第45話 食事というのは時折不可思議な現象を起こす
「ん……んん…………?」
ゆっくりと目を開けるとそこにはくすりと微笑んでいる女神の姿が。あ、違った、アリシアか。
何で俺はアリシアに膝枕されているんだろうか? そういやダンジョンから帰って来てからの記憶が皆無だな。そこで初めて寝落ちしたのだと状況を理解した。
「おはよう刀夜くん。といってももう夜だぞ?」
「あぁ……」
全く働いていない頭で何とか返事を返すとアリシアは優しく俺の頭を撫でた。
「刀夜くん可愛い……」
何故かうっとりしているアリシア。いつものことだしもうツッコミ入れないが。
視線を横に向けるとルナがステルクに魔法に関しての勉強を教えていた。ステルクは真面目だからな、強くなる為に手を抜いたしないのだろう。
そういやアスールはどこだろうか? しかし膝枕が気持ち良過ぎて起き上がる気が起きない。もっと堪能したい。
「アリシア」
「うん?」
「もう少しこのままでいいか?」
俺がそう言うと目を大きく見開いて驚かれた。そんな変なこと言ったか?
「いいの?」
「え? 何かあったっけ?」
「ううん。でもいつも甘える時はルナさんだから」
そうだっけ? いや、そもそもあんまり甘えたことないような。気のせいか?
「アリシアの膝枕、すっごい気持ち良いけど」
「っ! それなら是非!」
むしろ俺がお願いされてる勢いだった。世話好きはこうなってしまうらしい。良妻かよ。…………いや、もう嫁だけどな?
「…………出来た」
アスールが何やら鍋を持ってやって来た。飯を作ってたのか。たまに俺も、それにルナも作るから真似でもしたんだろう。
しかしこう、底知れぬ不安は何だろうか? こういう時のパターンって大体予想出来る。というか禍々しいものを想像してしまった。
「…………刀夜、顔が変」
「失礼だなおい。俺の顔そんなに変か?」
「ん……幸せそうな、苦しそうな表情してた」
お、おう。見事に俺の心情を読み取ってらっしゃる。膝枕はすっごい幸せだけどな? その鍋の中身はあまり見たくない。
「ちなみに何作ったんだ?」
「…………適当にぶち込んだ」
ほれ見てみろ。食わなきゃ駄目か? 駄目なんだろうな……。
「…………案外美味しい」
「マジか」
不安だわー……。でもアスールの舌を疑ってはいないし。うーん?
「…………食べてみて」
「お、おう……」
仕方ないな……。ここまで来たら覚悟を決めよう。嫁の手料理は嬉しいものだしな。
「アリシア、膝枕の続きは食後でもいいか?」
「え、むしろもっとさせてくれるの?」
「だから何でお前が嬉しそう……もういいや。俺はしてほしい」
「うん!」
何やら幸せそうだった。まぁ俺がその時に生きていればの話だがな。
テーブルに鍋を置いて中を開くと何やら色々混ざってドロドロしてた。何これ? 食材溶けた?
「…………刀夜、あーん」
「お、おう」
食べさせてくれるのは嬉しいんだが、中身が中身なので素直に喜べない。ええい、大丈夫! アスールを信じろ!
「あ、あーん……」
ゆっくりと口を開いてアスールの鍋を頬張る。瞬間濃厚過ぎる味が口の中に広がった。
「…………どう?」
「…………うま、い?」
「…………何で疑問形?」
美味い、だと? この何入っているのか分からない鍋が俺やルナの作るまともな鍋よりも美味いだと?
「な、何突っ込んだんだ!?」
「…………適当」
マジかよ。怖っ! でもこの美味い味はどこから来てるんだ……?
「そんなに美味しいの?」
「ん…………食べてみて」
「それじゃあいただきます」
アリシアに箸を渡すとアリシアもその謎の具材を頬張った。そして大きく目を見開く。
「美味しい。こんな美味しいお鍋初めて食べたよ!」
「適当にぶち込む方が良い味が出るのか……?」
そんな馬鹿な。ちゃんとルナにこの世界の料理を教わって、日本とそう相違ないことは確認済みだぞ?
偶然か? これは検証する必要がありそうだ。これからの食生活に関わることだしな。
「どうかなさいましたか?」
「良い匂いだ」
ルナとステルクも勉強を中断して様子を見に来る。ここは是非ともルナ先生に食して欲しいところだ。
「…………鍋、食べて」
ルナにも箸を渡す。ルナも中を確認してキョトンとしている。
「ど、どういう鍋ですかこれ?」
「…………適当にぶち込んだ」
「え……」
ルナの表情が固まった。そうだよな? 俺も気持ちはよく分かる。
「ルナ、安心して食べてみろ。何やら知らないが俺達が作るのより美味いから」
「本当ですか!? で、ではいただきます」
ルナも半信半疑な様子でその謎のドロドロとした具材を口に入れる。アリシアの時と同様に大きく目を見開いた。
「あ……」
「あ?」
あ、何だろうか? 美味しいじゃなくて、あ?
「アスールさん」
「…………ん?」
「私を弟子にしてください!」
ルナ先生が弟子入りを志願しちゃったよ! いや、気持ちは大いに分かる。というかどんな科学現象を起こせばこれが美味くなるんだ……?
「…………作り方は適当に具材をぶち込むだけ」
「それは多分参考にしちゃ駄目なんだろうな……」
「冷蔵庫にあったものは全て記憶しておりますので作り方だけもっと詳しく教えていただけますか!?」
凄いことをさらっと言ってるなぁ。俺もついでに教えてもらおう。
「ステルクも食べてみたらどうだ?」
「それじゃあ……いただこう」
ステルクも一口口に入れると口角を上げた。というか幸せそう。
「美味い……」
「だよな……?」
やはり不思議だ。しかし事実美味いのだから仕方ない。
「どれをどういう順番で入れたとかは覚えてますか!?」
「ん…………全部一気にぶち込んだ」
それって火が通りやすいとか通りにくいとか関係なく? す、凄いな。
「ご主人様!」
「おう、分かってる。絶対に謎を解明するぞ?」
「はい!」
家事担当としては負けられない戦いだ。もちろんアリシアにも教えるんだけどな?
アリシアは男として扱われていたせいで脆弱な家事諸々はさせてもらえなかったらしい。まぁ世話好きもあって隠れてこそこそと練習はしていたみたいだが普通にはまだ遠い。
とりあえずあのおっさんは主に女性が多くしているだろう仕事に関しては脆弱と思う傾向が強いようだ。時代遅れもいいとこだが。
ひとまず料理というのは稀に妙な化学現象を起こすものらしい。適当にぶち込んだだけの鍋が美味いのは偶然ながらも相性の良い食材が選ばれたからなのだろう。




