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第46話 世話好き過ぎると価値観が常人とは合わないもの

 アブソォーの素材の他にも欲しい素材は山ほどある。ということであれから更に5日掛けて色々と集めまくった。それはもう色々と。

 流石に連日働き詰めだと効率が悪いので今日は休日とした。まぁ俺は鍛冶屋で色々と実験をするつもりだったんだが、ルナ達に全力で止められてしまった。時間ないんだけどな……。

 ということで今日1日は完全にフリーなわけだ。何をしようかと迷っている間に何故かアリシアに膝枕されてしまっていた。


「刀夜くん可愛い……」


 こいつは何というか、俺のことを弟のように思ってないか? そのうちお姉ちゃんって呼んでとか言われそうで怖い。姉に憧れはあるけどな。


「…………私もしたい」

「羨ましいです……」


 何やらルナとアスールが2人で羨ましそうに見てくる。うーむ……。


「そういやステルクは?」

「…………コウハはお買い物」


 さらっと名前で呼んでるんですが。いや、昨日はアスールの部屋で一緒に寝たらしいからその時に仲良くでもなったのだろう。


「お名前を呼び合う仲になったのですか?」

「ん…………みんなも名前で呼んで欲しいって」


 そうなのか。しかしエルフ族が一体何故買い物に?


「あ……ルナ」

「はい?」

「あいつ一人で訓練にでも行ってるんじゃないか?」

「え? …………あ」


 人間の街に用があるとは思えない。仮にあるとすれば誰かしら連れて行かないとならないしな。

 考えられるのは訓練をしているということ。折角休日にしたのにそれでは意味がない。


「ということで俺も鍛冶屋に」

「駄目です。私はコウハ様を探してきますのでご主人様はごゆっくりしてください」

「あ、いや、だから……」

「ごゆっくり、してくださいね」


 怖い怖い。ルナさん怖いよ。

 ルナが行ってしまっても俺はしばらく放心状態。ルナさん怖し。


「と、刀夜くん大丈夫?」

「…………ルナ怖かった」


 俺の気持ちを代弁してくれるアスール。俺はもう駄目だ。膝枕から一転してアリシアに抱き付いてしまう。


「きゃ、と、刀夜くん本当に大丈夫?」

「大丈夫じゃない。アリシア慰めて」

「う、うん。よしよし、刀夜くんは良い子だよ?」


 本当にされるとは思わなかった。冗談だったんだけどな……。ま、まぁいいか。


「ルナ達が帰ってきたらデートでも行くか……」

「デート!?」

「ん…………楽しみ」


 暇ならばイチャイチャしたい。家にこもるのもいいがルナに何か言われそうだしな。こういう時は思い切り羽を伸ばすとしよう。

 満面の笑みのルナとしゅんとした様子のステルク…………コウハが帰ってきた。お前も怒られたんだな。気持ちは分かる。


「コウハ、買い物行くけどお前も来るか?」

「……何か買うものがあったのか?」


 テンション低っ。ま、まぁルナのお説教の後じゃ仕方ない。心折れるもんな。


「いや、ただデートにと思ってな。遊び感覚だからどうせならお前も誘おうと。どうせ1人で家にいても暇だろ?」


 真面目なコウハのことだ、多分家でも訓練などせずにじっとしているだけだろう。なら誘った方が良い。


「…………私も付いて行っても良いのか? 私は奴隷種族だろう?」

「ん? いや、そもそも奴隷種族なんて思ったこともないが……」


 俺のこと勘違いされてる? そんな発言したことあったっけ?


「あ、いや、刀夜殿のことではなく。周りの人間がそう思ってしまうだろう? なら刀夜殿の評判を下げてしまうことになってしまう」


 あぁ、そういうことか。別に大して気にもしてないんだけどな。むしろコロシアムが終わった後に宣言すらするつもりだしな。


「気にするな。むしろお前のことを悪く言う輩は俺が殴り飛ばす」

「刀夜くんなら本当にしかねないからやめようね?」

「いや、しかねないってか普通にぶん殴るけど。女だろうが容赦しない」


 俺の仲間を馬鹿にする奴はどんな野郎でも許さん。ムイすらぶん殴れる自信がある。


「ん……? い、今刀夜殿私のことをコウハと!?」

「今更かい。いや、さっきアスールに聞いたんだけどな? お前も俺のこと名前で呼んでるし、いいかなぁと」

「え? 私は刀夜殿のことを名前では呼んでいないだろう?」


 あ、これいつもの奴だな。名前と苗字逆転してるからっていうあれだな。


「俺は異世界転移者なのは知ってんだろ? 名前と苗字が逆転してんだよ。俺の名前は刀夜で苗字が萩だ」

「えぇ!?」


 そんなに驚かれることか? いや、驚かれることか。童貞の頃にもし知らずに女性を名前で呼んでいたとなるととんでもない羞恥心に襲われる。


「まぁ名前なんて些細なものは置いておいてどうする? 一緒に来るか?」

「え、あ、そ、それじゃあ……お願いします……」


 そんな照れなくてもいいだろうに。いや、気持ちは分かるよ?

 全員を連れて外に出るのはいいが何をすればいいのだろうか? 女性が多いし服とかだろうか?


「…………刀夜」

「ん?」

「…………下着売り場行きたい」

「違うわー……確かに服だろうと思ってたけどそれは違うわー……」


 というかそこ俺が入れない。入ったらとてつもなく冷たい目で見られてしまう。それこそ変な噂を立てられそうだ。


「…………刀夜が揉むからちょっとサイズ大きくなった」

「俺のせいかよ。あ、俺のせいだな……」


 しかも大きくなったですと? それは聞き捨てならん。マジですか。


「…………刀夜、目がエッチ」

「刀夜くん……」

「ご主人様?」

「ちょ、あんな話しされたら男なら反応するだろ……」


 これは話題を振ったアスールが悪いと思う。いや、大きくなったのは俺のせいなんだけどな?


「む、胸なら私の方が大きいですよ!」

「ん…………刀夜はルナの時は執拗に揉みしだいてる」

「誤解を招く言い方するな。俺は全員平等にちゃんと揉んでるぞ?」

「…………胸張って言うことじゃない」


 いや、そうなんですけどね? でも俺の愛は全員に平等に注がれているということをだな。


「と、刀夜殿はそんなことまでしていたのか!」

「あ、やべ」


 堅物っぽいコウハには少々刺激が強い話だったかもしれない。でもやっぱり話題を作ったアスールが悪いと思うんだけどな?


「そ、そういうのはよ、夜に話すべきだろう」


 おや、思っていたよりも違う反応だった。てっきり叩かれると思ったんだが予想外にも頬を赤く染めて遠慮がちに抗議してきた。


「コウハさんはてっきり否定派だと思ったんだけど……」


 アリシアも俺と同じ感想を抱いていたらしい。驚いていた。


「あ、愛し合うことは別に悪いことではないだろう? でもその……そんなに堂々と話すことでもないはずだ」

「う、うん、そうだね。ごめんね」

「悪い」

「申し訳ありません……」


 正論を言われて反論の余地もなかった。俺達は素直に謝る。1名を除いて。


「…………刀夜、エロい下着と清純な下着、どっちが好き?」

「お前はもうちょい空気を読め」


 動じないと言うかなんと言うか。心は勇者かよ。


「…………重要なこと」

「そ、そうですよね?」

「…………買い物は昼にしか行けない。……なら刀夜の好みを聞くのも昼になる。…………必然」


 ビックリな理論だな。いや、それもそうなんだけどな?

 というかさらっと俺の好みのものを買ってくれようとしていたのか。だからこれを機会に行くわけか。


「アスールが良い子だ……」

「…………刀夜、子供扱いめっ」

「めっ、て俺の方が子供扱いされてないか?」


 何でそんな子供にやるような返しをして来るんだよ。


「…………で、どっちがいい?」

「俺はどっちでもいける」


 親指を立ててやるとコウハにドン引きされた。いや……うん、だから男なんだからその辺は諦めて欲しい。


「どちらか選んで欲しいんだけど……その、出費が……」

「はい……。他にも欲しいものがございますので」


 あ、全員買うんですね。というか2人は胸のサイズ上がってないんだろ……? それにしてもルナが買いたい物があるとは驚きだ。何だろうか?


「何か買うものがあるのか?」

「はい。まずは鉱物の本です」

「…………ん? 何でルナが鉱物の本がいるんだ?」

「ご主人様が欲しいと仰っていたので」


 お、おう? 確かに欲しいと言ったけど何でルナがそれを買おうとしてるんだろうか? とりあえずそれだけじゃ金は無くならないな。


「他は?」

「他の方が鍛錬された武器です」

「…………それも俺が参考にしたいって言ったからだよな?」

「はい」


 おやおや? ちょっと待ってね。ルナさんもしかしなくても自分の為じゃなくて俺の為に金を使おうとしてないか?


「ルナ、俺が欲しいって言ったものを除いて買いたいものとかあるか?」

「いえ、ありません」


 ほれ見たことか! 何言ってんだか……。


「アリシアは当然私物だよな?」

「え、私はその……」

「…………アリシアさん?」


 おいおい、何で気まずそうに視線を逸らすんだよ。ま、まさかだよ? まさかなんだけどルナと被ってるとか言わない……よな?


「ちなみにその内容は?」

「えっと……この前刀夜くん私のスカート姿が見たいって言ってたでしょ? だからその……スカートを……」


 被ってないけどそれも俺の為じゃねぇか。何でこいつらは自分の為に金を使わないんだ……。


「…………刀夜が頭を抱えた」

「う、うむ……天才でもどうしようもないことがあるんだな……」


 お前ら2人は呑気でいいな。だから2人の注意でもして欲しいものだ。


「あのな、無駄遣いしないようにって小遣い制にしたわけだろ?」

「はい」

「ならその金はお前らの自由なんだから俺の為じゃなく自分のことに使えよ」

「自分の為に……」


 2人は自分の財布を見つめると何か思い付いたように顔を上げた。


「ご主人様の笑顔が見たいので買ってまいります!」

「刀夜くんの喜んだ顔が見たいから買って来るね!」

「待たんかい!」


 何の解決にもなってねぇよ! 何でそんな話になっちまうんだ!?


「…………2人とも」


 おお! ようやく! ようやくアスールが動いてくれた! もうちょっと早く助けてくれても良かったと思うがこの際どうでもいい。言ってやれ!


「…………下着を買えば刀夜が喜ぶ。……エッチも捗る。…………2倍お得」

「お前のその下着に関する執着は何なんだ……」


 駄目だこりゃ。何言っても無駄っぽい。


「確かにその通りです!」

「た、確かに。ありがとうアスールさん!」

「ん……」


 何やら3人で握手してる。もういいや……どうとでもなればいい。


「刀夜殿も苦労しているのだな……」

「はは……」


 世話好きかつ俺のことが好き過ぎな3人に俺は乾いた笑みを浮かべることしか出来なかった。

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