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第41話 最強の冒険者は色々な意味で規格外なものである

「5分やるよ。その間は俺は回避に徹する」

「え?」


 ステルクは恐らくだが身体強化魔法を使えない。それは先程の初対面時のやり合いで理解した。

 もちろんエルフ族である分、人間とは違う点が多く動きは読めないかもしれないがそれでもやはりムイに劣るこいつにいきなり全力でいったんじゃ強さを測ることすら出来ない。


「お前にとってはこれは真剣試合だ。当然俺にとってもな。でも何も学べないじゃ意味がないだろ?」


 今の俺なら恐らく瞬殺出来る。いずれ使うだろう魔法を優先的に覚えた俺だが現状魔力消費という点を度外視すればムイすら瞬殺は可能だ。


「…………私を舐めているのか?」

「舐めているとかそういう話じゃなくな。俺が真剣にやると魔力消費が激しくてな。俺が一瞬しか持たん」


 早く外部の魔力を使えるようにしなければならないのだが調べたところ鉱物と魔物の核までもが必要になって来るらしい。故にまだまだ製作には時間が掛かる。


「何を言っているのだ?」

「えー、今ので理解出来ないか?」


 これ以上話すと手の内をバラす事になっちまうんだが。


「あー、とにかくお前の力が見たいってのと一瞬で勝敗が決まっちまうのは避けたいわけだ。俺も色々と学びたいものがあるんでな」

「一瞬で……やはり舐めているだろう?」

「だから……! いや、お前が例えば俺の攻撃を躱したとしよう。その時点で俺の魔力が無くなっちまって勝負アリってことだ。オーケー?」

「…………つまり諸刃の剣ということか?」

「そういうことだ」


 ようやく話が通じた。ひとまずこれで納得してもらえるだろう。


「にわかには信じ難いが、それも様子見とさせてもらおう。では行くぞ」

「あぁ」


 少しの静寂。頬を撫でていた風が鳴り止んだその瞬間にステルクは動いた。

 前衛職には必須の身体強化魔法がないのだ、その速度は前衛職ですらない俺より遅い。


「やああぁぁ!」


 上段から振り下ろされる大剣。俺はそれをバックステップであっさりと躱した。

 遅っ! いやまぁルナとかアリシアとかは絶え間なく魔法も槍も来るからそう感じるだけなんだろうけどな。

 大剣は振りが大きい分防ぐのは困難だが避けるのは容易い。だから5分間の回避を提案したわけだが。この調子が続くならあんまり意味はないような気がしてきた。

 ステルクは確かに冒険者としては上位の腕前にはいるだろう。しかしそれは最強とは違う。ただ強いというだけだ。

 振り回される大剣を軽々躱しながら時折ちらりとルナに視線を向ける。律儀に5分間を計測してくれているのだ。


「やっぱり作戦変更だな」


 この調子なら魔力を多大に消費する必要はない。普通に風魔法の高速移動で片が付きそうだ。


「攻撃する気になったのか!?」

「いや、後2分くらいはまだ攻撃しない。でもいいのか? お前の実力、その程度か?」


 もう少し何かないのだろうか? 魔法に長けた種族だって聞くし、そういうのを見せて欲しい。


「この……!」


 あ、魔力に変動あり。来るな。

 展開された緑の魔法陣から竜巻のようなものが発生して真っ直ぐに俺に向かっていく。


「…………」


 俺は耐性魔法付与の短剣を精製するとそれを中心に向かって投げ付けた。瞬間核を破壊された魔法は緑の粒子となって虚空に弾けて消えていった。


「え?」


 ルナとの戦闘で覚えたのだ。ルナの魔法の量から幾つかは魔力核を破壊する必要があった。それ故に覚えた技術だった。


「呆けてないで次の行動に移さなくていいのか? 後30秒やそこらだぞ?」

「くっ……! トルネード!」


 再び風魔法を使用される。同じことだ。俺は短剣を創って投げ込み魔力核を破壊する。その間にステルクは側面に回り込んでいた。

 風魔法で視界を塞ぎ移動する。悪くない作戦ではあるがそれをするには速度が足りない。余裕で反応出来る。


「やぁ!」


 振り回される大剣。俺はそれを頭を下げたり半身になったりしながら躱していく。


「ご主人様ぁ! 5分経ちました!」

「おう、サンキュー」


 ルナも大体同じくらいの計測だ。恐らく大体良いところに来てるのではないだろうか?


「んじゃ、俺も手を出すぞ」

「来い!」


 少し距離を取って構えたステルク。しかしやっぱり行動が遅いのは痛いな。俺は既に後ろに回り込んでおり、剣を突き出して首元に突き付けた。


「はい、俺の勝ち」

「なっ!?」


 今のも身体強化魔法があれば反応出来るだろう。それがないから負けるし考えがまだ浅い。もちろんステルクがそういう風な環境で育っていたのかは分からないが。


「お疲れ様です。お茶どうぞ」

「え? え?」

「…………刀夜お疲れ」

「あぁ。といってもそんなに苦労もしてないしな。エルフ族の強さってのもちょっと分かった」


 まぁこの人だけで判断するのは早いだろうけどな。とりあえず普通の状態でも人間よりも強いという点は大きいだろう。


「ひとまずステルク。この結果は不満か?」

「い、いや……私はまるで反応も出来なかった……」


 自信はあったのか落ち込んだ様子だ。うーん、別に落ち込ませるつもりはなかったんだけどな。何とかしなければ。


「俺は最強だから気にするな。それにお前も鍛え方次第じゃこの中の誰よりも強くなりそうだけどな」

「ほ、本当か!?」


 おおう、興味津々。それに顔近い! 仲間からやられるので慣れたと思ったけど駄目だわこれ。心臓とんでもないことになってる。


「…………刀夜、照れてる」

「顔真っ赤になってるよ」

「ご主人様?」

「ちょ、まっ! 不意打ちは卑怯だと思わんか!?」


 慌てて離れた。うん、これは駄目だ。心臓が持たん。


「何を言っているんだ?」


 この人天然か? いや、そういった方面に疎いだけか。と、とりあえず落ち着いてもらわなければ。


「ひとまず決着が着いたなら家に戻るか。何かギャラリー増えてるし」


 いつの間にか見物客が。これ以上目立つのもアレだしさっさと帰ってゆっくりとステルクの話を聞かせてもらうとしよう。


「帰るぞ?」

「あ、はい」


 ルナが手早く敷物を片してしまう。手際良いけどお前らは落ち着き過ぎな?

 俺が展開した魔法陣で全員で家の玄関へと戻る。


「ルナ、案内してやってくれ。俺は菓子やら何やら用意しとくから」

「はい」

「私も手伝うよ」

「…………私はルナを」


 全員がテキパキと動くのでステルクはキョトンとしっぱなしだ。


「とりあえず話を聞かせてもらうぞ? 何か困り事だろ?」

「あ……う、うむ」


 事情はよく分からんがわざわざ人間の街に来るくらいだ。相当追い詰められているのだろう。

 飲み物とお茶受けを用意して居間に戻る。アリシアも手際が良いのですぐに終わる。世話好きのスキルの高さやべぇよ。


「椅子がフカフカだ……」

「ん? ソファとか知らないのか」


 この世界にも日本と同じような家具があった。まぁカマキリとかコウモリとかいるくらいだしな? 大きさと危険度は段違いだが。


「ソファ? というのか。人間は面白いことを考えるな」

「そうかもな。それでその人間に助けを求める程の事情って?」


 早速本題に入る。急ぎなら時間を無駄には出来ないしな。


「あ、あぁ……まずは話を聞いてもらってすまない。それに勝負の件も、色々とありがとう」

「いや、ん? ま、まぁ礼を言われるようなことじゃない……と思うんだが」

「…………刀夜は気にしてない。……気にしなくていい」

「ふふ、刀夜くんは利用されていたんだぞ?」

「あぁ、そういうことか」


 つまりはまぁ色々と確認の為にされたということを謝っているわけか。全然分からなかった。


「別に気にしなくていいぞ。初対面でいきなり警戒するなって方が無理な話だしな。それに今も俺に負けたばかりなのに俺の間合いに入って会話するのも気を張ってんだろ?」


 当然だろう。いきなり俺のテリトリー内に足を踏み入れたのだ。それも自分よりも強いことをつい今しがた証明されたのだ。当然怯えもするだろう。


「それは……」

「生物として当然の反応だ。むしろそれをしない奴の方が俺からすれば信用出来ない。人間関係ってのは時間を掛けて構築していくものだからな。初対面の今は別に気にしない」


 気持ちはよく分かる。そもそも生き物である以上は当然の反応なのだ。それを理解出来ないことの方が俺としては異常に思える。

 いや、そもそも俺も異常なのだろう。死に掛けたその瞬間不思議と笑みがこぼれる。そういう性なのだろうか?


「それで? 切羽詰まってるから相談に来たんだろ? ひとまず話せる範囲で話してみろって」

「あ、う、うむ……刀夜殿には少し人助けをして欲しくて参った次第だ」


 人助けか。まぁ状況や場合にもよるがなかなか困難な依頼かもな。

 例えばだが引き篭もりを外に出せとかな。無理やり出すことは出来てもそれは根本的な解決にはならない。精神的な助けをしろということならばほぼほぼ初対面の俺には無理な話だろう。

 しかしそういうことならば先程の勝負の意味が無くなってくる。ということは肉体的な話になり、そして奴隷種族と言われるエルフ族の点から考えると……。


「人に奴隷にされているので助け出せ、とかそういうことか?」

「な、何故分かったんだ!?」


 やっぱりそういった話か。


「まぁ奴隷種族なんて言われているくらいだからな。で、そいつがどこで囚われているのかは分かっているのか?」


 俺としてはそれは見過ごせない。奴隷という扱いは嫌いだ。献身的にご奉仕してもらえる方が良いに決まってんだろ。どういう神経で無理やりしようとしてんだよ。


「…………刀夜がお怒り」

「奴隷とかそういうのは嫌いだもんね。私も許せないよ」

「はい。助けに行きたいです」


 ルナやアスールも精霊や有翼種はそういう扱いを受けていることを見に染みて分かっているのだろう。アリシアも自分の気持ちを蔑ろにされる気持ちが分かるのだから許せないんだろうな。


「これだ」


 ステルクが懐から取り出したのはチラシだった。というかちょっと胸元見えましたよ! あ、女性陣から冷たい目で見られてる……。


「ん、んん……えっと……コロシアム?」

「これの優勝商品として扱われているらしい」


 あ、本当だ。エルフの奴隷って書いてある。これは見過ごせないな。それにこのコロシアムの主催者も許せん。これを宣伝に参加者を募集とかふざけてんのか?


「実施は20日後か。参加者は当然人間に限られるわけか」


 だから俺と。ま、まぁ最強だし? 全然問題なさそうだな。


「色々な種族と仲良く出来る貴殿ならエルフ族も問題ないと思って……どうだろうか?」

「気に食わないからいいぞ? 主催者ぶん殴れるならそうしたいな」

「駄目ですよご主人様? ちゃんと反省するまでやめちゃ駄目です」

「ん……顔パンパンにする」

「それはやり過ぎだろう? お父様に頼んで二度と開催出来ないようにしないと」


 いやアリシアが一番酷いからな? ひとまずは20日あるなら俺のやりたいことも出来そうだ。

 鍛冶師としての本領も発揮した上で世界に俺の実力を見せ付けると共にエルフ族が奴隷という固定観念をぶち壊してやろうか。

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