を揃えて何やら納得したご様子。コウハは目をパチクリとさせている。俺はどうすりゃいいんだろうか?
「お前はとにかく離れろ。こんなにくっつかれたんじゃ歩けないだろ? こういうのは家でしてくれ」
「あ、家ならいいんですね」
だって家ならくっつかれて最悪そうなっても……なぁ?
ひとまずここは人目もある。男の羨ましさと殺意が入り混じった視線がキツイ。早く離れて欲しいものだ。
気を取り直して少し歩いているとぬいぐるみが置いてある店に着いてしまった。この世界にもあるんだな、ぬいぐるみ。
「わぁ、可愛いですね」
「ん…………小さい頃は憧れた」
「う、うん。私はその……今でも好きだよ」
女性陣は目を輝かせている。案の定コウハは興味なさそうだが。
「可愛い……か」
うん。何というかねぇ? このカマキリとか妙にリアルな感じが結構キツイんだけどな? これ可愛いのか?
この世界の可愛いの基準はいまいち分からない。俺も可愛いとか言われるしな。100%ありえない。
俺がカマキリと睨み合いをしているとコウハが服の裾を引っ張ってきた。
「ん? どうした?」
「あ、いや……えっと……」
何やらとても言いにくそうなことのようだ。あいつらはぬいぐるみに夢中だし、ちょっと離れるか。
「外に出るか?」
「あ、う、うむ」
コウハと外に出るといきなり抱き締められた。な、な、何事!?
「こ、ここ、コウハさん!?」
「…………」
え、しかも無言だと!? というか何この状況!? え、ど、どういうこと!?
「…………胸が苦しいんだ」
「へ?」
「刀夜殿が他の女性と仲良くするだけで胸が苦しいんだ!」
「…………ほえ?」
何それ? えっと、つまり、もしかしなくても嫉妬? 嫉妬するってことはそれはつまりコウハは俺のことが好きという話にならないか?
「うぅ……」
「あ、あの、コウハさん? あの、周りの視線が……」
エルフ族と一緒にいる上に何やら泣かせてるような気がしてならない。確かに噂は気にしないがこのまま最低最悪という噂が立つのはよろしくないんですが。
「ご主人様? あ、外にいらっしゃ……」
「あ……」
ルナが店から顔を出した。俺とコウハを見て途中でフリーズしたかのように固まって動かなくなってしまう。人ってあんなに瞬時に固まることが出来るんだな。
「えっと……」
「る、ルナ殿! こ、ここ、これは……!」
どないしましょう? あ、もしかして俺今隠れて浮気してるとかそういう誤解を生んでいるんじゃないだろうか?
堂々とハーレム使ってる俺だけど隠れてしてたら当然怒られるよな? いや、ちょっと待とう。落ち着こう。今の俺は童貞ではない。女性の気持ちも分かるはずだ。
「る、ルナ。落ち着いて聞いてくれ」
「は、はい」
「これは……そ、そう、あれだ! うん! あれ!」
「えっと、どれでしょうか?」
何も思い付かねぇ! というか俺よりルナの方が冷静な節がある。コウハさんさっさと離れてくれませんかね!?
「すみません、もしかして告白のお邪魔をしてしまいましたか?」
「こ、告白!?」
やっぱりそんな雰囲気に見られてたのか。コウハは慌てた様子で俺から離れた。ん? というか何故ルナがそれを?
「ルナ、知ってたのか?」
「あ、はい。私達3人コウハ様の気持ちには気付いてましたよ? つい先程ですが」
え、そんな素振りありました? やべぇ、全然気付かなかった。童貞じゃなくても乙女心は分からんな……。
「真面目で一生懸命なコウハ様なら私達も大歓迎です」
「あ、そう……」
何この修羅場にならない展開。むしろ怒ってくれた方が俺としてはやりやすかったんですが。
ま、まぁいい。俺もコウハのことは気に入っている。恋愛感情……と言われるとまだ微妙だが、それでも好意を持っているというのに変わりはないだろう。
「…………告白するならもっとロマンチックに」
ルナに続いて顔を出したアスールは相変わらずの無表情ながらまるで見てきたかのように会話に混ざる。どんな特殊能力ですか?
「ろ、ロマンチックと言われても私は初めてでどうすれば……」
「…………刀夜は押しに弱い。……でも責任感強いから一度ヤレばいい」
「なっ!?」
お前本当に何言ってんの? 俺がそんなわけ……あるけどな? あるんだけどそれを分かっててお前は俺を押し倒したのか?
「そ、そうなのか!」
「真に受けんなよ?」
「あ、う、うむ」
危ない危ない。ひとまずちゃんと言葉にはされなくても告白はされたわけだし返事をしないといけないわけだよな。
「あー、えっと、コウハ」
「は、はい!?」
俺が照れた様子で話してしまったのでその緊張感が伝わってしまったようだ。上ずった声で返事を返される。
コウハの顔が赤い。同時に不安そうで見ていて放って置けない。放って置けないということはそういうことなのだろうが……。
「その……はっきり言って俺はまだお前のことをよく知らない」
「あ……」
うわっ、俺の返事が否定に聞こえてしまったのか一気に涙目に!?
「ま、待て! 最後まで話を聞いてくれ!」
「う、うむ……」
目尻の涙を拭ったコウハはそれでも泣きそうな顔で俺を見つめる。視線を逸らさないのは彼女の心が強い証だろう。
本当にこいつはまっすぐだ。単純で必死で一生懸命。奴隷種族なんて呼ばれていながらもそれに怖気付いていない。常に強くなることを求めている。
何だ、尊敬するところばかりじゃないか。俺のように臆病に生きてきたのとは違う。過酷な環境下で前を向いて生きてきた彼女を否定することも肯定することも俺には出来ない。俺とは全く違う生き方をしてるのだから。
自然と穏やかな気持ちになってくる。緊張もしているがそれ以上に彼女の笑顔が見たい。残酷な世界で押し付けられる優しさも包み込んでくれるような愛おしさもあることを知って欲しい。
いつの間にか俺は笑みを浮かべていた。その表情に何やら触れてしまったのかルナとアスールも頬を赤くした。いや、何でだよ。
「俺はお前のことをよく知らない。でもその短い期間だけでも既にお前が魅力的に見えている」
「あ……」
「だから……もっと俺のそばで、俺にお前のことを教えてくれ。お前が魅力的でルナ達に負けないくらいの女性であることを証明してくれ。俺も……お前に失望されないように頑張るから」
きっとこれでいいのだろう。俺のワガママかもしれない。エルフ族が人間と一緒にいて良い事はないのかもしれない。
それでも。それでも俺は一緒にいたいと思ってくれるコウハの。一緒にいたいと思う俺の気持ちを優先した。
不幸や悲しみも共有したい。決して叶わない願いを持ってしまっている。傲慢と言われても仕方ないかもしれないな。
「ほん、とうに……いいのか?」
「あぁ。俺のそばにいてくれ」
「刀夜殿!」
今度は嬉しそうに目尻に涙を溜めてコウハが抱き付いてきた。俺はそれを受け入れ、抱き締め返す。
「…………流石刀夜、順調にハーレム建築中」
「はい。ご主人様が以前おっしゃっていたように後は後衛を任せられる女性が入れば完璧ですね」
あ、確かに。というか何でこんなことになってんだろ……。別に男が入ってくれても良かったんだがな。もちろんルナ達に手を出したら半殺しだけど。
このままいけば完璧に俺のハーレムが出来上がるな。いや、もう出来てんだけど完璧になってしまう。もう俺の為のパーティーになってきてないか?
「刀夜殿」
「ん?」
「大好きだ」
先程のアスールの台詞を鵜呑みにしてしまったのだろうか。コウハは嬉しそうに俺の唇を奪ってきた。
「あっ!?」
まさかそこまでするとは思っていなかったのだろう。ルナもアスールもビックリしていた。一番ビックリしたのは俺なんだけどな? 全く動けなかったし。
「…………ふふ、キスしてしまった」
そして当の本人は周りの目など入っていないように真っ赤な顔で俯いて自分の唇に触れて嬉しそうに笑みを浮かべていた。
うん、すっごい見られてる。ルナ達だけでなく周囲の人間から。あー、妙な噂立ったな。もういいや。
「…………既成事実完了」
「手が早いです」
兎にも角にも新しい恋人が出来てしまったわけだが。まぁみんな幸せそうだからもう深く考えることでもないのだろう。一夫多妻でも問題ないらしいしな。
「そういやこんなに騒いでるのにアリシアが来ないのは変だな」
「そういえばそうですね」
嬉しそうなコウハに腕を抱き締められながらも店の中を覗く。
「ふふ……ふふふふ……モフモフだよ……」
「…………」
ふわふわの犬や猫などの可愛らしいぬいぐるみを抱き締めながら幸せそうな表情を浮かべているアリシア。
「…………意外な一面」
「お、おう、そうだな」
俺は見たことあるけど。初体験後に俺の胸に顔を埋めてあんな顔してた。というかコウハより嬉しそうだ。
で、乙女の一大イベントとぬいぐるみに顔を埋めるのが同じ幸福度だということに俺は衝撃を受けた。うーむ、もっと頑張らないといけないらしい。
「…………ぬいぐるみに嫉妬?」
「なっ!? そ、そんなわけないだろ?」
「ご主人様可愛いです」
くそ、情けない。というかニヤニヤするなお前ら。コウハまで。あー、もう。本当に上手いこといかないな。
俺は頭をかきながら大袈裟に溜息を吐いてみせた。まぁ……うん、本当に幸せそうだからもういいんだけどな?




