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第40話 エルフは基本的には温厚だが好戦的な人もいるらしい

 ムイという最強の冒険者を見事に打ち砕いてからというものの俺の噂は瞬く間に色々な所に広がってしまったらしい。お陰でせっかく購入した家に冒険者が押し掛けて来たりと迷惑している日常が始まってしまった。

 気分転換と軽くおやつでも買いに行こうと外に出て歩いていると路地裏から物凄い怒号が聞こえてきたので様子を見にきたのが今である。


「奴隷種族がこんな所を歩いてんじゃねぇよ!」

「綺麗な顔してやがるぜ、やっちまおうぜ!」

「その服ひん剥いてやるよぉ!」


 そんな声が聞こえてしまっては放って置けない。ちょっとボロボロの涙目の女の子が見てみたかったという邪な気持ちも少ししかない。ま、まぁ美人なら仕方ない。

 とまぁくだらないことを考えながら様子を見に来てみれば俺が想像したものとは全く真逆の光景が広がっていたわけだが。


「えっと……」


 フルボッコにされている3人の男達。その中央にはまるで血に塗れたような真っ赤な髪の女性が立っていた。

 赤髪の長髪で左右にピョコンと跳ねた寝癖のような髪に紅色の鋭い瞳、小顔でクール系の美人のようだ。

 身長が高く、全体的にスラッとしている。肉付きが良いあいつらとは正反対にこちらは痩せてるな。胸は普通くらいか?

 何よりも特徴的なのは先が尖った耳だろう。生エルフ。かなりテンション上がる。

 背中に背負った大きな大剣を見るに冒険者なのだろうか。そういや他種族って冒険者をしているもんなのか?


「む、まだ仲間がいたとは」

「え、俺?」

「成敗する!」


 嘘!? いきなり襲ってきた……ってこの状況なら仕方ないか。俺も仲間に思われても仕方ない。


「待った待った! 俺はただの冒険者だから! 証拠に」


 ってあ……ステータスカード家に置いてきた。


「証拠なんてないではないか!」

「ちょっとマジで待って!」


 女性の打撃を躱したり防いだりしながらどうするか思案する。マジでどうやって誤解解こうか。方法がねぇ。



「お前ら起きろ!? そして俺と知り合いでないことを証明してくれ!」


 もうこの手しか思い付かない! いや、こいつを気絶させるって方法もあるんだけどな?

 こいつも相当な強さだがムイには劣る。まぁ大剣を使われたらどうなのか分からないが。


「ちっ……仕方ないな……」


 女性のパンチを腕を掴んで防ぐと同時に女性を押さえつけながら背後へ移動する。これで何も出来ないはずだ。


「うっ!」


 やべ、もしかして痛かった? つい手を離してしまう。


「わ、悪い。大丈夫か?」

「う、うむ……。それより何故離した?」

「え? いや、だって痛がってたし……」


 普通離すよな? いやまぁ普通は女性に関節技なんてしないか。


「き、貴殿は此奴らの仲間ではないのか!?」


 貴殿って……リアルで初めて聞いたぞ。ま、まぁいいか。この人は少し武将くさい話し方なんだろう。


「違う、ただの通りすがりだ。たまたま絡まれてる声が聞こえて様子を見に来たんだが」

「た、助けに来てくれただけだったのか……。す、すまない!」


 お、おう。勢い良く頭を下げられた。良くも悪くもこの人は真っ直ぐな人だな。本当に武士みたいだ。


「でもエルフ族が何故ここに? 他種族ってあんまりいないと思うんだが」

「萩 刀夜……」


 ん? 俺?


「萩 刀夜は他種族、精霊に有翼種を連れていると聞いて少し……な」


 もしかしてあいつらの誰かの知り合いか? 可能性が高そうなのはルナか。あいつは1000年以上生きてるしな。


「案内しようか?」

「え? し、知っているのか!?」

「ま、まぁ」


 知ってるってか俺の家だしな。知らない方がおかしいだろう。


「あ、でも……先程迷惑を掛けてしまったというのにまた迷惑を重ねるのは……」

「いや、別に迷惑って程じゃないぞ? あ、でもちょっと買い物だけは付き合ってもらってもいいか?」

「もちろんだ! 本当に何から何まですまない!」


 そんなに礼を言われるようなことじゃないんだけどな。まぁいいか。この人も1人で人間の街に来ているってのは何かしら事情もあるんだろうしな。

 俺は手早くおやつやらを買って家へと向かう。うーむ? しかしエルフ族って金髪とか白髪が基本だと思ったんだが、真っ赤な髪ってのもあるんだな。


「住宅街から離れてしまったぞ!?」

「あぁ。もう少しで家に着く。その間は景色でも楽しんでおいてくれ」

「景色?」


 余程余裕がないのか。いや、エルフ族ってのは警戒心が強い生き物だ。俺のことも完全に信用は出来ないせいで余裕がないのだろう。

 しかしここの景色は絶景だ。女性は周囲を見回した瞬間その瞳を輝かせた。


「…………綺麗だ」

「だろ?」


 自然溢れる土地に住むエルフ族も気に入る程に良い場所らしい。まぁそうだろうな。この家を選んで良かった。

 2人で景色を楽しみながら歩いて行くと大きな屋敷が見えてくる。まぁ大きいといってもアリシアの家よりは格段に小さいが。


「ここだな」


 俺は玄関のドアを開けて中に入る。


「ちょ、ひ、人の家に勝手に入るのは駄目だろう!?」

「え? あ、いや、ここは……」


 俺の家と言おうとした瞬間ドアが開いて金髪美女が姿を現した。


「ルナ、ただいま」

「おかえりなさいご主人様。えっと……そちらの方は……?」

「さぁ……? ルナの知り合いじゃないのか?」


 ルナも知らないとなるとアスールか? いや、貴族のつながりでアリシアというのも考えられるか?


「ここは貴殿の家なのか? 私が知りたいのは萩 刀夜の家だ」

「俺がその萩 刀夜だけど?」

「え?」

「え?」


 ん? もしかして俺に用があったのか? いやいや、だってさっき俺じゃなくて精霊や有翼種を気にしてたじゃないか。


「き、貴殿が萩 刀夜!?」

「あ、あぁ。精霊とか有翼種に用があったんじゃないのか?」

「い、いや、私は貴殿に会いに……え、えぇ!?」


 そんな驚かれても困る。というか俺にどうしろと。


「何だかよく分かりませんが、ご主人様のお客様ということでしょうか?」

「えっと……そう、なのか?」


 よく分からないがそうなるのかね。うーん?


「萩 刀夜! わ、私と勝負をして欲しい!」


 はい? いきなり何言ってんだこいつ?


「勝負って。はぁ…………最近多いな」

「ムイ様を破ったのですから当然かと」


 まぁそうかもしれんが。みんな興味本位で試してくるから腹が立つ。本気の真剣勝負ならやる気にもなるがそうでないならやめて欲しい。


「あのな、俺は本気の奴しか相手を……」


 女性の瞳は強く、そして気高い。余裕がないようにも見えるし、それだけ真剣にも見えた。それはいつも興味本位で近付いてくる有象無象とは全く違う覚悟を持った1人の冒険者。


「…………お前、名前は?」

「コウハ・ステルクだ」


 ステルクね。こういう輩は強い。まぁ元より強いのは知ってるけどな。あの男達3人を軽々のしていたしな。


「良いだろう。でもお前のその剣ごと破壊しても知らないぞ?」

「望むところだ。しかしそちらもその腰の剣を破壊してしまうかもしれないぞ?」

「別に構わないぞ」


 どうせ記念に持ってるだけの剣だしな。最近俺は家に作った鍛冶場で剣を作っている。これはその試作品だ。

 試作品なので別に折れてもいい。別に使わないしな。一応持ってるだけだし。


「あ、真剣勝負されるのでしたらアスール様とアリシア様もお呼びしますね♪」


 お前はすっかり観戦気分だな……。まぁいいか。一応おやつもあるし、これも渡しておくか。


「ほい、ルナ」

「ありがとうございます。すみません、私が行けば良いものを」

「いや、俺が気分転換したかっただけだしな。さて、ステルク。家壊したくないから街の外に行くぞ?」

「う、うむ」


 俺は転移魔法陣を展開してステルクと一緒に街の外れまで移動した。ルナ達は後から勝手に来るだろう。俺がここにいるのもいつものことなので分かるだろう。


「さて、それじゃあ始めるが。武器破壊したら止める形でいいか? それとも殴り合いでも続けるか?」

「真剣勝負だ。最悪殺される覚悟で挑むべきだ」

「…………確かにな」


 そこまで覚悟があるなら構わない。俺は少し離れると軽く身体を伸ばしり、ピョンピョンとその場で軽く跳ねたりする。


「エルフってのは基本的に温厚なんだがな。何でお前はそんなに好戦的なんだ?」

「ムイ殿を倒したと聞いている」

「ムイを知ってんのか。で、俺の力を見たいと?」


 確かに最強を志すならムイは無視出来ない存在なのだろう。この街は結構大きめだ。その街の一位となると他の街でもかなり上位に食い込む実力者。それを破ったとなるとそいつも無視は出来ないだろう。


「…………いや、それに加えて貴殿は他種族に対して何の感情も持っていないと思う。そこも気になって……」

「む? 当然だろ? 俺は異世界転移者だし変わり者だ。この世界の常識には多分当てはまらないぞ?」

「そうかもしれない。もし私が負けたら、その時に改めてお願いをさせて欲しい」


 まぁつまりはそれが本心ってことだろうな。精霊も有翼種も関係がない、そして強い人間に手を借りたいということだ。

 この戦闘も俺の強さを測るという意味も込めているのだろう。俺も最強故に手を抜く気も遠慮する気もない。


「そうか。まぁそのお願いは伸るか反るかは後に聞くとして……やりますか」


 腰の剣を抜くと構える。勝負は基本的に一瞬で付けるものだが相手の手の内を読めない状況に関しては別だ。

 俺の経験上慎重になり過ぎるくらいが丁度良い。しかしいざという時に引いてしまうのも駄目なのが難しいところだ。

 ルナ達もやって来ると敷物を敷いてお茶を飲み始めた。呑気過ぎる。というか羨ましい。俺も3人とゆっくりとダラダライチャイチャしたい。


「コウハ・ステルク参る」


 背中の大剣を抜いたステルクは両手でそれを構えた。さて、お手並み拝見といこうか。エルフ族がどの程度のものか、をな。

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