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第43話 ダンジョンは実技訓練にとても最適である

 コロシアム開催まで残り19日。俺達はとある目的の為にダンジョンへとやって来ていた。

 狙うは魔物の核。すぐに出るかは分からないものの出るまで帰るつもりもないので問題はないだろう。


「ご主人様」

「ん?」

「好きです」


 何故かいきなり告白されてキスされてしまう。ルナさん、今この場でそれします?


「…………ズルイ」

「わ、私もしたいよ……」

「お2人は昨日たくさんイチャイチャしていたじゃないですか」

「うっ……」


 ということで少しの間ルナに好き放題されているわけだ。ダンジョン行く前なのにステルクのやる気がどんどん下がっているんですが?


「助けてくれ」


 何とか助けを求めてみる。もう俺にはどうしようもない。決定権もない。ルナが怖過ぎて逆らえない。


「えっ、わ、私がか?」

「お前がバシッと一言言ってくれたら多分元通りだ」


 というか言って欲しい。ルナにこれ以上キスされたら俺の身が持たん。恥ずかしさで死んでしまう。


「刀夜殿はどうしたいのだ?」

「俺は……うん、めちゃくちゃイチャイチャしたいです」

「それなら問題ないんじゃないか?」


 そうなんだけどな? そうなんですけどね? 男の子には色々とあるの。覚悟とかやる気とか生理現象とかそういうのが。


「つ、強くなる手伝いするから頼む」

「っ! 承知した」


 速っ!? 俗物というか何というか。まぁ強さにこだわるのは良いことだ。俺との一戦が相当悔しかったように思える。


「貴殿ら、少し真面目に出来ないか? 私の友人の生涯が掛かっているのだ」

「あ、す、すみません」

「…………ごめん」

「ごめんなさい……」


 おおう、やっぱりか。こいつらは素直だからな。うん、そういうところが可愛いのだ。


「んじゃ真面目な話をするとして、ダンジョン内は危険だ。もちろん全員それは分かっているとは思うが今回は調査じゃなく素材の入手。つまりは一番奥地に行く必要性はない」

「そうですね」

「ちなみに何を狙っているのだ?」


 そういや目的のものをステルクには伝えてなかったな。


「俺が欲しいのはアブソォーの核だ」


 アブソォーという魔物は見た目は人間のような二足歩行で四肢を持ち、ぬらりひょんのような長い頭と人のそれよりも大きな口を持つエイリアンのような魔物だ。

 特徴としては魔力を吸収するという能力を持っており、資料では核すらも周囲の魔力を吸収し放出する能力を持つのだとか。

 問題はその強さ。アブソォーを倒せる人間というのは冒険者の中でもかなり少数。またアブソォーは数が少ない為に研究すらもあまり進んでいない特殊な魔物だ。

 生息地は主に洞窟。センケンの洞窟という場所で生息しているという目撃情報があるらしい。

 こいつの素材を使えば間違いなく周囲の魔力を使用した装備を作ることが出来る。問題はその希少さとアブソォーの強さ。そして加工の難しさにあるようだ。

 アブソォーの核は少しの衝撃ですぐに破壊されてしまうらしい。例えば剣に付けたとして剣の打ち合いになればそれだけで核が破壊されてしまい機能を失う。

 防護カバー的なものを付けなければいけないのだがその素材も取りに行く必要がある。道のりは少し長そうだが20日もあればなるとかなるかもしれないと踏んだのだ。最悪無理でも現状で戦えるので問題もない。


「つっても1つじゃ試作品作った時点で終わっちまうからな。複数個欲しい」

「では期間を決めて、その間に幾つか集めるのが良いのではないでしょうか?」

「そうだな。5日間ってとこか?」


 まぁハードスケジュールに変わりはないのだ。特にこれといって違和感がないな。感覚麻痺してるのだろうか?


「5日もダンジョンで過ごすの?」

「そのつもりだが……マズイか?」

「うーん、多分問題ないと思うけど。でも見張りは必要になると思うよ?」


 確かにな。でもまぁ俺は結構起きてるんだけどな?


「見張りは交代できちんと立てるさ。それじゃあ行きますか」


 俺達は早速洞窟の中へと入って行った。

 中はやはり暗く、されど何やら怪しく光っている。視認魔法がなくても見えるといえば見えるが使った方が見やすいな。

 視認魔法と身体強化魔法を同時に使用、そしてこれを維持。使用し続けていれば魔力消費は一度で済む。


「あ、あの、と、刀夜くん……」

「ん?」


 何やらアリシアが気まずそうに話し掛けてきた。何だろうか?


「その……て、手を……繋いでもいい?」

「アリシア様!? 真剣にしないと死にますよ!?」

「ん…………でも生死より愛を選ぶのはよく分かる」


 いや、それ分かっちゃ駄目だろ。というかそんな理由じゃないだろうしな。まぁ確かにアリシアに洞窟とかは駄目か。


「単に暗いのが怖いだけだろ。ほれ」

「あ……ありがとう」


 手を握って分かったが少し震えてる。本当に怖いんだろうな。何か俺の都合で巻き込んで申し訳ない。


「情けないな、この程度怖くなんてないだろう?」

「いや、アリシアお前より強いからな?」

「何だと!?」


 だって身体強化魔法使えるし。もっと言えば槍の技術は勝てる気がしない。まぁ俺は槍使ってないんですけど。


「それに人ってのは何かしら怖いものがあるもんなんだよ」

「刀夜くんもあるの?」

「…………怒った時のルナ」

「えぇ!?」


 だってあんなの怖過ぎて逆らう気もない。というか無理。


「た、確かに怒った時のルナさんは怖かった……。多分お化けより怖い……」


 昨日説教を受けたのでアリシアも怖がっている。それほどまでに壮絶だったのだ。俺ももう二度と怒らせないと心に誓った。

 洞窟の先へと進むと分かれ道が現れる。ここで別に失敗の道を選んでも完全攻略が目的ではないという理由で前向きに行くのは駄目だ。きちんと正解のルートを選ぶべきである。


「どっちが正解なんだ?」

「えっと……」


 アリシアがダンジョンのマップを開いた。これは先駆者が残した唯一の情報だ。これがかなり頼りになる。

 失敗のルートは何があるか分からない。罠に掛かって最悪全滅なんてことは避けたい。


「うん、右だね。左は行き止まりみたい」

「了解。進むぞ」


 俺達は右のルートへ。行き止まりだけなら別に左でも良いんだが、何か怖いし遠慮したい。

 更に先へと進んでいくと魔物が姿を現した。コウモリだな。


「コウモリなら余裕だろ?」

「コウモリではなくコウモリアですよ?」

「…………そうでした」


 日本にいた頃の影響が強く残っているのだ。その辺は少し見逃して欲しい。コウモリア……コウモリアね。覚えづれぇ。


「はっ!」


 アリシアが即近付くと同時に槍で突いて倒してしまう。流石。


「コウモリアは簡単だね」

「そうだな。先手必勝で基本的に勝てるからな」


 相手にもならない。コウモリアは攻撃する寸前に翼を大きく動かさなければならない。回避も簡単でやりやすい。


「そ、そうなのか。流石だ……」

「ん? あー、なら次はステルクやってみるか?」

「貴殿の目的はアブソォーだろう? 私に構っている暇はないはずだ」

「まぁまぁ。気分転換と教育も兼ねてってことで。一回やってみ?」


 こういうのも経験だ。もちろん精一杯のサポートをするが。


「5日間もダンジョンにいるんだ。ステルクが強くなってくれると俺達の負担も減る。悪い条件じゃないだろ?」


 冒険者たるものそういう関係は必要だ。損得が平等になって初めて取引は成立する。もちろんその人が何に価値を見出しているのかは分からないが。


「で、ではそこまで言うなら……」

「あぁ、やってみろって。絶対に怪我はさせないから」


 いざという時は魔力消費もいとわない。俺1人が減ったところで戦術に影響が多少出る程度のものである。

 次に出てきたコウモリアはステルクに任せてみる。もちろん俺はいつでも距離を詰めれるよう風魔法の準備はしておく。

 ステルクが先制攻撃にと大剣を振り下ろした。しかし遅い。身体強化魔法のないステルクの攻撃はあっさりと避けられた。


「くっ……!」


 更に追撃に大剣を振り回す。しかし当たらない。完全に見切られてしまっている。


「…………」


 そろそろ助言しておくべきか?


「ステルク、大剣ってのは振り回すだけの武器じゃないぞ?」

「そ、そうなのか?」


 少しバックステップして俺の話に耳を傾けてくれる。一応信用してくれてるんだな。


「それじゃあまずは見てろ」

「う、うむ……」


 俺は魔力装備生成魔法で大剣を創り出した。このくらいの魔力消費なら問題ないな。

 エルフ族、ステルクの速度なら身体強化魔法での速度もこの程度か? これでステルクと戦うような感覚になるだろう。

 大剣の基本、振り下ろす、振り回す。これは隙が大きく攻撃が読まれやすい。如何にして攻撃を当てるか。まずは待つ。

 コウモリアは激しく翼をはためかせ、かなりの速度で俺に向かって突進してくる。狙いは首元。血をすする気なのだろう。

 だから俺は大剣を持ち上げ、切っ先をコウモリアの顔面に向けた。


「ッ!?」


 コウモリアが慌てた様子で方向を直進から変える。少し右に移動し、そのまま突っ込んでくる。


「ふんっ!」


 俺は大剣の腹でぶん殴るようにコウモリアを叩きつけた。重い分威力が増したそれは通常の打撃の何倍以上にも威力が膨れ上がる。

 コウモリアは壁に叩きつけられる。そこを狙って大剣を振り下ろした。

 しかし当たらない。あー、これは俺が重さに慣れてないからだ。熟練ならば多少の移動にも反応出来るだろう。

 コウモリアは必死な様子で逃げる。まぁそこまでして逃げるなら追う気はない。でもまぁ殺し合いをしていて安易に逃げられるなどは思わない方が良いだろう。

 俺は大剣をぶん投げるとコウモリアの背中に突き刺さる。そのまま黒い粒子となって消えていった。


「……もう少し上手く戦えそうだな」


 俺もまだまだ未熟だな。大剣は攻撃範囲が広いのとその威力が売りの武器だ。使いこなすにはそれなりの筋力やら器用さがいるようだ。


「悪いステルク。もうちょい試させてくれ」

「え、あ、う、うむ……」

「いえ、普通に新しい武器で勝ってしまうとそれだけで凄いんですが……」

「ん…………天才」

「刀夜くんは相変わらずだなぁ……」


 いや、なんだその感想は? このくらい普通だし俺はカウンターを狙っただけだ。一瞬反応されて方向転換されたのも減点ポイントだな。避けられないレベルまで引きつけるべきだった。

 ひとまずはステルクの訓練も兼ねてこの調子で進んで行くとしよう。このダンジョンの魔物はアブソォー以外はあまり強くない。練習には丁度良いだろう。

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